漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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別れ道

ウルベルは朝早く起きたためスザァークの家に向かっていた。

 

「早く返さないと・・」

 

昨日モモンたちと宴をした際の一連のものを返しにきたのだ。

 

「ん?あれは・・」

 

ウルベルがスザァークの家に向かおうとドアを開けようとしたその時だった。

 

(足音?こんな朝早くから?)

 

ウルベルはドアから離れてこっそりと窓から外を見る。

 

「あれは?」

 

ウルベルが見たのは20人もいる団体だった。

 

 

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コンコン

 

「ん?」

 

スザァークは目を覚ました。自身の家のドアをノックするものがいたからだ。

 

「はい。誰かな?」

 

スザァークがベッドを降りてドアに向かう。昨日飲みすぎたせいか少しばかり足元がふらつく。

 

(そういえば昨日、私の酒と盃が見当たらなかったがどこにいったんだろうか?)

 

そんなこと考えながらズザァークはドアを開けた。

 

「あなたがこの村の村長ですね?」

 

見覚えのない男たちが立っていた。その中でも先頭に立っていた男だ。金髪で整った顔立ちをした少年・・いや青年になったばかりだろう。その顔にはまだ幼さがあった。だがスザァークが最も気になったのは神官の様な恰好をしていたからだ。

 

「あなたは?」

 

スザァークは警戒する。神官の恰好をしてる男がいるのだ。恐らく『あの国』から来たものだと瞬時に推測できたからだ。

 

「あなた方は先程の指示通りに。私はこの方とお話しします。」

 

そう言って男はスザァークの家に入りドアを閉めた。

 

「初めまして。私はスレイン法国の六色聖典の一つ、陽光聖典の隊長クワイエッセ・クインティアと申します。」

 

やはり・・そう心の中でつぶやき舌打ちする。間違っていてくれた方が良かった。そうであればまだ何か手があったかもしれなかったのだ。

 

「スレイン法国が何の用かな?」

 

スザァークが目の前にいる男を睨んだのも当然のことだ。スレイン法国は『人類至上主義』を掲げており、人間以外に対して非常に排他的だ。そんな国に属する者が来たということは警戒して当然だろう。

 

「そう睨まないで下さい。私は取引をしに来たのです。」

 

「取引だと?」

 

「えぇ。私たちは『人間至上主義』を掲げています。なので人間以外は滅ぶべきだと考えています。」

 

「随分はっきり言うのだな。つまり人間以外の種族を滅ぼしに来たのだと?」

 

「えぇ。そう言った方が信用してくれるでしょう。ですが私たちも悪魔ではない。そこで取引したいのです。」

 

クワイエッセがわざとらしく咳をする。

 

「抵抗することなくその命を差し出して下さい。例外として子供ならば人間以外でも助けることを約束します。」

 

「その言葉・・嘘偽りないな?」

 

「えぇ。我らが六大神に誓いましょう。」

 

「・・・」

 

(これが事実ならモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人は助かる。そしてこの男が嘘を言っているようには思えない。)

 

(『五人の自殺点』っていうのはどうだ?)

 

スザァークは酒で酔っていた時のことを思い出す。宴の時にモモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラが冒険者になる話を思い出した。

 

(あの五人だけでも生きててくれるなら・・)

 

「分かった。村人を集めよう。」

 

 

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村人全員がスザァークの家の前に武装して集まっていた。村人を囲うように変わった格好をしている者たちが立っている。

村人の前にスザァークと金髪の男がいた。

 

「全員に聞きたいことがある。」

 

「何があったの?」聞いたのはモーエだった。隣にはモモンがいる。

 

「ここにいるスレイン法国から来たクワイエッセ・クインティア殿はギルメン村を滅ぼしに来た。」

 

「なっ!?」村人全員がクワイエッセを睨む。

 

「待て!私の話を聞け!」

 

スザァークが村人を宥めた。ほんの少しだけ村人たちが落ち着く。

 

「だがここにいるクワイエッセ殿は無抵抗でいれば子供たちだけは助けると約束してくれた。」

 

「!」

 

「だからここにいるみんなに問う。無抵抗で子供だけは助けるか。抵抗して全員死ぬか。多数決で決めよう。賛成のものは挙手を。」

 

「待ってくれ!みんな!」

 

「待ちなさい!モモン。」

 

「母さん!何で止めるんだ!」

 

「あなたたちは生きて。」

 

その場にいる五人を除く村人が全員が手を挙げた。

 

「モモン!ウルベル!チャガ!チーノ!アケミラ!お前たちは向こうに行ってろ!」

 

スザァークが叫ぶ。

 

「いいから早く行け!」

 

タブラスが叫ぶ。

 

「行きなさい!」

 

モーエが叫んだ。

 

モモン、ウルベル、チーノ、チャガが村人から離れる。

モモンはアケミラがマイコと話しているのが見えた。

 

「嫌だよ。お姉ちゃん。」

 

アケミラの瞳には涙が溢れていた。

 

「行きなさい。アケミラ。あなたは生きて。」

 

マイコは泣くのを我慢してアケミラの肩を掴んでいる。

 

モモンはアケミラの背後から肩を叩く。

 

「アケミラ・・行こう。」

 

なおも行かないアケミラを見てモモンはアケミラの腕を掴んで強引に連れていく。

 

「止めて。離して。モモン。お姉ちゃん。」

 

アケミラがマイコに向けて手を伸ばす。

 

「モモン・・妹を。アケミラをお願い。」

 

「・・うん」モモンは一度だけマイコの方に顔を向けて言う。

 

モモンはアケミラを連れて村人から離れた位置に立った。モモンはアケミラから手を離した。

 

モモン、ウルベル、チャガ、チーノ、アケミラの五人の瞳には涙が溢れていた。

 

それを見たスザァークが口を開く。

 

「クワイエッセ殿。約束は守って下さい。」

 

「・・えぇ。分かっています。」

 

クワイエッセは手を挙げた。それが合図だったのかクワイエッセの部下たちが何かを唱える。

 

それを唱えた瞬間、地上から白い何かが召喚された。

 

「これは天使です。せめてあなた方の魂が天国に行けるように私なりの配慮です。」

 

「・・・」

 

その気遣いに感謝する村人はいなかった。

 

「天使に命じよ。ここにいる村人を殺せ。」

 

天使たちが手から炎で作ったような剣を取り出す。それを村人たちに振るったり突き刺したりした。

鮮血に身を染める天使。無抵抗で五人の無事を祈る村人。苦悶の表情を浮かべる村人。

モモンたちは涙を流しながらそれを見る。

 

「お姉ちゃん!」

 

アケミラが村人たちに駆け寄ろうとする。

 

「アケミラ!」

 

アケミラの腕をウルベルが掴んだ。

 

「行くな!マイコの最後の頼みを守れ。」

 

アケミラが膝を地面につける。そして大声で泣き叫ぶ。

村中にアケミラの声がこだまする。

 

よく見れば残る村人は五人を覗いて十人だけが立っていた。

 

「さて・・そろそろいいでしょう。」

 

クワイエッセがそう言う。

 

「クワイエッセ殿!?何を!」スザァークが問う。

 

クワイエッセが手を挙げた。その指の一つに指輪がはめられている。

 

「出でよ。ギガントバジリスク!」

 

指輪が光り、その場に大きな蜥蜴に似た生物が現れた。体長は10メートルを超え、八本の足を持ち、その頭には王冠を連想されるトサカがあった。

 

「何っ!?」

 

「ギガントバジリスクよ。この村にいる全ての敵を殺せ!」

 

ギガントバジリスクと呼ばれる大きな蜥蜴が叫ぶ。

 

「どうして!?約束と違う。我々は言うとおりにしたではないか!」

 

スザァークがクワイエッセの襟を両腕で握る。

 

「悪いが我々スレイン法国は人間以外と約束や取引はしない。そんな約束は最初から意味が無かったのだよ。子供も大人たちを大人しくするための道具にしか過ぎないのだ。」

 

クワイエッセが懐からダガーを取り出してスザァークの胸を突き刺した。

 

「このクズがっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「あまり喋るな。汚らわしい者め。」

 

クワイエッセがもう一度胸に突き刺した。

 

「私はみんなに何て言えば・・」

 

スザァークが倒れる。口から吐血し、その瞳は無念だと訴えていた。

 

「死ね。」

 

そう言ってクワイエッセがスザァークに目掛けてダガーを振り下そうとした時だった。

 

クワイエッセの頬に矢がかする。

 

「大人しくしていればいいものも。」

 

クワイエッセが睨んだ先には弓を構えた少年がいた。その隣には少年二人・・剣を構える少年と手から火を出している少年。それと少女二人・・盾を構えた少女と杖を構える少女。

 

「許さない。よくも村のみんなを!」

 

「やれ。ギガントバジリスク。」

 

ギガントバジリスクがモモンたちの前に現れた。前足と呼ばれるであろう手を振り上げた。

 

「任せて!」

 

チャガが盾を構える。

 

「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」

 

アケミラが強化魔法を唱える。

 

ブラッディベアの攻撃ですら防いだ盾だ。きっと大丈夫。

 

「えっ・・」

 

しかしモモンたちが見たのはギガントバジリスクの爪で引き裂かれた盾とチャガの真っ二つに分けられた身体だった。下半身が地面に倒れ、上半身が宙に舞う。

 

「チャガ・・」

 

一瞬何が起きたか分からなかった。唯一チーノだけが行動できた。

 

「うわぁー!!!」

 

チーノが前に出て矢を射る。前に出たのは姉を守る本能がそうさせたのか。

 

だがチーノが射た矢はギガントバジリスクの鱗を突き刺すことは無かった。

 

次の瞬間、チーノの身体はギガントバジリスクの口に咥えられていた。

 

「離せぇぇぇ!」

 

「そのままかみ殺せ!」

 

クワイエッセの命令を聞いたギガントバジリスクはチーノを咥えたその口に力を入れた。

 

肉は裂け、骨は砕け、内臓が潰れる。チーノの身体からあふれ出たのは断末魔と大量の血液だった。

 

それを聞いたモモンが思考力を取り戻す。

 

「ウルベル!アケミラ!あの男を狙え。あいつがこの蜥蜴を操っている!」

 

モモンは剣を構えたまま走る。ウルベルとアケミラがそれについていく。

 

「火炎<<ファイア>>」

 

「氷冷<<アイシング>>」

 

ウルベルが両手から炎を。アケミラが冷気をそれぞれ飛ばす。

 

「その程度か?」

 

クワイエッセにそれらが当たるがまるで効いていない。

 

「なっ!?」

 

「ギガントバジリスク!『石化の魔眼』を使え。」

 

ギガントバジリスクの両目が裏返り、白い目を見せる。

 

「きゃっ!?」

 

アケミラが倒れる。アケミラは自身の足を見る。そこには石の様に白く固まった自身の右足があった。

 

「アケミラ!」ウルベルが振り返りアケミラに駆け寄る。

 

「よせ!ウルベル!」

 

モモンが後ろを見ると去っていくウルベルがいた。

 

「肩を貸せ。」

 

「ごめん。ウルベル。」

 

「気にするな。」

 

ウルベルとアケミラ目掛けてギガントバジリスクが前足を振り上げていた。

 

「なぁ、アケミラ・・俺はアケミラのことが・・」

 

「私も・・」

 

ギガントバジリスクが足を振り下ろした。爪で裂かれたのであろう。最早どちらの身体が分からない肉片が飛び散る。

 

「うおっぉぉぉぉ!!!」

 

モモンはクワイエッセに接近し剣を振り下ろす。しかしクワイエッセの持つダガーにより防がれてしまう。

 

「野蛮な者め。人間でありながら・・奴らと仲良くするとは・・異教徒め!」

 

クワイエッセの空いた方の腕で殴られる。

 

モモンは吹き飛んだ。

 

「この男に『石化の魔眼』を使え。」

 

「くっ!」

 

モモンの左手が石化していく。白い範囲が急激にモモンの身体に侵食していく。

 

「死ね。」

 

クワイエッセは笑う。それを見たモモンは決意する。

 

モモンは左手を切り下す。

 

「なっ!」

 

モモンは右手を再び振り下ろす。

 

その一撃がクワイエッセの顔を切った。しかしかすっただけだ。

 

「くっ・・狂っているのか!?自分の左手を?痛くないのか?」

 

「痛いさ。だけどみんなの痛みに比べたら腕一本なんて痛くもない。」

 

「ギガントバジリスク!毒を吐け!」

 

ギガントバジリスクの口から吐き出された毒をモモンはその全身に受けた。

 

身体が縛られたように動かなくなった。

 

「天使たち!こいつを殺せ!」

 

モモンはクワイエッセに向けて右手を振り上げた。

 

次の瞬間、全身に突き刺さる痛みに襲われた。意識が朦朧とする。

モモンが最後に見たのは天使たちにより殺された村人たちと燃えていく村だった。

 

 

 

 








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