SYNTHESIZE 1話目の創作ログ
30歳で漫画を描き始め、連載のためにブロックチェーンを絡めたサービスを個人で開発した話 にもある通り、このSYNTHESIZE - 第1話が私にとっては記念すべき処女作にあたります。
厳密に言うと、ボツにした第1話と第2話がありますが…こちらもそのうち気が向いたら、ボツにした理由とセットで公開するかもしれません。
漫画を読むのは好きだったのですが、一切描いたことない状態からのスタートだったので、いざ描くぞ!と意気込んだものの手が止まり何から手をつけていいのかサッパリわかりませんでした。
もともと小さい頃から絵は好きでずっと趣味として描いてはいたのですが…、これも後になって分かることですがイラストとしての絵と漫画としての絵は全然性質が違っていて悪戦苦闘しています。
そんな私が、どういった順番で漫画を学び、1話目を完成させたか、備忘録として書き残しておこうと思います。概ね以下の手順でした。
- 描きたいモノを決める
- 設定を作る
- 好きな漫画から学ぶ
- 体系的に学ぶキャラ・ストーリー作り編
- 体系的に学ぶコマ割り編
- 描きながら学ぶ
途中何度か、「一人でやるのに、表現手法としてなんで漫画を選択してしまったんだ…(大変すぎる)」という気持ちに襲われましたが、少しずつ上達していくのが自分でもよく分かったり、それなりのモノでも形になると嬉しかったりするので、今の所楽しんで続けられています。
描きたいモノを決める
これは私の場合最初からありました。
もともと「意識」に関する本を片っ端から読むのが趣味であった事もあり、そういったモノをテーマに掲げて描きたいと考えていました。結果的にジャンルとしては所謂SFになったのかもしれませんが、残念ながら私はSF小説や漫画を全く読んだことがないため、「ジャンル」はあまり意識していません。
設定を作る
正直、現時点で創作に使った時間の半分以上はこれに費やしていると思います。私、設定厨なんですよ…。
ここに時間を使いすぎたが為に、ボツにした1話目2話目は「ストーリーを読ませる」ことより「設定を読ませる」事に振り切れていて、何度か読み返しているうちに、あぁこれはよくないなぁと考え直し、設定を語りまくりたい気持ちをグッと堪えて描き直したりしました。
とはいえ、これが無い漫画も個人的にはあまり描きたいとは思わなくて。
私は漫画を描くにあたって、物語の性質を二つに分類して考えました。
- ① キャラクターありきで、世界観が構築されているタイプ
- ② 世界観ありきで、物語が描写されているタイプ
①で分かりやすいのは、ONE PIECEやNARUTOなどの王道漫画でしょうか。ONE PIECEは「海賊王を目指すルフィ」が、NARUTOは「火影を目指すナルト」を中心に世界が描かれていきます。特徴として、その主人公が動き出さないと、世界の広がりが見えてこない、というポイントが挙げられます。
②はレベルE、GANTZ、テラフォーマーズなどが分類されます。それぞれに、「宇宙人は実は地球に来ており、それに気づいていないのは地球人だけ」「火星にアホほど強いゴキブリがいる」という世界観があり、それをベースにキャラクターが配置されています。特徴として、その世界の誰をピックアップしても一定の物語が作れてしまう、というポイントが挙げられます。
いずれも0/1みたいにキッパリ分けられるものでもないし、①も長期連載を続けていくと自然と世界観が広がっていき、結果として②を内包してしまいます。なので、これが重要な分類だとは考えていませんが、あくまで一歩目を踏み出す時に、自分はどっちが得意なのか、何を描きたいのか、といった整理の一つの方法として私は利用しました。
私はというと、圧倒的に②で物語を作ることに執着がありました。
という事は、まず世界観を構築しないと何も始まらないと考え、大量の設定資料を量産する事から創作が始まりました。
この時に利用するツールは割と何でも良いと思います。私は脳の整理も兼ねて、keynoteでビジュアル的に纏めながら書き続けました。
また、気をつけたポイントとしては、以下が挙げられます。
- 設定ありきにならずに、ストーリーを意識する
- 造語や理解が難しい概念は最小限に抑える
- 造語でいうと1話目には2単語しか入れていません(シェルとスピラ症候群)
好きな漫画から学ぶ
中にはお気づきの人もいるとは思いますが…、私はHUNTERxHUNTERの大ファンでございます。
ということで、やったことは二つ。
- HxHをまるまる模写
- 絵は6割くらいの完成度で、スピード優先で模写
- セリフも勿論描く
- 1コマ1コマにどういう意図があるのかをペン入れして書き込みまくる
- なぜキャラがコマからはみ出している?
- なぜ吹き出しがコマからはみ出している?
- なぜバストアップ?
- なぜエスタブリッシュショット?
- とにかく全部気づいた事を書いて書いて書きまくる
正直これはめちゃくちゃ勉強になりました。
同時に、ため息が出るほど完成しつくされているシーンに気づいたりして絶望したりします。
体系的に学ぶキャラ・ストーリー作り編
漫画のキャラ・ストーリーの作り方に関する本を、いくつか買って読みましたが、殆どが役に立ちませんでした。
ただ、一冊だけとにかく私に刺さりまくった本がありました。
それがコチラ
アレクサンダー・マッケンドリックという映画監督が、カリフォルニア芸術大学で実際に学生達に教えていた内容が書かれた本です。この本を何度も何度も繰り返し読みました。
例えば以下のような事が、初心者がよく陥るアンチパターンとして紹介されています。
- 物語をプロットから作成してしまう
- 主人公を自己投影型にしてしまいがち
- アッ…ハイ…すみません…
まさに紹介されているアンチパターンの通りに漫画を描こうとしていた私にとっては衝撃でした。
プロットではなく相関図から作る
プロットから作っては駄目?なぜ?と思いましたが、マッケンドリックは著書の中で理由として「誰も映画を見終わった後にプロットの事なんて覚えていないからだ」と書いています。
では何を覚えているか?何に感動するか?それは 主人公(や登場人物)の心が大きく動いた時 だそうです。巨悪に立ち向かう事を決意した瞬間、過去から立ち直れた瞬間、愛を告白した瞬間…など。
なので、プロットではなくまずは相関図から作れ、との事でした。主人公を中心に置き、周りに登場人物を配置し、その登場人物は主人公の心境にどういう変化、どういう成長を促す人物なのかをまずは書く。
それが決まれば、自ずとプロットとして置くべきポイントが見えてくる、という話ですね。これを知った時は感動しました。
主人公を自己投影型にしてしまいがち
これはまぁある程度誰でもそうなりますよね?狙ってないにしても多少こうなってしまう事はあると思います。これの何が問題かというと、 作者が主人公の成長を想像できなくなる ためだと言います。
あと、主人公の周囲にいる登場人物が現実離れした天才などになりがちな点も指摘していました。
正直自分は、まんまそれが当てはまる物語を書いてしまっていたので、本を読みながら、こっ恥ずかしくなりましたね。
以上を踏まえて
私はまず物語を作る時に、マインドマップの中心に「主人公(あるいは登場人物)がどう変化する物語なのか」を書くようにしています。
そこから派生する形で「何がそれを阻害するのか?」「主人公や主要登場人物のモチベーションは何か?」を限りなくシンプルに一言で言い表せるように心がけ書いていく手法を取っています。
体系的に学ぶコマ割り編
ヨッシャ色々学んだし模写もしたしいい加減描けるやろ!!みたいに意気込んでも、いざ紙を前にすると一切何も描けなくなったりしませんか。。私はしました。
コマ割りというか、割ったとしても中にどれくらいの大きさでキャラを配置し、何を描けばいいのか全くわからない訳です。
そしてまたもや参考になる本は何かないかと探しまくった結果、これまた一冊だけ泣くほど参考になりまくる本を発見するに至ります。
それがコチラ。
Filmmakers Eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方
クローズアップ、肩越しショット、バストアップ、エスタブリッシュショットにそれぞれどういう意味・意図が込められているのか、実際の映画のワンシーンを例に全て説明してくれています。
描きながら学ぶ
あとはもう、とにかく下手でも描き続けて、読み返しては修正、という流れを何度も何度も何度も何度も繰り返しました。
そして気がつく、 1話目 の難しさ。何度描き直しても全く満足行く出来にならない。。
1話目は、世界観、主人公の性格、苦悩、目標を伝えつつも、物語として面白くなくてはならない。この全ての条件を満たす完璧な1話目を、作ってみたい。そう思って何度も修正・描き直しを行ったのですが、現時点ではこれが精一杯です…。
SYNTHESIZEという漫画の根幹は、シンプルに「高度情報化社会に於けるハンディキャップである、スピラ症候群という架空の病気の病理を、主人公が様々な事を体験しながら解き明かしていく物語」と定義したものの、
- 高度情報化社会とは何か
- スピラ症候群とは何か(what)
- 何が不便なのか
- どういう扱いを受けているのか
- 主人公はなぜ病理を解明したいと思うのか(why)
- どうやって解明していくのか(how)
の全ての要素を満たしつつ、面白く描くの、難易度高くないですか…。やっぱりプロの漫画家って凄いなぁと当たり前の事に打ちひしがれる毎日でした。
現時点で精一杯のものを描いたつもりですが、反省点としては、whyが弱かったなぁと感じています。致命的かも。
もしくは全く別の視点ですが、 全てを綺麗に描こうとしすぎた結果失敗している のかもしれません。
正直1話目に関してはいつか描き直してもいいと思っています。ストーリーも絵も納得できてない部分が非常に多い。それでも発表したのは、稚拙なものだとしてもひと目に晒す事の方が重要だと考えたからです。とにかく動き出してみる。
まぁ描いてるウチに色々上達していくでしょう、という気持ちで描き進めて行くことにしました。
生暖かく見守ってくれると嬉しいです。