42~Blind Spot~ 作:フリーマスタード
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しかし読む専でやって行きたくても大方読み尽くしてしまってオーバーロード養分が足りない・・・
ほのぼのしてる話が好きなのに、なぜか自分が書くとホラー要素が入ってしまう。
一体なぜ?(苦笑
「なんて、凄い星空なんだ!まるで宇宙のど真ん中にいるみたいだぞ!くそー、一眼レフ無いのが惜しい。カメラはあるにはあるけど長時間露光とかできないと綺麗に撮れないんだよなー」
「レラティビティ様、その”一眼レフ”という物の詳細を教えていただければ手に入れてまいりますが?」
「いや、この世界でゼロから作らないといけないから難しいと思うよデミウルゴス。うーむ、でも欲しいな」
転移から数時間経ちナザリック上空で初めて星空を見て興奮しているのが最後までモモンガと共にギルドに残っていたレラティビティ。彼はブルー・プラネットさんと共同で第六階層の星空を作り上げた一人だ。
彼は雑学王って感じなのか自然に関してもブルー・プラネットさんに引けを取らない知識を持っており、楽しそうに二人で語り合いながら第六階層を作っていた光景が懐かしい。
ブルー・プラネットさんが自然の話を熱く語るのに対して、彼は宇宙の話を振ったら最後、数時間は語り続ける。このままでは彼が暴走してしまうと密かに戦慄していたモモンガだった。
「それでね知っているかい?デミウルゴス?光の速度は秒速30万キロでその光が一年かけて移動できる距離を”1光年”って言うんだ。今空に見えてる全ての星は何万光年も離れていて、中には数億光年離れてるのもある。だから今見えている星は全て数万年前や数億年前の姿なんだよ。それでね、光のドップラー効果というものがあって―――」
(うわー、案の定、やっぱりレラさん暴走した!―――許せデミウルゴス。君の犠牲は決して忘れない)
―――1時間後
「さっきの質問だけど、ブラックホールの凄い所は余りにも重力が強すぎるせいで光でも脱出出来ずに吸い込まれてしまうんだ。黒い穴に見える部分は”事象の地平面”、英語だと”Event Horizon”と言われていてそこよりも内側に行くと二度と脱出できない境界線なんだ。本体は”特異点”と言われていて量子力学の一説によると万物の最小単位は紐状の振動しているエネルギー体と言われていて、これが絡まって塊になっていると―――」
(レラさん嬉しそうだなー。意外とこの2人に任せておけば転移の原因を解明しちゃったりして。凄いぞデミウルゴス!・・・頑張れデミウルゴス様)
―――3時間後
「で、太陽もいつかは寿命が来て最後は膨張して飲み込まれる。この星だとどうか知らないけど、もしくは太陽が爆発して星ごと吹き飛ぶ。宇宙自体にも寿命があって今一番定説となっているのが1400億年後には空間膨張速度が速くなりすぎて全ての物質が素粒子レベルで引き裂かれて何も存在しない虚空の闇が広がる無の世界となって終わりを迎えるんだ。そうだね、例えばデミウルゴスに解りやすく説明すると人間の足を掴んで高速で振り回すと遠心力でバラバラになるけど、それと同じことが僕たちを含めた万物に起きるんだよ」
この時、頭の中で何か変な感じがしてモモンガからの〈
『レラさん、デミウルゴスの顔色が悪くなってますよ』
『あ、いやー、質問してくれるので嬉しくてついつい。じゃあ、僕は戻って風呂と酒を楽しんできますね』
『どうぞ、ゆっくりしていてください』
『・・・そうえば、ナザリックにタバコか葉巻ってありますか?煙管でもいいですけど』
『たしか、煙管ならあったと思いますよ。ペストーニャに聞いておきますね』
デミウルゴスは数時間に及び自分の知らなかった至高の御方の話す世界の理の知識を一滴たりとも逃すまいと必死に聞き、理解することに努めていた。
(超位魔法ですら比べ物にならないナザリックをも一瞬で消滅させる自然現象の数々・・・。知恵者として創造されたにも関わらず、そのような危険に晒されている事も知らずに悠々と過ごしていたとは・・・。この私の無知故に数時間も御方の貴重な御時間を使ってしまう僕にあるまじき失態!もし、最後まで残っていただけたモモンガ様やレラティビティ様に無能と思われ御隠れになってしまったら・・・!)
「モモンガ様、レラティビティ様!そのような驚異的な自然現象の数々に愚かにも何の対策もしなかった我々守護者にあるまじき失態を―――」
「いや、別にいいよ。そればかりはどうしようも無いし。っていうかモモンガさん。巨大隕石は別として、”
「うむ、確かにできるかもしれん。正直、私としてもナザリックには永遠に存在して欲しい」
「なら必要経費ってところですね。じゃあ、自分のやつを使います。
レラティビティは「じゃあね」と肩越しに手をぴらぴらさせながら、ナザリックに帰っていった。
この時、デミウルゴスはせっかく世界を征服した後に現地の人材を活用した人海戦術で技術を研究して来る日に備えるプランを提案しようとしていたにも関わらず、風呂に行く次いでに世界に永遠の寿命を与えてしまう神の御業に驚愕していた。
暗に「お前じゃ仕事が遅すぎるから俺がやる」と言われてしまい至高の御方の世界の理をも捻じ曲げる御力を喜ぶべきなのか、自身の無能さを悲しむべきなのか、非常に複雑な気分でもあった。
(我々守護者が愚かにも気付かなかった脅威を指摘したうえで、自ら対処なさったという事は、面前と無能と言われたのと同じ・・・。これは早急にアルベドに相談しなければなりません。今回の転移の件と言い、我々の信用は地の底。それが原因で万が一にでも御隠れになられてしまわれたら・・・!)
「・・・うむ、世界征服も、いいかも知れぬな」
この時、モモンガは聞き疲れて思考があまり回ってなく、なんとなく言わないといけないような気がして言っただけだった。
(なんと・・・!あぁ、モモンガ様はなんと慈悲深いのでしょう・・・!この無能な私に名誉挽回の機会を与えてくださるとは!必ずやこのデミウルゴス、世界を手に入れてまいります!)
あ、デミウルゴスが震え始めた。具合悪くなったのかなぁ。デミウルゴスをノックアウトできるレラさん流石だなぁ。戦略はぷにっと萌さん、雑学はレラさんだったからなぁ。いつか慣れるから大丈夫だよ、デミウルゴス。
歩くwikiのレラさんと知恵者のデミウルゴスやアルベドがいれば、ナザリックは安泰だろうと安心している骸骨だった。
◇
「いやー、良い風呂だった。温泉に浸かったの凄い久しぶりだ。まあ、るし★ふぁーさんのゴーレムを消滅させちゃったけど、あれは正当防衛。まさに風呂は日本人にとって魂の源。古代ローマ人もだけど。ホントに今の人達はこんな幸福も知らずに生きてて可哀そうだな。飯も高額な割に野菜とか萎れてて不味いし。道具は便利だけど。いくら道具が便利になってもそれ以外の物全てが流石に残念過ぎる。ちょっと眠りすぎたかなぁ。まあ、最早関係ないから良いか」
レラティビティは自室で寛ぎながら著作権が切れた1950年~2030年までの映画コレクションや洋楽コレクションを漁っていた。目当ての映画を見つけるとセバスに〈
『セバス、今大丈夫か?』
『お気遣いいただき恐縮ですレラティビティ様、至高の御方の為ならばいかなる時でも大丈夫でございます』
『今から自室で映画を観るからルプスレギナと辛口のビール5リットルと大きめの冷やしたジョッキ2つ、冷えてて塩をかけた枝豆と冷ややっこ、あとルプスレギナ用にフライドポテト大盛を頼む』
『畏まりました。直ちに手配いたします』
〈
また部屋の壁際にはガラスのショーケースに飾られている紀元前のガレー船の模型、16世紀のガレアス船の模型、18世紀の大型帆船の模型、20世紀の戦艦の模型、21世紀のイージス艦の模型、22世紀のアーセナルシップなど歴代の船が飾られている。
さらに壁の中のショーケースには国際宇宙ステーション、スプートニク、アポロ、ボイジャー、火星探査機、スペースシャトルなどの模型やティラノザウルスやプテラノドンの骨格模型が天井からぶら下がっていたりして照明にも拘り抜いただけあり全体として博物館の様な感じの部屋である。
「失礼いたします。レラティビティ様」
ドアを開け一礼するとワゴンに料理などを乗せて入ってきた健康的な褐色肌の赤髪の戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータが部屋に入ってきて配膳を始める。なぜかシャンプーの匂いがするが時間的に風呂上りなのだろうか?
直ぐにその意味を理解し、「そこまで気を使わなくても良いのに」と可愛いからちょっといたずらで超位魔法を使ってやろうと考えて発動する。昔は子猫を弄って遊ぶの好きだったし。
「〈
魔法陣が展開し、しばらく時間が経った後に部屋に劇的な変化が起きる。幻影魔法を極めたビルドである自分の技の一つで、時空を次元的に完全封鎖した上で迷宮に作り変える。
瞬く間に部屋は万華鏡の如く現実を捻じ曲げて上下左右を無視した立体的に入り組んだ構造に変化していく。これはいわゆる”超立方体”と言われる構造だ。エッシャーの上下左右の概念を無視した階段が印象的な絵に近い。
ナザリックに1500人が侵攻してきたときに、ナザリック全体にこの魔法を掛けて攻略に数日は要する迷宮に作り変え遭難者が続出したのは良い思い出だ。
「うーん、ちょっと違うな」
さらに種族由来のスキルを発動する。一時的に新しい宇宙を作りその中で時空を自由に操れる幻影魔法だ。
「〈
周囲の壁や天井が崩れていき床だけが残る。虚無の世界で大きな爆発が起き、星々が誕生し、塵が集まり太陽が出来て次に地球が生まれる。
そして隕石が降り注ぐ灼熱地獄の景色から激しい大雨が起こり海が誕生し、氷河期が来て世界が凍てつき、氷が解けると植物が生え始め、恐竜が歩く景色と動画を高速再生した様に目まぐるしく変わっていき、村が出来、町が出来、次第に高層ビルが建ち始めて、20世紀後半のニューヨークのブロードウェイのネオンが輝き、人類文明の全盛期を象徴するともいえるエンパイアステートビルがそびえ建つ、人や自動車が行き交っている景色で止まる。
「ごめんルプスレギナ、せっかくだからニューヨークの夜景を楽しめるエンパイアステートビルの展望台で映画ディナーをしよう。〈
「え?ニューヨークってなんすか?あ、はい。畏まりました」
エンパイアステートビルの屋上に出るとルプスレギナは初めて見る大都会の夜景にうっとりしつつ、配膳をし直す。レラティビティは持ってきたプロジェクターやスクリーンの設置作業を始めている。
「あの、レラティビティ様。この世界は一体何ですか?」
「うん?あぁ、昔の俺が住んでた世界を再現した物だよ。過ぎ去った遥か昔の故郷、我が家だ。・・・それと素の口調でいいよ、ルプー」
「ということは、もうこの町は残ってないっすか?」
「そうだね、残念ながら。これが今の姿」
レラティビティが指を鳴らすと、周囲の時間が凄い勢いで進んでいく。最初のうちはさらに斬新的なデザインの天にも届くような一段と高い建造物が増えたりもしたが、海が高くなり地上部が水没してから街の明かりは永遠に消えて、やがて空もどんよりとした霧に覆われて完全に見えなくなる。
「なんだか、凄く寂しい感じの雰囲気っす」
「まあ、道具が便利になっただけで他は何にも無い滅びた後とも言える世界だから、さっさと綺麗な夜景を見ながら飯にしよう」
再び指を鳴らすと時間が逆行してしていき、20世紀末のニューヨークの活気ある街並に戻る。