中国・一帯一路の挫折と日中関係

日本財界に急速に高まる戦略への期待の意味

2018年9月5日(水)

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8月27日に北京で開かれた一帯一路推進五周年座談会(写真:新華社/アフロ)

 中国国内でも悲観的な見方が多かった一帯一路の挫折がいよいよ表面化してきた。

 AFPが9月早々、こんな風に報じている。

“「中国「一帯一路」におけるインフラ建設計画が重大な挫折にあい、一部の参加国は中国に対する恨みを抱きはじめ、中国の提供する債務圧力におしつぶされる心配を始めている。”

 2013年に習近平が自らの最重要国家戦略として打ち出した一帯一路戦略は、AIIBという中国主導の国際金融機関の設立とセットで、意欲的に進められてきたが、これまでの5年の経緯を振り返れば、参加国、周辺国に不安を与える以外の何物でもなかった。先進国からは中国版植民地政策と非難され、インフラ建設支援を受けているはずの途上国からは、悪徳金融のようだと恨まれ、中国国内の銀行や企業は経済的利益の見込みが立たない中での投資ノルマと債務不履行に不満が高まっている。

 仄聞するところでは、党内にもこの「一帯一路」戦略の棚上げ、縮小を求める声があるが、党の長期戦略として党規約の前文にまで「一帯一路戦略」を明記した習近平が、自分のメンツを犠牲にして、こうした声に耳を傾ける様子はない。一帯一路はどこにいくのか。そして、秋の首相訪中を控えて、日本財界に急に高まる、“一帯一路”への期待は何を意味するのか。

 一帯一路の挫折がはっきりしてきたのは今年春以降だろう。米トランプ政権の対中貿易戦争が、単なるディール以上の意味(中国の覇権野望を挫くという意味)を持つのではないか、という観測が出始め、それまで一帯一路に比較的好意的な発言をしていた欧米メディアからも、一帯一路について「債務の罠」「中国版植民地主義」といった批判的な意見が報道され始めた。また、アジアや中央アジアの親中国家に変化がみられるようになった。

 マレーシアのマハティールが、圧倒的に有利なはずの親中派現職、ナジブを破って首相に返り咲いたことは大きい。これはマレーシア有権者のチャイナ・マネーにおぼれるナジブ政権に対する明確なノーの意思表示と言えた。マハティールが8月に北京を訪問したときは、南シナ海とマラッカ海峡を結ぶ200億ドルの鉄道計画など一帯一路戦略に含まれる三つのプロジェクトの棚上げを表明。建前上は一帯一路はアジアの発展に必要、積極支持するなどと中国にリップサービスをするも、「新しい植民地主義はのぞまない」と、現行の一帯一路路線に釘を刺した。中国の大手デベロッパー・碧桂園が手掛ける70万人の人工島都市建設計画「フォレストシティー」についても、前政権では中国投資家による物件購入をあてにしており、事実上のチャイナタウン建設との位置づけであったが、マハティールは外国人(中国人)への販売・転入禁止措置を打ち出した。

コメント9件コメント/レビュー

中国の自分の国のためだけに運営している一帯一路では国際的に信用されないのは当たり前でしょう。資金も資材も労働力も全て中国から持ち込み、かかった費用は全て相手の国の負担。しかもその投資が費用対効果を十分に調査した結果ではなく大きいものは良いものだと、東京オリンピックのレガシーを残すとの建前のもと巨額の費用で施設を建造するのと全く同じです。
尤も中国の銀行のみならずヨーロッパの諸国も投資して儲けるために参画したはずなのに、投資した資金が回収できなければ貸し倒れで損害が発生します。
これでは中国の銀行以外は撤退するのが必須だと認識します。
一方で日本が一帯一路に参画するとして当たり前の事ですが、投資対効果をよく吟味して投資効果があり資金回収できるプロジェクトに参画する必要があると思います。(2018/09/05 09:11)

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「中国・一帯一路の挫折と日中関係 」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

中国の自分の国のためだけに運営している一帯一路では国際的に信用されないのは当たり前でしょう。資金も資材も労働力も全て中国から持ち込み、かかった費用は全て相手の国の負担。しかもその投資が費用対効果を十分に調査した結果ではなく大きいものは良いものだと、東京オリンピックのレガシーを残すとの建前のもと巨額の費用で施設を建造するのと全く同じです。
尤も中国の銀行のみならずヨーロッパの諸国も投資して儲けるために参画したはずなのに、投資した資金が回収できなければ貸し倒れで損害が発生します。
これでは中国の銀行以外は撤退するのが必須だと認識します。
一方で日本が一帯一路に参画するとして当たり前の事ですが、投資対効果をよく吟味して投資効果があり資金回収できるプロジェクトに参画する必要があると思います。(2018/09/05 09:11)

>安倍訪中に同行する経済界訪中団の規模は240人規模に上り、
>関係者から「一帯一路で、大きなチャンスが日本企業にもたらされる」
>といった発言を聞くと、本気かと問い直したくなる。

当にその通り。
一帯一路に日本は参画する必要はない。
欧州への輸送であれば、陸路はロシアとシベリア鉄道の利用で協力した方がまし。
海路は、北極海航路の開拓でいい。(2018/09/05 09:07)

中国の一帯一路は頓挫って、日本は救世主として登場、というストーリーを無理に作り上げてる感が強い。そんな上目線ならば別に関わらなくて良い。マレーシアの鉄道事業中止を例に挙げたが、当初日本も積極的に受注しようとしていたのではないか?ベトナムも経済性がないからという理由で日本の新幹線と原子力発電を不採用したのでは?自分の誘導したい方向に有利な材料ばっかりで文章を書くと、質は相当低いと言わざるをえない。中国はいずれ崩壊するとこの三十年間毎日願ってる人にとっては好みだが。このぐらいのレベルの文章も掲載する日経ビジネスの購読を数年前にやめたのは、やはり正解でした。(2018/09/05 08:50)

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