芸能界やスポーツ界をはじめ、著名な人たちが違法な薬物で逮捕されると、連日連夜各マスメディアがニュースとして報じる。そうした場面で、薬物使用はその人たちの「意思の弱さ」によるものであり、同時に「凶悪な犯罪」として報道されがちだ。そのため「薬物を使用する人」=「犯罪者」というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
実際、日本ではそうしたイメージもあり、薬物使用については刑事司法を中心とした取り締まりを行っている。つまり、薬物の使用や所持が発覚した場合には、逮捕し、処罰するということだ。
当然のことだと思われるかもしれない。しかし、世界に目を向ければ、むしろ厳罰に依拠した依存症対策は主流ではない。
ヨーロッパを中心とした国々では、「ハーム・リダクション(害悪の軽減)」と呼ばれる手法が薬物政策の中心を占める。ハーム・リダクションとは、薬物使用などを厳罰の対象とせずに行う対策である。
肝炎やHIVの罹患が進まないように注射針を配ったり、生活の場面で困っている問題を解決し、薬物使用者がソーシャル・ワーカーや病院、保健所などに相談しやすい環境をつくることで、社会全体からその害悪を減少させようとする。
そうした政策を導入している代表的な国が、ポルトガルである。この国は、2001年からほとんどの薬物の所持を非刑罰化、つまり罰しないことにしている。日本人の目からすれば、薬物所持や使用が罰せられないというのは驚きかもしれない。しかし、ポルトガルではこの政策を導入してから、薬物の問題使用の件数が減っているのだ。
筆者はポルトガルに2度滞在し調査を行った。そこから得られた情報を元に「薬物依存対策を刑事司法に依存しない」方法をご紹介したい。
ポルトガルの薬物所持に対する法的な枠組みができたのは2000年である。2001年7月から施行されたこの法律では、自己使用目的の少量所持や使用は特別な対処をすることが規定されている。
所持量によって営利目的かどうかが疑われる事案もあるために端緒として警察が関わることが予定されているが、すぐに法律家、医療関係者(ナースがメインで医者ではない)そしてソーシャル・ワーカーが中心となった「コミッション」というところに行くように促される。
コミッションに行くように指示されて行かなかった場合に少量の罰金が言い渡される可能性は残されているが、コミッションに相談に行かなかったとしても、ただ怠惰が原因で行かなかったのではなく、コミッションの基準により薬物依存の影響で行かなかったと認められた場合には不問とされる。