漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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ギルメン村。アゼリシア山脈の上にある村だ。人口は40人と小さな村だ。この小さな村ではほぼ毎日顔を合わせる為、村人全員が親戚のようなものだ。
「ただいま。」
「おかえり。モーエ。」
モーエの帰りを迎えてくれたのはモーエの良き友人である男性、タブラスであった。
「タブラスおじさん、来てたの?」
「?・・その赤ん坊はどうしたんだ。」
タブラスはモーエの抱える赤ん坊を凝視する。凝視するタブラスに反して赤ん坊はタブラスを不思議そうに見つめている。
「薬草採集に行くとこの子がいたの。多分・・」
「・・成程な。」
タブラスはモーエの表情や声色から全てを察した。
村で一番の知恵者の名前は伊達ではないのだ。
「事情は分かった。とりあえず君は休め。薬草採集で疲れたろ。」
「ありがとう。タブラスおじさん。」
そう言うとモーエは薬草の入った籠を床に置いた。
「帰りが遅いと思ったが・・成程・・随分遠くまで行ってたんんだね。」
「えぇ。」
モーエは椅子に座る。
「タブラスおじさん。実は村一番の知恵者であるおじさんにお願いがあるの。」
「ん?どうしたんだい。改まって・・」
「この子をギルメン村の皆に紹介したいと思う。」
「いいね。村の皆も歓迎してくれるよ。41人目の村人だって喜んでくれるだろうね。」
「それとは別なんだけど所でこの子の名前をどうしようかなと・・」
「それはこの子を拾った君が・・親である君が考えることだよ。」
「それはそうなんだけど・・」
(・・成程・・そういうことか。)
「あぁ。そうか君は未婚者だったね。赤ん坊を育てるのが不安なのかい?」
「えぇ。」
「ふむ・・ならばこの子はどうするんだい?」
「絶対に育てる!」
「決意は固いようだね・・」
「この子を拾った時に決めたの。絶対にこの子の笑顔を守るって!」
タブラスはモーエの瞳を見て親になる覚悟を感じ取る。
(あの目は母親の目だ・・彼女なら大丈夫だろう。)
「・・年寄りから言えることは一つだけだよ。その子の名前にどういう願いを込めたいかだね。」
「願い?」
「あぁ。願いとは・・・その子にどうなって欲しいかだよ。健康になってほしいとか、多くの友人に恵まれるようにだとか、ある偉人と同じような人生を歩んでほしい、そういったことだね。」
「私がこの子の名前に込める願い・・」
「ゆっくり考えてもいいんじゃないかな?」
「分かった。ありがとう。タブラスおじさん。」
「どいたしまして。」
タブラスがモーエの家を後にする。
「・・・あなたはどんな名前が良い?」
モーエが赤ん坊に問いかける。赤ん坊は意味が分かったのか分からなかったのか笑っている。
「よく笑う息子だなぁ・・」