オーバーロード シャルティアになったモモティア様建国記   作:ヒロ・ヤマノ
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まだ途中までゴンド視点です


『ドワーフ達』

 静寂な洞窟に四足歩行の漆黒の狼の駆ける足音のみが響く。狼の背から前方を覗き見る。かなり大きい狼のため頭部が邪魔で横から覗かなければならないのが不便だが、かなりの速さのため襲撃現場にはすぐに着いてしまった。

 周囲にはクアゴアだったらしい毛の着いた肉塊や首が擡げた死体が転がっており、その姿から先行した狼達に殺されたと容易に想像できた。

 

「どうした?譲ちゃん」

 

 近くまで来ると先ほどの通路に比べ、やや広がった空間にシャルティアが既に着いており

警戒しているのか宙に浮きながら周囲に向けて視線を飛ばしていた。

 

「いえ、終わったようです。これから迎えに行きますので、ゴンドも一緒に来てください。」

「終わった?クアゴアを全て倒したのか?あやつらみな助かったのか?」

「えぇ、九人全員無事でした。今しがたこの子達が教えてくれましたよ」

 

 警戒していたと思われた厳しい表情が消えゴンドは笑顔を向けられる。

よく見ればシャルティアの周囲には先程呼び出したと思われる黒い蝙蝠が数匹舞っていた。

(全然気づかんかったわい……)恐らく狼が戦闘に、蝙蝠は隠密に優れた使い魔なのだろうとあたりをつけ、改めて尋ねる。

 

「では迎えに行くとするかの」

「ええ、怪我をしているドワーフがいるそうなのでまずはそこへ向かいます。ゴンドも来てください」

「勿論じゃ!で、そやつの名前は?」

「ごめんなさい、そこまでは…四人いるのですがこの蝙蝠達は話ができないので」

「あ、あぁそうじゃな。気が急いておったスマン」

 

 シャルティアに先導されゴンドを乗せた狼が付いていく。怪我をしたドワーフもそれほど重いものではないようで、先ほどよりもややスピードを落とた浮遊魔法で洞窟を進むシャルティアにすぐ後ろから声を掛ける。

 

「話ができんとなると他の者たちは後回しかのう」

「二人は気絶してますので後回しで大丈夫です、あとの三人は狼からも逃げ回ってしまって今は包囲しています。随分と警戒されているようで……」

「……重ね重ねスマン、譲ちゃん」

「それほど強力な使い魔ではないのですが、そんなに恐ろしいでしょうか?」

「わしらのもっぱらの驚異はクアゴアじゃからなあ、あれ以上の強さで初めて見る狼となるとのぉ」

 

 此方を不思議そうに見ながら、その瞳にやや不安や心配の情がこもっているように思われたため慌てて「無論わしが譲ちゃんを紹介して説明すれば大丈夫じゃ!」と言葉を繋げる。

 

「あー、紹介する時のためなんじゃが、シャルティア嬢ちゃんの種族はエルフかの?それとも人間か?」

「人間やエルフがこのせか、こほ!、こほっ。…この辺りにも人間やエルフがいるのですか?」

「この山を挟んで東西それぞれに大きな人間の国があるの、エルフは遠く南の森の中にあるんじゃったか」

「そうですか……」

 

 答えを聞くとやや考え込むような間を少し開け

 

「あぁ、いや、 言いたくないなら特に…」

「半分は人間ですね、もう半分は秘密ですが」

 

 ――やはり訳ありか、と思わせる答えが聞けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからすぐに四人と合流しシャルティアと使い魔を紹介、怪我をしていたドワーフもポーションですぐに治療が完了した。

 それを見た交易に詳しいドワーフが「帝国のポーションなんぞより凄い!」と、目を見開き

シャルティアに掴み掛かるように問いただそうとしたのを殴って止めるという情けないトラブルがあったくらいで。

 その後も誤解のため狼で包囲してしまった三人の場所へ向かう途中――気絶していたはずの残り二人が泣き叫びながら獲物のように狼に咥えられ合流し、同じように泣きながら洞窟の行き止まりで固まっていた最後の三人とも無事合流でき、さらには狼達の活躍でゴンドのマントや他のアイテムもほぼ全て見つかった。

 これによりシャルティアに対する彼らの感謝の念は、命の恩人以上に上り詰め、狼達への恐怖も幾何か緩和されることになった。

 

「ほう、ナザリックという都市か。すまんが聞かん名じゃな」

「えぇ、もしかしたら……もう帰れないかもしれないくらい遠いので」

「帰れない?」

「おい!命の恩人にあまり根掘り葉掘り聞くもんじゃないぞ!」

「そ、そうじゃな。ところでシャルティアさんは酒は飲めるかの?わしらドワーフは酒好きでの、国にも酒が溢れておってな――」

 

 一行は既に調査の中止を決めドワーフ王国東の都市「フェオ・ジュラ」への一旦帰国の途に就き、シャルティアも加えお互いの国について話を始めていた。

 とは言えドワーフの国の話は酒に傾きがちで、シャルティア側についても当たり障りない話になりがちであったが。

 

 ――そして、シャルティアもとい、モモンガは助ける切っ掛けとなった調査団のことについて質問をする。

 

「みなさんは赤い光の調査目的と、お聞きしたのですけれど」

「あぁ、本当はクアゴアとの遭遇を恐れてみな及び腰だったんじゃがの」

「摂政会が出した条件に眼が眩んだ阿呆な十人というわけじゃな」

「条件、ですか?」

「一言で言えば報酬の金なんじゃが。摂政会もわしら国民もみなあの地震に怯えておっての。

 なんせ国営の坑道がいくつも崩落を起こしたんじゃ。トンネルドクターという魔法詠唱者(マジック・キャスター)を知っておるかの?そやつらの魔法で強化したはずの坑道がいくつも崩落してしまいわしの知り合いも生き埋めになってしもうた。

 今までのような地震では、こんなことは絶対起こらん。おまけに地上側の砦では地震の起こる前に山に赤い光が落ちていったという不気味な報告がされてな。その光が原因ではないかと、こうして調査隊を送り出したわけじゃ」

「そうだったんですか……」

 

 ひととおりの調査団のいきさつを聞いたモモンガは銀色の眉と眉の間に深い皺を作り唸っていた。

当然ながら悩んでいるのは自分が行ったことで広がった被害結果についてであった。試しに使った魔法で彼らの――ドワーフの国に相当数の被害が出てるようで多少の罪悪感が沸いてしまう。精神が鎮静化するためか思ったほど落ち込みが感じられずそれ自体に自己嫌悪を覚えるが、此処まで集めた情報でやる事は決めていたため前向きに考えることにしていた。

 

(このまま同行して彼らの国でこの世界の知識を得ないとな)

 

 少なくとも彼ら十人は此方に多大な恩義を感じてくれているのはモモンガにも手に取るようにわかる。彼らの国の話でも概ね魅力的な様子が見て取れた。クアゴアの侵略行為については少々の不安はあったが、今日のような相手であれば問題になりそうもない。このままついて行けば国のトップである摂政会にも仲介してもらえそうだし、防衛に手を貸したり、先の話にあった国営坑道の復旧に手を貸せるかもしれない。

 死亡者が出ていた場合復活魔法を試すのもいいかもしれないが、ドワーフ達がどういった反応をするかもわからないのでその場で判断するように、先の自分に丸投げすることにする。一通りの熟考したあと内心ほくそ笑んだところで

 

――大量の音、大勢の足音が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ!!なにがあったんじゃ!?」

 

 間もなくドワーフ達も異常に気が付くことになる。自分たちが進んでいた地下通路その先から無秩序に大量の足跡が聞こえてくるのだ。クアゴアのようなヒタヒタと音のする足跡でないのはわかったが、それ以上に洞窟内に響き渡るような大量の足跡など聞いたこともない。混乱するなという方が無理な話だった――。

 

 そして通路を抜けた先、今までモモンガたちが通っていた小さめな通路に比べて軽く見ても十倍以上に広く、そして天井も高い地下通路にひしめき合う様に大量のドワーフ達が南に向けて走っていた。それぞれに手荷物は最低限であり手ぶらの者、赤ん坊を抱えた者、トカゲのような動物に騎乗している者、その走る姿は多種多様であったがみな一様に共通点があった。それは必死の表情――恐怖に追われてい者の表情だった。

 

 その流れの中からドワーフが一人駆けてきた。一瞬モモンガを見た時に訝し気な表情をとったが此方に知り合いがいる様でためらいもなく近づいてきた。

 

「ゴンド達か!?早く逃げろ!クアゴアの襲撃じゃ!」

「なんじゃと!?フェオ・ジュラにか!!都市はどうなっておる!?」

「見りゃわかるじゃろ!みんな今逃げ出しとるところじゃ!!」

「そんな……!」

「砦は!?軍はなにをしておったんじゃ!!」

「昨日の地震で崩れた坑道から湧き出してきおったんじゃ!もうどうにもならんわ!!」

 

 ゴンドの眼が見開き天を仰ぐ、抱えていた荷物が辺りに散らばるが固まったまま動かない。モモンガが周りを見れば他の九人も多かれ少なかれ同じような反応であり、今の知らせが彼らドワーフにとって絶望的な事だったのは部外者であるモモンガにも瞬時に理解できた。

 

(これは不味い……のか?)

 

 自分がしでかしたドワーフ王国に対する被害がさらに増しているようだ。

 ――そして、彼らが絶望的な状況に。もしかしたら滅びるのかもしれない。

 

 もしそうなると知識の収集どころではない。元々の原因は自分ではあるのだが、何もなくなったものに恩義の返済ができるはずもない。国としての形がなくなるのであれば当然そこに暮らす者たちは、国を追われた身となる。

 

「じょ、嬢ちゃん!」

 

 思考から戻ると真っ先に知らせを聞いて呆けていたゴンドが、こちらを見ていた。瞳には最初にあった時と同じように何かを頼みこむような、今にも土下座せんばかりの懇願が見て取れた。

 

「な、情けない話じゃが、」

「待ってゴンド、確認します。私はなんでもかんでも助けてあげるお人よしではありませんよ。あなたたちにもそれ相応の謝礼を要求するつもりでした」

「もとよりそのつもりじゃ!わしらみんな嬢ちゃんに感謝しとるし、謝礼だって出来るだけの物を」

「それはドワーフの気質からくる物?種族としても国としても、摂政会というのは私がドワーフ達を助けた場合ちゃんと心から感謝してくれるのかしら?」

「勿論じゃ。信じてくれ!」

 

 周りを見渡せば強く同意する視線と、先ほどの知らせを持ってきたドワーフの困惑の様子が見て取れた。

 

「わかりました。みなさんは、使い魔の狼に乗って避難する人たちの護衛をしてください。同族のみなさんが乗っていれば混乱も少ないでしょう。私は――」

 

 そこまで言い終えてモモンガは避難民が背にする遥か先、遠方に見える大きく開かれた巨大な門を見据えていた。

 

 

 




だいたいモモンガ様のせいだけど、書籍から見るに遅かれそうなってたし多少は






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