全国の小中学校で老朽化したプールを廃止し、水泳の授業を公営プールや民間のスイミングスクールなどで行う動きが広がっている。

 プールは改修・管理の費用負担が大きいためで、外部委託でコストを抑えた上、専門のインストラクターによる指導で子供の水泳上達が見込めるという声も。全国の多くの学校で普通だった、“プールのある風景”が変わりつつある。(玉崎栄次)

1千校以上で廃止か

 文部科学省が数年ごとに行っている「体育・スポーツ施設現況調査」によると、平成8年度に2万111校あった屋外プールを持つ小学校は、27年度に1万5163校まで4948校(約25%)減少。また、中学校も7646校から5657校に、1989校(約26%)減った。

 この間、小中学校では少子化に伴う統廃合が進み、小学校は約2万4500校から約2万600校に、中学校は約1万1200校から約1万500校まで減っている。統廃合による学校自体の減少を計算に入れても、小中学校それぞれ1千校以上で屋外プールがなくなったことになる。

千葉・佐倉は全廃へ

 「年間数十日の水泳指導のために各学校でプールを維持していくのは、少子化の時代に負担が大きい」

 こう話すのは、千葉県佐倉市の学校関係者。同市では34ある小中学校のうち、26年度までに2つの小学校でプールを廃止、水泳指導を民間スイミングスクールに移した。

 1校で月100万円ほどかかる管理費を節約できるため、プールを改修して使い続けた場合に比べ、今後30年間で約9千万円の経費削減になる。残る32校の授業も新設予定の市営プールへの移行を検討している。

 経費だけの問題ではない。特に小学校では体育の専任教員がいないため、命に関わる事故の恐れがある水泳指導は教員の負担が大きいという。市の担当者は「スイミングスクールではインストラクターの協力で指導の充実に加え、教員の多忙感軽減にもつながっている」と話す。

 市のアンケートでは、児童の98%が水泳学習を楽しかったと回答。さらに85%が泳ぎが上手になったと答えた。また教員からも、「インストラクターが多く、安全確保を十分に行うことができた」など肯定的な声が寄せられた。

「体育は地域の中で」

 神奈川県海老名市は23年度までに、19小中学校のプールを全廃。現在は市内4カ所の温水プールで、5~10月に授業を行う。市教委の担当者は「温水プールなので、夏に限られていた水泳授業を春や秋に移すことができる」と語る。

 学校の屋外プール廃止は、全国に広がっている。徳島市では中学校15校のうち6校が公営プールを利用。名古屋市でも、小学校の建て替えに伴いプールを廃止し、民間プールを活用。三重県松阪市も今年6月から、モデルケースとして小学校1校で民間スイミングスクールの活用を始めた。

 一方、プール集約を打ち出しながら、うまく進まなかった自治体もある。横浜市は近隣の中学校2、3校をグループとし、うち1校に屋内温水プールを整備、そのほかを廃止する方針を示したが、生徒の移動や付添人の確保などに課題が出て、計画は頓挫している。

 スポーツ政策に詳しい神奈川大の大竹弘和教授(公共政策)は「体育の授業を地域の中で行う考え方に切り替え、学校と市民が共同利用するスポーツ施設に予算を集中することは少子化時代の要請だ。業務委託が進めば、開会まで2年を切った東京五輪に向け、スポーツ市場の活性化にもつながる」と指摘している。

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 ■7割超が改修必要

 公立の小中学校では、施設の老朽化対策が喫緊の課題だ。文部科学省によると、築25年以上(平成29年時点)で改修が必要な施設は全体の7割超。さらに今後15年で、築45年を超える施設が大幅に増え、一斉に建て替えが必要となると予想されている。財源との兼ね合いから、文科省は建て替えではなく、補修などで長持ちさせる「長寿命化」を合わせて提案。効率的な事例を自治体に紹介するなど、対策を進めている。