至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔) 作:生コーヒー狸
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残りも今日中に投稿します。
エ・ランテルに帰って来た私は、今後の予定について考えていた。実はかなり用事がたまっているのだ。明日はバレアレ薬品店でリイジー・バレアレとの話し合いがあるし、ハムスケの魔獣登録とかで冒険者組合から係員が訪ねてくる。都市への入場時に門番から「未登録の魔獣はちょっと…」とか言われていたけど、セバスが「全て都市長に任せてあります」の一言で押し通した。
他の問い合わせや面会希望も全部それで済ませているので、都市長は大忙しで大変らしい。でも太っちょでプヒプヒ言っていたのが、みるみる痩せてきているからOKだろう。デミウルゴスからも好きな様に使って大丈夫と言われているし、王国の貴族は庶民を虐める悪人ばかりと聞いている。悪徳都市長は今までの怠惰のツケを払うがよい!
それにナザリックへ案内した冒険者達も帰ってくる頃だ。お兄ちゃんからは「彼ら全員の今後の活躍を心配いたします」という連絡があった。まあ残念賞を御土産に持ち帰るみたいだから、少しは宣伝になるだろう。漆黒の剣については、もう少し様子を見てからナザリックで鍛えてもいいかもしれない。
後は報告のあった変なハゲ集団だ。墓地で暮しながら「微笑ましい活動」をしていると聞いた時は笑いが止まらなかった。5年もかけてエネルギーを集めているのに、召喚されるのがスケリトル・ドラゴンとか意味が分からない。
しかも「彼らの努力が実るのに、今しばらくの時間が必要な様です(笑)」という話だ。新メンバーが加入したそうなので頑張って頂きたい。よかったら腕のいいネクロマンサー(一日でスケリトル・ドラゴン20体。より強力なアンデッドもお気軽にご相談を!)を紹介してあげようか?
後はソリュシャンとお風呂に入ってから晩御飯を食べて寝るだけだ。最近は酸耐性を付けてのソリュシャン風呂が私のお気に入りだ。お兄ちゃんのスライム風呂を聞いて、ソリュシャンにお願いしたら快くOKしてくれた。私はポワ~っとしてるだけで全身を隅々まで洗ってくれるし、プルプルのソリュシャンはヒンヤリしててとても気持ちいいのだ。
そんな事を考えているとセバスが部屋に入って来た。
「お嬢様たった今、シャドウデーモンより報告が入りました。バレアレ薬品店が何者かに襲撃を受けております。現在は漆黒の剣の4人が襲撃者と戦闘中です。如何なさいますか?」
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《テレポーテーション/転移》で現場に到着した時には、あらかた状況は終了していた。連れ去られたンフィーレア、瀕死のリイジー・バレアレ、全滅した漆黒の剣――しかも《クリエイト・アンデッド/不死者創造》でゾンビにされていた。
シャドウデーモン達に監視以外の行動を禁止していたのは失敗だった。彼らが加勢していれば、もう少しマシな状況だったかもしれないのに…
「ぐ…あ…ンフィーレアは…」
「ルプスレギナちゃん、お婆さんを治療して上げて。」
「かしこまりました。《ヒール/大治療》」
まずは直接、事情を聞かないとね。ここを襲撃したのは、あのハゲ達らしいけど、何の目的でンフィーレアを連れ去ったんだろう?
「はっ…痛みが?…それにおぬし達は?」
「リイジーさん具合はどう?わたしはさっちん。ンフィーレア君と一緒にカルネ村へいった者だけど、何があったか聞かせてくれる?」
「おぬし達が孫と……事情は聞いておる。色々と世話になってたみたいだね。奴らは「ンフィーレアのタレント」があれば「儀式」が一気に進められると言っておった。何をさせるつもりか分からないが、碌な事じゃないだろう。」
――忘れてた!!ンフィーレアには「あらゆるマジックアイテムを使用可能」という能力があった!それが目的だったんだ!
「こうしちゃおれん。とにかく孫を助けないと!まずは衛兵、そして冒険者組合にも!」
「私達が何とかするから落ち着いて!」
「おぬし達が?この町で色々としておったようじゃが…」
「お嬢様、捕らえた漆黒の剣(ゾンビ)はどうしましょう?」
「わしが生きているのも彼らの御陰じゃよ。必死にあの女と戦って…わしは《フォックス・スリープ/偽死》と隠し持っていたポーションで何とかなったけど…ゾンビにまでされちまって…こうなっては安らかに眠らせてやるしかないわい。」
ゾンビ化は少しやっかいだ。通常の蘇生魔法では復活する事が出来ない。お兄ちゃんの《リーンカーネイト/転生》ならアンデッドになった者を人間へ転生させられるけど、能力や記憶がどうなるか解らない…彼らがどれだけ一生懸命戦ったかは、リイジーとこの惨状を見れば判る――生き残る為、守る為の必死に頑張ったんだろう。
彼らとは数日間を共に過ごしただけだが、とても面白い…いい人だった。これからして欲しい事もあったし、大事な約束もしていた。計画の邪魔をされたとかじゃなく、彼らが害された事がかなり…かなり不快だ。
「漆黒の剣についてはお兄ちゃんに相談――」
「さっちん様、私のスキル「エインヘリヤル・ハイアル」を使ってはいかがでしょうか?」
「さんちゃんのスキル――エインヘリヤル・ハイアル?」
「エインヘリヤル・ハイアルは死者を私の使徒「戦死した勇士」として復活させ、使役するスキルです。レベル50以下の人間種にしか使用できませんが、「戦死した勇士」は高い能力値を持つ種族ですので、彼らも優秀な戦士となるでしょう。さらに種族レベルが15になれば、その功績を認められて「戦死した勇士」を職業レベルに置き換えた状態で、人間として復活出来るので彼らにとっても問題はないでしょう。」
何それすごい。そんな設定…というかスキルがあったんだ。ユグドラシルでだったら微妙かもしれないけど、この世界でならとんでもないスキルだ!
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「――そういう事だから、君達にはンフィーレアの救出、そして首謀者のハゲを倒してこの事態を解決してもらう。もちろん例の女戦士も…判った?」
さんちゃんのスキルで無事?に復活した漆黒の剣の4人だが、使徒になった影響なのか、髪の毛が真っ白になってしまったぞ!漆黒の剣なのに真っ白とか……
「さっちん様とエヌスリー様には、多大な御恩と身に余る力を戴きました。必ずンフィーレアさんを助けて見せます。」
「あのハゲとキチ女にはたっぷりと借りがあるからな。しっかりと返させてもらうぜ。それに持って行かれた冒険者プレートも取り返さないといけないからな。」
「一度失った命を救って戴いたのである。ゆえにその恩を返すだけの成果をみせるのである。」
「僕はまだ終わっていない。また戦える…っ!(姉さんだって)助けられる…っ!」
為すすべも無く無惨に殺されて、復活したばかりの彼らだが、やる気は充分だ。もちろん彼らへのバックアップも忘れていない。
「敵は墓地の奥にある霊廟にいる。ンフィーレアもそこだね。そして墓地からは千体以上のアンデッドが出現して、このままでは都市内になだれ込んでくる。」
「千体以上のアンデッドですか…」
「マジかよ…でもヤルしかねえな。」
「今の僕たちならやれます!」
「全力を尽くすのである。」
なぜ低位とはいえ、あれだけのアンデッドが召喚されたのかは解らない。ハゲの事を見くびっていた。勿論ンフィーレアのタレントが関係しているのだろうが、本当に迂闊だった。おのれハゲェ~…
「低位アンデッドばかりだから、数以外は君達にとって脅威じゃない。それに強力な助っ人もいるから安心して――ハムスケっ!」
「おまかせでござる!漆黒の剣の皆の弔い合戦でござるよ。それがしの力を姫にお見せするでござる!」
「いや…私達は一応は生き返った?のですけれど…」
ハムスケが是非とも!と言うので同行させる事にした。これでも森の賢王と云われた大魔獣(笑)で、例の女戦士とも互角に戦える強さだ。
「森の賢王が一緒なら心強いな!それにすんげえ装備も用意してもらったんだ!絶対に負けねーぜ。」
「凄まじい装備品ですよね。これさえあれば負けません!」
「この身体の特殊能力も驚きである!私も攻撃に専念出来るのである。」
「油断は禁物ですよ。まあ絶対に勝ってみせますけどね!」
漆黒の剣に与えた装備は全て遺産級だ。彼らのレベルと能力値で装備可能な物でも最上クラスだ。但し対アンデッド戦を考慮して神聖属性中心で揃えたので、殆どが「白い」装備で、ますます漆黒じゃなくなってしまった。
そして「戦死した勇士」の特殊能力であるHP自動回復(小)は長期戦には有利に働くはずだ。さらに課金アイテムを使用しての取得経験値UPの効果で、墓地のアンデッドを殲滅する事によって、かなりのレベルアップが期待できる。さらに支援魔法によるバフがあれば、ハゲ達にも負けないはずだ。
「今のエ・ランテルは有力な冒険者チームが出払っていて戦力が不足しているし、この前までエ・ランテルに居たガゼフ戦士長も王都に帰っちゃったけど、都市の安全は私達に任せて、君達は墓地のアンデッドとハゲ達を倒す事だけ考えて!それじゃあ行くよ!」
「お、おぬし達はいったい…?これほどの力とアイテム、そしてあのポーション…」
「聞いてのとおり、この事態は私達が何とかするから、リイジーさんは安心して待っていてね。御礼についてはンフィーレアが帰って来てから、ゆっくりとお話ししようか?」
「もちろんじゃ…金でも何でも、わしの持つ全てを差し出そう。だから孫を…この町を救ってくれ!」
「全て!?そんな事言っちゃっていいの?ウケケケ…」
「悪魔は魂を代価にあらゆる望みを叶えるという…まさかおぬしは悪魔ではないのか?」
「そうだよ♪何でわかったのかな?」
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エ・ランテルの外周部にある共同墓地は、毎年の戦争で発生した戦死者を弔う必要性からかなりの規模を誇る。万が一の事態に備えて、都市の城壁に匹敵する壁に囲まれているが、現在その「万が一の事態」が起こっていた。
突如大量発生したアンデッドは千体以上。巡回中だった衛兵が血相を変えて門まで逃げて来た時、その場に居た衛兵達は絶望した。大急ぎで門を閉じた事で何とか食い止めているが、門が破られるのは時間の問題で、このままではアンデッドの特性から、さらに強大なアンデッドが出現するという最悪の事態も考えられる。
衛兵達がエ・ランテルの滅亡すら予感した時に、彼らは現れた――純白の装備を纏った4人と強大な魔獣…4人は装備だけでなく髪の毛も真っ白だ。高名な冒険者に違いないと思ったが、冒険者の証であるプレートが見受けられず、ワーカー?と思うが、この事態の助けになるならワーカーだろうと関係ない。
「私達は「漆黒の剣」!主人からこの事態を解決するよう命を受けてやってきました。」
「事情があってプレートは無いが、れっきとした銀級冒険者だ。ここは俺達に任せてくれ。」
「奥の霊廟に首謀者がいるのである。これより我らが向かうのである。」
「冒険者ギルドに都市長や各ギルド長、神殿長が集まって対策中です。事態を報告にいって下さい!」
「それがしはハムスケ!かつては森の賢王と呼ばれていたでござる。それがしと漆黒の剣に任せておくでござる。」
「ゴロニャーン」
衛兵達は力強く断言する彼らに困惑する。
「ぎ、銀級冒険者で大丈夫なのか?」
「無理だ!あれだけのアンデッドの大群だぞ!」
「伝説の大魔獣…森の賢王…!?(あの頭の上のネコは何だ?)」
「漆黒の剣?…漆黒??(白いじゃないか?)」
4人と魔獣は門の脇にある階段を駆け上ると、壁の上からアンデッドの大群がひしめく墓地へと躊躇なく飛び降りた。呆気にとられた彼らが茫然としていると、門の向こうから激しい戦闘音が聞こえる。どれ位経ったのだろうか、我に返った彼らが壁の上に登ると……
「うそだろ?…あの戦士達は、あれだけのアンデッドを倒して…そしてまだ戦っているのか!?」
「あれが銀級だなんて嘘だろ。あれこそ冒険者の最高峰…アダマンタイト級じゃないのかよ?」
「凄いな…凄い人達だな…あのチームは何ていったけ?」
「漆黒の剣といっていたが…(白いけど)」
壁の上からは大量のアンデッドの残骸が確認できた。そして墓地の奥では、いまだ大量にひしめくアンデッドを相手に、一歩も引かずに戦い続ける彼らの姿があった。
ペテルは長剣でゾンビ達を次々と切り伏せ、ダインのメイスがスケルトンを粉々に砕いていく。ニニャの魔法が炸裂し巨大なネクロスウォーム・ジャイアントを焼き尽くす。ルクルットは素早い連射で相手を近寄らせない。ハムスケは爪と尻尾を振りまわして、巻き込まれたアンデッドはバラバラになっていく。
「俺達は……伝説を目の当たりにしているんだ。純白の戦士……いや純白の英雄だ!!」
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「これで最後でござるよっ!」
ハムスケの尻尾が数体のアンデッドを串刺しにし、そのまま勢いを付けて地面に叩きつける。アンデッドはバラバラに破壊され、これで辺りに動いているアンデッドはいなくなった。
「お見事である!」
「ようやく片付きましたね。それにしても――」
「お嬢様の言っていたとおりだな!凄え力が湧いてくるぜ!」
「これが「レベルアップ」という物ですか…確かにさっきまでよりも強くなっていますね。」
「それがしも強くなった気がするでござるよ!」
彼らは課金アイテムによる効果で短時間でのレベルアップを果たしていた。漆黒の剣4人は平均で5レベル、ハムスケも1レベルだが上がっていた。今の漆黒の剣は全員がミスリル級、それもオリハルコン級に近い強さを得ていた。これに装備の力とバフ効果が加われば、アダマンタイト級に匹敵するだろう。
「全員戦闘に支障はないな?傷を負ったり、装備に問題がある者はいるか?」
この後の戦いに備えて、リーダーであるペテルが確認する。待っているのは自分達を圧倒的な力で惨殺した強敵だ。新たな力を得たとはいえ、まだまだ相手の方が格上なのは変わらない。
「私は問題ないのである。怪我をしていればすぐに魔法を掛けるので言ってほしいのである。」
「僕も大丈夫です。魔力も半分以上残っています。」
「俺も大丈夫だ。装備も傷一つ出来てねえ。マジでとんでもない武具だなこりゃ!」
「それがしも平気でござる。傷はさっきダイン殿の魔法で治してもらったでござる。」
「よし!それじゃあ行くぞ。絶対にンフィーレアさんを助け出すんだ!」
「おうっ!」「はいっ!」「ウム!」「ござるっ!」「にゃー」
ペテルが全員に檄を飛ばす。例え傷は治せても、千体を超えるアンデッドを倒した事で溜まった疲労は残っている。それを吹き飛ばすように全員が気合いを入れる。
「それと皆に相談がある。私達漆黒の剣の…いや、私個人の問題といってもいいかもしれませんが……」
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「課金アイテムの効果も確認できた。これなら何とかなりそうかな?それにしても…あれだけ倒してもこの程度って事は、やっぱり経験値効率が悪いみたいだね。」
漆黒の剣とハムスケ達の戦いは、十分な対策を施した監視魔法によって一部始終を監視されていた。
「それでも短時間でのレベルアップが果たせたのですから、作戦は順調でしょう。」
「この度は私の報告体制に不備があり、さっちん様の計画に多大な支障をきたしました事を、あらためて御詫び申し上げます。如何様な罰でもお申し付け下さい。」
「気にしないでデミウルゴスさん。私も大事な事を忘れていたり、ハゲ達を甘く見ていたから。」
「私達のフォローも不足しておりました。誠に申し訳ございません。」
思わぬアクシデントの発生に、ナザリックよりNPCの中でも最高峰の知略の持ち主であるデミウルゴスが馳せ参じていた。彼は事態を把握すると即座に様々な対処案を献策した。このままいけば都市への被害は最小限に抑えられるだろう。
プレアデス達はエ・ランテルの各所でアンデッドの発生に備えている。現在は都市の居住区内でアンデッドの発生には至っていないが、万が一にそなえての措置である。これには都市長のパソナレイも感涙であった。
「さっちん様の寛容さに心から感謝いたします。今後はこの様な事が起こらぬ様に、さらなる情報収集に努めます。それでこの後の事ですが、彼らの作戦ではかなり問題もあるかと愚考しますが?」
「あぁ~~アレね。まあ…彼らにも意地があるってことでしょ。」
彼らが戦いの前に相談していた事は知っている。私としては頑張ってとしか言いようが無い。どうなろうと結果は決まっているからだ。出来ればうまくいって欲しいけどね。
「その意地で大局を見失っては身も蓋も無いと思いますが?」
「私もそう思うよセバス。君と意見が合うなんて奇遇だね。」
「そうですね、デミウルゴス。」
「まあ、彼らには頑張って貰うとして…あいつらの処置は任せちゃってOKなんだよね?」
「全ての手筈は整っておりますのでご安心を。さっちん様は彼らの雄姿をごゆっくりお楽しみ下さい。」
デミウルゴスがいれば安心だ。言われた通り漆黒の剣(白いのに)を応援しよう。頑張れー!!
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「カジット様…来ました。かなり高位の冒険者かワーカーと思われます。それとあの魔獣も!?…」
霊廟の前では邪教集団ズーラーノーンの幹部カジット・デイル・バダンテールと直弟子6人が儀式を続けていた。カジットこそが漆黒の剣を魔法によりゾンビへと変えたハゲである。彼らが召喚したアンデッドが殲滅されたのは、召喚主とのリンクで判っていたらしく、かなり警戒している。
「私達の目的は判っているでしょう。ンフィーレアさんを返していただきます。」
「貴様らは!?バカな!確かに殺して――ゾンビになったはずでは?ありえんっ!!それにその姿は?」
やってきたのが殺してゾンビになったはずの漆黒の剣と知り、カジットが驚愕する。その変わり果てた(白い)姿にも。
「さっきぶりだなハゲ。弟子を取り返しに来たぜ。それとあのキチ女はどこだ?アイツには大事なモンを預けたままになっていてな。」
「言ってくれるじゃねえか三下ぁ、この英雄の領域に達しているクレマンティーヌ様に向かってよぉ……それでお前らどうなってやがる?復活魔法…?それにその格好は……」
霊廟の奥から現れたのは、漆黒の剣全員を、たった一人で惨たらしく殺害した女戦士クレマンティーヌ。ズーラーノーンの幹部であり、現在は国を裏切り出奔したが、かつてはスレイン法国最強の特務部隊、漆黒聖典第九席次「疾風走破」と呼ばれた人類最高峰の戦士である。短めの金髪で速度を重視した軽装だ。
その鎧には彼女が今まで、文字通り狩ってきた冒険者達のプレートが貼り付けられている。中にはミスリル――オリハルコンプレートすらある。
驚愕するだけのカジットとは違って、激昂しているように見えても、心中では事態を把握しようと冷静に思考しており、微塵の油断も無い。
「あれぇ~、クサ○ンティーヌさんじゃないですかぁ?こそこそと隠れていたみたいですけどぉ、逃げなくてもよかったんですかぁ?」
「あ゛あ゛あぁん?このクソアマァ……手前ェどんな目に遭わされたのかもう忘れたのかよォ?また×××されてえのかよ?」
「忘れるわけが無いでしょう。それに今度はこっちが貴女のクサレ○○○にこの杖を×××してやりますよ。」
「ニニャ…女子が口にしてはいけない言葉なのである。」
惨殺された漆黒の剣の中でも、特に執拗に甚振られたニニャの怒りは凄まじいが、これは相手の冷静さを奪う作戦だ……と思う。
「カ、カジット様…如何なさいますか?」
「馬鹿な…まさか…ありえん…これは儂が長年追い求めて来た…」
ザシュッ――ドスッ――ドサドサ
動揺しているカジットの隙をついて、ペテルとルクルットがそれぞれ弟子を攻撃する。
「げぇっ!?」
「今の動きっ!?カジッちゃん、こいつらは何かおかしい!さっきまでと別人だ。お前らどうなってやがる?」
「もの凄え力を持ったお嬢様に、もの凄え力を戴いたんだよっ!!」
「まずは周りの奴らを片付けますよ!」
ペテルに応えて全員が動き出す。スティレットを抜き放ったクレマンティーヌへニニャがマジックアローを放つ。放たれた光の矢は4つ、クレマンティーヌ程の戦士には大したダメージにならないが、一瞬でも動きを止めるのには充分だ。そのままダインが怒涛の如くメイスを振るい続ける。何発かクレマンティーヌの身体を掠めるが有効打はない。
「うおおっ、武技《剛撃》」
「遅いんだよっ!《流水加速》そして《無足衝突》!!」
ダインの一撃を余裕で交わし、そのまま続けて発動した武技が炸裂する。
「ぐわああああーッ!」
「ダ、ダイーンッ!!」
直撃を受けたダインは身体から噴水のように血を噴き出す。クレマンティーヌから見ても致命傷で、まずは一殺、そして予定通りと舌舐めずりする。回復役を最初に潰すのが彼女のセオリーだ。次はマジックキャスターをスッといってドスッといきたいが、あのガキは最後まで残した後、たっぷりと時間をかけて徹底的に嬲り殺すと決めている。
適当に甚振って戦闘不能にした後はカジットへの加勢だ。漆黒の剣は強くなっているとはいえ自分の敵ではないと確認した。だがあの魔獣は別格だ。あいつは自分と互角に戦える強さだ。決して油断できない。
「ちょっとはマシになったみたいだけど…クレマンティーヌ様に舐めた口をきいた事を後悔させてアゲル♪」
カジッチャンの事をハゲと呼ぶのは止めましょう!
泣いてるハゲもいるんです!