漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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「どうだ?見えたか?」
モモンたちは上を見ながら声に出した。上を見ているのはモモン、ウルベル、チャガ、アケミラの四人であった。それもそのはず現在チーノは数少ない木に登り、その頂上から周囲を見渡しているのだ。四人は周囲を警戒しつつも上を見ている。
「南と西にはいない。東にもいないか・・」
チーノが残る方角を見る。
「いたぞ。北の方角、200メートル先に大きな動物の足跡だ。あれがブラッディベアなんじゃないか?」
「何故分かる?」
「この距離からでもはっきり見える。多分かなり大きな動物が通った跡だろう。」
「分かった。では降りてきて案内を頼む。」
「了解!」
チーノは木から降りていく。
「さっさと降りてこい。弟。」チャガが急かす。
「分かったよ。姉ちゃん。」そう言ってチーノは急ぎ降りる。
(こういう時、誰よりもチーノを心配しているのはチャガなんだよな。口では急かしているけど、チーノが落ちた時助ける為だろう先程よりも木に近づいている。)
まぁ・・本人に言えば照れ隠しで殴られるから言わないでおこう。
そうチャガとチーノを除く三人は思った。
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「そろそろ足跡が見えた場所だよ。」チーノが先導する。一同がそれに従いついていく。
「そろそろブラッディベアをどうするか決めとこう。」モモンが口を開く。
「まずはブラッディベアを抑える役だ。」
「それは私がやるよ。こんなこともあろうかと・・」チャガが挙手すると背中に背負っていたそれをモモンたちに見せる。
「盾?いつの間に・・」
チャガが背負っていたその盾はラージシールドと呼ばれる大きな盾だろう。その盾は全体が白く、アゼリシア山脈の石を加工して作られたのだろうと推測できる。
「昨日、アマノおじさんに作ってもらったの。少し重たいけどね。」
アマノおじさんは素材があれば武具や農具の制作をしてくれる職人だ。
ここでギルメン村について一つだけ語っておくと、
ギルメン村も元々は開拓されておらず多くの者が苦労をかけて開拓された。最初に開拓したのは『開拓』を提案し行動したリーダーとその友人5人。開拓の為に必要なものを集める際に出会った社会的立場が弱かった3人を加えて『最初の9人』と呼ばれる。
アマノは『最初の9人』の一人でありギルメン村に長く住んでいる。それだけにアゼリシア山脈でどのような素材があるかどんな風に作れるかを熟知している。このチャガの盾はそんな集大成なのだろう。
「・・アマノさんの作った盾か。良い盾だな。」
「モモンの剣も良い剣よ。」
アマノおじさんが作った武器はモモンの剣やチャガの盾、その他多くある。というよりギルメン村に住む皆の持つ武具や農具の大半はアマノさんが作っている程だ。『最初の9人』は伊達ではない。
(アマノさんが作るものに間違いはない。だけど、その盾がどれほど頑丈なのかこの場の全員が知っておいた方がいいだろう。)
「試しにタックルしてみていいか?」モモンはチャガとの間に距離を置く。距離は3メートル程だ。
「どうぞ。」チャガが盾を地面に突き刺して構える。
「行くぞ。」モモンが盾に向かって全力で走る。そして盾に向かってタックルする。
モモンと盾が衝突し大きな音が響く。
「うおっ!!?」思わず声を出してしまったのはモモンの方だった。
「本当に凄いわね。この盾。モモンがタックルしてもビクともしない。」
「確かにその盾ならブラッディベアの攻撃も防げるな。」腕を出しての打撃、そこからの爪による引っ掻き、全身による打撃、牙による噛みつき、それらを全て防げるだろう。
「ではチャガには抑える役を頼む。」
「分かった。」
(チャガが抑える役か・・やっぱりチーノに危険な役割を任せたくないという姉としての優しさなんだろうな。)
「ウルベルは火の魔法による中距離攻撃を、チーノには弓による遠距離攻撃を頼む。」
「了解した。ふっ、俺の火で熊を消し炭にしてやるよ。」そう言ってウルベルは左手で右手首を抑えながら不敵な表情を見せている。
「おーけー。遠距離は任せろ。」チーノが弓を肩から外しながら言う。随分とリラックスした表情なのが少し気になった。
(そういう心構えなのは分かるんだが、ウルベル・・消し炭にしてしまったら食料が無くなるだろ。本当に消し炭にしないか少し心配だな。チーノ・・少しは緊張感を持ってくれよ。ま・・そこがチーノの良い所なんだが・・)
「俺が近距離でブラッディベアを攻撃する。アケミラにはブラッディベアの足止めと全体の支援を頼む。」
「分かったわ。」
「おい、足跡が見えたぞ。」チーノのその一言で全員の顔が一瞬にして真剣な顔つきに変わる。
「よし。みんな!構えろ!」