至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔)   作:生コーヒー狸
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本日2度目の投稿です。


純白の英雄譚(下)

「フンッ!そうれっ!」

 

 ハムスケが尻尾を振るうと一瞬で2人の弟子が身体に風穴を開けて絶命する。

 

「クソッ…だがこれなら!」

 

 我に返ったカジットが懐を手を入れるが、残りの弟子もペテルの剣とルクルットの弓で倒される。これで戦えるのはカジットだけとなるはずだった。

 

「儂の計画を邪魔する愚か者めがっ!既に十分なエネルギーは集まっているのだ!死の宝珠の力を見るがいい!」

 

 カジットが取りだしたのは、ただの石ころにも見える無骨な球だ。カジットがそれを掲げると死の宝珠から負のオーラが拡がってゆき、倒されたはずの弟子達が起き上がる――ゾンビだ!

 

「いまさらゾンビが増えても倒すだけ!」

 

 ゾンビ達はすぐに首を撥ねられ、今度こそその動きを止める。

 

「ふはははは!それでいいのだ。十分な負のエネルギーの吸収だ!」

 

 カジットの持つ死の宝珠が、先程以上に負のオーラを放つ。そしてズシーンッという地響きとともに現れたのはスケリトル・ドラゴン――5年の歳月を掛けた努力の結晶だ。

 

「ここまで言われたとおりだと笑っちまうな。ニニャっ交代だ!いくぜペテル!」

 

「次は私達が相手ですっ!」

 

 ペテルとルクルットは、カジットとスケリトル・ドラゴンを残したままクレマンティーヌへと突撃する。ニニャはしっかりと頷くと、純白のローブに手を入れ何かを取りだす。

 

「ぐわははははは!本当に愚か者だ。スケリトル・ドラゴンが魔法へ対しての絶対耐性を持っている事を知らんとは。そのマジックキャスターのガキでは手も足も出ないだろうよ!」

 

 カジットは相手の無知に勝利を確信して嘲笑する。全員を殺す事は無い。何よりこいつらにはどうしても確認しなければならない事がある。それはカジットが長年渇望して止まなかった事への道標となる可能性がある。次々と事態が好転していく事にカジットは歓喜に包まれる。

 

「それがしの事を忘れているのではござらぬか?」

 

 その場に残ったハムスケがスケリトル・ドラゴンと対峙する。体躯はスケリトル・ドラゴンが遥かに大きいが、ハムスケは全くパワーで劣っていないどころか、怒涛の攻撃を喰らわせていく。ハムスケの攻撃が当たる度に、スケリトル・ドラゴンから多数の骨が飛び散る。

 

「ぐぬぬう…この魔獣がおったか!?させん!させん!やらせはせんぞぉ!《レイ・オブ・ネガティブエナジー/負の光線》」

 

 カジットの魔法でボロボロだったスケリトル・ドラゴンが修復されていく。この魔獣は厄介だが、相手のマジックキャスターはスケリトル・ドラゴンの脅威には成り得ない。ここは自分が魔法を使って魔獣を牽制するしかないが、ただ、相手の魔法はスケリトル・ドラゴンの脅威には成らなくても、自分にとっては十分な脅威だ。

マジックアローの数は4つだった。と言う事は、とても信じられないが第四位階の魔法を使えるという事だ。いったいどういう事だと、先程までの余裕は消え去り、こうなれば残された力を使ってでも…と考える。

 

「こうなれば仕方あるまい。残されたエネルギーを使い果たす事になるが、それでも貴様たちを倒した後で。この都市に死を振りまいて元を取るとするか。」

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

「くらえ!武技《斬撃》」

 

「当たるかノロマぁっ!」

 

「こいつはどうだ!《早射ち》だ!」

 

「っざかしいんだよコラぁ!《超回避》!そして攻撃ってのはこうやるんだよっ!《疾風走破》《変幻自在》」

 

「ぐわっ」「クッ」

 

 ペテルとルクルットを相手に互角以上に戦いを進めるクレマンティーヌ。2人の連携攻撃をもってしても、未だに一撃の有効打も与えられていない。そしてペテルとルクルットは致命傷こそ無いが、多くの攻撃を喰らっている。

 

「舐めるなよ!ザコが2人がかりで来ようが、クレマンティーヌ様に勝てるとでも思ったか?」

 

「さすがに私達2人では厳しいでしょうね。」

 

「舐めてる訳ねえだろ!テメエの強さはよーく解ってるさ。だけどよぉ――」

 

「3人でなら分からないのである!武技《剛撃》!!」

 

 戦闘開始直後に即行で戦線離脱したはずのダインが、クレマンティーヌの背後から会心の一撃を喰らわせた!!

 

「ぐっ…が…ぎ…何で?確かに3発、間違い無くブチ込んでやったはず…なのに?」

 

 さしものクレマンティーヌも無防備な背後への一撃は相当堪えたようだ。格下とはいえ油断ならない2人に集中していたのが仇になった。速度を重視した彼女独自の防具(ビキニアーマー)もダメージが増える要因になった。口から血が零れてくる。背骨は何とか無事だったが内臓をやられたようだ。まだ戦闘に支障はないが回復の当てが無い。

 国を出奔した際に持っていたポーションは、追手の「風花聖典」との戦いで使い果たしていたが、この国で自分とまともに戦える戦士は5人…この都市には1人も居ないはずだった。だから回復アイテムなど用意していなかった。

 先日まで周辺国家最強と云われる王国戦士長ガゼフ・ストロノーフがエ・ランテルに滞在していたと聞いた時は、機会があればその思いあがりを修正してやるつもりでいたのにと、軽く失望していた位だ。

 

「いったいどうやって?それに他の2人もあったはずの怪我が無くなって…何時の間に回復を?――まさか!その装備は神の使っていたマジックアイテムかあっ!?」

 

 クレマンティーヌがいたスレイン法国には、嘗て「ぷれいやー」と呼ばれた神々が使用したと伝えられる、凄まじい秘宝の数々が遺されている。その中には身に着けているだけで治癒の加護が得られる装備もあった。漆黒聖典時代のクレマンティーヌも幾つかの秘宝を貸与されていて、それらの有用性は十分に承知していた。

 そしてその様な秘宝は大変希少で、間違ってもそこらの冒険者風情が手に入れられる代物ではないという事も。それこそ王国中から掻き集めても片手の指で収まるような希少品だ。

 

「我らには戦乙女の加護がついているのである。」

 

「言っただろ!もの凄え力を持ったお嬢様に、もの凄え力を戴いたんだって!」

 

 クレマンティーヌは怒りを押し込めて冷静に思考する。このままではまさかの事態もあり得る。それならばいっそ逃亡する事も考えるが…

 

 一方の漆黒の剣3人も攻めあぐねていた。ダインの復帰で初撃を与えはしたが致命傷ではない。自分達の武技で仕留めるのは困難だ。不意を打つ事が出来なければ、あの疾風の様な女に攻撃が当たらない。やはり漆黒の剣の最大火力であるニニャ――「ザ・スペルキャスター」の力が必要だ。

 

 互いが迂闊に動けずに膠着事態に陥るが、もう一方の戦線で事態が動く。

 

「見よ!死の宝珠の力を!」

 

 カジットの掛け声とともに、二体目のスケリトル・ドラゴンが呼び出される!これでカジット側は一気に形勢逆転だろう。あの魔獣といえども2体同時なら梃子摺るはずだ。ムカつくマジックキャスターの女はスケリトル・ドラゴンには全くの無力。まずはカジットに合流してこの1対複数という不利を挽回すれば何とかなる!

あんなハゲでも自分と並ぶズーラーノーン幹部だ。相性もあるが、自分が戦っても3割くらいの確率で負ける可能性があるハゲだ。

 

「残ー念でした♪誰か助けに行ってあげないと、あっちはマズイんじゃなぁい?」

 

「おいおい…おかわりがあるなんて聞いてないぞ。ハゲもやるじゃないか。」

 

「お嬢様も「あのハゲ侮れん」と仰っていましたからね。」

 

「だが問題無いのである。ニニャはハゲなどには負けないのである。」

 

 クレマンティーヌは二体目のスケリトル・ドラゴンにもたいして動揺しない漆黒の剣をいぶかしむ…こいつらまだ何か隠してる?

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「ふっふっふ…降伏するなら助けてやってもよいぞ。貴様らには聞きたい事がたっぷりとある。それにあの魔獣でもスケリトル・ドラゴンを二体同時に相手にしては覚束くまい。まして貴様はマジックキャスターだ。スケリトル・ドラゴン相手には何も出来る事などないだろう。」

 

 余裕をもったカジットの問いかけにニニャは応える。

 

「お待たせしましたハムスケさん。こっちの準備は終わりました。後は僕に任せて下さい。」

 

「そういう事ならお任せするでござるよ。ニニャ殿も自らの敗北は、自分で削ぎたいでござろうから。」

 

「何を言っている、狂ったのか貴様?スケリトル・ドラゴンが魔法へ対しての絶対耐性を持っていると教えてやったのを忘れたのか?」

 

「こちらからも教えてあげましょう。スケリトル・ドラゴンが持つ魔法耐性は第六位階以下の魔法を無効化するというもの。だからこれから発動する魔法は無効化出来ません。」

 

 あまりにも淡々と語るニニャの言葉が、かえってカジットに確信させる――決してハッタリやブラフではないと。

 

「僕を救ってくれた、偉大な御方に与えられた力を今からお見せします!第七位階魔法《ホーリー・スマイト/善なる極撃》」

 

 ニニャが持っていたスクロールを拡げると、巨大な力を感じさせる魔法陣が展開される。その力の奔流はカジットに絶対の死を感じさせる。

 

「何故だ?儂が5年の歳月をかけた努力の結晶が!全てがこの僅かな時間で崩れ去るというのかぁ?」

 

 極太の光線がスケリトル・ドラゴンを凪払う。魔法への絶対耐性を持つはずの巨体が溶ける様に消滅していく。

 

「貴様らなんぞに儂の5年間の努力!いや30年以上も忘れえぬ想いを無に帰す資格があるものか!それもっ…それも何も知らずに、よりにもよって儂の前で奇跡を享受している貴様ら何ぞにぃぃーー!!」

 

 スケリトル・ドラゴンを跡形も無く消滅させた光線がカジットを飲み込んでいく。

 

「貴方の想いに興味はありません。ですが安らかに眠って下さい。」

 

 ホーリー・スマイトはカルマ値が悪に傾いている程ダメージが増大する神聖属性魔法だ。当然アンデッドであるスケリトル・ドラゴンは塵一つ残さずに消滅した。しかし邪悪なネクロマンサーとして多くの死を振りまいてきたはずのカジットが、所々が消失し全身が爛れているものの、辛うじて死体の原型を留めていた。彼にも一片の善なる心が残っていたのだろうか?

 

「奪われる辛さはよく知っているつもりですよ。貴方は他の人もそうかもしれないと考えが及ばなかったのですか…」

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

 カジットが斃れ、この場で孤立無援となったクレマンティーヌは、それでも闘志を新たにしていた。

 

「フフフ…第七位階魔法?あの魔封じの水晶と同等の魔法…おもしれえじゃねぇか。」

 

 スレイン法国の暗部に属していた彼女は、一般的には第六位階が最高とされる魔法に、人類が単体では到達不可能な、さらに上の位階がある事を知っていた。法国に伝わる最秘宝と同様のアイテムを複数所持している可能性は低いが、だからといって警戒を怠るのは愚者のする事だ。

 

「もう油断も遊びも無し。最速で最短でまっすぐに…一直線に!!――あの女を殺す!《疾風走破》《超回避》《能力向上》《能力超向上》」

 

 四つの武技を同時発動させ、ニニャへ向けて突撃する。残りの3人の事は無視する。奴らの攻撃は致命傷にならない。もっとも危険な女を確実に潰す!その次に脅威になる魔獣が、何故か一歩引いた場所で戦いを眺めている今が勝機だ。

 

「死っねぇぇぇっ!!」

 

 その場の誰も追いつけない速度でニニャへと迫るクレマンティーヌ。3人の妨害をものともしない速度だ。ニニャは必死に避けようとしているが、たとえ急所を外されても問題ない。スティレットがニニャの左肩に突き刺さる。

 

「まだ終わりじゃないんだよ!」

 

 ここでクレマンティーヌは魔獣へ止めを差す為に温存していた切り札を切った。彼女が持つ4本のスティレットに込められた魔法の1つ《ファイアーボール/火球》を開放する。スティレットに込められた魔法は1度しか使えない。補充が簡単ではない為に、そう簡単には使えないが勝負所で使わない選択は無い。

 

「ぎゃあああ~~!!」

 

 ニニャの左肩から炎が噴きあがる。あまりの激痛にニニャは地面を転げ回る。だがその隙に背後からペテル達3人が同時に襲いかかる。

 

「《衝突剣》」「《痛打》」「《連射》」

 

「そうくると読んでいたっ!《不落要塞》」

 

 背後から加えられたペテル達3人の同時攻撃を見こしていた彼女は、もう一つの切り札である武技《不落要塞》によって、ペテル達の攻撃を完全に無効化する。一部の天才しか使用できない防御系武技の最高峰だ。

 

「今度はこっちの番だ!覚悟しやがれ!」

 

 《不落要塞》での消耗と先程のダメージを感じささせない猛攻で、ペテル達を攻め立てるクレマンティーヌだが、彼らの想像以上のしぶとさに決定打に欠けていた。さらにダインと同様に、あれほどの致命傷を与えたはずのニニャまで戦線に復帰しようとしている。

 

「ハァハァ…てめえら…人間じゃねえな?何者だ…ヴァンパイアには見えねえし…ハァハァ…それに、アタシにやり返したくて…魔獣に手出しさせなかったのかよ?」

 

 あまりの疲労に、時間稼ぎと停戦交渉すら視野に入れたクレマンティーヌが問いかける。ここまでくれば漆黒の剣達の実力を認めざるを得ない。

 

「その通りです。そしてそんな私達を圧倒している貴方は凄まじいですね。」

 

「キチ女って言ったのは取消すぜ。アンタは凄え戦士だ。」

 

「それ程の力を持ちながら道を踏み外すとは…人類の損失なのである。」

 

「本当に残念です。貴方の様な方がその力を正しく使ってくれれば…」

 

 漆黒の剣もクレマンティーヌへの復讐心はだいぶ消えていた。その実力を称賛すらしていた…上には上がいる事を解ったうえで。

 

「ありがとー、これでもかつては人類の守護者なんて言われてたんだけどね~。」

 

「それなら降伏…いえ停戦していただけませんか?ンフィーレアさんが無事なら我々としては、それ以上は望みません。」

 

「それもいいかもねー。でも人外相手に引いたなんて事になると…」

 

 クレマンティーヌが思ったのは、人外の存在に屈せないという、捨てたはずの漆黒聖典としての意識――これがもっと強大な、それこそ神の様な圧倒的な実力を示されていれば違っていたのだろうが…

 

 ――ギャリギャリギャリッ!!

 

 何が起こったのか理解できない一瞬で、クレマンティーヌはボロ雑巾の様になっていた。顔面から上半身がズタズタに引き裂かれ、ネコを思わせる端正な顔立ちや、肉感的な肢体は見る影もない。かろうじて生きているのが、口があったはずの場所から漏れるコヒューコヒューという呼吸音から確認出来る。

 

 クレマンティーヌの傍で佇んでいるのは、今までハムスケの頭上で何もせずにいたぷーにゃんだった。

 

「ニャンニャニャニャン!(ハムスケ、こいつらに言っとけ!まったく…主人の計画に無い事しやがって。コイツの行先は決まってんだぞ。)」

 

「ヒィィ~、わかったでござるよ兄者。漆黒の剣の皆、姫より時間切れとの御達しでござる。ンフィーレア殿を連れて帰ってこいとの事でござるよ」

 

 あまりの結末に彼らが茫然としていると、その場に浮かび上がる様に現れる姿があった。彼らを使徒として生まれ変わらせたエヌスリーである。

 

「よくやったなお前達。残念ながら時間切れになってしまったが、中々の健闘だったぞ。さっちん様も御喜びだ。」

 

「エ、エヌスリー様…もしかして最初からずっと?」

 

「戦乙女の加護と言っていたな?分かっているじゃないか。私が見守っている限り、お前達には私の加護が与えられているんだ。これがなければ危なかったところだぞ。」

 

 突然の打切り宣言とダメ出しの通告に漆黒の剣は呆然とするしかなった。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

霊廟の地下に隠された祭壇で、ンフィーレアを発見した彼らはドン引きしていた…

 

「おいおい…やっぱあのクレマンティーヌって女はイカれてるな。それともハゲの方の趣味か?」

 

「これはひどい…」

 

「ゴクリッ…」

 

「ニニャの顔が真っ赤なのである。」

 

 囚われのンフィーレアはスケスケの薄布で作られたあぶないローブを纏い、色々なところが丸見えになっている。そして頭を覆うようにして蜘蛛の巣の様な金色のサークレットを付けていた。さらに彼の前髪に隠れた両目は横一文字に切り裂かれていて、両目から流れる血は涙の様だった。意識はあるらしいが、かゆ…うま…と意味不明な事を呟いている。

 

「と、とにかくンフィーレアさんを治療しないと!ダインはポーションの用意を!」

 

「俺の弟子にこんな格好させやがって…おいニニャ!あんまりジロジロ見てんなよ!何か羽織る物はないか?」

 

「ななな…何を言っているんですか?」

 

「ふむ…治療の邪魔なので、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ダインはンフィーレアを治療する為にサークレットを外すと、さっちんから受け取っていた赤いポーションを頭から振りかける。ンフィーレアの全身が緑色に輝き、みるみる両目の傷が塞がっていくが…

 

「アーッヒャヒャヒャヒャヒャwww」

 

 突然ンフィーレアが奇声をあげる。おもむろに立ち上がると不思議な踊りを始める。

 

「タリラリラ~ン♪アへアへアへ~♪」

 

ジョバッ…ブリョリョリョリョリョ(※以下自主規制)

 

「酷え事しやがる…ちくしょう…」

 

「傷は治っているのでポーションに問題はないのである。しかし心の傷は治せなかったのである。」

 

「きっと凄まじい拷問を受けて、心が壊れてしまったのでしょう。御気の毒に…」

 

「あいつら許せない…こんなに酷い事を…」

 

 冒険者用のマントに包まれ、動けないように縛りあげられたンフィーレアを見て漆黒の剣は考える。だがそれほど深刻に思っている訳ではない。ンフィーレア救出と言う最優先の目標は果たしている。あとは偉大な主人なら不思議な力で何とかしてくれるに違いない……。

 

「とりあえず帰るとしようぜ。よっこらせと…」

 

他のメンバーが若干顔を顰めながら距離を置いているというのに、汚臭に塗れたンフィーレアを躊躇いも無く担ぎあげたルクルットは、弟子想いのナイスガイだ。それに引き換えさりげなく風上に位置取っているダイン(戦犯)は許されざる罪人だ。

 

 こうして無事に任務を果たして凱旋した漆黒の剣(白いけど)を迎えた主人の第一声は、鼻を摘まみながらの一言だった。

 

「いや、どうするのよコレ?(くさっ)」

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

 寸でのところでハゲ達の野望は阻止された。都市長は墓地以外で殆ど被害が発生しなかった事で胸を撫で下ろした。事件の首謀者と思われるハゲと女(だった物)と部下達の死体は衛兵の詰め所で厳重に保管されていたのだが、ハゲと女(だった物)の死体が忽然と消えてしまった!!いったいなにもののしわざだろう?(棒読み)そしてこの事件を解決に導いた漆黒の剣(白いけど)はミスリル級への昇格を果たす事になった。

 

 漆黒の剣によって無事に救出されたンフィーレアだが、命に別状はないものの非常に悲惨な状態になっていた。原因は判明している。この「叡者の額冠」というクソアイテムの所為だ。

 叡者の額冠は着用した者の自我を奪う事で、着用者をたかだか第七~第八位階魔法程度しか使えない不良マジックアイテムにしてしまう呪いのアイテムだ。こんなのぶっとんだ性能が多いユグドラシルでも無かったというか、制作する事も考慮されないだろうゴミアイテムだ。

 しかも一度装備してしまったら、装備を解除すると同時に発狂とか、とんでもない悪質なトラップアイテム、しかも装備可能な条件を満たすのが100万人に1人とか需要なんて全く無いゴミ以下のアイテム。これを作った奴は頭がおかしいと断言できる。

 

 こんなになってしまったンフィーレアを見たリイジーはとても悲しんだ。勿論そのままにはしておけない。ここまで壊れた精神を治せるのは、ナザリックでも治癒魔法に特化したペストーニャかギルメンの能力を使えるパンドラだけ。当然リイジーに治療を申し出て、くれぐれも頼むと念を押された。そうしてナザリックにンフィーレアを連れて帰ろうとしていると、私に悪魔が囁いた。

 

「さっちん様、これは非常に都合のいい機会です…ゴニョゴニョ」

 

「ええ~っ!?そんな事してイイの?」

 

「何を仰います(ニヤリ)…ゴニョゴニョ」

 

「あれあれ?これって…ンフィーレアにとってもイイ?事…」

 

「その通りでございます!これを公表すれば…ゴニョゴニョ」

 

「う、うん…そうだよね!彼にとってもその方がいいよね!」

 

「もちろんで御座います(ニッコリ)さらに…ゴニョゴニョ」

 

「そっか~そうだよね♪ウケケケケケ…」

 

 デミウルゴスの提言はこうだ

 

① 流れ星の指輪を使ってンフィーレアのタレントをボッシュート&ついでに治療

② 何てことだ!治療の副作用でンフィーレアのタレントが失われてしまった!でも不可抗力だし私は悪くないよ!

③ 今回の原因になった危険な能力が無くなってンフィーレアはハッピー♪治療も出来てさらにハッピー♪

④ 私は凄いタレントをゲットしてラッキー♪治療費としては格安だし?他に治せる人は居ないぞ!

⑤ 大変な目に遭ったンフィーレアはカルネ村で静養(永久に)だ!エンリと一緒で超ハッピー♪

⑥ 優しい私はンフィーレアに別荘(隔離ポーション研究所)を用意するぞ!何て慈悲深いんだ~

⑦ 安全にも配慮するよ!優秀な警備員(シモベ)が24時間ンフィーレアを警護(監視)しちゃう!

⑧ 孫を心配するお婆ちゃんにも優しい配慮(研究者2号確保)

 

 誰も損をしない素晴しいアイディアだ。ウケケケケケ…

 

 こうしてンフィーレア君は自然溢れるカルネ村へ移り住む事になった。事件の影響は大きかった様で、一部の記憶が欠落したり、タレントが失われてしまうという後遺症もあったが、可愛いエンリに看病されたりしてとても幸せそうだ。これからは新たなポーション作りに御婆さんと一緒に勤しんで貰おう。

 




「漆黒」にかわりエ・ランテルの英雄になった「漆黒の剣(白いけど)」です。

ンフィーレアの受難はこれで終了。ご褒美として愛する少女とのラブラブな日々が待っています。







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