“輸出好調” 実は輸入頼み 国産原料以外が多数 本紙調べ
2018年09月05日
今年上半期の農産物の輸出実績が前年同期に比べて344億円増え、2628億円に達した。政府の資料には牛肉やリンゴなど主要品目で成果が並ぶ一方、「その他」に分類される品目には、ほぼ全量が輸入原料に頼る加工食品や、農産物とは思えない化学物質なども多く含まれていることが、日本農業新聞の調べで分かった。輸出実績が必ずしも農家所得の向上に結び付いていない実態が浮き彫りになった。(特別編集委員・山田優、金哲洙、田中秀和)
「え、農産物に分類されているの」
上半期に22億円を稼いだ輸出向けメントールの多くを販売する高砂香料工業の担当者は、記者の質問に驚いた。同社はメントールを木材原料から化学合成する最大手企業。国際競争力の高い製品は欧米やアジアなど幅広い国に向け輸出する。主な用途は化粧品、シャンプーなど日用品、薬品、食品添加物向けだ。政府の輸出統計でも「有機化学品」に分類されるれっきとした工業製品だが、政府の発表では農産物に含まれる。
かつてメントールは国内農産物のハッカから天然成分として抽出していた。一時は輸出も盛んだった。インドやブラジルなどから安価な製品が輸入され、さらに安い合成メントールの出回りで国内生産の大半は一掃された。現在の栽培面積は北海道滝上町などで10ヘクタールに満たない。地元の高品質天然ハッカ油を観光客向けなどに生産者が直売している。
0・8ヘクタールを栽培する同町の農家の一人、佐々木渉さんは「メントール輸出が伸びても農家の経営に役立つとはとても思えない」と語る。
農水省によると、以前からメントールは同省所管品目で「これまでの輸出統計と整合性を保つため入っている」(輸出促進課)と説明する。農産物輸出額総額の中で国産農産物が占める割合は「計算しておらず、分からない」(同)という。
メントールに限らず、政府が上半期の農産物輸出額とする2628億円には、国産農産物と縁の薄い品目が並ぶ。キャンディー類(36億円)、チョコレート菓子(34億円)、インスタントコーヒー(12億円)などはその一例だ。
一見すると国産農産物との関係がありそうな品目でも、実際にはほとんど海外産を主原料にしているものが少なくない。小麦粉(34億円)はほぼ全量が輸入小麦を日本国内で製粉したもの。野菜の種(42億円)も、中身は海外で生産した種子が9割以上を占める。和食ブームで好調なみそ(18億円)、しょうゆ(37億円)も原料のほとんどが輸入された大豆や小麦であることが分かった。牛骨を主原料とするゼラチンは10億円が輸出されたが、最大手のメーカーによると、大半の原料は海外から手当てする。
政府が胸を張る「上半期に農産物輸出が344億円増えた」という説明も、調べると増加額のうち150億円余りが「その他(でんぷん・イヌリンなど)」という項目が稼ぎ出したものだ。内訳は「清涼飲料水」などがあるが、残りはなじみのない加工品の品目名が並ぶ。
「農産物輸出拡大で農家所得の向上」という政府のスローガンは、割り引いて聞いた方がよさそうだ。
メントールも農産物
「え、農産物に分類されているの」
上半期に22億円を稼いだ輸出向けメントールの多くを販売する高砂香料工業の担当者は、記者の質問に驚いた。同社はメントールを木材原料から化学合成する最大手企業。国際競争力の高い製品は欧米やアジアなど幅広い国に向け輸出する。主な用途は化粧品、シャンプーなど日用品、薬品、食品添加物向けだ。政府の輸出統計でも「有機化学品」に分類されるれっきとした工業製品だが、政府の発表では農産物に含まれる。
かつてメントールは国内農産物のハッカから天然成分として抽出していた。一時は輸出も盛んだった。インドやブラジルなどから安価な製品が輸入され、さらに安い合成メントールの出回りで国内生産の大半は一掃された。現在の栽培面積は北海道滝上町などで10ヘクタールに満たない。地元の高品質天然ハッカ油を観光客向けなどに生産者が直売している。
0・8ヘクタールを栽培する同町の農家の一人、佐々木渉さんは「メントール輸出が伸びても農家の経営に役立つとはとても思えない」と語る。
農水省によると、以前からメントールは同省所管品目で「これまでの輸出統計と整合性を保つため入っている」(輸出促進課)と説明する。農産物輸出額総額の中で国産農産物が占める割合は「計算しておらず、分からない」(同)という。
みそ、しょうゆまで…
メントールに限らず、政府が上半期の農産物輸出額とする2628億円には、国産農産物と縁の薄い品目が並ぶ。キャンディー類(36億円)、チョコレート菓子(34億円)、インスタントコーヒー(12億円)などはその一例だ。
一見すると国産農産物との関係がありそうな品目でも、実際にはほとんど海外産を主原料にしているものが少なくない。小麦粉(34億円)はほぼ全量が輸入小麦を日本国内で製粉したもの。野菜の種(42億円)も、中身は海外で生産した種子が9割以上を占める。和食ブームで好調なみそ(18億円)、しょうゆ(37億円)も原料のほとんどが輸入された大豆や小麦であることが分かった。牛骨を主原料とするゼラチンは10億円が輸出されたが、最大手のメーカーによると、大半の原料は海外から手当てする。
政府が胸を張る「上半期に農産物輸出が344億円増えた」という説明も、調べると増加額のうち150億円余りが「その他(でんぷん・イヌリンなど)」という項目が稼ぎ出したものだ。内訳は「清涼飲料水」などがあるが、残りはなじみのない加工品の品目名が並ぶ。
「農産物輸出拡大で農家所得の向上」という政府のスローガンは、割り引いて聞いた方がよさそうだ。
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西日本豪雨 被災の支店再開 JA岡山西の真備西、真備東
西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町にあるJA岡山西の真備西、真備東両支店が3日、営業を再開した。午前8時半の営業開始直後から、貯金の払い出しや営農相談のため、組合員が続々と来店した。真備西支店に隣接する資材店舗も25日に営業再開を予定する。
真備西支店は、被災直後は5メートル近くまで浸水し、1階は天井が崩れ落ちた。金庫も電子機器も水没し、営業停止を余儀なくされていた。JAグループ岡山や関係団体から職員の応援を受け、JAは約2週間で機器の搬出や撤去を完了。急ピッチで復旧工事を終えた。
再開前は近隣支店で窓口対応した他、JA兵庫西の移動金融店舗車を活用し、貯金の払い出しに応じた。山本清志組合長は「早期再開を望む声に応えようと急いだ。組合員の営農、生活再建の拠点として、長期で支援していく」と語った。同町の井川貴美子さん(75)は「身の回りの用事を済ませるには隣の総社市に行くしかなかった。顔見知りの職員もいて、真備に日常が戻ってきたと実感する」と喜んだ。
2018年09月04日
[新潟・JAえちご上越移動編集局] 増やせ業務改善提案 職員がPJチーム年50件目標に活動
JAえちご上越のプロジェクト会議「業務横断型課題検討会議」は今年度、職員からの業務改善の提案数を増やそうと、ヒアリング活動や情報発信を強化した。組合員満足度、職員満足度の向上を目指した取り組み。同JAの自己改革の実現に向けたベースづくりにつながる。昨年度まで職員からの提案は年間25件程度。同検討会議は「目指せ!提案50件」を目標に掲げており、8月末までに10件を役員に提案した。
同検討会議は現在、総務部や金融共済部、営農部、支店職員ら13人のメンバーで構成している。今年度は、戦略型中核人材育成研修の論文や職員提案制度の採用案件を実現するチームと、職員提案制度の活性化を目指すチームの二つのチームを初めてつくった。
提案50件を目指すために活性化チームは①各部署ヒアリングやアンケートによる代行提案②全職員研修会でのPR③職員提案制度新聞の発行──などに取り組む。ヒアリングでは、若手職員を対象に面談形式で「業務上の問題・課題はありますか」「職場環境はどうですか」などと質問をしながら、職場の改善点を引き出す。聞き取った改善点はチームのメンバーが提案としてまとめ直す。来年1月末までに全部門に聞き取りが終わる予定。
チームリーダーの営農部生産資材課の中条睦之さんは「職員提案制度を活用し、職員自らが職場や業務の改善をすることが組合員の満足度向上につながると確信し、一層の職員提案活性を目指したい」と話し、組織全体の活性化を期待する。
同検討会議は人を育てる職場づくりを目的に、選抜型研修履修者を中心に構成。2012年にスタートした。
2018年09月04日
北海道 豪雨災害から2年 流出土壌復旧も…生育不良 地力回復支援を
土質や栄養分に偏り
北海道で2016年8月に相次いだ台風による豪雨災害から2年がたった。農業関連では、作土流出などの被害があった農地の復旧工事が完了した一方、復旧のために投じた土壌が農作物の生育に適さない場合もあるなど、地力回復や土質改良に向けた課題が山積する。農業の現場では完全復旧にはまだ時間がかかる見通しで、継続的な支援が求められている。(川崎勇)
「同じ畑なのに生育がばらつき、良い場所と悪い場所の差が大き過ぎる。どうしたらいいのか」。復旧工事が完了した3・5ヘクタールの畑で白インゲン「手亡」を栽培する帯広市の道見哲夫さん(60)は途方に暮れる。
16年8月の台風で堤防が決壊。畑の土が流失して、深さ1・5~2メートルほどえぐられた。昨年秋に小麦をまいたが、まともに育たなかった。今春、「少しでも収入を得たい」と「手亡」をまいた。
しかし、8月になっても地面が見えるほど、生育の悪い場所が点在する。乾燥した地面は、農地とは思えない硬さ。10~20センチの土塊が畑一面を埋める。葉の色は青々とした所もあれば、黄色に近い場所もある。道見さんは「土質や栄養が偏っている上、土中の水路も流された。また基盤整備をし直さなければ」と肩を落とす。
16年8月の台風は、全道3万8900ヘクタールの農地に浸水や冠水などの被害をもたらした。十勝、オホーツク、上川、空知の4地方の被災農地495・2ヘクタールは土が流出するなど被害が大きく、災害復旧事業による工事がようやく今年8月に全て完了した。
十勝地方の農地復旧では主に、川幅の拡幅工事で発生した河川掘削土が利用された。しかし掘削土の多くは粘性土で、雨が続けば農機が入れないほどぬかるみ、乾燥すれば締まって硬くなる。異なる河川敷の土が1カ所の畑に運び込まれたことで、道見さんの畑のように土質や栄養分が不均一な畑も多い。
4・5ヘクタールの畑で作土が流出した同市の高嶋敏彦さん(43)は「あと数年は土質を改善するのにトウモロコシなどを作らなければ。輪作体系も乱れる」と懸念する。高嶋さんは自身の別の畑から土を運び、土壌改良をする計画だ。
被災して営農用水が断水した清水町のJA十勝清水町は「被災農家は今、地力をマイナスからゼロに戻す段階。原状復旧以上が必要だ」と指摘する。河川掘削土が最も多く搬入された芽室町のJAめむろは「農作物を作れればいいわけでなく、収入を得られなければ。河川整備も急いでほしい」と訴える。
行政、JA調査を継続
道を中心に、JA、市町などは17年から、営農復旧に向け、復旧農地のフォローアップを継続している。今年は全道57カ所で、農作物の生育・収量調査や、土壌の断面調査、物理性、化学性を調査する。取得した数年間のデータを基に、土づくりの指導や、施肥管理や輪作体系に関する助言、基盤整備の提案などをする。
十勝地方では帯広市、清水町、芽室町など6市町で、小麦やトウモロコシなどの畑を調査する。上川地方では一時孤立状態になった南富良野町の畑作物を中心に、ドローン(小型無人飛行機)も活用して生育調査を進める。オホーツク地方では、北見市で特産のタマネギの畑を調べている。道は「何年も土づくりしてきた土とは違い、地力回復は必須だ。営農復旧までフォローしていく」(農地整備課)と、支援を続ける考えだ。
2018年08月31日
「りんご台風」再来か 最強21号きょうにも上陸、縦断へ 収穫前倒し、施設補強
今年最強クラスの台風21号が4日、四国から東海地方に上陸する見通しだ。21号の特徴は、風が強いこと。1991年の「りんご台風(19号)」のように非常に強い勢力を保ったまま上陸し、速度を速めて北日本に向かう恐れがあり、広い範囲で暴風域となる。農家は3日、被害を最小限にとどめるため、果樹の収穫前倒しやハウス補強など対策に追われた。
青森県JAつがる弘前。週末から3日にかけ、農家は急ピッチで早生リンゴを収穫し続けている。「台風が来ても落ちなければよいが……。落ちたリンゴを拾うのがばかくさい(悔しい)」と焦る女性農家。頭をよぎるのは、91年に甚大な被害をもたらしたりんご台風だ。青森県では収穫を前にしたリンゴが軒並み落果し、農家は涙をのんだ。JA指導課の盛孝之係長は「進路がりんご台風と似ている。落果だけでなく擦り傷の恐れもあり、良品が少なくならないよう祈るしかない」。
徳島県神山町鬼籠野でスダチを40アール栽培する佐々木昌弘さん(45)も、収穫を急いだ。「一個でも多く、被害に遭わないようにしたい」と懸命だ。
その他の地域でも、園芸ハウスの補強や水稲の刈り取りに追われた。新潟県JAにいがた南蒲は「倒伏や浸水の恐れがあるので、早生品種こしいぶきの刈り取りに励んでいる」(営農企画課)と話す。岐阜県JAめぐみの管内では、郡上市などでトマトやナスの施設栽培農家が施設のビニールを剥がす作業を進めた。
特産の「香住梨」が出荷ピークを迎えている兵庫県JAたじま管内では、風当たりが強い園地で収穫を早めたり、園地周辺に防風ネットを設置したりして備えた。
これ以上の被害 何としても防ぐ 西日本豪雨被災地
西日本豪雨の被災地では、被害拡大を防ごうと早めの対策に奔走した。
JA岡山西は台風の接近が予想された先週末には、支店の営農経済担当渉外員を中心に部会などを通じて対策を呼び掛けた。水稲は、可能な限り収穫を済ませることと併せ、倒伏を防ぐ深水管理や、冠水しても素早く排水できるよう準備を促した。ブドウなど果樹は早めに収穫する他、支柱でハウスを補強するなどの対策を周知した。JA吉備路アグリセンターの横田勝センター長は「今年は台風が多いため農家の意識も高く、備えは早い」と、これ以上被害を拡大させることのないよう気を引き締める。
広島県三原市の農事組合法人沼田東ファームは3日、主食用米「ミルキークイーン」2ヘクタールの収穫を済ませた。管理する25ヘクタールの3割がある同市本郷町の船木地区では7月の豪雨で水田が被災しただけに、久留本忠美代表は「これ以上の被害を出さないよう作業を急いだ」と話す。
広範囲で強風
気象庁によると、このままの非常に強い勢力での上陸は、「りんご台風」と呼ばれた91年の台風19号や、93年9月の13号以来となる。
今回の21号は、特に台風の東側で暴風になる見通し。台風から離れた地域でも強い風となるため、広い範囲で注意が必要だ。さらに台風の進行が速く、一気に風雨が強まる恐れがある。同庁は「急に暴風雨になるので、農家は田畑や農業用水路の見回りは控えてほしい」(予報課)と、繰り返し呼び掛けている。
<ことば> りんご台風 91年9月27日、非常に強い勢力で長崎県佐世保市の南に上陸。その後、加速しながら日本海を北東に進み、北海道・渡島半島に再上陸し、千島近海で温帯低気圧に変わった。沖縄から北海道まで全国で猛烈な風となり、最大風速は長崎市で25・6メートル(最大瞬間風速54・3メートル)、広島市で36メートル(同58・9メートル)、石川県輪島市で31・3メートル(同57・3メートル)、青森市で29メートル(同53・9メートル)を観測した。青森県などでリンゴの落果や西日本で塩害による果樹の枯死などの農業被害が出た。
2018年09月04日
ため池管理 安全性高める補強急げ
急がなければならない。ため池の危険性が西日本豪雨などで浮き彫りになった。地震による決壊も続発している。政府はため池の補強を急ぎ、防災機能と安全性を高めるべきだ。
ため池は、西日本を中心に全国に約20万カ所ある。主に雨の少ない地域で農業用水を確保するために作られた。洪水調節や土砂流出を防止する効果に加え、生物の生息場所や地域の憩いの場になるなど多面的な機能を果たしている。
農業にとって重要な施設だが、老朽化が進んでいる。2ヘクタール以上の農地に水を供給しているため池は約6万カ所で、このうち7割が江戸時代以前に作られた。担い手の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤が崩れたり、排水部が詰まったりしている。
農水省がまとめた全国調査によると、ため池の下流に住宅や公共施設ができ、決壊すると大きな被害が予想される「防災重点ため池」は1万カ所を上回った。さらに都道府県の詳細調査では、調査対象の5割強で耐震不足、4割弱で豪雨対策が必要だった。決壊した場合の浸水被害を予想したハザードマップを作り、地域に配っているのは半分に満たない。こんなお寒い状態で防災とはいえない。近年は都市住民との混住化が進み、災害の危険性は増している。ハザードマップを完備し、災害に備えるべきだ。
最近10年のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震で堤の決壊や流失を起こしている。記録的な豪雨は、常識では考えられない降水量をもたらす。昨年7月の九州北部豪雨や、今年7月の西日本豪雨では大きな被害につながった。この異常事態を念頭に置きながら、耐震性や洪水防止策を強めるなど安全性を強化するべきだ。
一方、ため池の所有者が複数に及んだり、工事費用の負担が重かったりと、改修工事の合意形成も容易ではないのが実態だ。地方自治体任せにするのではなく、政府全体がしっかり支援すべきだ。現場のニーズに応えられるように予算を十分確保し、改修工事などの補助率を高めるなど、現場の負担を減らす方法も考えなければならない。
ため池での死亡事故も続発している。ここ10年は年平均で20人以上が亡くなっている。60歳以上の高齢者が多く、水の利用が多くなる5~9月にかけて多発している。警戒を強めるべきだ。釣りなど娯楽中の事故も多い。ため池を管理している水利組合や行政、土地改良区は、子どもたちが危険な箇所に立ち寄らないよう注意喚起したり、安全柵を設置したりする対策も進める必要がある。
農山村に人が少なくなり、管理の目は行き届かない。放置されたままのため池はないか。もう一度、下流域の住民を含めてみんなで点検し、必要な整備を急ぐ必要がある。政府や地方自治体は、一日でも早くため池の防災対策に取り組むべきだ。
2018年09月03日
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「え、農産物に分類されているの」
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2018年09月05日
食用花でカラフル塩 愛知県豊明市のたこ焼き店
エディブルフラワー(食用花)の生産が盛んな愛知県豊明市のたこ焼き店「濱蛸(はまたこ)」が、食用花を使ったカラフルな塩を開発した。天日塩と食用花をもみ合わせ、色と香りを付ける。食用花独特の風味がアクセントになるという。10種類を作り販売する他、たこ焼きの付け塩としても提供する。
同店は、食用花を使う地元飲食店などのグループ「豊明エディブルフラワー会」のメンバー。同市は花きの専門市場があり、行政や地元企業などが「花の街とよあけ」としてPRしている。ただ、店主の濱田正人さん(42)によると、地元住民の花への親しみは薄いといい、「もっと興味を持ってほしい」と、花を使った塩の開発を開始。食用花の流通が減る夏と冬にも楽しんでもらう狙いだ。
使う花は同市産中心。JAあいち尾東を通じて仕入れる。色鮮やかな花びらと天日塩をもみ合わせ、乾燥させる。花の種類によっては、塩と合わせることで変色するためレモン汁を加えることもある。これまでに10種類ほど完成させた。4グラム入りの小瓶に入れて店舗やイベントで販売している。
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土耕は甘い 水耕うまい? レタス味に違い 筑波大など
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33日間栽培して収穫し、栄養成分を全て分析した。2品種とも、土耕の方がショ糖やアラビノースなどの糖が多かった。また、レタス特有の苦味成分も多かった。水耕では、グルタミン酸が土耕の約2倍多いなど、うま味の基となるアミノ酸が多かった。
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植物工場を手掛けるキーストーンテクノロジー、理化学研究所と共同で実施した。
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布を巻くだけ 熟成肉に 「エイジングシート」登場 期間半減、廃棄2割
焼き肉店などを経営するフードイズム(東京都港区)は、明治大学農学部の村上周一郎准教授と共同で発酵熟成肉を製造できる「エイジングシート」を開発した。シートを肉に巻くだけで、通常50~60日かかるところを半分の30日程度で発酵熟成肉を作れるという。
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通常、熟成肉を製造し商品にする場合、肉の表面の5、6割を削り廃棄する。しかしシートを使えば廃棄部分は2割程度に抑えられ、「歩留まりが高まる」(同社)。
跡部美樹雄社長は「シートを使えば、誰でも安定した熟成肉を作ることができる。牛肉だけでなく、豚肉、鶏肉、魚肉、ジビエ(野生鳥獣の肉)にも使える」と話す。
2018年09月03日
過去10年で収穫最低 高齢化と天候不順響く 17年産指定野菜
農水省は、2017年産の指定野菜9品目の収穫量が284万2000トン(前年比6%減)となったと発表した。ダイコンやレタスなど全ての品目で前年を下回った。高齢化に加え、天候不順もあり、過去10年で最低となった。
指定野菜は消費量が特に多く、重要度が高い野菜で14品目ある。今回の調査は、8品目の秋冬期(主に17年10月から18年3月)とホウレンソウの年間収穫量を公表した。
収穫量が減った全9品目のうち、特に落ち込みが大きかったのは結球野菜。レタスは長雨や10月に2週連続で襲った台風21、22号の影響もあり、12%減の16万5500トンとなった。生産量上位3県を見ると、茨城は3万700トンで5%減。長崎が2万2100トンで17%減、静岡が1万7900トンで13%減だった。
キャベツも8%減の55万5800トン。主産地の愛知は9%減の17万6800トンに落ち込んだ。ハクサイは3%減の57万7900トンだった。
ホウレンソウは22万8100トンで8%減。関東地方を中心に生育が進まなかった。ニンジンは7%減の22万4000トン、ダイコンも7%減の84万5000トンだった。
指定野菜以外の27品目の17年産年間収穫量も公表した。大きく増えたのはスイートコーンで23万1700トン(18%増)。前年は主産地の北海道が台風に見舞われ作柄が悪かったが、平年並みに持ち直した。一方、大きく減ったのはカブで、11万9300トン(7%減)だった。
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ジビエ サイトでPR 飲食店や行事紹介 農水省
農水省は、野生鳥獣の肉(ジビエ)に関する情報を発信するウェブサイト「ジビエト」を立ち上げた。ジビエ料理が食べられる飲食店や地域のイベントを紹介。消費者にジビエを身近に感じてもらい、消費拡大につなげる。
サイトは同省の全国ジビエプロモーション事業の支援を受け、テレビ東京コミュニケーションズが運営。「行く」「探す」「知る」の観点から情報を届ける。
「行く」では、全国で開かれるイベント情報を掲載。鹿の捕獲から食肉加工までの流れを地元のベテラン猟師と一緒に体験できるツアー、イノシシの皮を使ったコインケース作りなど、家族で楽しめる最新のイベント情報を季節ごとに更新する。「探す」では、ジビエ料理を提供する飲食店を紹介。鹿肉でだしを取ったラーメン、ヒグマのスネ肉を使ったテリーヌなど各店自慢の味と店主のこだわりを説明する。「知る」では、野生鳥獣による農業被害の実態やジビエが消費者に届くまでの流れ、ジビエの栄養価を学べる情報を発信する。
同社では、地域ならではのイベントやジビエを使った料理を提供する飲食店について情報を随時募集している。掲載希望があれば、同サイトから応募できる。
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大粒硫安を増産 安定供給へライン増設 国内自給可能に 全農と宇部興産
窒素質肥料の大粒硫安の安定供給に向け、JA全農と国内最大手メーカーの宇部興産は今年度から合弁会社を稼働し、増産に乗り出した。単肥や粒状配合(BB)肥料の原料として使われる大粒硫安は国内生産だけでは足りず、割高な輸入品で手当てしている。不足分に匹敵する量を増産し、農家の肥料コストの抑制につなげる。
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西日本豪雨 復興へクラウドファンディング 全国から支援の手
西日本豪雨で被害を受けた産地がインターネットで資金を募るクラウドファンディング(CF)を使う動きが広がってきた。農家の被災状況や復興への取り組みを紹介し、共感した支援者が寄付する仕組みだ。被災者個人では復旧の費用が賄えない甚大な被害に、全国から支援の手が差し伸べられている。(田中秀和、丸草慶人)
かん水設備修復期待 愛媛
愛媛県では、甚大な被害を受けた宇和島市吉田町の若手農家がCFによる資金募集を7月31日から始め、29日までに857万円が集まった。目標額は9月中旬までに2000万円。ミカン収穫期を控えて復旧作業が急ピッチで進む中、行政側の負担が示されていないスプリンクラーの修復などに充てる予定だ。
「生き残ったミカンだけでも食べてもらいたい」。取り組みを提案した山本利輔さん(37)は園地が土砂に流された。CFの専用サイトやインターネット交流サイト(SNS)で、被災農家として産地の苦境を伝えている。山本さんは「消費者に産地の現状を直接訴えたい」と狙いを話す。
募集する資金は1口3000円から。5000円以上の寄付に対し、ジュースやかんきつの返礼品を用意した。産地全体で復興を進めるため、寄付先は、地元のJAえひめ南玉津共選管内のスプリンクラーを管理する三つの防除組合にした。山本さんは「寄付をきっかけに吉田町や玉津の名前が記憶に残る。時間がたっても、スーパーで見掛けたときに思い出してほしい」と前を向く。
同共選の共選長、山本計夫さん(65)は「クラウドファンディングという方法を知らなかった。若い発想で全国に産地の現状を発信してほしい」と期待する。
JAえひめ南は、復興支援をする一般社団法人RCFや宇和島市と連携して7月27日~8月10日にCFを実施。約500万円が集まった。農業用ポンプの再整備などの費用に充て、地元のかんきつ農家の復旧を支援する。農家から「絶望していた農家の希望が見えてきた」といった感謝の声が上がっている。
イノシシ肉販売再開 島根
島根県美郷町で野生イノシシ肉の加工と販売を手掛ける「おおち山くじら」は、西日本豪雨で食肉処理施設が浸水した。捕獲したイノシシを運ぶ軽トラックや加工処理で使うスライサーや金属探知機などが故障。保管していた在庫肉の多くを失った。被害総額は約2000万円に及び、一日でも早く事業を再開しようとCFを活用した。
同社は被災直後の7月10日から、インターネット上で寄付を募る民間サービスを使ってCFを開始。並行して、ホームページやメールマガジンで被災した状況や復旧作業の様子を発信した。
支援額に応じた返礼品として、イノシシ肉を使った缶詰めや骨付きハム、イノシシを処理するナイフに名前を刻める特典を用意した。募集期間の2週間で、地元だけでなく県外から支援があり、約300人から総額350万円を超える資金が集まった。
同社は2017年、狩猟者らでつくる生産者組合から事業を譲り受けて設立。組合員の高齢化が進む中、雇用の受け皿となり後継者を育てるとともに、県内外からイノシシを年間400頭以上受け入れている。加工した肉を東京都の飲食店に出荷するなど、産地化を進めてきた矢先の被災だった。
CFを経て、同社は7月下旬からイノシシの受け入れを再開。集めた資金を機材の修理費用などに充て、出荷再開の体制を整えている。共同代表の森田朱音さん(35)は「電話やメールで応援の声が寄せられ、会社が自分たちだけのものじゃないと実感できた。ここ数年で安定してきた販売実績の軌道を修正したい」と前向きだ。
<メモ>
クラウドファンディング インターネットを使い不特定多数の人から資金調達する仕組み。支援者に対し物品や体験で返礼する「購入型」が一般的。募集期間内に目標金額を達成できなかった場合、集まった支援金は支援者に全額返金されることが多い。
2018年08月30日
国産ジビエ味わって 外食250店きょうからフェア
日本フードサービス協会は、外食店に国産ジビエ(野生鳥獣の肉)の利活用を呼び掛ける「全国ジビエフェア」を30日から始める。全国約250店舗が参加。各店舗で、鹿肉やイノシシ肉を使ったラーメンや和食など幅広いメニューを提供。ジビエを身近に感じてもらい、消費拡大につなげる。9月30日まで。
東京都内の居酒屋は北海道産鹿肉のロースト、静岡県藤枝市のそば店は地元産イノシシ肉のウインナー、福岡県の洋食店は鹿肉のハンバーガーと多様なメニューを用意する。50店舗は初めてジビエを扱うといい、利用の拡大につながっている。
フェアの特設ホームページ(HP)やインターネット交流サイト(SNS)を開設。参加店舗はHPで確認でき、イベント期間中はSNSでメニュー情報などを発信する。ポスターや店内広告(POP)でもイベントを盛り上げる。
同協会は「ジビエはフランス料理など高級店での利用が多く、消費者は敷居が高い印象を持っている。全国規模のイベントで認知を広げ、食べる機会を増やしたい」と話す。
2018年08月30日
郷土食が豊かな県 野菜大好き 長野1位、愛知47位 カゴメ調べ
野菜を前面に押し出した郷土食が豊富な県ほど、野菜の摂取量が多いことが、カゴメの調査で分かった。都道府県別で摂取量トップは長野県で、レタスやキャベツなどの生産が盛んな他、野沢菜漬けといった郷土食を有する。同社は「野菜をおいしいと思う機会が多い地域ほど順位が高い傾向だ」と指摘する。
調査は7月4~18日、20~69歳の全国の男女9964人を対象にインターネット上で行った。
都道府県別で最も野菜の摂取量が多かったのは長野県で1人1日当たり140グラム。次いで山梨県(136グラム)、群馬県(135グラム)と続く。山梨は「ほうとう」、群馬はこんにゃく料理など、野菜を豊富に使った郷土食がある。
一方、野菜の摂取量が最も少ないのは愛知県で99・5グラム。唯一、100グラムを下回った。調査結果を分析したエリアナンバーワン戦略研究所の矢野新一所長は「幅広い道路網と飲食店の駐車場が充実し、家族そろっての外食が多いことで野菜の摂取が少ない」と分析。「名古屋めし」やモーニングといった独特の食文化も影響しているとみる。
次いで少ないのは富山県(104グラム)、石川県(105グラム)。野菜摂取量の上位県と比べ、「野菜が好き」と答えた割合が10ポイント近く低かった。米や水産物の生産が盛んなことが背景にあるとみている。
厚生労働省が公表した2016年「国民健康・栄養調査」による野菜の平均摂取量(276・5グラム)とは大きな差があるが、同社は「調査方法が異なり一概には比較できない」と話す。
2018年08月30日