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「音楽と相場と」――田中雅氏

2007年12月07日
立正大学経済学部 教授 林 康史

田中雅氏という人をご存知だろうか。オランダTANAKA カレンシー・リスク・マネジメント代表取締役社長というとピンとこないかもしれない。東京藝術大学のチェロ科を首席で卒業し、ドイツとオランダのオーケストラで世界的に認められる主席チェリストとなった後、80年代初頭、折からの金ブームに乗って、奥さんに内緒で蓄えの半分を金に投じ、しかし金は暴落し、貯金は半分近くになった。相場との付き合いは、それからだという。
その失敗の原因を追求していくうちに、相場分析法を考案し、44歳にして突然、市場で通貨を売り買いする、プロの為替のトレーダーになり、デリバティブと通貨先物取引運用を始める。1985年、コンピュータを駆使した自動運用システム「テクニヘッジ・システム」を開発。
1993年、米国で1年かけて競われた、ワールドカップ先物運用競技会(リアルマネー/リアルタイム)のプロフェッショナル部門で第3位、ロビンス/オメガ・システム運用競技会(リアルマネー/リアルタイム)において第2位を受賞。海外のメディアに紹介され、香港、アムステルダム等の講演を通じて欧米で名を知られるようになる。これを契機に音楽の世界から身を引き、フルタイムでの金融機関向け運用アドバイスサービスを開始。私がはじめてお会いしたのはそのころだろうか。テクニカル・アナリスト協会で講演をしてもらったこともある。

今回、立正大学の経済学部の主催するゼミナール協議会の論文発表大会の基調講演を行ってもらった。学生が主催する大会である。
そのパンフレットには、以下のようにある。
――成功と地位をあっさりと捨て新しい人生を歩み始める人がいる。しかし彼ほど大きく舵を切り、全く違う世界に身を投じた男性もそういないだろう。 チェリストから為替トレーダーになった田中さん。世界中の著名人が募るリアルトレードコンテストでも準優勝を飾るなど数々の成果を残す。
日比谷高校から工学部進学を目指していた田中さんは、ある日、将来に疑問を感じ、東京芸大の受検を決意した。彼は人1倍の努力で難関を突破し、東京藝術大学のチェロ科を主席で卒業、オランダに渡りオランダ放送協会のオーケストラで首席チェリストとなった。
80年代初頭、折からの金ブームに……。

今回、打ち合わせのため、また、講演後、久しぶりに話す機会があった。昨年だったか、ある講演会でご一緒して以来である。
チェロを持参いただき、音楽家が捕らえたマーケットの話を、チェロを奏でながら話していただけるという。例えば、市場のカオスを説明するのに『涙そうそう』を少し弾くといつた按配だとうかがった。しかし、当日、打ち合わせのために朝早くから会場入りしてもらったのだが、控え室で係りの学生と話すうちに、講演の内容を変えて、専門的な話は止めることにしたのだという。
私はそんな事情は知らないから、講演が始まって、なかなか専門的な話にならないので、時間が心配でやきもきしたのだが、とりあえず、予定時間をオーバーしてセミナーは終わった。

内容は、ほぼ私が田中さんと話しているようなことだった。印象に残ったのは「サイクルがわからない人は相場が下手」という言葉だった。まったく同感である(この欄でもいつも書いていることだ)。
学生や来客、教員らの評判もよく、ある学生は私に「田中さんの会社は日本にもあるのでしょうか?」と聞く。そこでマーケットを勉強することはできるのかと聞いてきた。
「トレーディングは、Arts and Logic」と田中さんは言う。これも同感。

いずれ、機会を見つけて、一般向けの講演会をお願いしようかと考えている。

さて、立正大学大学院経済学研究科では、大学院の特別講義の一部を公開講座(『資産運用の最前線』)として、外部の方が聴講できるようになっている。
あと2回で今年は終わる。12月10日と17日の、いずれも19時40分~21時10分。大崎のキャンパスの11号館7階1171教室で行われる。10日は、これも古くからの友人である安田伸樹氏にファンド・オブ・ファンズについて語ってもらう。一般には、滅多にないチャンスだろう。17日は、日本経済新聞の記者、田村正之氏にメディアとマーケットの関わりについて語ってもらう。その日は公開講座の最後でもあるから、私も30分ばかり総括を話す予定である。
ウェブをご覧いただいて、ご来場いただければ、と思う。ウェブには1週間前の申し込みとなっているが、まだ、席には余裕があるので、当日でもかまわないようだ。
http://www.ris.ac.jp/event/contents_info.php?contents_id=229


                                           以上

<編集室より>

『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』(日経ビジネス人文庫)に続いて、先生の新刊が出ます(12月上旬には書店に並ぶようです)。
『バリュー投資――株の本当の価値を問う』(C・ブラウン、監訳)日経BP社
 最近、投資に関する考え方やスタイルについての米国の本を日経BP社からシリーズで出されていますが、今回の『バリュー投資』は、『マネーの公理』『マネーと常識』に次ぐ、シリーズ3冊目です。すでに、この欄にも登場したのでご存知の方も多いかと思いますが、食料品や家電製品を買うときのように株を買うというスタイルで一貫しているバリュー投資の本です。著者は、グラハムやバフェットと親交のあったブローカー・資産運用会社のパートナー。
今年になって……5冊目。また、かの相場師ジェシー・リバモアをモデルにした小説『欲望と幻想の市場 伝説の投機王リバモア』(東洋経済新報社)も増刷だそうです(これもおススメ)。それにしても、先生の仕事の速さは(質もですが)編集担当しても、驚きです。
 
                                          ……(編集担当)

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2007年12月07日 09:34に投稿されたエントリーのページです。

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