漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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アゼリシア山脈 ギルメン村の狩場
モモン達は三十分程歩いた。
ギルメン村から遠く離れたその場所に彼らの狩場はあった。
木はほとんど生えていないため隠れる場所はなく、地面は凹凸があり注意して歩かなければすぐに転倒する。
天気は快晴で風はほとんど吹いていない。そのため
「今日は絶好の狩り日和だな。」
モモンが口を開く。
「確かに。これだけ見晴らしが良ければ獲物を見逃すことはないだろう。」
「この前みたいに鷹を狩りたいな。」チーノが弓を射るポーズを取りながら言う。
「弟、だからアレは偶然だって。」
「チーノは目だけは良いもんね。」
「ちょ、アケミラ!それどういう意味!?」
「言葉通りよ。チーノ。」
一同が笑う。
「ところでモモン。」ウルベルが口を開く。
「どうした?」
「そもそも鷹の肉はまだ残ってるんじゃないか?この前はチーノが4羽も狩ったんだぞ。」
チーノの問いかけにモモンが答える。
「確かに残ってはいる。だがもうすぐ冬が来るだろう?」
「確かに・・鷹の干し肉だけじゃあ、冬を過ごすのは厳しいか・・」
「だったら大きい奴を狩るのはどう?」提案したのはチャガだ。
「私も賛成かな。」アケミラが小さく手を挙げる。
「となると・・ブラッディベアか?」ウルベルが言う。
ブラッディベア・・アゼリシア山脈に生息し、洞窟などを拠点に活動する危険な熊だ。
獰猛な性格で獲物の匂いを発見次第追いかけてきて襲い掛かる習性がある。
体長は3メートルもあり、首や手足は太い。牙と爪は非常に鋭く少し太い木程度であれば一撃でへし折る程である。
だが最も恐ろしいのは牙や爪ではなく足であり、アゼリシア山脈の険しい山道でも活動できるように進化したその足は一度地面を踏み込むだけで5メートルもある距離を一気に詰めて獲物の手足を爪で引き裂き、牙で首を食い千切る。そして接近し背後に立とうとするものなら足で蹴飛ばされる。全身を獲物の血液で赤く染まることから『ブラッディベア』と呼ばれている。
非常に危険な生物である。
ちなみにタブラスおじさんの情報である。
「おっ!いいね。ブラッディベア、あいつの肉は美味そうだ!」チーノが言う。
「ブラッディベアは危険な生物だ。狩猟成功のメリットは大量の熊肉などが持って帰れる点。デメリットは俺たち全員死ぬ可能性すらある点。」ウルベルがみんなに分かりやすく話してくれる。
「じゃあでいつもので決めよう。ブラッディベアを狩るのに賛成の人は挙手を。」
モモン、ウルベル、チーノ、チャガ、アケミラの5人だけでなくギルメン村の村人は何事にも『多数決』を重んじる。その際のルールは主に3つ。
『多数決を口に出す者はその場の全員が話を理解しているかどうか確認すること』
『多数決では多さが絶対で万が一数が同じ場合は話し合い、再び多数決を行う』
『多数決を取って決定してから文句や反対意見を言わずそれに従うこと』。
この3つである。
「弟に熊肉食わせなきゃ煩そうだからね。」チャガが挙手する。
「熊肉取って、女の子にモテるんだ!」チーノが挙手する。
「村の皆の為にも栄養のあるもの食べてほしいもんね。」アケミラが挙手する。
「大きな獲物を狩るのは男のロマンだな。」ウルベルが挙手する。
「決まりだな。行こう!」モモンが拳を作り手を挙げた。