投資信託はネット証券で買うのが最適解なのか
先日、「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」が公開されました。ネット証券4社で投資信託を買った顧客の損益状態を示したものです。6月下旬に国内主要20銀行の顧客の共通KPIによる損益が出たばかりです。
その報告書は銀行で投資信託を買った人の4割しか利益が出ていないということを書いたもので、世間の耳目を集めました。私も関連して、「ネット証券ならば成績はもっと上ではないか」ということを書きましたが、結論からいうとやはりそういう結果になりました。
ただし、銀行の場合はもっとスパンが短く、ネット証券各社の対象期間はまちまちです。本当にフェアに比べるならば、1年ごとなど期間を同じにしてするべきでしょうね。今回は、参考程度ということで見ていきたいと思います。
投資信託の販売会社における損益の実際
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https://www.rakuten-sec.co.jp/web/company/newsrelease/pdf/press20180828.pdf
ざっくりとこのような状態になりました。63.8%の顧客がプラスということですね。銀行は4割でした。しかし、「ほら、ネット証券のほうが優れた商品販売をしている」と結論付けるのは早計ですね。見えてくる課題があります。理由を書きます。
- 期間が長い割にリターンが小さい
- 元々の顧客のリテラシーに差がある
こういうことですね。少し言葉を足したいと思います。
期間が長い割にリターンが小さい
証券各社の対象期間ではリーマンショック直後からの統計のケースがあります。これは米国株ETFの成績などを見てもわかるように、最も高パフォーマンスな期間の切り方ということになります。また、2000年からのところも1社あります。20年近いスパンですので、米国株ベースならば少なくとも100%、つまり2倍以上になっていてもおかしくありません。
いずれにせよ、期間が長い割にはパフォーマンスは「まずまず」というところですね。これは、長期保有対象の商品ラインナップが日本株かMSCIコクサイ連動商品が殆どだったことも理由の1つでしょう。あとはこまめな利確、あるいは損切というところです。
元々の顧客の情報リテラシーに差がある
当たり前ですが、ネット証券の顧客は少なくともネットにアクセスできる層です。情報の取捨選択がある程度自分でできる層と言ってよいでしょう。そう考えると、ネット証券で投資信託を売買する層は、投資情報全般に比較的精通していると考えるのが自然です。
それに対して、窓口販売で買う人たちの中にはネットへアクセスできない、あるいは苦手な層も含まれます。そのため、窓口で手取り足取りのサポートを求めるわけですね。窓口から得られる、ある意味では限られた情報のみで売買判断する層も含まれるということです。情報の取捨選択はネットにアクセスする層よりも難しいでしょう。
いずれにせよ、銀行窓口で投信を買う人と、ネット証券で投信を買う人では、もともとのリテラシーに差があると考えるのが自然です。
SBI証券での投資信託保有者の成績
2009年12月1日以降で保有している銘柄を対象にしたデータです。64.7%の顧客がプラスということですね。グラフが他社と逆になっていますので、見かたに注意が必要です。
こう見ると、50%以上の利益を出している顧客も5%いますね。これは他社と比べると突出と言ってよいでしょう。逆にマイナス30%以上の人は1.3%しかいません。時期に恵まれているのもありますが、それでも損失が少ないのは注目されていいですね。
単純に損切りしたという考えもできますが、いずれにせよ興味深い動態です。
楽天証券での投資信託保有者の成績
1999年8月30日以降のデータです。私が株を始める半年前ですね。20年近く前からのデータということになります。
楽天証券では62.9%の顧客がプラスになっています。やはり30%を超える損失を抱える顧客は少ないですね。マイナス10%以内という層が最も多いです。これは楽天証券のみに見られる傾向ですが、数字としては大きな差ではないですね。
楽天証券イチオシの楽天バンガードシリーズがリリースされたこともあり、楽天証券は今後この数字がどのように変化するのか楽しみではあります。
マネックス証券での投資信託保有者の成績
2013年7月1日以降のデータです。やはりマネックス証券でもプラス10%以内の層が多いですね。他社と比較して、比較的中庸なイメージを受けます。
マネックス証券は比較的玄人受けするサービスが多いです。とはいえ、投資信託を買う層は他社と比べても、いわゆる「ふつう」な買いかたをしているということですね。 ニーズを考えると当然と言えるかもしれません。
カブドットコムでの投資信託保有者の成績
2013年6月28日以降のデータです。カブドットコム証券は上記3社の中で唯一米国市場で直接米国株を買えない証券会社です。しかし、SPYの東証版である1557を「フリーETF」として買いやすくしているなど、独自のサービスを展開しています。
特に、関連して1557の分配金の振込を銀行振り込みにしていないのは大きなサービスですね。
区切った期間は他社と比べると短いです。しかし、数字としては大きな差が無く、マネックス証券と同様にプラス10%以内の層が最も多いですね。
投資信託の販売会社における損益のまとめ
この「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」はこうした傾向を知ることができるので面白いですね。平均値と自分の持っている投資信託の成績の差を比べてみてもよいでしょう。
大きな損失、あるいは利益の顧客が少ないのは、利益が出て売り、損失が出て売り、という顧客が多いのでしょう。そういう意味ではつみたてNISAの20年保有を前提にした発想というのは、斬新だったのかもしれません。日本では長期投資と言う視点は根付き始めたばかりですね。
今後願わくは定期報告化し、期間を同一に区切ってほしいところです。
もし、この比較可能な共通KPIが「投資信託販売の通信簿」のようなものになれば、金融機関の顧客に対する販売戦略もガラリと変わってくるかもしれません。「変な投資信託」を売れば、すぐにマイナス反映されるからです。
いずれにせよ、情報開示の一歩として非常に意義あるレポートですね。
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こちらは銀行での調査です。ネット証券のほうが成績がよいですが、なかなか一概に比較するのは難しいかもしれません。購入者も知識と経験を身につけたいところですね。