自民党は今月行われる党総裁選に向けて公平・公正な報道を求める要望書を報道各社に配った。要望という形での報道威圧は、安倍政権の「お家芸」のようなものでもあるが、今までとはレベルが違う。報道各社からは怒りと戸惑いが漏れてくる。この要望文書、どこが今までと違い、問題なのか――。

掲載面積も「平等・公平」に扱うことを求める

問題の文書は8月28日付。自民党総裁選管理委員会の野田毅委員長名で新聞、通信社あてに配布された。

内容は、報道機関に公平・公正な報道を求めた上で

1.新聞各社の取材等は、規制いたしません。

2.インタビュー、取材記事、写真の掲載等にあたっては、内容、掲載面積などについて、必ず各候補者を平等・公平に扱って下さるようにお願いいたします。

3.候補者によりインタビュー等の掲載日が異なる場合は、掲載ごとに総裁選挙の候補者の氏名を記したうえ掲載し、この場合も上記2の原則を守っていただきますよう、お願いいたします。

自民党が新聞につけた"悪質な注文"の中身: 衆院本会議場で、石破茂地方創生担当相(当時)と話す安倍晋三首相(2015年07月16日、東京・国会内)(写真=時事通信フォト) © PRESIDENT Online 衆院本会議場で、石破茂地方創生担当相(当時)と話す安倍晋三首相(2015年07月16日、東京・国会内)(写真=時事通信フォト)

という内容だ。今回の総裁選は8月末の段階で安倍晋三首相と石破茂元党幹事長の一騎打ちとなる構図は固まったので「2人を公平に報道してください」という意味になる。

衆院選前の「2014年文書」よりはるかに悪質

2012年に安倍氏が首相の座に返り咲いた後、安倍官邸や自民党は、メディアへの干渉を繰り返してきた。政権に近い読売新聞、産経新聞の単独インタビューは積極的に応じ、批判的な朝日新聞、毎日新聞などは冷遇する「マスコミの分断」は、その入り口だ。

世論の根強い反対の中で成立させた特定秘密保護法、改正組織犯罪処罰法(いわゆる「共謀罪」法)も、批判的なメディアを萎縮させる狙いがあったという指摘も受けている。

直接的にメディアへ介入したとして問題になったのは、2014年11月。衆院選を前にしてNHKと在京民放テレビ局に対して自民党が選挙報道の公正中立を求める要望書を提出した。この結果、テレビの選挙報道は、政党や候補者の主張を垂れ流す「無難」なものになり、激しく安倍氏を批判する街頭インタビューのようなものは目に見えて減った。

今回、総裁選を前に自民党が出した文書は、この「2014年文書」を想起させる。ただし、今回の文書のほうがはるかに悪質だ。

総裁選は1政党の党首選に過ぎず、公選法の対象外

3つの点を指摘したい。報道機関は、衆院選などの国政選挙や地方の首長、議会選挙などでは公選法の「虚偽の事項を掲載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」という規定などを意識し、各政党、各候補、公平な報道を心掛けている。

しかし、自民党の総裁選は1政党の党首選。有権者も党員・党友に限られており、公選法の縛りはかからない。もちろん、自民党総裁選は事実上の首相を決める選挙なので、新聞、テレビ各社は国政選挙の報道に準じて公平な報道を行うが、それは自主的な取り組みである。総裁選を主催する党側が報道内容に口出しする権利などない。

2点目は「2014年文書」がテレビ局対象だったのに対し、今回は新聞社をターゲットにしていることだ。

同じ報道機関ではあるが新聞とテレビは法的な位置づけが違う。テレビ局は放送法に基づいて総務省から周波数の割り当てを受ける免許事業なのに対し、新聞は免許を受けなくても発行できる。新聞のほうが、より自由な立場で報道できるのだ。もちろんテレビ局にも権力の介入は控えるべきではあるが、今回の要請対象が新聞社であることは、メディアへの介入がさらに一歩進んだ印象を抱く人も少なくないだろう。

「取材拒否すれば相手の報道も封じられる」という理屈か

3点目。要請内容が妙に細かいのだ。文書では、候補者の報道の「掲載面積」を平等にするよう求めている。これは問題が非常に大きい。

例えば安倍氏は9月11日から13日にかけて「東方経済フォーラム」出席のためロシアのウラジオストクを訪れる。その間、安倍氏は総裁選候補としての活動は休むことになる。日々、両候補を日々公平に扱おうとした場合、その期間、地方回りなどをする石破氏の動静の記事は極めて限定的にせざるを得ない。

新聞各紙が候補者のインタビューを企画したとしよう。しかし、もしある新聞社と特定候補の折り合いが悪かったり、物理的な事情があったりしてインタビューが実現しなかったらどうなるか。要請文の内容をそのまま解釈すれば、せっかくインタビューした候補の記事も掲載を見合わせなければならない。裏返せば、取材拒否を続ければライバルについての報道も封じこめることができるという理屈になる。

単純に安倍氏の指示で文書ができたとは言えない

文書を受けて新聞各社の対応はどうか。目立つのが毎日新聞。8月30日付朝刊で「介入の前に公平な選挙を」というタイトルの社説を掲載。全編怒りが感じられる社説で、直ちに要請を撤回するよう求めている。長野県の有力紙・信濃毎日新聞も31日付で同趣旨の社説を掲載している。

今回の文書作成にあたり、安倍氏の意向がどこまで反映されていたのかは分からない。「14年文書」は安倍氏の側近である萩生田光一筆頭副幹事長らの名で出たが、今回文書提出者でもある野田選管委員長は、安倍氏に近い人物ではない。消費税増税の先送り方針を巡り安倍氏に異論を唱え、冷や飯を食わされている長老議員だ。単純に安倍氏の指示で文書ができたとは言えない。

また党内には、敗色濃厚の石破氏を3選有力の安倍氏と対等に扱うように要請することで度量の広さを見せたという好意的な見方もある。

「不公正」から「公正」を求められても……

仮に、今回の文書は安倍氏の指示でつくられたものではなかったとしよう。それでも今回の出来事は、政権復帰後6年に近づく安倍政権下では、報道機関への介入するのが当然のことになっていることを示しているともいえる。

石破氏は今回の総裁選でのキャッチフレーズを「正直、公正」としている。これは安倍氏が「不正直、不公正」であるとあげつらったとの見方があり、安倍陣営は、不快感を表明している。しかし、少なくとも「不正直、不公正」とみられている安倍自民党から「公平・公正」な報道を求められる筋合いはないのである。

(写真=時事通信フォト)

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北海道警がひた隠す露出警官の父親

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オーストラリア・メルボルンの研究施設で、多剤耐性菌の表皮ブドウ球菌を調べる研究者(2018年9月4日撮影)。

超強力な「多剤耐性菌」病院でまん延

【AFP=時事】あらゆる種類の既存の抗生物質に耐性を持ち、「重症」感染症や死を引き起こす恐れのあるスーパーバグ(超微生物)が世界各地の病棟を通じて検出されないまま広がっていると警告する研究論文が3日、英科学誌ネイチャー・マイクロバイオロジー(Nature Microbiology)に発表された。 豪メルボルン大学(University of Melbourne)の研究チームは、世界10か国で採取したサンプルから多剤耐性菌の変異株を3種発見した。この中には、現在市販されているどの薬剤を使用しても確実に抑えることが不可能な欧州の変異株が含まれている。 メルボルン大の公衆衛生研究所微生物診断部門を統括するベン・ホーデン(Ben Howden)氏は、AFPの取材に「オーストラリアで採取したサンプルを手始めに全世界に調査を拡大した結果、この多剤耐性菌が世界中の多くの国々の多くの医療機関に存在することが明らかになった」と語り、「この耐性菌は、すでにまん延しているようだ」と指摘した。 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)として知られるこの細菌は、これより有名で病原性の高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の近縁種とされる。 人の皮膚に常在する表皮ブドウ球菌は、カテーテルや人工関節などの人工物を使用した高齢者や患者に感染症を引き起こすケースが最も多い。「命に関わる恐れもあるが、それは通常すでに重症となっている入院患者の場合だ。根絶は困難を極める可能性があり、感染症は重症となる恐れがある」と、ホーデン氏は説明した。 ホーデン氏のチームは、世界各地の78の病院から集めた表皮ブドウ球菌サンプル数百件を調査した。 その結果、表皮ブドウ球菌の一部の菌株のDNAに生じたわずかな変化が、最も広く用いられている抗生物質のうちの2種への耐性をもたらしていることを発見した。この2種の抗生物質は、院内感染症を治療するために並行して投与されることが多い。 最も強力な抗生物質の多くは非常に高価で毒性もあるため、耐性を回避するために複数の薬剤を同時に投与する治療行為は有効ではない可能性があると、研究チームは指摘している。■「最大の脅威」 スーパーバグが急速に広まっている理由としては、患者が最も重症で作用の強い薬が日常的に処方される集中治療室(ICU)で、抗生物質が特に大量に投与されているせいだと考えられると、研究チームは述べている。 今回の論文は、感染がどのように広がるかや、病院側がどの細菌を標的に選ぶかなどに関する理解を向上させる必要があることを示していると、ホーデン氏は指摘した。「抗生物質をますます多く投与することが、細菌の薬剤耐性の増大を助長していることを、今回の論文は浮き彫りにしている」と、ホーデン氏は述べた。「病院内環境に存在するすべての細菌に関して、菌株の耐性強化が人為的に促進されており、抗生物質に対する耐性が全世界の入院治療にとって最大の脅威の一つとなっていることに疑いの余地はない」 【翻訳編集】AFPBB News

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