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ユーザーの理解が追い付くか
確かに妙案に感じるが、最大の課題は本人確認デスクだろう。日本通信の体力で全国に展開するのは容易ではない。ただ、福田尚久社長は「これを見据えていたからこそ、対面販売のパートナーを増やしてきた」とする。確かにイオンリテールやヤマダ電機(U-NEXTとの提携に基づく)をはじめ、エイチ・アイ・エス(H.I.S)、ピーシーデポコーポレーションといったパートナーが思い浮かぶが、具体的な話がどこまで進んでいるのかは明らかにしていない。
本人確認デスクを拡充できたとしても、ユーザー(金融機関やFinTech事業者の顧客)がわざわざサブSIMを貼り付けるメリットも弱い印象を受ける。セキュリティが高いというだけで貼ってくれるとは限らない。SIMの認知度は高まってきたとはいえ、貼る行為や仕組みに対する理解もなかなか追い付かないのではないか。
携帯電話大手3社の追随も懸念される。むしろ、大手3社は契約時に本人確認を済ませており、わざわざサブSIMを貼らなくても既存のSIMをそのまま活用できるので有利に映る。ただ、日本通信によると、電子署名法や犯罪収益移転防止法に基づいた本人確認と、大手3社を含む音声通信事業者に義務づけられた携帯電話不正利用防止法の本人確認は細かな要件が異なるという。
さらに同社はFPoSを実現するために高機能なSIMを採用しており、「大手3社の(低機能な)既存SIMでは実現できないはず」(福田社長)と指摘する。そもそもNTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクなどの回線契約に関係なく、オーバーレイでFPoSを実現するため、あえてサブSIMを採用した経緯がある。これらの点を踏まえると、十分にリードできると考えているようだ。
日本通信は2018年8月、群馬銀行や千葉銀行、徳島銀行、マネーフォワード、サイバートラストと共同でFPoSの実証実験を始めた。同実験は金融庁の「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採用されており、10月まで検証を重ね、年内に最終報告書を提出する計画である。最終的な狙いはFPoSの有用性が認められ、同方式が金融庁の監督指針に反映されること。本格的な展開は来期になるとみられるが、一気に攻勢に出る構えだ。
FPoSは社内で「Fukuda Platform over SIM」と呼ばれる。社長の名前を冠した言葉遊びではあるが、FPoSは別にFinTechに特化したプラットフォームではない。医療をはじめ、スマホにおける安全な取り引きのニーズは今後高まると見ており、第2弾、第3弾の展開も視野に入れる。
サブSIMについては、1.9GHz帯のプライベートLTE(sXGP)での活用も想定する。プライベートLTEのSIMを挿して通常の携帯電話として利用できなくなってしまうと不便なため、サブSIMで併用できるようにする考えだ。
このように練りに練った計画なのだが、やはりネックは同社の事業規模の小ささだ。同社の従業員数は100人程度にすぎない。パートナー企業の力を借りたとしても、国内で類例のないサービスへの理解を広げ、全国に展開するには限界がある。
同社はNTTドコモに設備の開放を迫って格安スマホの火付け役となっただけでなく、最後までかたくなに拒んでいたソフトバンクとの相互接続も実現させた。市場を切り開いてきた立役者にもかかわらず、業績の拡大には必ずしもつながっていない。
創業者の三田聖二会長は「我々がリードして日本経済の発展につなげる」と語るだけで全く意に介していない様子だが、二の舞を避けるためには強力なパートナーとのタッグが不可欠。このように考えて思い浮かんだのは、携帯電話事業に新規参入する楽天。両社が組めばかなり恐い存在になるのではないか。