漆黒の英雄譚 作:焼きプリンにキャラメル水
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流星の子
バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の境界線たる山脈であるアゼリシア山脈。
その山脈の上には様々な植物が生えていた。近くに住む者たちの中には薬草採集の為に来るものが多く、その最大の理由としてほとんど誰にも邪魔されずに薬草を採集できるからである。
辺鄙なこんな場所には遠くからわざわざ薬草採集をする者がいないのは当然のことであった。
その薬草を採集するために地面に座っている女性がいた。
「随分暗くなったわね。早く帰らないと・・」
アゼリシア山脈の上で薬草採集に励むのはモーエ・プニット。アゼリシア山脈の上にある村の女性であった。
今日は快晴で薬草採集の邪魔をするであろう動物たちの気配も無かったため、久しぶりに薬草採集に為にここに来たのだ。
「綺麗な夜空・・・」
夜空とそこに浮かぶ星のあまりの輝きにモーエは感動し、思わず立ち上がる。
「あっ!流れ星!」
モーエは流れ星を見る。
モーエのいる村では流れ星に願い事を祈ると叶うとされている。叶う理由や条件をモーエは知らなかった。恐らく村の人々も理由は知らないだろう。
「村に元気な子が生まれますように。」
「私も早く子供が欲しいなぁ・・でも相手がなぁ・・」
モーエがそう呟く。
「んぎゃ」
「ん?」
モーエの耳に何か聞こえた。
(村で聞いたことがある。この声は多分・・赤ん坊の声?)
モーエが声の方向に目を向ける。
そこには布で包まれた赤ん坊がいた。
「捨て子?」
別に珍しい訳ではない。貴族という人種は自らの領地内であれば多少の粗相が許される。それも国家公認である。権力の味をしめた貴族はやりたい放題である。そのため王国では貴族が気に入った女を強引に妾にして子供を産ませることも珍しくない。反対に帝国では皇帝が「大粛清」と呼ばれる大多数の貴族の処刑や追放を行ったことで、生き残った貴族たちの大半は辛い生活を強いられて、その結果口減らしのために子供を捨てることもあると聞く。
モーエが赤ん坊を布ごと抱きかかえる。
「この子・・」
モーエは赤ん坊を見て気付く。その赤ん坊はこの辺りでは絶対に見ない容姿であったからだ。
(黒髪黒目・・・綺麗・・まるでこの夜空みたい。)
「うちに来る?」
自分でも不思議なものだとモーエは思った。
モーエが赤ん坊に人差し指を差し出す。
「おぎゃー!」
赤ん坊は人差し指を掴むと笑顔を向けた。
(案外流れ星が願いを叶えてくれたのかしら?)
「今日から私があなたのお母さんよ。」
そう言うとモーエは赤ん坊を抱きかかえて村へと向かった。