データの保存や送受信でもこんな課題が
時刻の情報が意味を持つデータの保存や送受信についても注意が必要だ。
USBメモリーのフォーマットとしてはFAT32やexFATなどがあるが、この両者はファイル保存時のタイムスタンプとしてそれぞれJSTとUTCを使う。これらを認識して正しく処理しないとUSBメモリーでファイルの受け渡しをしたときにタイムスタンプがずれてしまう。
「この手の問題はいっぱい起きるだろう。技術的に細かいので、本当によく知っている人しか問題に気づけない」と上原教授は難しさを指摘する。
国内数千カ所に設置されている地震計は、主にGPSからUTCを取得している。一方気象庁に送るデータはJSTなので、単純に9時間足しているものがある。オンラインでのソフトウェア更新はできないので、設置場所におもむいて交換する必要がある。設置者の多数を占める地方自治体はその費用を予算化しておかなければならない。このような課題があるため、送信データをJSTのままにしておく選択肢もあるだろう。ただし、サマータイム対応していて夏時間を送信する機器があれば、今度はそちらを修正しなければならない。
食品流通業界である新日本スーパーマーケット協会と日本加工食品卸協会(日食協)は、サマータイムの実施を取りやめるよう求めた。その理由の一つは、EDI(電子データ交換、Electronic Data Interchange)だ。食品仲卸は、メーカー数千社、小売り数百社との間でEDIを使って注文データをやり取りする。ところが各社で時刻の扱いがバラバラで、統一することが難しい。
もちろん、システムへの影響は、どのような運用を行うかでも大きく異なる。ただし、それを議論して運用方法を決めるだけでも時間がかかる。仮にルールをきちんと作ったとしても、解釈の誤りや実装漏れを完全に防ぐことはできず、いろいろなところに問題が起こる可能性はある。
今回のサマータイム問題を契機に、「時差を考慮した、世界で通用するプログラミング作法が一般的になれば、このような問題が小さくなっていくはずだ、というコンセンサスを得る機会と捉えるのは悪くないのでは」と上原教授は言う。
楠氏は「サマータイム対応にどれだけ時間や手間がかかるかがわからない大きな理由は、仕事がやっつけになっているためだ。書いたコードのドキュメントを残し、社会的な変化に耐えうるような柔軟な設計をする。このような流れを作ることができればいいと思う」と締めくくった。