気がついたらfukuoka.exの中の人に
――現在の業務内容を教えてください。
上野 フリーランスでプログラマーをしております、上野と申します。現在は自社プロダクトであるスモールビジネス向け販売管理ERPを中心としたソリューション提供が主な業務内容です。言語としては、従来のクライアント・サーバーモデルであるオラクル、Delphiなどの組み合わせでやっているものをElixirに移行しているところでして、受託開発も行なっています。
現在は49歳で、仕事としては20歳のときに就職し23歳からずっとフリーランスです。最初は東京で就職したのですが、その後福岡にUターンしてからは、ずっとフリーランスでやっています。「25年以上フリーを続けている」と表現するとかっこいいですが、実際は知り合いに仕事をもらいながらなんとか生きてきたという形ですね。売掛金の延滞に気をもんだこともありますし、いろいろあります(笑)。東京では、方眼紙でドキュメントを書く時間のほうが長く辟易としてました。Excelの方眼紙ではないですよ。その時福岡の知人から仕事の引き合いがありました、そういう経緯もあって福岡に戻っています。
90年代初頭の東京時代はISDN交換機の開発に携わり、アセンブラとC言語でIFボードの開発。福岡に帰ってきてからは画像解析ソフトやビジネスソフトを制作していました。当時はCとC++の時代で、マシンとしてはAXを使用していました。DOS-Vの前の時代のことです。それからDOS-Vにネットワークの時代が到来し『Netware』の登場で『Btrieve』と呼ばれるネットワークデータベースが使えるようになり変化が加速しました。その後はWindows時代が幕開けし、ビジネスソフト界隈でPCの発展のともに歩んできました。90年代後半には「Oracle」がPCの世界に登場し、同時期に登場した「Delphi」との組み合わせが最高に良いこともあり、C/Sモデルでパッケージ開発。当時主流であったオフコンや汎用機のリプレースで、ダウンサイジングを行なってきました。
2000年以降も基幹システム開発を行なってきたのですが、あるとき拠点にしていた企業が買収されてしまい、それまでの顧客もいったん離れることになったんです。ライブドア上場前後の話です。それで、私は顧客を引き継いで法人化して事業を続行しました。ちなみにその買収した企業も数年後には倒産してしまうなど、福岡では当時ベンチャーが出始めたころですがなかなか厳しい環境だなと思ったことを覚えています。
また、私のほうも主要な顧客が事務機ビジネスや卸売など、どちらかというとIT革命にやられる側だったのに加え、さらに2008年のリーマンショックでは大きなダメージを受け、精神的に落ち込むことも多くありました。
しかし、2014年に転機がありました。以前に一緒に仕事をしたことがある韓国企業の日本進出を手伝うことになり、そこにジョインすることになったんですね。そこがきっかけで、Web系の技術の世界を知ることになりました。
――本欄に登場いただいた方に負けず劣らず、上野さんも波乱万丈の人生を送ってらっしゃいますね。現在は、やはり以前登場いただいたfukuoka.exの森さんと一緒に仕事をされているそうですが、森さんと出会ったきっかけを教えてください。
上野 私が2014年に韓国企業にジョインしたあたりから、福岡でも多くの勉強会が開かれるようになりました。それで、私自身もいろいろな勉強会に参加したのですが、1年ほど前に発足したfukuoka.exの勉強会はとにかく緻密だったんですね。ここまで練り込まれた勉強会は、他になかったです。
テーマがガッチリ決まっているし、登壇内容も練り込まれている。最後の参加者フォローまできっちりやり、会合が終わった後もtwitterでアフターフォローまで行なう。すごいなと思いました。Elixir自体は2年前に勉強してから放置していたのですが、「彼が推すなら素晴らしいものになるだろう」と思って再度勉強を始めました。
fukuoka.exにジョインするようになったきっかけは森さんといえば森さんなのですが、やり方も巧みでしたね(笑)。あるイベントを企画された際、「アシスタントをやってみませんか」とオファーを受けました。実際にアシスタントとして手伝ってみて、うまくいったら「いいですね、次は登壇するのはいかがですか?」みたいな形で。とんとん拍子で、気がついたらfukuoka.exの中の人になっていました。
人間に『貢献』は本能的に備わっていない
――fukuoka.exに入る前後で、上野さんにどのような変化がありましたか?
上野 やはり、若い友人が増えたことですね。日々すごく高いモチベーションを持てるようになりました、それが一番大きいです。いろいろな物事に対して前向きになりました。
SI業務一筋でやってきた人間からすると、fukuoka.exのメンバーは非常に魅力的です。中でも、以前にも本欄に登場いただいた山崎進さんには大きな刺激を受けています。大きな仕事を企画して実行する部分、誰とでも繋がっていき、巻き込んでいろいろなことを実現していく能力は本当にすごいと思っています。
――ありがとうございます。上野さんが業務を行なう上で、最も大事にしているモットーや好きな言葉はありますか?
上野 エーリッヒ・フロムが言う「人間には愛がもともと本能的に備わっているわけではない」を少しもじって、「人間には『貢献』がもともと本能的に備わっているわけではない」ということをよく言っています。
周囲への貢献、コミュニティへの貢献はトレーニングしないと身につかないものです。誰もが持っているものではありません。この話をするとピンと来ない人もいるのですが、物事を起こすとき、何かを欲するときに先に貢献を考えないとうまくいきません。
もちろん、これは人によってはとんでもないブラックな表現に聞こえるかもしれないのですが(笑)、何か問題が起きた時に自分が求める側にいるのではないか、貢献する側に回れているのかは意識しています。
これは5年ぐらい前、「100分de名著」というテレビ番組で見たことがきっかけです。その中で出てきたエーリッヒ・フロムの著書の話が刺さったんですよね。テクノロジーと直接は関係ないのですが、その言葉かなと。何かに行き詰まったときって、自分は求める側にいるんですよね。
――自身の成長のために、日々行なっていることはございますか?
上野 『Qiita』という技術投稿サイトの記事は、毎日欠かさず読むようにしています。エンジニアが毎日知見を投稿していて、例えば「人工知能でこういうことを動かしたらこういう結果が出た」とか「こういう言語で~~に接続してみた」とか、そういう知見が毎日アップされているサイトです。
――上野さんは今年50歳とのことで、コミュニティ内で年長になることが増えてきていると思います。そういう部分は、ご自身ではどのように捉えていますか?
上野 そこは積極的に聞き役になろうと努力しています。実際、多少戸惑いがあったとしても、話に入っていかないと知見は得られないですから。当然、新しい技術のことをある程度知らないと話に入っていけないですから勉強も欠かしません。下の年齢の方のほうが見識も知識量も上ですし、そこから学ぶ姿勢はどんどん高めています。
気をつけているのは、「自分の時代はこうだった」みたいな話をしないことですね。年長になるとどうしても昔話をしてしまったり、それで相手の時間を使うのは勿体ないので。そういうところは出さないようにして、いかに相手の話したいことを引き出せるかは重視しています。聞き上手ではないほうなので、余計に意識していますね。
仲間があってこそ、モチベーションを保てる
――ここからは、上野さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「社畜度(会社愛)」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。
・専門性向上 4
やはり、ここがなかったらフリーランスはやっていけないですから。とはいえ、5にすると食べていけないなとも思います、好きなことばかりだと食っていけない。なので4にしました。
・仲間 5
fukuoka.exに入って特に思いました。仲間があってこそ、モチベーションを保っていけます。50歳にもなると、周囲に新しい技術に積極的なフリーランスの友人はなかなかいません。そういう意味でも貴重な仲間だと思っています。
・お金 3
お金は大事ですね、だけど、お金の話を先にするとロクなことにならないですね。先に自分の仕事でちゃんと価値を出して、そのうえでふさわしいお金をもらうのがふさわしいと思っているので3にしました。
・事業内容 4
私も基本的にはお客さんが望まれるようにやってきましたが、それに振り回されてもいけないと思っています。そういう意味で、どういう事業内容になるかはとても大事だと思います。
・働き方自由度 3
仕事があれば何でもします、仕事があること自体がありがたいですね。働き方は、それなりにまともに働ける環境であれば何でもいいなと思っています。
・社畜度(会社愛) 1
フリーランスなので、社畜と言われてもピンとこないですね(笑)。関わっているものに対する愛着は非常に強いですが、それに隷属するような気持ちはないです。そういう意味で、1かなと。ただ、関わっている仕事へのコミットはもちろんします。
エンジニア目線で「困りごと」を見てほしい
やはり、現在はインターネットで膨大な資料を取ることができます。その中でも、企業活動においては経済は非常に重要です。株式情報を含めた、企業の経済活動についての記事なりデータなりを読んで、企業活動をイメージすることは自分にとってとてもプラスになると思います。
あとは、人が困っていることは何か?に常にアンテナを張っておくことですね。それが将来のITにおける問題解決の種になります。人間関係でも経済面でも「これは困ったな」と自分で思うこととか、あるいは周囲でそういう問題を抱えている人がいたら、エンジニア目線でどう解決するかを考えてほしいと思います。
いますでに挙がっている、顕在化している問題は誰かが取り組んでいるものだと思います。そうではなく、困っているものは何か、潜在的な問題は何かを見ることが将来の飯のタネになるなと。世界中のエンジニアと競争するためには、そういう視点が必要ではないかなと思います。
<了>
ライター:澤山大輔