なぜアニメーターは低賃金を受け入れるのか?
それは不幸か?ということに関してまとめました。
アニメーターはキャリアの「向上」ではなく、
「維持」のために低賃金を受け入れてしまう状態にあり、不幸に思う。
という意見を読者の方からいただきました。
私はアニメ業界ではアニメーターの経験しかありません。
なのでアニメーター目線からの意見になります。
低賃金であることは業界の責任だと思っていますが、
低賃金を「受け入れている」のはアニメーターの責任だと思っています。
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ルールに従わなければならないと思っている
低賃金を受け入れている1番の問題は、
アニメーターの多くが「何も考えてない」ということです。
アニメーターは絵が上手くなること以外、何も考えていない人が多すぎます。
低賃金であることも、
くらいにしか考えていません。
アニメーターに限りませんが、人は「ルールは変えられない」と考えがちです。
そして「ルールに従わなければ」とも。
各家庭、友人関係、学校の校則、就職活動、会社勤務、法律。
これらのルールを破ると厳しい罰がある、という経験が幼少から染みついてるからです。
その結果、
「ルールは破ってはならず、自分がルールに合わせるのが美徳である」
と思い込んでしまいます。
そして「アニメーターが低賃金である」ということが、「ルールであり、仕方のないこと」だと錯覚してしまうのです。
人の決めた価値が正しいとは限らない
本来『ルール』とは組織の統率をとるために必要なだけで、
ルール自体の善悪を疑うことは全く問題ないのです。
しかし、「ルールなっていることは正しいことだ」という勘違いが根本にあるので、
「この賃金はきっと適正なんだろう」と思いこんでしまうのです。
たとえば街中である商品を見たときに、たとえその適正値段を知らなくても、
と考えるのが商売として自然です。
そして自然なことなので買う側はそもそも、そんなこと考えたりしません。
アニメーターはこれに反する不自然な職業です。
しかし、特にアニメーター志望者は、
と疑うことすらしません。
「どこかの誰かがどうにかして決めた賃金額」という、
よく実態のわからないものであるはずなのに、
それが適正値段なんだろうと思い込んでしまうのです。
「業界内で統一されているし、何十年も変わってこなかった」
この部分のみを理解している人の方が多く、
「何故そうなっているか?どうにかならないのか?おかしいんじゃないのか?」
と考え、疑うことができるアニメーターは少数です。
これがアニメーターが「安いけどしかたない」と思ってしまう理由です。
低賃金を代償と思っている
多くのアニメーター志望者は、賃金が少ないことを承知で業界に入ってきます。
さらに労働が過酷であるという状況も承知で。
アニメーター志望者はこんな前情報があるにもかかわらず、
次々と業界に入ってきます。
それは何故かというと、
劣悪な環境を受け入れてでもやりたいことがあるからです。
それは「絵を描くだけで生きていきたい欲」です。
アニメーターはあまりにも絵を描いて「だけ」いたいという感情が強すぎます。
こう思って業界に入ってきてしまう人が多いのです。
また、現役のアニメーターですらこの考えのまま働いている人が多くいます。
しかし、「好きなことを仕事にして、好きなことだけをやる」ことに対し、世の中は否定的です。
「仕事はつらく、苦しいものである」という世の中の作り出した常識が邪魔をし、
アニメーターにも一種の罪悪感に近い感情が生まれます。
そしてその代償が低賃金なのだと思うことで、自分の仕事を正当化してしまいます。
・他業種は嫌な仕事を我慢してやるかわりに、真っ当な賃金が貰える。
・アニメーターは好きな仕事をしているかわりに、賃金が低い。
と頭の中でつり合いをとろうとします。
しかしこれは間違いです。
これがいわゆる「やりがい搾取」に繋がってしまうのです。
「頑張る」をはき違えない
人は、頑張れば報われると思ってしまいます。
もしくは報われて欲しい、と。
そのために「頑張って」しまうわけですが、
一般的な学校や会社で教えられる「頑張る」とは、
「ルールを守って苦しみに耐え抜くこと」です。
それが評価される会社や現場もあるかもしれませんが、
少なくともアニメーターは違います。
アニメーターの「頑張る」は、
・技術を常に磨いて、業界で必要とされるだけの能力を持つこと。
・コミュニケーションとしっかり取り、会社や人との繋がりを大事にすること。
・経済観念を持ち、自分の資産管理をしっかり行うこと。
などです。
少なくとも、時給制でなく、技術職で、しかも自営業のアニメーターには、
「耐え忍ぶこと」だけで報われることはありません。
「会社や業界の決めたルールを守り、低賃金でもそれに耐え、
待っていればいつか報われる日が来る」ということなど無いのです。
アニメーターに必要なのは、むしろ行動力や思考の積極性なのです。
自分の値段は自分で決める
アニメーターの適正値段は、アニメーター個人の能力によって変わるべきだ、
と私は思っています。
なによりも、アニメーター自身が自分の適正値段を決めるべきなのです。
自分はいくら欲しく、いくらもらうべきなのか?
そしてその額をもらうためにはどうしたらいいのか?
それらを「考える」べきなのです。
決して、どうやったら「絵が上手くなるだろう」ばかりでなく。
障害があるほど燃えてしまう
これは現役アニメーターよりも志望者に多いのですが、
低賃金、過酷な労働などのマイナス面を
「乗り越えるべき障害」だととらえ、やる気を出してしまうことがあります。
これもまた「やりたいこと」をやろうとしているのだから、
代償があって当たり前という考えに基づいています。
まだ苦しい目にあっていないからこそ、
これから起こる苦しい事や労働条件を正確に想像できず、目をそらし、
その「障害」を乗り越えた先に希望があるような気になってしまいます。
やる気があるのは素晴らしいことですし、必要なことです。
しかしやる気は人を盲目にすることもあります。
アニメ業界における低賃金問題は乗り越える「障害」ではなく、解決すべき「問題」です。
もしくは避けるべき「悪習」とも言えます。
「解決」とは、アニメ業界を変えることとは限りません。
自分の中の「解決法」を持つことです。
値段交渉をしたっていいし、副業をしてもいい。
様々な解決法があるはずなのです。
その中の一つが「業界を辞める」という方法であり、私が選んだ方法です。
そして「解決法などない」と思い込んでいる業界関係者に
「自分の中の解決法を考え、探す」ことが大事だと気付いてもらうためにブログを発信しています。
アニメ業界で苦しんでいる人は、まず休み、
考える時間と心の余裕を持ち、自分の固定観念を疑ってください。
業界を変えようなんて大層なこと考える必要はありません。
まずは先に自分の価値観を変えましょう。
アニメーターの低賃金は不幸か?
アニメーターは不幸か?
不幸という言葉を使ってしまうと、それは逃れられない運命で、
やむをえない事のように聞こえます。
しかし実際は、
・会社の定めた賃金が低い。
・アニメーターがそれでも構わず業界に入ってくる。
・アニメーターは技術の上達にしか興味がない。
・生き残るアニメーターは稼げており、
稼げないアニメーターは辞めていなくなるので、
現場で賃金の文句をいう人が少ない。
という現実的で経済的な問題でしかありません。
たしかに業界を正す即効性のある解決策なんてありませんが、
「不幸」ではなく、あくまで「問題である」という観念がアニメーター自身にあるかないかが重要です。
それだけでもアニメーターの人生は大きく変わります。