2019年度の概算要求は、5年連続で「100兆円越え」になった。毎年、9月初めの新聞社説に概算要求の話が載るが、今年も、各紙社説に次のようなものがでている。
9月1日朝日「防衛概算要求 歯止めなき拡大路線」(https://www.asahi.com/articles/DA3S13659490.html)
9月1日読売「概算要求 歳出膨張を防ぐ工夫を凝らせ」(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180831-OYT1T50169.html)
9月2日毎日「過去最大の予算要求 借金漬けを顧みぬ法外さ」(http://mainichi.jp/articles/20180902/ddm/005/070/008000c)
9月2日日経「財政健全化へ正念場の来年度予算編成」(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO34885630S8A900C1EA1000/)
かつて筆者が役人だった時代には、この新聞社説が載る前に、財務省(当時は大蔵省)の課長クラスの幹部が局長室に集めさせられた。各課長は各紙ごとに担当を任されていて、次の社説に財務省(大蔵省)の主張が掲載されるようにせよ、と命じられたものだ。
その後、各課長は再び局長室に集められて、それぞれの成果を報告する。局長は各紙を見比べながら、「この新聞はよく書けている、この新聞はいまいちだな、どうしてこの新聞には書いていないのか」、などと講評を述べていた。このように財務省では仕事の出来不出来を幹部職員間で競わせていたのだ。こういうところで、幹部職員の「できるできない」の評価をしていたのかもしれない。
もちろん、いきなり社説に「これを書いてくれ」と頼んでもすんなりいくわけはないので、日頃から財務省担当の記者に新聞に書けるようなネタを提供したりして、関係を築いていく。社説を書くのは新聞社の論説委員クラスなので、それらの人を財務省(大蔵省)の審議会委員にして、アゴ足つきの海外出張を無理やり作って籠絡しておくなど、役人のほうも「社説に書かせろ」と局長命令が下る前に、それなりの準備をしっかりしていた。
この話は筆者の役人時代の話である。今はどうなっているのかは、さっぱりわからない。ただし、概算要求に関する各紙の社説は、驚くほど似ている。つまり、「財政再建を進めて概算要求を圧縮して、予算を作れ」というものだ。
これでは、財務省の応援団と見られても仕方あるまい。しかも、来年10月の消費増税に言及しているものも多く、不祥事で肩身の狭い財務省からみれば、泣いて喜ぶ内容だ。
しかし、新聞はアンフェアである。来年10月の消費増税の案では、新聞は軽減税率の対象になっている。財務省に概算要求を削って財政再建せよというなら、「新聞に軽減税率を適用せずに税収増で財政再建を進めるべし」と主張しないと、完璧なダブルスタンダードになってしまう。新聞は役所のポチのような報道を続けることで既に信頼を失っているが、言論機関としての矜恃すら失っているのだろうか。
新聞社の経営は大変である。実販売部数も急速に減少している(https://www.dailyshincho.jp/article/2018/05060701/)が、消費増税の軽減税率の対象になることでさらに一般の人々の信頼を失う、という悪循環に嵌まったかもしれない。