人生100年時代、高齢女性にはいばらの道-「貧困の苦しみ続くだけ」
高橋舞子-
高度成長支えた専業主婦、高齢になって自立求められても仕事なく
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家族主義崩壊で時代遅れの社会保障制度、寿命100年想定せず
北上秀代さん(60)はこの2カ月間で100件以上の会社に応募し、ほとんど書類選考で落とされた。テレビ局で働く夫と結婚し、都内で専業主婦として暮らしていたこともあったが、約10年前に離婚した。「きっと私は貧しい『下流老人』になるのだと思う。この苦しみが続くだけなら、人生100年もいらない」と語る。
主に男性が働き大家族を支えていた高度経済成長期の日本の社会保障制度は、時代に合わなくなってきている。大家族はもはや珍しく、人々は昔よりも長生きするようになった。財政難で年金の支給開始年齢が引き上げられる中、政府は「人生100年時代」と銘打って高齢者の雇用を促進しているが、高度成長期に専業主婦やパートタイマーになることを期待されてきた女性たちは勤務経験やスキルに乏しく、働くことを望んでも現実は厳しい。
日本は、65歳以上の人口が総人口に占める割合を示す高齢化率が世界で最も高い。平均寿命は女性の方が長く、100歳以上の高齢者の88%を女性が占める。男性よりも女性の方が「働けるうちはいつまでも働きたい」と思っている割合がわずかに高いにもかかわらず、60歳代後半の男性就業率が55%であるのに対し、女性は35%にとどまる。
厚生労働省の調査によれば、収入が公的年金のみの受給者の63%を女性が占め、うち57%の年金収入は100万円未満だ。所得格差を示す指標の一つである相対的貧困率は、日本の高齢者は19.4%で経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均の12.6%を上回る。高齢者のうち、単身女性の52%が相対的貧困にあるのに対し、単身男性は38%だ。
第一生命経済研究所の宮木由貴子主席研究員は「そもそも社会システムが100歳まで生きるライフコースを想定して作られていない」と指摘する。現行制度は夫が退職後十数年で亡くなり、妻がその後の人生を夫の退職金と生命保険、そして年金を使って過ごす前提で機能してきたと説明。これまで専業主婦として生きてきた女性が高齢期を迎えてから仕事を探すのは「非常に難しい」と話す。
負担は家族に
現行の社会保障制度は家族の支えを前提としている。妻は夫の扶養に入り、夫の死後は息子の世話になる女性が多いと想定されていた。65歳以上の高齢者がいる世帯の半数程度が孫を含む三世代で暮らしていた約30年前はそれでも問題なかったかもしれない。だが、今では単身高齢世帯が倍増している。そのうち7割近くが女性だ。
「100歳まで生きたいと思うのはお金があって家族がいる人だけ」。さいたま市のアパートで一人で暮らす別井節子さん(78)は月12万円の生活保護で生活している。「私はあと2、3年の人生で十分」とつぶやく。
戦後の高度経済成長期には、男性は「企業戦士」や「モーレツ社員」と呼ばれて長時間労働をこなし、女性は結婚したら専業主婦やパートタイマーになるのが当然とされる風潮があった。制度面でも政府は妻の給与収入が年103万円以下の従業員には配偶者控除を適用し、130万円未満の年収であれば妻の社会保険料の支払いを免除したほか、多くの企業も配偶者手当を支給してきた。配偶者控除の基準額は今年に入り150万円以下へと引き上げられた。
高齢者の貧困問題に警鐘を鳴らす「下流老人」の著者、藤田孝典氏は日本の社会保障は家族主義を採用してきたと指摘。「高度経済成長期が終わり、日本型終身雇用が崩壊した時に、政府は国民から税制上のコンセンサスがもらえず、負担が家族にかかってきた」と語る。しかし、子世代も自らの子供を支えるのに精いっぱいで、親の生活まで支援するのは難しく、結果として親を見捨てたり共倒れをしたりする世帯が増えているという。
ソーシャルワーカーとしても活動している藤田氏は、専業主婦として男性に従属的に生きてこざるを得なかった高齢女性の相談者の多くは、低年金、低スキルで、我慢強い傾向があると話す。
少子高齢化が進む中、厚生年金の支給開始年齢は、男性は2025年、女性は30年までに60歳から65歳へと段階的に引き上げられる。財務省は今年4月に、68歳まで引き上げることを議論した。1947-49年のベビーブームに生まれた団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」はすぐそこに迫っている。高齢女性が貧困に陥るのをどう回避するのか、早急な対策が求められている。