「逃げ恥」脚本家が「フェイクニュース」のドラマに挑戦 「ネットは悪ではない」が危機感も

「逃げ恥」脚本家が「フェイクニュース」のドラマに挑戦 「ネットは悪ではない」が危機感も
NHKのドラマ「フェイクニュース」の脚本を担当する野木亜紀子さん

大きな話題を呼んだ『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(いずれもTBS系)といった人気ドラマの脚本を手がけてきた脚本家・野木亜紀子さんが、今度はNHKで「フェイクニュース」を題材にしたドラマの脚本を執筆しました。

ドラマの舞台は、あるネットメディアの編集部。北川景子さん演じる大手新聞社出身の記者がネット上に氾濫するフェイクニュース(偽ニュース)と向き合い、真実を追い求めて奮闘する姿を描きます。

ドラマの制作が発表されると、テレビドラマが「フェイクニュース」を扱うことに対して、ネット上で反発する声もありました。フェイクニュースについて、脚本家の野木さんはどう見ているのでしょうか。脚本執筆の意図をたずねるとともに、「最後は自分しかいない」という脚本家の仕事の実情について聞きました。

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ドラマ『フェイクニュース』で主人公を演じる北川景子さん

「インターネット老人会に片足を突っ込んでいる世代なんです」

ーードラマの舞台がネットメディアの会社ですが、もともと野木さんはネットメディアに詳しかったのですか?

野木:どれくらい詳しいかというと答えにくいのですが「あのメディアは最近ちゃんとしてきたな」「あそこはあいかわらずだな」と思える程度には知っています。いわゆる“インターネット老人会”に片足を突っ込んでいる世代なんです。(パソコン通信の)ニフティーサーブ時代から「東芝クレーマー事件(1999年)」とか「ネオ麦茶事件(2000年)」といったネット上の事件をリアルタイムで見てきたので。

ーーインターネット歴が長いんですね。

野木:そうですね。だから私自身がネットユーザーだという感覚なので、ネットで「ドラマ『フェイクニュース』がテレビを正当化しようとしている」という声があったとき、びっくりしたんです。まったくそんなことを考えていなかったので。

ーーネットを敵視しているわけではない、と。

野木:そもそも私はネットの恩恵を受けてきたので、「ネットが悪」という感覚がないんです。私は映画の学校を出てからドキュメンタリーの仕事をしていたんですけど、当時は調べ物をするにしても、国会図書館に行ったり(雑誌等を集めた)大宅壮一文庫に通ったりしたんです。ネットで調べる場合でも、新聞の有料記事検索を使うとか。そういう時代の大変を知ってるだけに、いまのネット社会はなんて幸せなんだろうとしみじみ思っています。初期情報を集めるぶんには圧倒的に早い。その後はきちんと取材しないといけませんが。

ーーそんななかで「フェイクニュース」というものを、どうとらえていますか?

野木:インターネットの歴史としてみると、SNSの発達で変わった部分って大きくあると思うんです。そこに危機感もおぼえますし、ちゃんと伝えなきゃいけないんじゃないかと思っています。そんなときは堅いドキュメンタリーよりドラマのほうが伝えられることがあると思うので、今回NHKで作らせてもらえたのはありがたいですよね。

ーースタジオを見せてもらった際には「笑える要素も入っている」とおっしゃっていましたね。

野木:このあいだまで放送していた『アンナチュラル』だと、毎回人が死ぬところから始まるので、どうしたって悲しい話になるわけですよ。悲しい話を悲しく描いたって、ただ悲しいじゃないですか。だからそこはバランスというか、楽しく観られるけども、悲しいところは悲しいよねっていう風に描いています。

今回の『フェイクニュース』も、いくらでも真面目にできるんですよ。でもそうした場合、「誰が観るのかな?」とか「私たちが作る必要ある?」みたいな話になって。なので、フェイクニュースといっても物語の入り口は殺人事件とかにするより、青虫の異物混入ぐらいの事件がいいんじゃないかと。肩ひじはらずに観られて、だけど何か残ったり、何か考えさせられる。そういうのがエンターテインメントの理想のような気がしていますね。

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ドラマ『フェイクニュース』のセット

締め切り前にアイデアが浮かばないときは「まずい」となる

ーー野木さんは脚本家として活動するようになったのは、30代に入ってからですね。それまで「焦り」みたいなものはなかったんですか?

野木:私、デビューが36歳なんで、超遅いですよね。脚本を書き始めて、フジテレビのコンクールで賞をいただくまで6年くらいかかっているので、そのあいだは「これなんとかなるのかしら」とか「いつまで応募し続けるんだろう……」ってのはありました。ただその期間はふつうの会社勤めをしていて、そこで学んだことは非常に有意義でした。そのときに出会った人たちもそうですし。当時があるから今があると思います。

ーー仕事と向き合うときのルーティーンや「自分ルール」はありますか?

野木:ないですね。基本、自宅で脚本を書いているので、眠くなったら寝て、起きたら書くみたいな生活です。特にこの3、4年は、ほんと仕事しかしてなくて。友達とも約束できないっていうか、約束をほとんどしない。すべてが「行けたらいく」です。「行けたら行く」で許してくれる友達しか残っていない(笑)。映画の脚本だとスパンが長いのでまだなんとかなるんですが、連ドラを書いているときは無理ですね。どんどん撮影に追いつかれていくんですよ、連ドラは。やばいですよ。

ーー「追いつかれる」というのは、ある回の脚本を書き終えたと思ったら、すぐに撮影があって、また次の回の脚本を慌てて書かなければいけないということですね。脚本を書き終えてから撮影に入るまで、最短でどれくらい短くなるんですか?

野木:連ドラだと、最終回に近くなるにつれて短くなっていって、ひどいときだと脚本をあげてから撮影に入るまで2日とか3日ということもあります。「いつまでに書かないと間に合いません」という世界だから、書くしかないんですけどね。ただ、その締め切りまでにアイデアが思い浮かばない感じのときが、一番やばいです。「朝までに決定稿を入れなきゃならないのに、ここがうまくいってない。ここはどうしたら成立するの。まずい」みたいな。

ーーそういうときは、どうするんですか?

野木:考えるしかないです。結局、誰も助けてくれないんですよね。もちろんホン打ち(脚本の内容を検討する打ち合わせ)もするし、プロデューサーやディレクターも相談にはのってはくれるけども、最後は自分しかいないので……。執筆期間は頭のなかのどこかでずっと考えていて、それが歩いているときとかにふっと浮かんだりすることがあります。でも、たいていは苦しいです。そんな楽しいものではない。同業者のなかには、「仕事が楽しい」って言う人もいますけど、「えーっ! 本当?」「嘘でしょ?」って思ってます。

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ーー他の映画やドラマはどう観ていますか?

野木:そもそも視聴者として楽しんできた時代が長いんですが、ドラマとか映画とか観ていると時どき、頭のなかでホン打ちが始まっちゃうんことがあるんです。私だったらこうするなとか、このシーンをこうしておけばよかったのに……とか。すごく考えながら観ちゃうんで、「私に考えさせないでくれ!」って思います。何も考えずに楽しく観られたときは、心から「ありがとう!」と思います。

ーー脚本家のような「ひとり」と向き合う職業には、どんな人が向いていると思いますか?

野木:フリーランスという視点でいくと、戦える人じゃないと難しいと思います。私はドキュメンタリーの仕事をしていたときにもフリーランスの時代があったんですが、ギャラなんて基本、交渉です。たとえば、外税か内税かだけでも相当違うじゃないですか。だから脚本を書くようになってからも、まだペーペーのくせに「内税と外税でいくら変わると思ってるんですか!」とか交渉して。特に若い脚本家のたまごだと歯向かえないところがあるんで、そういう子がいると、私には全然関係のない仕事なのに「ちゃんとクレジットに名前を入れるように約束させなきゃダメだよ」とか、言ってきましたね。

<ドラマ『フェイクニュース』は前後編の2回にわかれており、前編は10月20日の21時から、後編は27日の同じ時間から放送される予定です>

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