2020年の東京五輪・パラリンピック期間中の暑さ対策として、政府が導入を検討しているサマータイム。
IT業界団体からは「2年後の実施は技術的に対応できない」など反対の声が上がっている。
サマータイムは、現状より時刻を1〜2時間早くすることで、気温の上がらない時間帯を競技時間として活用するのが狙い。
エネルギー消費が抑えられ地球温暖化対策にもつながるという意見もあるが、国民の生活や経済活動に大きな影響を与えることから懸念する声も多くある。
菅義偉官房長官も8月30日の記者会見で、「国民の日常生活にも大きな影響が生じる」と慎重な姿勢を示している。
IT業界団体からも反対の声
サマータイム導入に、IT業界からも反対の声が上がっている。
一般財団法人情報法制研究所(以下、JILIS)は9月2日、都内で「サマータイム導入におけるITインフラへの影響に関するシンポジウム」を開いた。サマータイムが導入された場合の技術的な問題点を整理、指摘した。
会冒頭で、鈴木正朝理事長は「当事者であるIT業界団体から声が上がっていない。問題提起する必要があり、開催した」と話した。
サマータイム導入で起こり得ること
立命館大情報理工学部教授でJILIS理事の上原哲太郎さんは、サマータイム導入で起こり得る技術的なこととして、主に以下の4点を挙げた。
- 長波報時局の電波を受信して世界時を作っている機器が正しい世界時を設定できなくなる
- 各地の時差を示すタイムゾーン情報をアップデートするまで正しい夏時間をOSが供給できない
- タイムゾーン情報がないOSでかつ、時差情報を必要とするアプリは改善が必要
- 時差を考えないアプリの挙動は不明
このほか、NTPとGPSは世界時のままなのに対し、長波JJYはサマータイム、TV放送は日本時+時差、スマートフォンは世界時+時差と、それぞれ日本時なのか、サマータイムなのかが定まっていないと指摘した。
あと2年では不可能です
上原さんは、1999年の「地球環境と夏時間を考える国民会議」の試算を例に出す。最終報告書によると、このとき、サマータイムに必要な周知期間は2年程度とされていた。
しかし、上原さんは「現在は時計の自動設定を行う機器が格段に増えた(まさにIoT時代ではないか)」「サマータイムに対応したアプリ開発を理解できないプログラマは多そう…」などを理由に挙げて、2年では準備期間が短いとした。
社会的な大混乱を起こすことなく、実施することは不可能とする。
その上で以下の点を主張。
- インフラ更新は4〜5年欲しい
- ソフト更新も大規模なら3年欲しい
- 家電などで対応不能で修正または交換する必要がありそうなので国民負担が発生する
- イノベーションに充てる人材をサマータイム対応で使い潰すな!
4〜5年と期間を設けた理由に、時刻の自動設定問題やロケール更新問題(OS時刻問題)、データの健全性などを挙げている。
シンポジウム参加者からは、為替や国際送金など海外とのやり取りが発生する場合はどうか、気象関係などビッグデータを扱うケースはどうすればいいかなどの質問が出た。
EUはサマータイム廃止宣言
サマータイムに関しては、新日本スーパーマーケット協会と日本加工食品卸協会が、農林水産省に実施を取りやめるよう求めた。
移行および終了時の受発注システムや物流への悪影響に加え、生鮮食品の供給不安や消費期限表示の混乱による健康被害を懸念する声があるためだ。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は31日、サマータイムの廃止を提案する方針を決めた。
1970年代後半からサマータイムの本格的な普及してきた欧州。健康面への悪影響から廃止論が強まっており、7月から8月中旬にかけて実施したパブリックコメントでは84%が廃止を支持していた。
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