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オープンワールドの問題点と、意外な解決策
以前、このような記事を書いたことがある。
基本的に、マップのオープンワールド化はゲームプレイの希釈化だ。
同じ予算でマップの広さを5倍にすれば、当然ながら濃度は5分の1になる。むしろレベル同士の繋がりが薄れて分断し、かえって局地的なマップで狭苦しく遊ぶハメになる。
特にオープンワールドを純粋に「戦場」として活用する作品は、『Far Cry』にしても、『MGS:TPP』にしても、マップをむやみに広げるだけで、実際に使える戦場は狭く薄いという課題を抱えていた。
つまるところ、「別にそれオープンワールドじゃなくて良くね?」というゲームが山程存在したのだ。
『Sniper Elite 4』は、こうしたジレンマに極めてスマートな手段で解決をもたらした。
考えてみれば簡単だ。あえて広大な戦場を好む兵士など彼らしかいない。それはスナイパーである。
本シリーズの系譜を辿ると、13年前まで遡る。初期はシンプルなレベルクリア型だったが、本作『4』からオープンワールド化して四方から攻略できるような作りになった。
ただオープンワールドといっても、全てのマップが繋がっているわけでなく、1つ1つのマップがバカみたいに広く複雑という感じだ。そのためロケーションも、軍港、森林、市街地と豊富。
まず想像した以上に、オープンワールドと『Sniper Elite』の相性は良かった。
これまでは決まった狙撃ポイントで決まった順番で敵を倒すという、パズル的なプレイフィールが作業的に感じたが、今作では自分で狙撃ポイントを決め、好きな順番で攻略する自由がある。
何より、何百メートルも先にいる目標を補足して、その周囲の敵を掃討する計画を練るのは大変楽しい。その間の遮蔽物、高所、敵の兵器、バンカー、目標までのルート、それらを、マップと双眼鏡をにらめっこしながら、従来の作品の何倍ものスケールで計画できる。
先述したように、例えば『Far Cry』は数キロ平方メートルマップを用意されているが、敵と撃ち合う距離はせいぜい30m程度で、下手をすると『Call of Duty』よりも狭い。だが本作は、ちゃんとオープンワールドの地形を生かして戦う必然性がある。
『Sniper Elite 4』のもう一つクールな魅力は、オープンワールドを利用するゲームにおいて、大抵強すぎて忌み嫌われる「狙撃」という戦略を、逆にゲームプレイに昇華させた点である。
この手のゲームにおける狙撃は、「敵に包囲されにくい」「発覚されても逃げやすい」「一方的に敵の位置を確認できる」と種々メリットがある一方、強すぎて他の手段が意味をなさなくなる、致命的なデメリットがある。
そうなると、敵の懐に忍び込み、ギリギリバレない視界外から敵を一人ずつ暗殺する、ステルスゲーム本来の緊張感は味わえないし、せっかく用意された突撃銃や短機関銃は無用の長物と化してしまう。
ならば逆転の発想で、狙撃以外の攻略法を奪えば良い、というわけだ。その代わり、狙撃にゲームプレイとしての深みをもたせ、戦略的な優位を与え、敵側にもカウンターとなる戦法を代わりに用意する。
この発想により、『Project IGI』より約20年近くゲリラシューターが悩んできたアキレス腱は、最大の強みとなったのだ。
数百メートルを射程とする狙撃銃とオープンワールドの相性は格別だ
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狙撃に特化したルールと、最高に地理を活かした戦闘
ただ、オープンワールドでスナイパーになりきるという発想自体は、さして珍しくない。この発想を、様々な制約と工夫を加えて発売したからこそ、『Sniper Elite 4』は評価が高い。
まず、先程チラっと述べたように、ゲリラシューターの禁じ手である狙撃を大々的に解禁する一方、様々な制約をプレイヤーに化している。
1つ、サブ武器が弱い。今から70年以上前の戦場なので、バックアップは古い短機関銃やリボルバーと少し心許ない。つまり接近戦は原則として許されない。
2つ、ステルスが難しい。今作の消音銃は射程が短く、かといってライフルは弾道と爆音で即座に位置がバレる。故に、ステルスの維持が難しく、定期的に位置を変えたり、素早く精確に敵の頭蓋を吹き飛ばす必要がある。
3つ、これが一番大きいのだが、狙撃という最強戦術唯一の弱点として、弾薬の補給が出来ない。
普通FPSは敵の死体から弾薬をスカベンジすることで兵站を確保するが、狙撃ではそれが出来ない。故に広大なマップを冒険して弾薬庫を探したり、リスクを冒して敵地に飛び込む必要がある。
敵は狙撃で倒せるが、機密資料や弾薬を取るために結局近づく必要がある。
そんなこんなで、狙撃オンリーのゲリラシューターとして、本作は色々なルールを課すことで洗練している。
接近戦が許さず、かといって常に位置がバレるのは結構怖い。これに対し、研ぎ澄まされたエイムによる狙撃技術と、複数のポジションを移動しながら狙撃する、地理への理解が問われる。マップを把握していなければ、狙撃のメリットは全く活かせない。
いよいよ、スナイパーらしくなってきただろう。
加えて、本作で何より評価したいのがマップのデザインだ。
先程「オープンワールド化したマップは薄い」等と言ったが、この作品はこの限りではない。むしろ並のシューターのマップより、余程「濃い」。
まず、全体的に高低差を意識したマップが多い。狙撃は高所から行うもの。常に有利なポジションを意識しながらマップを探索できる。
加えて、室内まで作られた建物が多く存在している。これは戦略的な多様性も与えており、建物は遮蔽物や高所といったスナイパーにとって居心地の良いネストとなるが、それは敵も同じで、建物に隠れた兵士を狙撃で仕留めるのは中々に苦しい。
この、オープンワールド全域を縦横無尽に走り回って、有利なポジションを奪い合う戦いが、これ以上無くリアルな「戦場感」を与える。常に大局を考えて戦う戦略性がある。
近距離は苦手だが、SMGや格闘攻撃、手榴弾など様々なアプローチも用意されている。
結論
『Sniper Elite』はこれまでパッとしない印象が拭えなかったが、今作『4』からはオープンワールドを活かした狙撃戦とゲリラシューターという組み合わせにより、極めて戦略的でユニークな名作に仕上がっている。
複数武器が用意されてる割に初期武器以外のメリットが薄いとか、ストーリーが壊滅的にしょーもないとか、DLCの消音武器が強すぎてバランスが壊れるとか、全て称賛できる作品でないのは確かだが、シューターやステルスに関心のあるゲーマーなら間違いなくプレイする価値のある作品だ。