“輸出好調” 実は輸入頼み 国産原料以外が多数 本紙調べ

 今年上半期の農産物の輸出実績が前年同期に比べて344億円増え、2628億円に達した。政府の資料には牛肉やリンゴなど主要品目で成果が並ぶ一方、「その他」に分類される品目には、ほぼ全量が輸入原料に頼る加工食品や、農産物とは思えない化学物質なども多く含まれていることが、日本農業新聞の調べで分かった。輸出実績が必ずしも農家所得の向上に結び付いていない実態が浮き彫りになった。(特別編集委員・山田優、金哲洙、田中秀和)
 

メントールも農産物


 「え、農産物に分類されているの」

 上半期に22億円を稼いだ輸出向けメントールの多くを販売する高砂香料工業の担当者は、記者の質問に驚いた。同社はメントールを木材原料から化学合成する最大手企業。国際競争力の高い製品は欧米やアジアなど幅広い国に向け輸出する。主な用途は化粧品、シャンプーなど日用品、薬品、食品添加物向けだ。政府の輸出統計でも「有機化学品」に分類されるれっきとした工業製品だが、政府の発表では農産物に含まれる。

 かつてメントールは国内農産物のハッカから天然成分として抽出していた。一時は輸出も盛んだった。インドやブラジルなどから安価な製品が輸入され、さらに安い合成メントールの出回りで国内生産の大半は一掃された。現在の栽培面積は北海道滝上町などで10ヘクタールに満たない。地元の高品質天然ハッカ油を観光客向けなどに生産者が直売している。

 0・8ヘクタールを栽培する同町の農家の一人、佐々木渉さんは「メントール輸出が伸びても農家の経営に役立つとはとても思えない」と語る。

 農水省によると、以前からメントールは同省所管品目で「これまでの輸出統計と整合性を保つため入っている」(輸出促進課)と説明する。農産物輸出額総額の中で国産農産物が占める割合は「計算しておらず、分からない」(同)という。
 

みそ、しょうゆまで…


 メントールに限らず、政府が上半期の農産物輸出額とする2628億円には、国産農産物と縁の薄い品目が並ぶ。キャンディー類(36億円)、チョコレート菓子(34億円)、インスタントコーヒー(12億円)などはその一例だ。

 一見すると国産農産物との関係がありそうな品目でも、実際にはほとんど海外産を主原料にしているものが少なくない。小麦粉(34億円)はほぼ全量が輸入小麦を日本国内で製粉したもの。野菜の種(42億円)も、中身は海外で生産した種子が9割以上を占める。和食ブームで好調なみそ(18億円)、しょうゆ(37億円)も原料のほとんどが輸入された大豆や小麦であることが分かった。牛骨を主原料とするゼラチンは10億円が輸出されたが、最大手のメーカーによると、大半の原料は海外から手当てする。

 政府が胸を張る「上半期に農産物輸出が344億円増えた」という説明も、調べると増加額のうち150億円余りが「その他(でんぷん・イヌリンなど)」という項目が稼ぎ出したものだ。内訳は「清涼飲料水」などがあるが、残りはなじみのない加工品の品目名が並ぶ。

 「農産物輸出拡大で農家所得の向上」という政府のスローガンは、割り引いて聞いた方がよさそうだ。 

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