がんはどうしてできるのでしょうか?化学物質などの暴露が原因?がん患者さんが何か過去に悪いことをしたことが原因?それともただの偶然?皆さんがよく抱く疑問について、がん研究者として答えたいと思います。
がんができる3つの主要因
がんがなぜできるのかというのには色々な議論がありますが、すでにたくさんのことが分かってきています。がんが発生するには、大きく分けて3つの要因が関わっています。1つは、異常な遺伝子を親から引き継いだことで起こる遺伝的要因。2つ目は、ヒトが生きてい
3大要因のどれが重要なのか?
1年前にScienceで発表された研究論文の図を引用して、それぞれ3つがどの程度関わっているかをまず説明したいと思います。この研究では、数学的な解析によって、男性・女性の各種がんの発生に対して、それぞれ3つがどの程度関わっているかを計算しています。実際の研究手法などの解説は省かせてもらいますが、結論は以下の図のようになります。たった一つの研究結果ですので、これを持って絶対ですとはいえませんが、この結論はがん研究者が理解している現実と概ね一致しますので、この図を代表的な結果として説明に利用します。
まず、女性の場合です。
この図の意味は、それぞ
男性の場合も載せておきます。
B, 脳腫瘍; Bl, 膀胱癌; CR, 大腸・直腸癌; E, 食道癌; HN, 頭頸部癌; K, 腎臓癌; Li, 肝臓癌; Lk, 白血病; Lu, 肺癌; M, メラノーマ; NHL, 非ホジキンリンパ腫; P, 膵臓癌; Pr, 前立腺癌; S, 胃癌; T, 精巣癌; Th, 甲状腺癌. です。
ほとんどのがんは”偶発的要因”で起こる
上の二つの図を見てもらうと、男女ともほとんどの癌で、真ん中にある偶発的要因がほとんどだということがわかります。真ん中の図がほとんどのがんで真っ赤になっています。人の体にはたくさんの細胞があって、それは増殖を繰り返し
遺伝的要因は少ない
一般の方は、「うちはがん家系だからなった」という勘違いをしています。実は、今回の図で見てもらうとわかるように、家族性でなる癌というのはとても少ないです。上の図で少し赤くなっている部分の、女性の乳癌の一部(BRCA変異)、あとは家族性大腸癌などの大腸がんの一部で見られくらいです。これ以外のがんでもあるはあるのですが、とても頻度は少ないです。ほとんどの方のがんは家族的な遺伝で起こっているわけではありません。両親に責任はありませんので、理由なく恨んだりしないでいただきたいです。おそらく、勘違いする原因の一つは、がんの発生頻度を正しく理解していないことです。がんの発生頻度は2人に1人が生涯のうちでなるほどに高いです。そのため、実は親族に何人もがん患者がいることは、決して珍しくないのですが、異常に高いと勘違いすることから来ているのではと思います。
環境要因も大きな原因ではない
上の図から、もう一つ大事なことが言えます。環境的要因は一部のがんの重要な原因となっていますが、実は多くのがんでそれほど大事な要因ではありません。上の図で環境要因が大きな原因となっているものは、肺がんや食道癌、胃がん、皮膚がん、子宮頸がん、肝臓がん・膵臓がんで強い要因です。これは、すでに分かっているもので、タバコと肺がん・食道癌、過度の飲酒と肝臓がん・膵臓がん、ピ
がん患者が何か悪いことをしたからなるのではない
今回で最もお伝えしたかったことがこちらです。多くのがん患者さんは、何か変なものを食べたから癌になったのではありません。ヒトという生き物にはどうしても癌という病気が起こってしまうのです。それはがん患者さんが悪かったからではありません。がん患者さんを責めるのはとんでもない間違いです。また、がん患者自身も自分を責める必要なんてありません。癌患者さんの過去を責めて勧誘するイカサマ治療などにも騙されてはいけません。
まとめ
癌は、遺伝的要因、偶発的要因、環境要因の3つで起こります。遺伝的要因と環境要因で起こるものはごく限られた一部の癌のみです。がんの多くは、患者が何か過去に悪いことをしたから起こっているわけではなく、ヒト
<追記>
4/23/2018 過度の飲酒と肝臓がん・膵臓がん を追記しました
コメント
とても有意義な記事をありがとうございます。
すみません、以下細かいようですが、大切な記事なので。
>「環境的要因も大きな原因ではない」の章の3行目、「上の図で遺伝的要因が大きな原因となっているものは肺がんや食道癌、胃がん、皮膚がん、子宮頸がん、肝臓がん・膵臓がんで強い要因です。」とありますが、「環境的要因」の間違いではありませんか?
ご指摘ありがとうございました。訂正いたしました。