ご意見番に聞く、「良質なコンテンツが一番のSEO」って本当ですか?

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ウェブにはSEOの情報が氾濫している。しかし、どれが正しいのかは、いまいちわからない。最近では「良質なコンテンツを提供するのが一番のSEO対策」という論調が主流になっているが、一方でSEOのテクニックがシェアされる様子もまだ見かける。

良質なコンテンツを提供すれば、SEOの対策はしなくてもいいの? 一体、正しいSEOって何? そんな素朴な疑問を、株式会社so.la代表でSEO専門家の辻正浩さんにぶつけてみた。

辻さんは普段からTwitterやブログなどでSEO情報を発信しており、日本でおこなわれる全検索のうち約2.5%は、辻さんが仕事で関わるサイトがクリックされているとのこと。 最近では悪質なSEO業者と熱いバトルを繰り広げたことも記憶に新しい。

そんな“SEOのご意見番”である辻さんの返事は「世の中の99%のサイトは、SEOなんて考えなくてもいいんじゃないでしょうか」というもの。その真意を聞いた。

ブロガーのSEOとYahoo! JAPANのSEOは全く別物! 共通するのが「良質なコンテンツ」

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――“世の中の99%のサイトは、SEOなんて考えなくてもいい”とは、どのような意味でしょうか。

より正確に言うと、毎日数万ページ更新されるような大規模なサイトや、画像や音声がメインコンテンツになるような特殊なサイト以外は、小手先のSEO対策にいちいち反応しなくてもいい、あるいは、これから2~3年のうちには反応しなくてよくなるだろう、という意見です。

――ではやはり、「良質なコンテンツを提供する」のが一番なのでしょうか。

はい。でも、それはおそらく一般の理解とは少しニュアンスが違うと思います。

ひと口にSEOと言っても、ブロガーのSEOとアフィリエイターのSEO、30Pくらいの静的なページのSEOとYahoo! JAPANのような超巨大サイトのSEOとではそれぞれやるべきことが変わってくるので、すべてに共通するアドバイスをするとなると、“良質なコンテンツを提供する”しかないんです。

ライターさんが数万文字の本を書くのと、10文字のコピーを書く場合で、どちらにもアドバイスをするとしたら、「いい文を書きましょう」としか言えませんよね?

――非常にわかりやすいです。

でも、SEOに関しては、そういうアドバイスを求められがちなんです。

――みんな指標がほしいのではないかと思います。記事本文は何文字がいいとか。

例えば文字数にしたって、最近はキーワードによっては、検索にTwitterの投稿がヒットすることもありますよね。

――確かに。あれ、140字ですもんね。

はい。重要なのはユーザーの満足度なんですよ。

よくテクニックとして、ブログのSEOとしてクローラビリティ(Googleのデータ収集プログラムのクローラが、効率的にWebページのデータを収集しやすくすること)を高める、というアドバイスがなされる場合もあると思うのですが。

――はい、そのような記事を読んだことがあります。

でも、ブログくらいだったらGoogleはサイト運営者側が特に何かしなくても、クロールしてくれるんです。前述のように数万単位のページ数が更新されるサイトや、できるだけ早いタイミングで検索されるようにしたいニュースサイトではクローラの対策をする必要があると思いますが。

ですので、クローラビリティが重要なのは、決してウソではないわけです。このように、一部のサイトが気にしなければいけないことが、本来それを気にしなくていいサイトにも、SEOが必要であるかのように言われているのは問題かもしれません。

――では、サイト運営者は、とにかく良質なコンテンツを提供していれば、SEOをしなくてもいいのですか?

前述の特殊なサイトや、数カ月のうちに大きく成長することが求められるようなサイトには、私のような専門家のお手伝いが必要です。それ以外の99%についても、もちろん、テクニックはまだ効果があります。

――例えば、どのようなテクニックですか?

例えば、見出しの直下に要約を置く、そこにキーワードを含める、というようなテクニックです。SEOライティングの技術もあります。実際に数年前まではSEOを考えて文章を書けば、検索エンジンに評価されやすくすることも簡単でした。でも、今はSEOの素人が書き手の記事でも十分、上位表示されるようになっています。

今申しましたような単純なテクニックはどんどん効きづらくなっていますし、99%の一般的なサイトでは「とにかく良質なコンテンツを提供していればSEOをしなくてもいい」は正解に近づいていると思います。

未知語を分析できるGoogleのアルゴリズムは「アニメ」「艦これ」をどう認識した?

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――それはやはり、Googleが進化しているから、ということでしょうか。

その通りです。Googleの人工知能は話題に事欠きませんよね。Googleは検索にも人工知能を使っていることを公表していますが、実際にどう活用しているかについてはあまり情報を明らかにしていません。わかっているのはRankBrainという新しいアルゴリズムの存在で、Googleは200以上のアルゴリズムで検索順位を決定していることを公表していますが、全アルゴリズムの中で3番目に重要なのがRankBrainです。そして、これは機械学習を応用した人工知能システムであることを公表しています。

――RankBrainは検索結果にどのような影響を?

RankBrainは、主に言葉の意味を認識するのに使われていると言われています。Googleは、単純に「検索する単語がページに含まれているか」だけではなくて、「検索するユーザーの望む情報と意味が合っているか」ということを重視します。ですので、Googleにとっての未知語、つまりGoogleが意味を認識できない言葉の意味を推測することは重要であり、それを補助するシステムもあると言われています。そこで、RankBrainが作用していたのではないかという事例があるので紹介しましょう。

――ぜひお願いします。

これは、『はいふり』という名前で事前告知されていたアニメの事例なのですが。

――アニメ!?

はい。マーケティングの一環なのか、『はいふり』は第1話の放送後に、初めて正式名称が『ハイスクール・フリート』であることを発表したんです。

これはSEO的にはすごくおもしろくて、正式名称を隠していたことで、“ハイスクール・フリート”という言葉は、第1話の放送後まで、インターネット上に存在しなかったわけです。

――なるほど。未知語ですね。

はい、そしてアニメというのはインターネットでかなり検索されるジャンルですので、たくさんのユーザーが第1話の放送後にめちゃくちゃ検索したんでしょう。当然、Googleは意味を把握しようとします。

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放送10分後の検索結果がこちらです。検索1位に『ハイスクールD×D』というアニメが上がってきています。

――でもこれ、ミスですよね? 確かにハイスクールという言葉は入っていますが、フリートという言葉は入っていないし。

そう、私もまったく違うアニメで、なんだこりゃと思いました。放送後に急きょ公開されたレビューサイトもちらほらある中で、なぜこのアニメの公式サイトが上位表示されたのか。調べてみてわかったのですが、このアニメには“フリード”というキャラクターがいたんです。

――“フリード”なんですね。“フリート”ではなく。

そう。Googleとしては、急に“ハイスクール・フリート”という言葉が検索された。その言葉の意味はわからないけれど、ユーザーの検索の傾向からアニメであることはわかった。一方、『ハイスクールD×D』の中にフリードがいることはわかっている。そこでGoogleはまず、ハイスクールD×Dのサイトのトップページを1位に表示したのではないかと思います。このトップページには、フリートはもちろん、フリードという単語も存在しなくても、ですね。

――これ、かなり高度な思考過程ですよね。本当に人間みたい。

はい、結果的にはこれは大失敗なのですが、Googleはまず、“ハイスクール・フリート”がアニメであることを理解し、そのアニメの公式サイトを上げようとした。さらに、フリードというキャラクターとフリートとの関係を推測したと思われます。趣味と実益を兼ねていろいろと調査をしましたが、他にいくつかの証拠も見つかりましたし、おそらくは正解のはずです。Googleがどれだけ意味を把握しようとしているかの実例ですが、冷静に見るとGoogleすごいって思いますよね。

同様の事例として、「春雨」というキーワードがあります。春雨と聞いて、何を思い浮かべますか?

――麻婆春雨の……?

なるほど、食べ物ですね。ちなみにこれは、DMMの人気ゲーム『艦隊これくしょん』、通称「艦これ」に、駆逐艦春雨というキャラクターが実装された際の検索結果なのですが……。

――お好きなんですよね、艦これ。

はい。

まず、これが実装3時間後の検索結果です。

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2番目にWikipediaの「駆逐艦春雨」が表示されるようになっています。

実装前の検索結果と比較してみましょう。

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それまでは同じWikipediaでも、食べ物の春雨のページが上位表示されていました。

このページはすべて昔からずっとあって、このタイミングで特に大きな編集はされていません。つまり、検索するユーザーのニーズにできるだけ対応しようとした結果、春雨というたくさんの意味のあるキーワードでも、艦これを中心とした検索結果が表示されるようになったことになります。

食べ物の名前が艦これのキャラクターになることで、検索される意図が変わってしまうわけですね。そういうときに検索結果を調べ続けますと、Googleはどれだけ高度に検索ユーザーの検索意図を把握して、それとマッチする情報を出すことができているか、ということがわかります。

私は艦これのキャラクター名の検索結果だけでも、2013年から保存を続けているので、もう2万ファイルを突破しました。

――これも、趣味と実益を兼ねて?

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はい、趣味と実益を兼ねて。

――それはさておき、Googleは検索窓からWeb全体を見ているんですね……。

今のGoogleは多様で膨大なデータを元に、より良い検索結果にしようとしています。昔は“テキストとリンク”という簡単に操作できるものを中心とした評価でしたが、2年前から明らかにそれだけではないもの、意図的にコントロールしづらいものを元にした評価をしていますし、その影響力はどんどん拡大しています。そして、RankBrainのような機械学習や検索に影響する人工知能は、今後も加速度的に進化していくでしょう。

私はもう9年ほど、SEOの実務だけをしています。ここ数年は毎月数十万種類のキーワード順位と、数億の検索流入データを調査しては、毎月何十ものSEO施策を試みて、その結果を分析しているんです。今のところまだ成果は上げられていますが、最近では、そろそろ攻略を避けて検索エンジンと共存するSEOが中心になってきました。いくらでも攻略し続けられるつもりでしたが、ここ数年で潮目が変わってきたんですね。検索エンジンのアルゴリズムにはまだまだ問題も多く、スパムには脆弱な部分もあるのですが、いずれは解消されるでしょう。

パンダアップデートは無視してOK!? SEO施策の変遷と「検索を意識した企業活動」

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――だから、小手先のSEOは不要、ということなんですね。

はい。SEOの歴史を紐解いても、かつては内部施策、主にタグの変更など、普通のユーザーには気づかれない変更だけで、検索順位を十分に上げることができた。それが2009年くらいまででしょうか。それからはテキストの追加や、内部リンクの調整など、Webの見た目にも関わる範囲を変えないと検索順位は上がらなくなった。それが2014年くらいまで。今では、より使いやすいページレイアウトにすることなど、本当にユーザーが満足するような大規模な改修が、検索エンジンからの評価を上げるために一番効果的な施策になってきています。

外部施策、いわゆるリンクも同様に、2009年くらいまでは、適当にスパムリンクを当てていれば、簡単に検索順位は上がりました。2012年くらいまでに、適当なリンクでは検索順位が上がりにくくなり、ソーシャルメディアなどでの外部活動が重要になった。今では人工リンクによって検索順位を上げるのがさらに難しくなり、自分のサイトにより多くの魅力を持たせて、より多くのユーザーに好まれるかどうかが重要になりましたね。

――サイトの裏側や、表面だけで終始していたSEOが、その範囲を拡大してきた、ということですね。

その通りです。そしてこの傾向は、これからも続くでしょう。これらすべてに対応するためには、Webサイト運営全体について、検索されることを前提に最適化していく必要があると私は思います。

――パンダアップデート!とか、都度はしゃいでいた自分が恥ずかしくなります。

情報を収集しようとする姿勢は素晴らしいと思います。そもそも、長期的なSEOには2つの方法があって、それを私は足し算と掛け算だと思っています。足し算は情報を1つずつ追加していくSEO、掛け算は積み上げた価値をWebサイト全体の最適化と掛け合わせ、検索エンジンに認識してもらうSEOです。

Webサイト本来の価値を検索エンジンに認識してもらえていないのであれば、掛け算のSEOが必要ですが、今はそういうサイトは少なく、ほとんどのサイトの価値を検索エンジンは認識できているはずです。したがって、通常のサイトのWeb担当者やWebメディアの関係者は、情報を1つずつ積み重ねることと、その情報をソーシャルなど検索以外の方法でも多く見てもらえるよう考えることに専念するのがいいのではないでしょうか。そうしていれば、結局、検索からも評価されるようになります。

Web担当者が見るべきサイトは?

――“世の中の99%のサイトは、SEOなんて考えなくてもいい”と辻さんが言った理由がよくわかりました。

はい。だからもう、SEOのノイズは気にしなくていいんじゃないでしょうか。Googleの進化は目覚ましく、SEO対策を考えるのであれば、Webサイト全体で考えなければいけない、ということで。

――では、参考にするべきサイトなどもない、と。

SEOが専門というわけでないなら、Googleのウェブマスター向け公式ブログだけ見ていれば十分でしょう。ただ、本来はそれすら不要かもしれません。例えば2014年から2015年にGoogleが公式発表した30以上の仕様変更のうち、99%のサイトの中の人が気にするべきは2つしかなかったと私は思います。「スマホ対応」と「ローカル情報の重視」ですね。

特殊なサイトやスパム使っているサイト以外の99%の担当者は、この2つ以外は全て無視しても影響はなかったと思います。それだけのために公式サイトを常時チェックするのも現実的ではありません。そんな重大発表であればニュースサイトにも情報が掲載されるし、Search Consoleに登録さえしてあればメールで教えてもくれます。

だったら、むしろSearch Consoleで自サイトへの流入経路、有力なキーワードなどをしっかりチェックしておく方が、よほど勉強になると思います。

「検索しない時代」に検索はどう進化する?

――よくわかりました。ちなみに、若い世代はもう検索をしていないと言われることもありますが、辻さんはどうお考えですか?

代替として言われるSNS、TwitterやInstagramの検索はサービス内の検索、GoogleはWebを中心に全ての情報を包括的に検索するので、比較対象にはならないでしょうね。

むしろ、検索の最大の問題は、「何を検索したらいいのかわからない」こと。でもこれについても、スマホのGoogle Nowのような進化がどんどん実用化され、解決されるのでは、と思っています。

Google Nowはプロフィールやカレンダー、地図などのGoogleが認識している情報から、今の自分に必要そうな情報をGoogleがおすすめしてくれるサービスです。例えば、夜中に渋谷にいたら「終電は◯時ですよ」と教えてくれる。

このように、何を検索したらいいのかわからないという問題すら解消に向かっているわけで、検索のカタチは変わってきているものの、今後もさらに進化していくのではないでしょうか。

――ここまで来ると、検索は便利ですが、便利すぎるようにも思ってしまいますね。

そんなことはないと私は思います。この記事にもあるのですが、ソクラテスは昔、本がダメって言ったんですよね。知識を形に残すなんてとんでもない、正当な知識の継承は口伝だけだ、と。でも、実際にはそんなことはなく、人間の知性は知識を本の形で残したことで間違いなく進化したわけです。

今の時代は本の次のレベルなのでしょう。人間は本によって退化した部分があるかもしれない。検索も同様です。しかし、それを差し引いて余りあるくらいの進化を遂げるかもしれない。検索は今、過渡期なのです。

インターネットと検索エンジンが実用化されてから二十数年、ずっと過渡期が続いているとも言えますが、検索については特に今が過渡期だなと感じています。その状況で、すべての情報を集めて、目先の変化にあわてて飛びつこうとしていたら、すぐに消耗しきってしまいます。だからこそ、今は慌てずに、自分のサイトが提供する価値を高めることだけを考えるのが一番だと、私は思います。

(朽木誠一郎/ノオト)