瀬島桜華は、従弟である瀬島悠斗に大きな愛情を注いできた。
それは恋愛感情とは違う。
過保護なほどの姉としての・・・場合によっては母に近いレベルでの愛情だったのだ。
忙しい悠斗の母・美悠紀の替わりに桜華が悠斗を育ててきたといっても過言ではないだろう。
この物語はフィクションです。
劇中に登場する人物・名称・技術・解釈などはすべて架空のものです。また、実際に存在する地名・建築物などを使用しておりますが、実在のものとは一切関係はありません。
また、この物語「イマジナリィ」は前作「リアリティ」の続編となっております。
私と悠斗
「桜華ちゃん、この子は悠斗っていうの。まだ赤ちゃんだけど仲良くしてあげてね」私が初めて悠斗…ゆーくんに会ったのは、幼稚園の頃だったらしい。
ゆーくんが赤ちゃんだった時のことはおぼろげに覚えているけれど、具体的にどうだったかまではさすがに覚えていない。
とてもちっちゃくて壊れそう、そんなイメージだけは覚えている。
その後ゆーくんが1歳になるころ、叔父さまが海外赴任でカナダに移住することになる。
そのため2年ほどゆーくんとは会っていないので、その間の思い出はない。
ゆーくんが3歳になったころ。
叔父さまが赴任先で事故にあい、帰らぬ人となってしまった。
美悠紀叔母さまはゆーくんと一緒に日本に戻り、ゆーくんを育てるために復職することになったのだけど、ファッションデザイナーという仕事は時間が不規則で、3歳、しかも当時のゆーくんは喘息持ちだったので、面倒を見ることが難しかったそうだ。
そこで叔母さまの実家、つまり我が家でもある瀬島家に戻ってきて、一緒に暮らすことになった。
叔母さまが留守にしがちなときは、私と母さんでゆーくんの面倒を見ていた。
お世話をしているうちに、8歳の私の中に保護欲なのか、使命感なのか、よくわからないけれども、気づけば「この子は私が面倒をみなければならない」という意識が芽生えていた。
ゆーくんも良く懐いてくれた。
小さい時のゆーくんは病弱ではあったものの、良く笑う天使みたいな子で、とてもかわいらしかった。
周りからも姉弟と思われることが多かったこともあるだろう。
私の事は本当の姉だとしばらく思っていたようだ。
とにかくどこに行くのも一緒だったので、私の人生の2/3はゆーくんと共にあったということになる。
私が小学校6年生になったとき、ゆーくんも同じ小学校に通うことになった。
入学式で子どもスーツを着たゆーくんは尋常でないかわいらしさで…あ、思い出したら鼻血がでそう…。
ともかく「うちの子が一番かわいい」のは間違いない(断言)
その時は毎日ゆーくんと手をつないで小学校に通えるのがうれしくて仕方なかった。
ゆーくんも私と学校に通えるということがうれしかったようだ。
しかし、ある時からゆーくんの顔から笑顔が消え、手をつなごうとすると避けるようになってしまった。
この世の終わりかと思った。
ついに姉離れの日が来てしまったのかと、絶望するところだった。
そうではなかった。
毎日手をつないで登校していたことをクラスメートに見られていて、最初はからかわれるだけだったようだ.
しかし、それがいつしかエスカレートし、病気のせいで体力がなく、必然的に無抵抗状態になるゆーくんに対し数名で一方的な暴力を振るっていたのだ。
ーー絶対に許さない。
私は首謀者を見つけることにした。
私は下級生からの人気が高かったし、特に6年生は入学したての1年生の面倒を見ることが多かったのでまずは1年生の女子のネットワークを使い首謀者の特定をした。
男子も全員がゆーくんのいじめに加担していたわけでもなく、実質的には3人だった。
この子たちを力で制してもよかったが、それで済ましても解決しないだろう。
決定的な証拠を取るために、これまで使わずに貯めてきたお年玉を使って、24時間録音ができて感度の高いボイスレコーダーを用意して、ゆーくんのランドセルに仕込んでおいた。
ゆーくんの挙動で何かがあるとヤツラに勘ぐられてしまっても困るので、もちろん本人にも内緒だ。
いじめられているのが判っていながら、あえて証拠を取るために気付かれないように監視するのはとても辛かったが、連中は簡単に証拠を残してくれた。
また、ゆーくんの体にもいくつか痣ができていたので、写真を撮っておく。
病院にも行って、診断書も書いてもらった。
病院の先生には警察へ相談することを進言されたが、それは最後の手段。
次はヤツラ3人以外の1年生への根回しだ。
説教部屋(体育館)に連れ出してもらわないといけないからね。
女子にはもともと好意を持たれていたので協力体制にあったし、男子も少し可愛がってあげたら割と早く協力してくれる形になったようだ。
さて、いよいよお説教だ。
1年生の女子たちに手伝ってもらい、「話がある」ということにして体育館に誘導してもらった。
「げっ!ゆーとのねーちゃん!?」
別のことを期待していたらしいいじめっ子たちは、
私をみて驚き即座に逃げ出そうとした。
しかし、
「ハイハーイ!桜華ちゃんが話があるっていうからちゃんと聞こうね?!」
私の『お友達』の6年生の男子に退路は塞いでもらっていたので脱出は許さない。
もちろん彼らには「何があっても絶対に手をだすな」と言及してあった。
ヤツラの暴力は許せなかったが、ここで上級生が下級生に暴力をふるってしまったら悪いのはこちらになってしまうからだ。
あくまでも『お友達』は威圧感という演出をしてくれれば良いのだ。
「話があるってうそだったのかよー!」
いじめっ子のリーダー格の男子が、誘導してくれた女子たちに食ってかかっていたが、
「話があるのは本当だよ。ただし、私から、だけどね?」
と微笑みながら答え、連れてきてくれた女子たちにはこの場から離れてもらった。
「なんだよー!なんのようだってんだよ!」
逃げることを諦めたのか、私にいじめっ子たちはつっかかってきた。
「うん、ずっと悠斗のことを、君たちがいじめている件でね。」
「!・・・しょ、しょーこがあんのかよー!」
と粋がっているので、
「証拠ね。証拠はねえ・・・」
と、いじめている様子を隠し撮りした写真やあざの写真、ボイスレコーダーの音声を編集したダイジェスト版、その他壊された物品などを体育館の床にぶちまける。
「これが、証拠の数々だよ?」
「・・・!」
強がっていたいじめっ子たちの顔が青くなる。
「さあ、お話ししましょうか・・・?」
お説教を受ける身にも関わらず、ぼうっとたっている子たちを正座させ、様子に気づいた先生たちが止めにくるまで2時間ほどだろうか。
気づいたらいじめっ子たちはワンワン泣いていた。
暴力も振るわれていないのに軟弱な子たちだ。
あんたたちに暴力を受けていたゆーくんは黙って耐えていたというのに。
その後、いじめっ子のリーダー格の親、特にモンスターペアレントとして有名な親が学校に乗り込んできたため、校長室に呼び出されることになった。
「アンタが2時間も正座させるから!家に帰ってきたら足が痛いって大泣きしたのよ!どうしてくれんの?!」
「それを言ったらそちらのお子さんが、うちの悠斗に暴力を振るったのがそもそもの原因ですよね?それを棚にあげて何をおっしゃっているんですか?」
「うちの子はいじめなんてやってないって言ってんのよ!!!」
「まだ、そんなこと言ってるんですか?」
ということで、再度証拠の数々を提出する。
モンペのママはかなり青ざめたが、まだ粘る気のようで、
「だから何よ!これが何の証拠になるってのよ!!!」
と頑張るので、
「そうですか、じゃあ、これ全部警察に提出しますので、警察に判断してもらいましょう。 子どもだとやったことだと?この場合は親御さんの責任問題になりますかね?」
「せ、瀬島さん、何もそこまで・・・」
校長先生も慌てて話に入ってきた。加害者側に譲歩したら解決しませんよ?
「な、何よ!子どものくせに脅迫する気?!う、訴えてやるわ!」
とまあ、モンペママは的外れなことを言ってきたので、
「そうですか、判りました。
何でしたらうちの父は弁護士ですが、ご相談に乗りましょうか?」
と返したところ、モンペママは絶句した。
私は加害児童になにか賠償させるとか、謝罪しろとか、そういう要求があるわけでない。
『ゆーくんに一切かまうな、近づくな』
というのが本音なので、それを徹底させるということを条件とし、これ以上の追求はしないということで手を打つことにした。
それ以降『ユートをいじめると鬼ねーちゃんがやってくる』と噂になって、ゆーくんがちょっかいをかけられることは無くなった。
まあ、『鬼ねーちゃん』とか一部で呼ばれたのは不本意だったけど、私自身が抑止力になるならそれでも良いかなとも思った。
それからしばらくして、私は中学に上がることになった。
学校内でゆーくんの面倒が見られなくなるのがとても心配だった。
せめて登下校だけでも一緒に・・・!
とも思ったが、父から私立の女子中学校に通うことを厳命され、それはかなわなかった。
地元の公立中学に通うのは許されなかったのだ(荒れていたからね)
いずれにせよ、登校は一緒に通えても、下校時に迎えに行くのは無理だったけどね。
まあ、私が用意したスパイたt・・・もとい、私のファンになったらしい女子クラスメートがつねに報告してくれていたので、ゆーくんの状況は把握できていたのでさほど問題はなかったかな。
ゆーくん自身も、体が大きくなり体力が増していったことで喘息も克服し、いじめられなくなったことで本来の明るさを見せるようになって、クラスの人気者になっていったらしい。
結構ラブレターをもらっていたとか。
ふふ。
まあ私の目の黒いうちは、カンタンにはゆーくんの彼女とは認めませんけどね♪
・・・さて、
ファンの女子たちからの報告は随時確認して、少なくとも、いじめの心配は無くなったので、徐々に介入することは減らしていったのは確かだ。
でもかならず写真は撮らせてもらっていたので、月イチくらいでスマホの待ち受けに切り替えていたけどね。
大きくなるに連れて、少しずつ嫌がるようになってきたけど・・・。
私と先輩
また時は過ぎ、私は中学から高校生になった。私の通う学園は、中学は女子校だが高校からは共学になる。
まわりの友人達は、彼氏を作るんだ!と浮足立っていたけれど、私は正直男子に全然興味がなかった。
ゆーくんのお世話で心が満たされるので、他はどうでも良かったのだ。
ゆーくんは小学5年生。
体は大きくなってきたけど、まだまだ幼さがあふれ出ていてたまらないものがありました。
でも、このころにはもうハグさせてくれなくなっていたけどね・・・。
高校では休み時間に屋上でスマホのゆーくんアルバムをチェックするのが日課だった。
あまり学校は楽しいと感じてはいなかったので、これが至福の時間。
そんなある日、
「お前かw子育てしてるJKってw」
唐突に男子から声をかけられる。
ちょっとイラッとして声の方向をみると、そこには1人の男子生徒が立っていた。
よく見れば同学年じゃない。
うちの学校は制服のネクタイの色で学年を区別していて1年は紺。
そして生徒のネクタイは赤、つまり2年だった。
「センパイ・・・ですか?でもちょっと失礼ですよ?」
「ああ、悪かった。バカにするつもりじゃないんだ。
俺、将来ライターになろうと思っててさ、いろんな事に興味を持っちゃうんだよ。
で、お前のことが噂になっててさ」
見ればこの先輩、校内でも有名な人だった。
コミュ能力が低いわけではないのに、群れるのは嫌い。
だから割と1人でいることが多いらしい。
でも、なんていうんだろう、一度見たら目が離せなくなる。
不思議な存在感を感じる人だった。
そんな人なのに、私にはすごく興味をもったらしく、学校で私が1人のときは大抵話しかけてくるようになっていた。
もちろんいつも屋上だった。
「瀬島、弟のことばっか考えてないでさ、JKとして今この瞬間を楽しんだら?w」
「いーんです!正直言えば男子興味ないんで!私にはゆーくんだけいればいーんです!」
あまりに先輩が私にからんでくるので、どうも校内では噂になっていたようだ・・・。
そう、私と先輩がつきあっている、と。
「桜華ちゃん、ズバリきくね!?先輩とつきあってるんでしょ?」
友人の女子からストレートに聞かれたこともある。
「違うよ―。私、男の人って良くわからないし」
「えーそうなのー?すごく仲良さそうなのにー!」
いまいちピンと来なかった。
ハッキリしているのは嫌いじゃない、というだけ。
それに先輩も、なんというか、私のことを異性としては見ていなかった気がする。
お互いにどこか「浮いた存在」だったからシンパシーを感じていたのかもしれない。
私は先輩のように周りに対して壁を作っていたわけではない。
親しく接してくる友人がいれば、同じようなテンションで接することはできていた。
でも本当はそれは表面だけだったのかもしれない。
私にとってはゆーくんを守りたい、ということが全てであって、それ以外のことというのはついででしかなかったから。
そういうところを先輩には見抜かれていたのかもしれない。
正直に言えば、先輩との軽口の叩きあいを楽しんでいる自分もいたのも確か。
先輩がからんでこない日はちょっと調子が狂う感じもあった。
しかし、高校時代は短いもので、先輩が卒業するときが来た。
私はもしかして、と思い屋上に行ってみるとそこにはいつものように先輩がいた。
「よう」
いつもと変わらない感じの先輩だった。
「先輩、卒業おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。
といっても俺にとっては卒業したからどうってことはないんだけどな」
「先輩とお話するのもこれで最後ですかね」
「そうかもしれないな。」
「ちょっとシャクだけど、すこし寂しいなと思う私もいるので連絡先を教えて下さい」
そう、実は私は先輩の携帯番号すら知らない。
学校でのやり取りだけで十分だと思っていたからだ。
「携帯か。教えるけど、連絡取れないかもしれないぜ?」
「なんでですか?」
「俺さ、来月にでも日本を発つ予定なんだ」
「!」
外国に行く?
いきなりの展開に戸惑っていると先輩は続けてこういった。
「この年で何を・・・と思うかもしれないけどさ、
ちょっとしたライフワークのようなものがあってな。
それをやらないといけなんだ。」
「ライフワーク・・・」
18歳の男子がライフワークという言葉を口にするととても似つかわしくないんだけど、先輩の場合はなんだか納得できてしまうような雰囲気がある。
「で、だ」
「お前との軽口の叩きあいもこれで最後・・・かどうかはわからないけど、
少なくともそうそう会えないのは確かなんでね。伝えておきたいことがあってさ」
えっ・・・。
先輩はそういう感情を持ち合わせていないと思っていたけど、まさか?
考えたら急に顔が火照ってきてしまった。
「お前さ、弟から卒業したら?」
「はい?」
ぜんぜん違う方向のことだった。
「弟ってか、本当は従弟だっけ。いつかソイツはお前から巣立っていくよ。
それも遠くない将来にね。そのときお前はどうするの?
従弟に彼女なり、嫁さんできたら?さすがに干渉できないだろ?」
「・・・」
ゆーくんに、お嫁さん・・・!
想像したこともなかった。
想像したくもないことだったけど。
「従弟が自分から巣立っていって、
若いままボケるわけにもいかないだろ(笑)
若いなら若いなりの生き方をしたほうがいいよ」
なんだか久しぶりに先輩にイラッとしてきた。
私のイラつきを知ってか知らずか先輩は続ける。
「思えば、お前はずっと従弟を守るために頑張り続けてきたわけなんだけど、
でもお前を守ってくれるヤツはいないよな。」
自分の人生はゆーくんのためにあるように思っていたから、考えたこともなかった。
「だからさ・・・」
「だから?」
「俺みたいなメンドクサイやつと仲良くしてくれたよしみだ。
お前に本当に困ったことが起きたら、助けに行くよ」
フェイントをかけられたようになったため、再び顔が火照ってしまった。
こういう言葉の意味ってわかってるのかな?
「せ、先輩は、連絡とれないかもって言ってたじゃない!」
動揺してしまい精一杯の反論がこれだった。
「行くよ。本当に困ったときは絶対に」
そういながら頭をポンポンされ、さらに動揺していると、
「じゃあな」
と声をかけられ、気がつくと先輩はいなくなっていた。
こうしてゆーくん以外に、私に強い感情と記憶を残した男の人、
リョウ先輩は学校を去った。
そのあと本当に一切連絡が取れなくなり今日に至る。
本当はリョウ先輩をどう思ってたか?
考えたくもないです。
それからは、私も高校を卒業して大学に進学したけど、特に思い出深い記憶はあまりない。
高校生になったゆーくんのお弁当を毎日作っていたのはもちろん覚えてますとも!
かわいく作ったので写真アルバム化して保管してあります!
これが巣立ち・・・?
そしてゆーくんが高3の時。VR事件が起こった。
そう、VR体験をしたゆーくんが体験中の事故で夢から覚めなくなってしまったのだ。
おそらく、私の人生の中で最大に動揺した瞬間だっただろう。
ものすごく取り乱してしまったが、私よりももっと動揺していた叔母さまを見た瞬間、少し冷静になることができた。
どうやったら目を覚ますことができるか。
お医者様もまったく見当がつかないという状態のなか、一つの希望があった。
それこそEIOのエリオット君。
もとい、本当はエリ(エリス)ちゃんというお人形みたいにカワイイ女の子。
彼女は実は世界でも有名な天才と言われていて、16歳ながらすでに大学にスキップし、脳科学の権威マクミラン教授の一番弟子と言われているという。
私はその場にいなかったけれど、エリちゃんはお医者様とかけあい、マクミラン教授も動かしてゆーくんの夢の中に入り、中から目覚めを促すそうだ。
他人の夢の中に入る、という技術もすごいのだが、
聞くところによると夢に入る人=ダイバーにも危険がともなうらしい。
2人の状況をモニターしているマクミラン教授から、お医者様に危険な状況が伝えられ、特に2人の思考から「EIO」というキーワードが何度も繰り返されていると聞いた。
教授はなんのことかわからなかったようだが、私にはピンときた。
あの2人がEIOという言葉を考えるとしたら「エターナルイマジン」しかありえない。
そこで私はマクミラン教授を説き伏せ、日本で唯一ドリームキャッチャーを所持する人に交渉し借り出して、私自身もゆーくんを救うべくダイブすることにした。
マクミラン教授を説得してさらに「ルールブレイク」という悪夢の制約を受けず、自分の付けたい力を持った状態で夢の中で活動する力ももらった。
もちろんゆーくんの神聖騎士のデータも入手して、だ。
わかりやすいパスワードだったし♪
ゆーくんの夢は、現実とファンタジーが混ざったような世界になっていた。
現実のような町並みをサイクロプス(機械っぽい?)が破壊しているのだ。
案の定、戦う力のないゆーくんと、「ルールブレイク」を持っていても慣れない治癒術士の力を使っていたエリちゃんは苦戦していた。
私はゆーくんに声をかけると、持ってきた神聖騎士の力を転送する。
「間に合いましたね、騎士さま♪」
こうして3人でゆーくんの悪夢の核となっているサイクロプスを倒し、ゆーくんを目覚めさせることができたわけだ。
私は夢の世界に入ったのは1時間にも満たず、そんなに疲労は感じていなかった。
けれど、3日間寝たきりだったゆーくんと、ゆーくんを目覚めさせようとがんばっていたエリちゃんは、少し衰弱していた。
だから、作戦終了後すぐに私は目をさますことができたけど、2人は少し時間がかかったようだ。
その後、目覚めたゆーくんと、エリちゃんと対面し、ここで私は理解した。
これが先輩の言っていた「ゆーくんの巣立ち」なのだろうと。
エリちゃんが自分の危険も顧みずゆーくんを救おうとしたこと。
それとエリちゃんの姿が、ゆーくんの好きなアイドルに良く似ているということもある。
なにより、エリちゃんがとても一途にゆーくんのことが好きだっていう気持ちが伝わってくる。ゆーくん、こういう子には弱いよね。
だからいずれ、この2人は結婚まで行っちゃうんじゃないかと直感した。
「桜華さん、なんて他人行儀じゃなくて、おねえちゃん、って呼んでいいのよ?」
なんて言ってみた。
エリちゃんは実際とてもカワイイし、妹が欲しいと思ったこともある。
だからいつか絶対に「おねえちゃん」と呼ばせようと思う。
それは本当なんだけど・・・。
どこか少しさびしい、そんな感覚も覚えてしまったのも本心だった。
数年ぶりに先輩の声が頭に響く。
《いつかソイツはお前から巣立っていくよ? その時、お前はどうするの?》
どうしたら、良いんだろう・・・。
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