漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
<< 前の話 次の話 >>
「大きな足跡だな。」
大きな足跡にまで到着した一同は武器を構えながら話す。
「確かに。これはブラッディベアの足跡で間違いないな。」
「どれどれ・・」チーノが屈み足跡に触れる。
「弟。どう?」チャガが聞く。
「まだ微かに温かい。通ったのは10分前って所かな・・」
チーノはそこから足跡に顔を近づける。
「どうだ?チーノ。」今度はウルベルが聞いた。
「匂いはほとんどしない。汗や涎は落ちていないということは多分目覚めたばっかりなんじゃないかな。」チーノ。
「となると腹を空かせているだろうから・・気性は荒くなってるのか。」ウルベル。
「危険だけど・・裏を返せば罠にかかりやすいということね。」アケミラ。
「寝て起きたばっかならこの周囲にそいつの拠点があるはずだ。もう一度ここを通る可能性は高いだろう。ここに罠を仕掛けよう。」
モモンたちは足跡付近に罠を仕掛ける。
その作業はすぐに終わった。
「罠は仕掛けた。後は待とう。俺とウルベルはあっちの岩陰に。チャガとチーノとアケミラはあっちの岩陰に隠れてくれ。ブラッディベアが来たらチーノが先制攻撃してチャガがブラッディベアの攻撃を盾で防いでくれ。もしチーノ側が気付かれたらウルベルが魔法で先制攻撃を頼む。こちら側が気付かれた場合はチーノが先制攻撃をしてくれ。もし万が一誰かが死亡したり重傷を負った場合は即座に撤退を。」
「「「「分かった。」」」」
「それではみんな幸運を。」
_______________________________________________
「なぁ・・モモン。少し話さないか?」
「まだ時間はあるだろうし良いぞ。」
「俺は16歳。お前ももうすぐ15歳で成人だよな?」
「それがどうかしたのか?」
「いや・・そろそろ嫁さんを決めないとな。」
「・・珍しいな。チーノはともかくウルベルがそういうことを言うのは。」
普段チーノは誰を嫁にするかと大声で話すような男だ。悪い奴ではないのは知られているがそれ以上に煩悩にまみれた男だと知られているからか女はチーノにあまり近寄りたがらない。
(恐らくチャガがチーノに何かある度に注意しているのもチーノの為なんだろうなぁ。)
「いや俺だって男だ。嫁さんが欲しいよ。モモンはどうだ?」
「いや俺はまだあまり興味が無いかな・・」
「勿体ないな。お前なら嫁さん選びたい放題だろう?」
「そんなことないとは思うけど・・」
「そうか・・これは俺の口からあまり言うことではなかったか。」
どこかウルベルは呆れたような表情を見せる。
「モモン、お前これからどうするつもりだ?」
「考えたことなかったな。」
「そうか・・・俺はさ。いつか冒険者になろうと思っている。」
「えっ・・」
「まぁ、そんな驚くな。いずれ旅に出るってだけだ。」
「いつ?」
「もう少ししたら行こうと思っている。」
ウルベルがいなくなる。そんなこと考えたこともなかった。
「どうしても行くのか?」
「あぁ。」
「寂しくなるな・・・」
「寂しくならない方法があるぞ。」
「?」
「みんなが十五歳になったらさ、この5人で冒険者になって旅をしないか?」
「『十三英雄』みたいにか?」
ウルベルが十三英雄に憧れているのは知っている。
というより俺たち五人は『十三英雄』に憧れている。
母さんがよく話してくれた。周辺諸国では四大神を信仰しているけれどもとある宗教国家では『生』と『死』の神を加えて六大神が信仰されているとか、十三英雄は明らかに人間以外の種族が極端に出なくなっているとか。それが大人の事情だとか。
俺は一番『十三英雄』のリーダーが好きだ。人類を救ったとされる『六大神』や大陸を好き勝手に生きて殺しあった『八欲王』よりも、あらゆる種族と仲良く繋がり最初は弱くても最後には誰よりも強くなった『十三英雄』のリーダー。母さんが俺にモモンとつけてくれたきっかけ。『強さ』と『繋がり』の象徴。真の英雄にふさわしい人物。俺の憧れている人物だ。
「俺たちならなれるって。だからみんなで行こう。」
そう言ってウルベルが手を伸ばしてくれた。
「俺は・・」
俺はどうすればいい?
俺はここにいる五人も好きだ。ギルメン村のみんなも好きだ。
俺は・・
瞬間、僅かに弓が引かれる音がした。
チーノが弓を引いたのだろう。
ということはブラッディベアが現れたのだろう。
俺はウルベルを見る。ウルベルは既に臨戦態勢に入っている。
俺は大声で叫び、岩陰から出て剣を抜いた。
「戦闘開始だ!!」
_____________________________________________
全員が岩陰から出てきて見たのは大きな熊だった。
立っているからだろうかモモンたちの身長の倍以上はあるだろう。
岩よりも硬質そうな胴体。鋼の剣よりも鋭いであろう爪と牙。
強烈な殺気を放つのはその瞳であった。
間違いない!ブラッディベアだ!
目の前に移るものを全て獲物だと認識しているのだろう。その瞳は冷たいように見えるが実際は生き残るために必要最低限な感覚しか持ち合わせていないようにも見える。
だが二つあるはずの一つは矢が刺さっており、目からは鮮血が溢れている。そのせいかその目を見て身体がすくまずに済んだ。
(チーノには感謝しかないな。)
ブラッディベアが左腕を上げる。
「チャガ!」
チャガが熊の前に出て盾を地面に突き刺す。
「みんな!私の後ろに!」
盾を構えたチャガの後ろに前からモモン、ウルベル、アケミラ、チーノの順番に並ぶ。
「グォーン!!」
ブラッディベアの左腕がチャガの盾に振り下ろされる。
「くっ!」あまりの衝撃に盾を構えていたチャガごと吹き飛ばされそうになるが何とか耐えた。
「ウルベル!」
ウルベルの両手から炎が飛び出す。
「ファイア!」
ウルベルの両手から吹き出た炎がブラッディベアの上半身を焼く。
「ギィーン!!」
ブラッディベアの上半身が炎により燃えていく。だが・・
「くそ!身体についた血のせいで大してダメージを与えれていない。」
ブラッディの全身に染み付いた血によって炎では大してダメージを与えられないようだ。
「次の攻撃が来るぞ!アケミラ!」
「盾強化<<リーインフォース・シールド>>」
アケミラが唱えた魔法がチャガの盾に込められる。
ブラッディベアの攻撃が盾に当たる。先ほどまでの衝撃は無い。
「ありがとね。アケミラ。」
「サポートは任せて。」
「チーノ!」
「了解!」
チーノが矢を放つ。その矢はブラッディベアの顔に目掛けて飛んでいく。
「ギャギャ!?」
ブラッディベアは顔を横にして矢をかわす。そしてそのまま地面に倒れる。
「!?倒れた?」
よく見るとブラッディベアは両腕を地面に突き刺していた。
「アケミラ!」
「氷雪<<アイススノウ>>」
アケミラの杖から氷魔法が吹き出る。それはブラッディベアの下半身を凍らせる。
血に染まっていたからだろう。身体が濡れていたため冷気によるダメージは大きいようだ。
ブラッディベアは両腕を突き刺したまま下半身を振り回して、チャガの盾に蹴りを行う。
「効かないよ。」
チャガは攻撃を防ぐ。
「グォーン!」
ブラッディベアを凍り付いた足で蹴りを行ったせいか怪我をしたのだろう。
モモンたちに対して背中を見せて走り出す。
「逃がすか!」
チーノが矢を放つ。
「ギャン!」
ブラッディベアの背中に矢が刺さる。
ブラッディベアは背後にいるチーノに向かって腕を振るう。そこにあった岩が砕けてチーノ目掛けて飛んでくる。大きな岩だ。人間の頭部ぐらいの岩の塊であった。直撃すれば大怪我だろう。
「危ねぇ!」ウルベルが身を挺してチーノの前に出る。ウルベルの腹部に岩が直撃する。
「がぁっ!」直撃の瞬間、ウルベルの口から血が飛び出る。
「我が怒りと痛みをその身に受けよ!ファイア!」
ウルベルが唱えた炎がブラッディベアの下半身を焼いていく。
「ギャァァァァン!!」
「ウルベル、大丈夫か?」チーノが問う。
「心配ない。」
ブラッディベアがこちらを振り向き、走るような構えを見せた。
「来るか!」
ブラッディベアがモモンたちに向かって真っすぐに跳躍した。
モモンも前に出る。
(彼らを攻撃させるわけにはいかない!)
モモンはブラッディベアに向かって走る。
ブラッディベアが両腕を突き出し、そこには鋭い爪が出ている。口は大きく開けており、そこにはかみ殺す本能が見て取れた。
接近するモモンとブラッディベア。
ブラッディベアの二つの爪がモモンに襲い掛かる。モモンはそれ自身の身体ごと剣を振り回して弾いた。残るは頭部だけ。モモンは回転した勢いのまま剣でブラッディベアの首を切り落とした。
ドン!
大きな落下音がした。一つはモモンが倒れた音。もう一つはブラッディベアの首と身体が落ちた音だった。
それを見た四人は倒れたモモンに駆け寄る。
「やったな。今日は大物だな。」ウルベル。
「ふー。アレ何食分あるかな?」チーノ。
「お前の分は無いぞ。弟。」チャガ。
「みんなに分けるから一人当たり・・」アケミラ。
「みんな。お疲れ。これで狩りは終わりだな。」
こうしてモモンたちの狩りは終わった。