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先日、とある高校生からクリニックへ問い合わせがあって、ちょっとしたインタビューを受けたので、その時のことをまとめてみました。どうやら夏休みの宿題で「産業社会と人間」という壮大なテーマについていろいろ調べているらしいです。

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このように、うつ病は明らかに増えてます。


ブラック労働やパワハラに耐えられる理由

高校生はいわゆるブラック労働やパワハラが原因でうつ病が増えているのではないかと考えていました。

これは一理あるのですが正確ではありません。おそらく昔から、いや、昔のほうがずっとブラック企業やパワハラは多かったからです。

かつては「新卒採用&年功序列&終身雇用」というルールがうまく機能していました。これを前提とすれば、ブラックだろうがパワハラだろうが、理不尽で嫌なことがあっても辞めずにガマンして、職場に尽くすべきでしょう。

後になってから、これまでやってきたこと以上の恩恵を受けることができるからです。なので、モチベーションを保ち続けることができるわけです。

そして、一生お世話になることになる職場は『イエ』として機能していきます。

ですが、この前提は経済が成長してパイが拡大しているという条件がないと成り立ちません。

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一般的に、職場などの組織構成はトップから末端まで「円錐形」なのですが、「新卒採用&年功序列&終身雇用」を続けていると「円柱形」になってしまいます。

高度経済成長期は、事業を拡大して次々に系列会社や子会社を増殖させることで、すそ野を広げて円柱を円錐に変えることができていました。しかし、ご存知のように今の日本はほとんど経済成長していないので、すそ野がほとんど広がりません。
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そんな中で、円柱を円錐に変えるためには、限られたポストにしがみついているひとたち以外を適当な理由をつけて次々と落としていくほかありません。「非正規雇用」という形でごまかしていくこともひとつの方法でしょう。

このように、かつて機能していたルールが通用しなくなってしまっています。

職場に尽くしても十分な恩恵が得られない場合、合理的なひとは働き方を変えていくでしょう。しかし、これまで通り律儀に尽くすひとはどうなってしまうのでしょうか?


うつ病になりやすい性格/メランコリー親和型

かつての「新卒採用&年功序列&終身雇用」というルールにうまく適合していたのが、いわゆる『メランコリー親和型』のひとたちです。

メランコリー親和型/Typus Melancholicus:TMは、1961年にドイツの精神科医テレンバッハによって提唱された概念です。「秩序を重んじて、律儀で、几帳面で、責任感が強い」という特性で、うつ病になりやすい性格であるとされていました。

メランコリー [改訂増補版]
H. テレンバッハ
みすず書房
1985-12-06


TMは1980年代に日本へ輸入され、これこそ「模範的な日本人」ということでもてはやされました。つまり、うつ病になるひとはみんなイイひと、みたいなイメージがあったりしました。

なので、うつ病の患者さんにはやたら優しいけど、うつ病っぽいけど違う病気の患者さんにはやたらと厳しい精神科医が多かったように思います。

個人的にはやや持ち上げられ過ぎてないかという違和感がありました。というのも、まちがったトップのもとでまちがったシステムを運用している組織があったとして、そこで働くひとがもしもTMをガンガン発揮していたら「エルサレムのアイヒマン」的にヤバいんじゃないかと思うからです。

エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】
ハンナ・アーレント
みすず書房
2017-08-24




それはさておき、1990年代にバブル崩壊してグローバル化の時代になってからより顕著になりましたが、そもそもTMのひとが病気になりやすいということは、TMが社会生活において不利になっていることを示唆しています。


企業戦士から社畜へ

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かつて『企業戦士』とか『モーレツ社員』とか『古き良き模範的日本人』とか、ある種持ち上げられていたTMは、今や『社畜』と呼ばれてバカにされるようになっています。

これは前提となるルールが変わってしまったからです。ご承知の通り、一部の例外をのぞいてこのルールは崩壊しつつあるので、かつてのように職場に一生懸命奉仕して理不尽なことに耐えて、職場における地位を上げても、業績が傾けば一瞬でおしまいなのです。

また、いくらブラック労働でパワハラを受けても、TMを発揮すれば耐え続けることができるのですが、いよいよ限界というところで精神科医療の門を叩くことになるわけです。

このように、今やTMそれ自体がリスクであることの方が多かったりします。


ハイテク資本主義に適合する人材

現在のルールに適合している特性は、メンバーや状況が変わっても素早く対応できる柔軟性や、職場にふりまわされるのではなく、職場に利用価値があるのかどうかを見極めて、職場を通してスキルを高めたり人脈を広げたりするしたたかな能動性、などが必要になっていると思われます。

これはピーター・クレイマーのいう「ハイテク資本主義に適合する人材」です。一番最初に発売された抗うつ薬/SSRI「プロザック」は、それらの特性を安上がりで手に入れることができる「ビジネスオリンピックのステロイド」であると彼は主張していました。

驚異の脳内薬品―鬱に勝つ「超」特効薬
ピーター・D. クレイマー
同朋舎
1997-07


長くなったので、そのことについては次回に。