漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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「むぅー。名前を考えるのはとても難しい。」
モーエはとても悩んでいた。
「?」
腕の中にいる赤ん坊が不思議そうな顔で見つめる。
「むぅ。そんな不思議そうな目でお母さんを見ないで。」
「?」
(そんな顔されたらいたたまれないじゃない。)
「こうなったら・・スザァークおじさんに聞いてみよう。」
スザァークとはギルメン村の最年長者で長老的存在である。
―――
自分の家から出たモーエはスザァークの家に向かって歩く。
ギルメン村は中央に村の指導者の家があり、その周りを囲うように他の家が並び立つ。
家同士は5メートルずつ離れている。近くも遠くもないこの距離のおかげで狼のモンスターに襲撃された際も声を掛け合える位置にいたおかげで助かったのだ。
元々ギルメン村のこの家の配置を提案したのもスザァークである。
村一番の知恵者はタブラスであるが、幅広い知識という意味ではスザァークに勝る者はこの村にはいない。
「スザァークおじさん!」
モーエはスザァークの家のドアを開ける。
「やぁ。モーエ。どうしたんだい?」
「実はですね・・・」
モーエは赤ん坊をここに連れてくるまでのいきさつを話した。
「なるほど・・それで今は赤ん坊の名前を何にするかで悩んでいると・・」
「えぇ。」
「ふむ・・」
そう言うとスザァークは目を閉じた。
モーエはそれを見て口を閉ざした。
(スザァークおじさんが目を閉じている時は真剣に物事を考えている時・・いつもの癖ね。)
「・・・」
「その赤ん坊は男の子かい?それとも女の子かい?」
「男の子よ。」
「男の子・・村の一員・・家族・・」
「・・・」
「その子は何と繋がっているんだい?」
「?・・繋がり?」
モーエは首をかしげた。
「あぁ。赤ん坊というのはへその緒を通じて母親と繋がっているものだ。」
「・・・」
モーエは黙ってしまった。自分はこの子と何の繋がりがあるというのだ。
「そう怖い顔をしないでくれ。モーエ。君がこの子の母親であろうとするならこの子もまた君の息子でいようとするだろう。だからこの子と君の・・親子の繋がりは気にする必要はないだろう。」
「そうね。」
「・・話が逸れたな。私がこの子を見て思ったのは・・この子は私の顔を見ても特に変化していないだろう?」
「確かに・・」
スザァークはこの村の中でも飛びぬけて特殊な容姿をしている。それこそ異形な・・
「きっとこの子は容姿で差別をしない良い子に育つのだろうな。」
「えぇ。きっとそうなるわ。」
「この子は何が好きで何が嫌いなのだろうな?何に対して憧れるのだろうな?
私は今こうしてモーエと話している。これも『繋がり』だ。君がこの子を拾ったのも『繋がり』だ。
世界は『繋がり』で満ちている。それゆえ私はこの子がどのように生き、どんな『繋がり』を持つかを考えたのだ。」
「・・私はこの子には強く生きてほしい。健康で病に侵されず、どんな逆境にも負けない子供に育ってほしい。」
「良い願いだね。」
「そして『繋がり』と『強さ』を大事にするそんな大人になってほしい。十三英雄のリーダーみたいな人物に。だから・・・
モンスターであろうと繋がり、モンスターを超える強さを持つ。
この子の名前は『モモン』!」
「良い名前だ。」
「よろしくね。モモン!」
モーエがそう言うとモモンは言葉を理解していたのか微笑んだ。