イベントレポート

Huawei、世界初の7nmプロセス採用モバイルSoC「Kirin 980」

~Cortex-A76/Mali-G76搭載のモンスターSoC、Mate 20に搭載予定

Kirin 980を手に持つHuawei Technologies コンシューマビジネス事業本部 事業最高責任者 リチャード・ユー氏

 Huawei Technologies(以下Huawei)は、8月31日~9月5日の6日間に渡ってドイツ共和国ベルリン市のベルリンメッセで開催されているデジタル・家電関連展示会のIFAの初日(8月31日)に行なわれた基調講演にHuawei Technologies コンシューマビジネス事業本部 事業最高責任者 リチャード・ユー氏が登壇して同社の戦略などについて説明した。

 ユー氏はこの中で、同社が独自に設計して自社デバイスに搭載しているスマートフォン向けSoC「Kirin」シリーズの最新製品となるKirin 980を発表し、同社が10月16日にロンドンで開催を予定している新スマートフォン「Huawei Mate 20」に搭載する予定であることを明らかにした。ユー氏によれば、Kirin 980は7nmのプロセスルールで製造され、69億のトランジスターから構成されており、CPUはArmのCortex-A76、GPUはMali-G76という最新CPU/GPUを搭載している。

 また、ユー氏は高画質カメラで人気を集めているHuawei P20 Proに新色を追加したこと、Amazon Alexaを採用したスマートスピーカーとなるHuawei AI Cube、セルラー回線を利用して位置を特定するIoT機器「Huawei Locator」なども併せて発表した。

世界初の7nmプロセスルールで製造されるモバイルSoCとなるKirin 980

 Huawei Technologies コンシューマビジネス事業本部 事業最高責任者 リチャード・ユー氏は、昨年(2017年)もこのIFAで基調講演を行なっている。そこで世界初のNPU(Neuron Processing Unit)搭載スマートフォン向けSoCとなる「Kirin 970」を発表した(昨年の記事HuaweiのAI内蔵CPU「Kirin 970」はスマホの進むべき道を示す重要な製品だを参照)。

昨年の発表

 その1年後となる今回のIFAでは初めにそのKirin 970のリリースを振り返った後で、今年の新製品として「Kirin 980」を紹介した。

Kirin 980

 ユー氏によれば、Kirin 980のスペックは以下のようになっているという。

【表1】Kirin 980
Kirin 980Kirin 970(参考)
CPUCortex-A76(4コア)+Cortex-A55(4コア)Cortex-A73(クアッド)+Cortex-A53(クアッド)
GPUMali-G76Mali-G71
NPUデュアルシングル
ISPデュアルデュアル
メモリLPDDR4XLPDDR4X
モデムCat.21(下り最大1.4Gbps)Cat.18(下り最大1.2Gbps)
製造プロセスルール7nm10nm
トランジスタ数69億55億

 昨年のKirin 970からはCPU、GPU、NPUが強化されている。CPUはKirin 970のCortex-A73(クアッド)+Cortex-A53(クアッド)の構成から、Armの最新ハイエンドCPUデザインIPになるCortex-A76(クアッド)+Cortex-A55(クアッド)になっている。

7nmプロセスルール

 かつ、最新のArmのマルチコア技術となる「DynamIQ」(ダイナミック)の活用して、Cortex-A76は最高速の2コア、中高速の2コアに分割されており、低速で動作するCortex-A55の4コアと併せて、「高速の2コア+中速の2コア+低速の4コア」というコンフィグで実装されている。従来のbigLITTLEでは大小2つの切り替えしか出来なかったのに比べるとより柔軟な使い方が可能になる。

CPUの特徴や性能

 Kirin 980のCPU性能は、Kirin 970と比較して処理能力は75%向上し、電力効率は58%向上しているという。また、QualcommのSnapdragon 845との比較データを示し、Kirin 980はSnapdragon 845と比較して性能で37%、電力効率で32%優れていると説明した(なお、Kirin 970とKirin 980の上がり幅と併せて考えると、現行製品同士=Kirin 970とSnapdragon 845の比較ではSnapdragon 845が優れているということになるが……)。

GPUの特徴
左がKirin 980のフレームレート、右がSnapdragon 845のフレームレート
Snapdragon 845、A11との比較

 GPUもKirin 970世代のMali-G71からMali-G76へとアップグレードされている。Mali-G76は演算性能が向上しており、Kirin 970に搭載されていたMali-G71と比較すると性能が46%向上し、電力効率では178%改善しているとのこと。

 そして実際のゲームを利用したデモを行ない、Kirin 980はリフレッシュレート(60Hz)いっぱいまでフレームレートが上がるが、Snapdragon 845は30~50fpsであるというデモを行ない、Snapdragon 845に比べて性能では22%、電力効率では32%優れているとアピールした。

 なお、Kirin 980では「GPU Turbo」というモードが用意されており、それを利用するとゲームプレイのさらなる性能向上や電力効率の改善が実現できると説明した。

ISPも新設計に
暗いところでのSnapdragon 845との画像の鮮明さの比較、同じCMOSとレンズを使っている

 なお、ISP(Image Signal Processor、画像処理を担当するエンジン、カメラの画像をJPEGなどに変換する処理を担当する)は、Kirin 970と同じく2つ搭載されているが、内部のアーキテクチャは改良されており、画像処理にかかるスピードは46%、録画時の電力効率は23%向上し、録画時のレイテンシは33%低減と、性能が向上していると説明し、「とくに周囲が暗いときには新しいISPの高性能が聞いてくる」と述べ、周囲が暗い環境、つまりは夜景の撮影などで大きな効果があるとした。

ユー氏のスライドに小さく書かれていた「出典」

 なお、ユー氏はこのKirin 980を世界最初の7nmで製造されるモバイルSoCと表現したが、どこのファンダリーを利用して製造しているのかは明言しなかった。ただし、資料には「出典:TSMC」という表現がされているので、TSMCで製造されていると理解することが可能だろう。

NPUは2つになり処理能力が向上し、動画の切り出しなどが出来るようになる

 Kirin 970で導入されたディープラーニング(深層学習)の推論アクセラレータとなるNPU(Neuron Processing Unit)に関しても手が入れられており、今回のKirin 980ではエンジンが2つ搭載されている。このデュアルNPUにより、Kirin 980では物体認識がより詳細に行なえたり、従来はリアルタイムのイメージ処理が静止画だけだったのが動画も可能になったりする。

強化されたNPU
街を走っているランナーを自動認識して切り出して他のシーンに貼り付けるなどの処理が可能になる

 これにより、推論時の性能が大きく向上しており、画像認識にかかる時間などが大幅に短縮できるとした。公開したデータによれば、500枚の写真を認識するのにかかった時間はKirin 980が6秒、Snapdragon 845が12秒、AppleのA11 Bionicが25秒だったということで、Kirin 980のデュアルNPUの性能の高さをアピールした。

Kirin 980が6秒、Snapdragon 845が12秒、AppleのA11 Bionicが25秒
Snapdragon 845との比較

 また、Kirin 980では内蔵されている無線関連も強化されている。Kirin 980ではLTE-Advancedのカテゴリー21(Cat.21)に対応しており、4x4 MIMO+256QAM+3CC CA=1.2GHzと2x2 MIMO+256QAM+1CC CA=200MHzを合計して1.4Gbpsで通信できる。

 ただし、通信キャリアが3CA+1CAという4つの帯域を持って行かなければいけないことが前提条件になるし、なによりもシステム側に4x4 MIMOのアンテナと2x2 MIMOという2系統のアンテナが必要になる。率直に言って、短期的にはかなりという表現ではなくてほとんど不可能に近い条件だと言っていいだろう。むろん技術的にはできるので、端末をある程度多くして、3CA+1CAにキャリア側が対応すれば使える可能性はある。

無線関連のアップデート

 また、いわゆるGigabit Wi-Fiと呼ばれるIEEE 802.11acの1.73Gbpsでの通信モードにも対応している。このほか、2つの周波数に対応したGPSにも対応しており、位置精度が高まっていると説明した。

 Kirin 980の機能ではないが、Huaweiでは5Gに対応したセルラーモデムとして「Banlog 5000」を用意しており、5Gがレディになれば、これを追加することで5Gに対応したスマートフォンを製造することが可能になる。

5GモデムBanlog 5000を外付け搭載可能

 最後にKirin 970とQualcommのSnapdragon 845を比較したチャートを用意し、ほぼすべてのエリアでSnapdragon 845より上回っているとアピールした。GPUを利用したゲームベンチだけはほぼ同等とのことだが、それもGPU Turbo機能を使うと上回ってみせると主張した。ユー氏は「このKirin 980を搭載した最初のスマートフォンはMate 20になる、10月16日ロンドンで発表する予定だ」と述べて、Mate 20の発表スケジュールを明らかにして、Kirin 980の話を終了した。

まとめ
Snapdragon 845との比較、ゲームだけはほぼ同等
GPU Turboを利用するとゲームも上回る
最初の製品は10月16日にロンドンで発表されるMate 10

Huawei P20 Pro/P20の新色やレーザースキン版を発表、スマートスピーカーやロケーターデバイスも発表

 講演の後半では、Huaweiが今後計画している、新製品の説明を行なった。

 まず、3月にHuaweiが発表したP20 Pro/P20の新色としてモルフォオーロラとネイチャーホワイトの2色を追加したことを明らかにした。さらに、P20 Proの新しいスキンとして本革のゴールデンブラウンとエレガントブラックの2色で投入すると発表。こちらの本革のモデルでは、メモリとストレージも8GB+256GBの強化される。

 価格はP20の新色、P20 Pro新色は従来の価格据え置き(欧州ではP20が4GB+128GBで649ユーロ、P20 Proが6GB+128GBで899ユーロ)で発売は9月5日が予定されている。P20 Proの新スキンは8GB+256GBにアップグレードされて、欧州では999ユーロで9月5日から販売される予定。

これまでの販売状況など
新色投入
ネイチャーホワイトとモルフォオーロラ
新色の価格は据え置き
新スキンスタイルの導入
本革のゴールデンブラウンとエレガントブラック
新スキンの価格

 加えて、Alexaに対応したスマートスピーカーとして「Huawei AI Cube」を発表した。英語圏の人にはこの形がキューブであるかには議論が起こりそうなHuawei AI Cubeはスピーカーとファーフィールドマイクを内蔵しているスマートスピーカーで、一般的なスマートスピーカーではWi-Fiのみとなっている製品が多いが、Huawei AI Cubeはセルラーモデムを内蔵しており、最大でCat.6(下り300Mbps)で通信することが可能になっている。

Huawei AI Cube
Huawei AI Cubeの説明

 もう1つの製品は「Huawei Locator」で、やはりセルラーモデムを内蔵しており、1回の充電で15時間程度使うことができる。ペットや小さな子供のカバン、旅行用のスーツケースにつけたりして場所を把握するなどの使い方が考えられている。なおユー氏はHuawei AI Cube、Huawei Locatorに関しては価格や発売日などは紹介しなかった。

Huawei Locator
Huawei Locatorの説明
新製品のまとめ