42~Blind Spot~ 作:フリーマスタード
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アルベドとシャルティアが冒険者デビューします。
アルベドはモモンガ様より転移初日に頂いた
なぜならば、例の書類に若気の至りでカッコいいと思って設定したことを後悔していると記されていたからだ。一体、ここまでの詳細な情報を集めることができるレラティビティ様は現実世界でどんな事をしていたのだろうか?冷凍保存から目覚めた資産家で搾取する側だったと話していたが。
彼は去る前にモモンガと同じように人間で、100年前に不治の病を患ってから治療技術や解凍方法が確立するだろう未来に望みを託して、ロシアと呼ばれている国で行われている冷凍保存サービスを受け、目覚めてみれば病気は無事に治療でき100年間の利息で財産が大幅に増えていた。その膨大な財産を巨大複合企業に投資していたと話していた。
たまに現場を視察したり株主総会や役員会に顔を出したり、プロジェクトの予算集めパーティーに招待され投資するか否かを決めたりするぐらいで時間を持て余していたから身分を隠してユグドラシルを始めたなど。
「おぉ・・・なんと!ンモモンガ様ぁ!いえ、父上ッ!父上の愛さえあれば、このパンドラズ・アクター!他に何も必要ございまぁせん!アルベド様、どうぞ留守の間は息子として父上の家をしっかり守らせて頂きますので安心してモモンガ様と冒険を楽しんできてください!」
「頼んだわよパンドラズ・アクター」
アルベドは若干引いていたが、愛するモモンガ様の黒歴史を受け入れることも妻に求められた試練なのだと理解しようと努めていた。恐らく、至高の41人が去っていく寂しさを紛らわせる為に作った道化といったところなのだろうが、ああ見えても流石はモモンガ様が御造りになっただけあり優秀な領域守護者だ。
「ところでアルベド様、この情報を集めたレラティビティ様という御方は存じ上げませんが新しく増えた御方でしょうか?」
「何を言っているの?パンドラズ・アクター。至高の41人の御一人じゃない?」
「アルベド様。私は至高の41人全員の御姿へと変わることができますが、その42人目の御方は初めて知りました」
パンドラズ・アクターが41人全員の姿へと順番に変わっていく。確かにレラティビティを入れると42人になる。41人のはずが42人いる。
「これは・・・。どういうこと?」
不思議だが単なる思い違いかもしれないので詳しくはモモンガ様に聞いてみてから考えればいいだろうと一旦保留にする。
◇
エ・ランテルの巨大な城壁の前に彼ら5人は立っていた。モモンガはもしかしたら、去ってしまったレラティビティや他にもいるかも知れないギルドメンバーに気付いてもらえるかもしれない期待を込めてアインズと名乗り本来の
護衛にはそれぞれ防御最強と攻撃最強のフル装備のアルベドとシャルティアが付いている為、万が一強敵と接敵しても逃げることぐらいはできるだろう。さらに冒険中の世話係としてプレアデスからはナーベラル・ガンマとルプスレギナ・ベータを加えた5人のパーティーで冒険することになった。
タンク、アタッカー、後方支援×2、クレリックとバランスも良い。モモンガはまた昔の様に冒険できる事にワクワクしていた。本部のナザリックではデミウルゴスやニグレド達による完全バックアップ体制も整っており未知の場所でも快適に楽しめるだろう。
今現在、ナザリックの守護者統括代理はパンドラズ・アクターが行っており「モモンガ様、留守の間息子として責任を持って我が家を守りますので昔の様に冒険を心置きなく楽しんで来てください」と言っていたが、おかしい。
―――ドイツ語も話さないし、リアクションも控えめだ。
覚悟していたのにパンドラズ・アクターが余りにも普通に振舞っている為拍子抜けしたが。やはり自我を持ち始めた時点で設定とかはあまり関係ないのだろうか?
それにアルベドとデミウルゴスの目が最近優しい気がするが気のせいだろうか?いろいろと分かりやすくかみ砕いて代案を提案してくれているので非常に助かっているが。
この時、モモンガの知らないところでデミウルゴスや他の僕たちがパンドラの被害に遭ってる事は知る由も無いが。
「アインズ殿、ここまで送って頂き助かった。もし王都に来たら私の所へ訪ねてきて欲しい」
彼、ガゼフ・ストロノーフは折角だから歩いて旅をしようと景色や自然を楽しんでいた道中で行き倒れているところ救い、エ・ランテルに着くまでの間旅を共にすることになったのだ。なんでも王国の戦士長とやらを務めているらしいが、なぜ行き倒れていたかは「すまない」といい説明してもらえなかった。
旅の道中でゴブリンやトロールやギガントバジリスクを吹き荒れる暴風の如く目に見えない速度で斬殺していく漆黒の鎧を着た女戦士アルベドと翼が生えた紅蓮の鎧を着た女戦士シャルティアの圧倒的すぎる強さを目撃して「世界は広いのだな」と思うのと同時に、まだまだ自分には精進が足りないと、より一層剣技に励もうと決意しているガゼフだった。
「それと冒険者組合には、この推薦状を渡して欲しい。もし、立場さえなければ是非アルベド殿とシャルティア殿に弟子入りしたいぐらいだが・・・これぐらいしかできない私を許して欲しい、アインズ殿」
「いえいえガゼフ殿、こちらこそ身分を保証するものが無いので助かりました。ではぜひ王都を訪れた際は伺わせて頂きます。それと・・・」
モモンガはイベントリから角笛を二つ取り出しガゼフに渡す。
「これは吹くとゴブリンを複数召喚できる角笛でして、もしもの時は使ってください」
「その様な
ガゼフはアインズ殿は遠方の国の貴族であり、最低でも第5位階魔法は使える二人目の逸脱者だろうと考えていた。特に
正直、アダマンタイト級では収まりきらない実力者で、あと2つか3つは上のランクが必要だろう。
(できれば、陛下にはアインズ殿に領地を与えて王国の貴族として迎え入れてもらいたいが・・・。そうすればアインズ殿の私兵のアルベド殿とシャルティア殿の戦力で帝国も手を出して来なくなるだろう。それにあの御方なら素晴らしい領主として王国も良き方向へ変わるかもしれん。・・・私にも一人で戦局を変えるような実力があれば良かったのだが・・・いかん!少しでも高みに近づける様に精進しなくては!)
―――部下を全員失ってしまったが、決して王国の未来は暗くはない。
決意を胸に王都へと急ぐのであった。
◇
冒険者組合では全員が驚愕して固まっており静かに成り行きを見守っていた。高価そうな漆黒のローブを身に纏った仮面の
たまたまエ・ランテルに訪れていたガガーランとティアは戦慄していた。
「お、お待たせいたしましたアインズ様。ガゼフ様からの推薦状とギガントバジリスク10体の討伐部位証明もありますので、と、特例措置としてミスリル級の冒険者プレートをお渡し致します。ガクガクブルブル」
「あぁん?てめぇ!アインズ様がミスリル級だとぉ―――」
「良いのよシャルティア。すみません、内のメンバーが御迷惑をおかけして。あら?
「た、直ちに無償で交換させて頂きます!ガタガタ」
ヘルムを脱いでいるアルベドは非常に涼しい表情をしていた。
(おい、あのアルベドという女、片手でミスリルを握り潰したぞ・・・。どんな握力してんだ)
(ガガーラン、人の事言えない)
(それにあの頭の角は・・・装備品か?)
(たぶん、そうだと思う)
受付嬢は逃げる様に奥へと消えていった。
そして、不幸にもその場に居合わせてしまったイグヴァルジはこの後引退する事になるのだが・・・。
「おい、てめーら。黙って見てりゃあ、ぽっと出の癖にいきなりミスリル級だと?ふざけ―――」
「「「「あん?」」」」
難度300のアルベドとシャルティア、難度180のナーベラルとルプスレギナの計4人の解放状態の殺気にあてられたイグヴァルジは恐怖のあまり失禁して膝から崩れ落ちる。
「あ、あ、あ、あぁ・・・た、助け・・・て!ガクブル」
「おや?女性の前でそんな醜態を晒すとは失礼な奴でありんすねぇ。聞き取れんしたからもう一度言うなんし」
「今日だけは見逃してあげるけど、少しだけ
「ちょーっと
「い、嫌だーーー!助けてくれー!」
イグヴァルジは泣きながらルプスレギナに表へと引きずられていきボコスカとリンチをする音と悲鳴が聞こえてくる。掃除をするのはメイドの本業だ。
彼は
「アルベド様、あの
「アインズ様は楽しく冒険することを御望みよ。
「う、うむ。その通りだナーベラルよ」
(アルベド達怒ると怖い・・・。やまいこさんやぶくぶく茶釜さんも怒ると怖かったからなぁ)
(ルプーがいて助かったわ。彼女なかなか便利ね。私だと絶対殺してしまうもの)
かくして、エ・ランテルから1組のミスリル級冒険者チームが解散した代わりに、新しいミスリル級冒険者チーム「漆黒の薔薇」が誕生した。
和んでいる平和的な雰囲気の中、アルベドにデミウルゴスから
『アルベド、あの不敬な男の処遇はどうしますか?』
『しばらく様子見ね。
『優しくなりましたねアルベド。わかりました。あの様な下等生物がアインズ様の元同族を名乗るなど全く嘆かわしいものです。少しは慈愛溢れるアインズ様を見習って欲しいですね』
『まったくだわ。それとデミウルゴス。わかっているとは思うけど、ガゼフ・ストロノーフという男はアインズ様の新しい御友人だから死なせない様に警護をつけなさい』
『わかっています。私もアインズ様が悲しむ御姿など見たくはありませんから』
「お待たせ致しました。こちらが新しいプレートになります。くれぐれも大切に扱ってください」
「あら、ありがとう。手間を掛けさせて悪かったわね」
その時、仮面をつけた小さな少女が冒険者組合に入ってきた。
「ガガーランこんな所にいたのか探したぞ!・・・は?な、な、な、そんな馬鹿な・・・!?」
「お、どうしたんだ?ちびさん」
「あ、あ、あれは一体何者だ!?あの3人は私よりも圧倒的に強いぞ!?」
「あー、ガゼフの推薦とギガントバジリスクを10体討伐したって話でよ。さっきも絡んできた可哀そうなミスリル級の奴がメイドにボコボコにされてたぞ。何でも”漆黒の薔薇”だってよ。ありゃあ、すぐにアダマンタイト級だろうなぁ」
「私たちの立つ瀬がない」
「ところでちびさんよ。だいたいどれくらいの強さなんだ?」
「あのメイド2人が私と同じくらいの強さで、あの仮面の
「はぁ!?難度200以上が3人!?マジか・・・。世界は広いんだな・・・。一体どんな魔境から旅してきたんだ?」
「アダマンタイト級の上の階級を作るべき」
蒼の薔薇の会話が聞こえていた受付嬢は眩暈がしてきていた。
(難度200以上・・・。はぁ。今日は早く仕事を切り上げて飲みに行こうかしら・・・)
シャルティアがイビルアイの同じ吸血鬼の匂いに気が付いてイビルアイの元にやってくる。遅れてアルベドやアインズもぞろぞろと。
「ひっ・・・。あ、あの、何か御用でしょうか?」
難度300が目の前に3人もいる為に、普段は大口を叩いている流石のイビルアイも怯んで委縮していた。
「同じ冒険者の後輩として挨拶にきたでありんす。
「い、いえ、こちらこそ宜しくお願いします。ペコリ」
「俺達は”蒼の薔薇”って言う普段は王都で活動してるアダマンタイト級冒険者なんだが、あんたらには叶わねえな。同じ”薔薇”同士のよしみでこれから宜しくな!」
「いえいえ、我々も王国に来るのは初めてで右も左も分かりませんが、どうぞよろしくお願いします」
(そうそう、これから行動を共にすることもあるかも知れないし他のパーティーとの挨拶は大切大切。あぁ、ユグドラシルを思い出すなぁ。楽しみだなー。冒険)
「ところでアルベドさんよ。さっきミスリルプレートを片手で握り潰したの見てたぜ。どうよ、ちょっくら腕相撲でもしねぇか?」
「・・・やめておけ、ガガーラン」
「ついにガガーランの第二形態が見れる」
「いいわよ。ちゃんと加減するから安心しなさい。そこの小さいの」
「う・・・」
「ハンデをあげるわ。両手で掛かってきなさい」
「おうよ!それじゃあ、有り難く両手で行かせてもらうぜ!」
「ご・・・ゴリラ対ゴリラでありんす・・・」
「黙りなさいシャルティア」
●冒険者チーム「漆黒の薔薇」
アインズ様 後方支援
フル装備のアルベド タンク
フル装備のシャルティア アタッカー
ナーベラル・ガンマ 後方支援
ルプスレギナ・ベータ ヒーラー
影でバックアップするオペレーターがデミウルゴスです。
世界征服せずに冒険者稼業に専念するため過剰戦力となっております。
またアインズ様と友好関係にある者はもれなくナザリックの手厚い保護。不敬を働いたものは暗殺されます。