至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔)   作:生コーヒー狸
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ルクルット爆上げにビックリです。
そして2話ぶりにアインズ様登場です。


森の賢王

「外れだ…完全に外れだ。」

 

 トブの大森林南部の奥地で、アインズは遣る瀬無い気持ちで、己の目の前でひっくり返り無防備に腹を曝け出している魔獣を眺めていた。その魔獣こそトブの大森林南部を縄張りとする「森の賢王」と呼ばれる伝説の大魔獣であった。

 

 アインズは妹が興味を持った森の賢王という伝説の大魔獣を、アウラに命じて探させていた。程なくして森の賢王らしき魔獣が発見され、妹がトブの大森林へ散策に出かける前に、自分の目で確認をしに来たのだった。

 万が一にも妹に危害を加える危険な存在であれば、容赦なく殺すつもりだったが、アウラの見立てではレベル30強程度。魔獣系モンスターの特殊能力を加味してもデスナイトクラスだ。ただユグドラシルには存在しなかったモンスターという事で若干の期待と興味を持っていた。

 

 そうして出会った森の賢王は、その規格外の大きさと長過ぎる尻尾を除けば完全にハムスターである。口調は変わっているが流暢な言葉を話し「仲間に会いたい」「子孫を残さねば生物失格」などと、大いに共感できる事を語って多少はアインズを感心させるが、アインズに対して「命のやり取りをするでござるよ」とのたまったあげく、絶望のオーラⅠを浴びただけでこのザマである。

 

 こんなのが伝説の大魔獣だと知った妹が、ガッカリする様子を思い浮かべたアインズに、アウラが「よい皮が取れそうです(ニッコリ)」と語り、自らの運命を嘆き悲嘆にくれる森の賢王を、「うーむ、どうしたものか?」と考え込むアインズだったが、そういえば…と呼び起される記憶があった。

 

「餡ころもっちもちさん…今日もログインしていなかったね。もう1週間だよ。」

 

「ペットのハムスターが死んでしまったという事だが…早く元気になって欲しいな。」

 

 ギルドメンバーの餡ころもっちもちは動物好きで知られていた。ハムスターの他にも犬を飼っており「うれしょんが大変で困る」とギルメン達に言っていた事もあった。このご時世で生きた動物をペットとして飼育しているなら、ある程度の富裕層のはずだが、それを意識させない人柄で兄妹とも仲が良かった。

 

「餡ころもっちもちさんの飼っていたハムスターの写真や動画を見せてもらったけど、とっても可愛かったんだよ!ネコが好きだけどハムスターもいいなぁ~。」

 

 ハムスターとはいえ自然が完全に破壊された世界では、生きた動物自体が希少な存在で、貧困層に属する兄妹にとっては高嶺の花だ。とてもペットを飼う余裕などは無い。

 

「すまないな…お兄ちゃんがもっと給料の良い仕事をしていれば…」

 

「ごめんなさい!そんなつもりで言ったんじゃないよ。気にしないで、お兄ちゃん。」

 

 そんなやり取りを思い出したアインズは――

 

(そうだ!さっちんのペットにぴったりじゃないか♪ネコのぷーにゃんも居るけど、これだけ大きければ背中に乗る事も出来る。巨大ハムスターに跨る可愛いさっちんは絵になりそうだ♪こいつは拾い物かもしれんな)

 

 アインズはさっちんが喜ぶ姿(お兄ちゃん大好き♥)を思い浮かべ、森の賢王への評価を上方修正する。言うなればポイント1、いや3ポイントくらいの高評価である。

 

「私の名はアインズ・ウール・ゴウンという。森の賢王よ、私が示す条件(妹が気にいる)を充たすなら、汝の生を許そう。」

 

「あ、ありがとうでござるよ!命の為ならどんな条件にも耐えてみせるでござるよ!それがしの全力をお見せするでござる!」

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

 カルネ村で一泊した翌日、漆黒の剣に護衛されたンフィーレアはトブの大森林で薬草採取に勤しんでいた。さっちん一行は「森の奥に用事がある」という事で別行動だ。本来であれば依頼主が危険な場所へ赴くのを見送るなど、冒険者に有るまじき事だが、あの一行に対しては漆黒の剣もンフィーレアも全く心配していなかった。

 

 間違い無く冒険者最高峰のアダマンタイト級にすら収まらない力を持っていると確信できる。そんな相手に自分達が心配する事などある訳が無い。しいて言えば、あのとびきり美味な食事に同伴出来ない事が残念だが、彼らの――特にンフィーレアの足どりは軽かった。

 

「よかったですねンフィーレアさん。エンリさんに想いを伝えられて、そして受け入れて貰えて。」

 

「いやあ…ありがとうございます。これもルクルット()()が助けてくれた御かげです。()()には本当に感謝しています。先程も言った通り、今後は漆黒の剣の皆さんには特別価格でポーションを提供させて頂きますから。」

 

「期待してるぜ。ンフィーレア君。」

 

 ンフィーレアにとってルクルットは、絶体絶命の窮地に陥っていた自分を、颯爽と現れて助け出してくれたスーパーヒーローだ。今までどんなに自分がアプローチしても(※「今日はいい天気だね」「カルネ村の近くで採れる薬草は最高なんだ」位しか言っていなかった模様)全く反応がなかったエンリ(※彼女はテレパスの魔法を使えません)に対して、彼の助言に従い告白したら(※ンフィーレアが発した言葉は、ほぼ「はい」「そうです」だけ)見事に彼女が受け入れてくれたのだ。それを思えば多少の便宜(※原価割れでポーション販売)を図るのも当然だ。

 

「それにしてもルクルットを見直したのである。多少の誇張はあったが見事なアドバイスだったのである。」

 

「あれは多少じゃないでしょう。お嬢様方が黙っていてくれたからいいものを…」

 

「ありゃお嬢様から頼まれたんだぜ!ニニャも気付いてなかったのか?メッセージの魔法で「ンフィーレア君を助けられないか?」って言われたんだ。それで俺も一肌脱いだって訳だ。」

 

 ルクルット自身は、生温かい目で見守るつもりだったが、特大の賄賂で買収されただけだ。

 

「そんな事をしていたのですか?」

 

「まいったなあ…僕なんかの為に。お嬢様にはちゃんと御礼を言わないと。」

 

「おかげで俺にもビッグチャンスが巡ってきたからな!まったくお嬢様には感謝感激だぜ♪」

 

「そんな事だろうと思いました。でも相手は身分も力もある方達なんですから、くれぐれも失礼が無い様に頼みますよ。」

 

 呆れた様子でペテルが釘をさす。ナーベラルへの態度もあり、常識人でチームリーダーの彼としては、一言いっておかなければと思うのは当然だ。

 

「分かってるって。それに身分も力もあるお嬢様が、わざわざ俺みたいな冒険者に「報酬を用意してまでお願い」したんだぞ。決して命令なんかじゃない。それだけの器量を持ってる御方だ。失礼何かする訳ないだろ。」

 

「それだけの器量…身分も力も…この国の腐った貴族どもなんかと違う本当の…力を借りる事が出来れば…」

 

 ニニャの暗い呟きに気が付いた者は聞かなかったふりをした。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「お久しぶりですさっちん様~♪」

 

「アウラちゃーん♪森の賢王を見つけたんだって!?すごーい♪」

 

 トブの大森林に来たのは森の賢王を見る為だ。伝説の大魔獣の話を聞いてとても興味が湧いのだ。アウラちゃんが従えている魔獣軍団も凄いけど、森の賢王はどうなんだろう?

 

「ねえアウラちゃん、森の賢王ってどんな魔獣なの?強そう?カッコいい?」

 

「いやぁ~…それは見てのお楽しみという事で。あっ!でもアインズ様もきっと気に入るだろうと仰っていました。」

 

「ええ~!?何それずるーい。私に内緒でぇ~?」

 

 なんか仲間外れにされたみたいだぞ。

 

「さっちん様を心配しての事でしょう。」

 

「アインズ様の優しい心遣いですわ。」

 

「あっ!そろそろ到着です。この先があいつの塒です。おーい、さっさと出ておいでぇー。」

 

 アウラの声に従って、洞穴の奥から巨大な影が現れる。

 

「お待ちしていたでござる。それがしの威容を御覧にいれるのでござる!」

 

 魔獣は立ちあがると両腕を上へ伸ばす…そして両手を開いて手首を曲げる。さらに右足を曲げて上げる格好――「荒ぶる魔獣のポーズ」を取る。

 

「見るでござるっ(クワッ)命を助けられた恩!(バッ)絶対の忠誠でっ(サッ)お返しするでっ(シュタッ)ござる!!(ビシッ)」

 

 そして様々な荒ぶるポーズを取りながら自身の威容と忠誠を誇示する。

 

「こ、これが…森の…賢王!?」

 

 伝説の魔獣に抱いていた幻想をぶち殺されたさっちんは、それ以上の言葉が出てこなかった。それを失望と感じたNPC達は…

 

「まったく無礼な獣ですね。」

 

「その通りです!」

 

「やっぱり皮を剥いだほうが…」

 

「愚劣な生き物ね。」

 

「ニャンニャンニャン!(てめえ喰うぞコラァ)」

 

「美味しそうかもぉ~」

 

 我にかえったさっちんが両手をいっぱいに広げて満面の笑みで叫ぶ。

 

「うわぁぁ!ハムスターだぁ!!可愛いぃ~♥何コレおっき~い!?凄い凄い♪」

 

 さっちんはその場でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びいっぱいという感じだ。

 

「とても素晴らしい魔獣ですね。」

 

「さっちん様の仰る通りです!」

 

「皮を剥ぐなんてとんでもない!」

 

「力を感じさせる瞳ですね。」

 

「にゃ、にゃ~ん!?(お、俺という者がありながら)」

 

「残念~」

 

 究極の妹君の言葉は全てに優先する。見事な掌返しである。

 

「ねえ、あなたのお名前はなんていうの?私はさっちんだよ!」

 

「それがしはずっと1人で生きて来たので、名前は無いでござる。いつの頃からか森の賢王と呼ばれ出したので、そのまま名乗っていたのでござるよ。」

 

「そうなんだ…じゃあ私が名前を付けてあげようか?」

 

 NPC達は驚愕する。ナザリック最高権力者より名前を授かるなど破格の待遇である。これは直接創造されたNPC達に準ずる地位という事だ。

 

「ぜひともお願いするのでござる!主人である姫に名を頂けるとは感激でござる!」

 

「姫って私のこと?」

 

「姫は殿の妹君なのでござろう。だから姫でござるよ。」

 

「殿?それお兄ちゃんの事?…ウヒャヒャヒャヒャwwお前おもしろいね~。」

 

「それでは姫、それがしの名はどういったものになるのでござるか?」

 

「そうだねぇー…ハムスターで「ござる」「殿(プッ)」だから――ハムスケ!おまえの名前はハムスケだよ!」

 

 とても喜ばしいことに、兄妹のセンスは似通っているようだ。

 

「おお!このハムスケ、素晴しい名を戴いた恩に報いるためにも、姫に絶対の忠誠を誓うでござるよ!」

 

「ウヒャヒャヒャヒャww誓われるでござるよ♪」

 

「姫ぇ、ひどいでござる。それがしの誓いを笑わないで欲しいでござるよ~。」

 

「ゴメンネ~ハムスケ♪」

 

「ニャンニャンニャニャニャン!!(テメエっ、新参者が粋がってんじゃねえぞ。いいか主人のペットで頭はってるのは、このぷーにゃん様だぞ)」

 

 さっちんのペット1号であるぷーにゃんがハムスケに吼えたてる。

 

「ゲェー…このネコ小さいのに凄い化け物でござるよ!姫ぇ~!姫ぇ~!」

 

「ニャニャニャニャーン!(俺は上!テメエは下だ!!)」

 

「ぷーにゃん、ハムスケと仲良くしてね♪」

 

「ニャアーン!(今日はこれ位にしといてやるぜ!)」

 

 こうして森の賢王あらためハムスケは、生を謳歌する事を許されたばかりでなく、主人と名前、そして兄貴分まで手に入れる幸運に恵まれるのだった。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「――という訳で、さっちん様はハムスケをとても気に入ったご様子でした!アインズ様の言った通りでしたね!」

 

「そうだろう!さっちんが喜んでくれて何よりだ。それにしてもハムスケか…なかなかのネーミングセンスだ。あいつにピッタリじゃないか。」

 

「本人も喜んでいましたよ。」

 

 トブの大森林での出来事を報告するアウラにアインズが満足していると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「失礼いたしますアインズ様。デミウルゴス様が定例報告に参りました。御通ししても宜しいでしょうか?」

 

「もうそんな時間か?構わない、通してくれ。」

 

 アインズも支配者として振る舞う事に慣れて来たようだ。家族を背負っている男の貫禄とも言うべきか。

 

「ご歓談中のところへ失礼しますアインズ様。そしてアウラもだね。」

 

「良く来たなデミウルゴス。まずは掛けるがよい。」

 

「デミウルゴスお疲れー。」

 

 現在ナザリックで進めている計画は、どれも順調に進んでおり、さらにアインズの子供の誕生を控えている事もあり、転移直後の臨戦態勢がウソのような明るいムードだ。NPC同士も協力して事に当たっており、互いを尊重し合う関係が保たれている。創造主同士の仲の悪さが影響していたデミウルゴスとセバスさえ、報告の際に(多少の棘はあるが)軽口を言い合うほどである。

 

「アウラから報告があったのだが、さっちんに新しいペットが出来てな。いずれナザリックに連れ帰るだろうから、ナザリックの者達との顔合わせをしないとな。フォスよ、デミウルゴスに飲み物を用意してくれ。」

 

「かしこまりましたアインズ様。デミウルゴス様はいかがなさいますか?」

 

「それは宜しゅうございました。フォスには紅茶をお願いしようか。ストレートで頼むよ。」

 

「デミウルゴスは紅茶党だったな。私はコーヒーに凝っていてな、副料理長に色々なブレンドを試させているんだ。今日のブレンドもなかなかだぞ。」

 

「それはそれは。次の機会には是非ともアインズ様のおすすめをご馳走になるとしましょう。」

 

「私は苦いのは苦手かな~。温かい飲み物ならココアが一番です!」

 

 アインズは妹にとても感謝していた。最初は戸惑っていた部下達とのコミュニケーションが、こうして飲食を供にすることでスムーズに進められるからだ。そしてアインズと同席しての飲食はNPC達にとっても至福の時間であり、それをもたらしたさっちんへの感謝の念を、全てのNPCが抱いているのだった。

 

「それでは報告を聞くとしよう。なにか変化はあったか?」

 

「はい。エ・ランテルに配置したシャドウデーモンからの報告で、以前より墓地に潜伏していた集団に、35レベルという現地では最高クラスの女戦士が合流したとの事です。」

 

「ほう!周辺国家最強と言われるガゼフ・ストロノーフを上回るレベルか。その女は何者だ?」

 

「例の集団――ズーラーノーンの高弟との事で、名はクレマンティーヌ。それ以上はまだ不明です。ただ、この女が加わったとしても、プレアデス2名で十分に殲滅可能でしょう。」

 

 デミウルゴスはエ・ランテルにおいて大規模な諜報体制を敷いており、クレマンティーヌがエ・ランテルに到着したのも今日の出来事である。そして墓地に潜伏中のズーラーノーンについても把握していたが、特に見るべきものは無いと不干渉で、監視するに留めていた。

 

「ズーラーノーン…墓地に隠れているネクロマンサーの男、カジットとかいったか。何かの儀式を企んでいるとの事だったが…」

 

「あまりにも絶望的な努力をしておりまして…使えるようでしたら、声をかけてやっても良かったのですが、あの程度ではさすがに…」

 

「5年も準備して召喚するのがスケリトル・ドラゴンではな…一体何がしたいんだ?もう少し見所があれば、実験体としてエルダー・リッチにでも転生させてみても良かったのだが。」

 

「やっぱり人間は弱すぎますよねー。」

 

 アインズのスキルである下位アンデッド創造なら、スケリトル・ドラゴンを1日20体までノーコストで召喚可能だが、それと比べるのはカジットが気の毒だろう。スキルで召喚したモンスターには制限時間があるが、死体を触媒とする事で制限時間が無くなる事が実験で確認されている。

 ナザリックの戦力強化に丁度良いので、大量の死体が入手可能であれば定期的に作成したいところだが、その為だけに虐殺を行うほどの状況ではない。

 ちなみにスケリトル・ドラゴンは、第六位階以下の魔法を無効化する特殊能力を持ち、現地のマジックキャスターにとって天敵とも言える存在だ。冒険者ならミスリル級以上が適正難度のかなり強いモンスターという認識だ。こんなのがいきなり都市内に出現すれば大惨事なのだが、アインズにとっては「ミスリル級で倒せるなら問題はないな」である。

 

「さっちんにはデミウルゴスから伝えてくれ。そのまま放置でもかまわないし、鬱陶しいようなら殲滅しても問題ないが、死体を確保してくれると良い実験材料になるとな。」

 

 純真無垢な妹が人助けをしたり、ペットとふれ合ったりしている裏で、狡賢い兄は様々な悪だくみをしているのだった。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「これが伝説の大魔獣、森の賢王!!なんて立派な姿なんだ!」

 

「さすがは伝説に謳われた魔獣!強大な力と英知を感じるのである。」

 

「こんな凄え魔獣を乗りこなすとは、さすがはお嬢様だ!」

 

「これほどの魔獣と戦えば、私達では皆殺しにされてしまいますね。」

 

 ハムスケに跨って森から出て来たさっちんを見た漆黒の剣の感想だ。ハムスケに勧められたさっちんは大喜びでその背中に乗っかった。さらにさっちんの背中にはぷーにゃんが乗っている。大中小と揃った親子ガメといったところだ。巨大なハムスターに楽しそうにしがみ付く美少女というのは、とても微笑ましい光景で見る物の心を温めるはずなのだが、彼らの印象は異なる様だ。

 

「ウヒャヒャヒャヒャww大魔獣だってwwハムスケ凄いじゃん!!」

 

「フッフッフッ…それがしの威容に瞠目しているでござるな。その方らは見所があるでござる。」

 

「ニャニャン!(あまり調子に乗んなよ)」

 

「しゃべった!?賢王と呼ばれるだけあって知能も高いなんて!」

 

 この世界の住人のセンスと重大な差異がある事にさっちんは気付いていない。

 

「可愛いでしょ~♪ハムスケって名前を付けてあげてペットにしたんだよ。ハムスケも皆に挨拶しなさーい。」

 

「そなた達も姫にお仕えする人間でござるか!それがしは姫にハムスケという名を頂戴し、忠誠をつくす事を誓ったハムスケでござる。今日より姫に仕え、共に道を歩む所存。よろしくでござるよ。」

 

「ニャーンニャニャーン!(お前は俺の舎弟なんだからな。分を弁えろよ)」

 

「ひえぇ~、わかったでござるよぷーにゃん殿。いや兄者!」

 

「うふふ、ぷーにゃんともすっかり仲良しさんだね♪」

 

「わ、私達は漆黒の剣と言う冒険者チームでして――」

 

 漆黒の剣達はかなり驚いているみたいだ。これだけ大きいハムスターだもんね。それにしても強大?英知?なんでハムスケを見た感想がそうなるのかな?何か重大な勘違いをしているような……ん?ンフィーレアの様子が?

 

「ハムスケさん!いままで貴方の縄張りに近い事で守られていたカルネ村はどうなるのでしょう?モンスターに襲われたりしないでしょうか?」

 

「そうか?森の賢王の縄張りがあったから、カルネ村ではモンスターによる被害がなかったんだ!」

 

 ん?どういう事だろう?

 

「さあ?それがしは縄張りの外、それも人間の村などには関知してはござらん。その縄張りも放棄済みでござる。しばらくはそれがしの気配が残っているので、他のモンスターは近寄らぬでござろうが、いずれは然るべき者が縄張りを受け継ぐ事になるでござる。自然の掟でござるよ。」

 

「そんなっ!何とかならないんですか?」

 

「それがしの知った事ではないでござる。」

 

 うーん…思わぬ問題が発生したけど、これって…

 

「魔獣に人間の都合は関係ないのである。自然の掟といわれればその通りである。」

 

「ハムスケさんに責任があるわけじゃねーからな。それこそカルネ村の連中が考える事だ。まあ、こういう時こそ男の出番じゃないのか?ンフィーレア君。」

 

「ルクルット先生!?僕がですか?僕なんかに出来る事は…」

 

 先生って何だ?でもヘタレのンフィーレア君にはもっと頑張って欲しいと思っていた。まあカルネ村にはゴブリンもいるから大丈夫じゃないかな?何だったらもう1本くらい小鬼将軍の角笛をプレゼントしてもいいし。

 

「惚れた女の為に身体を張るのが男の役目だ。ンフィーレア君の力で出来る事が必ずある。」

 

「僕の力で出来る事…」

 

≪いい事言うじゃんルクルット≫

 

≪お嬢様ですか!なーに弟子のヘタレ振りを心配しての事です≫

 

≪いつから弟子になったの?それよりンフィーレアに出来る事って?≫

 

≪さあ?それを考えるのが今日の課題と言う事で…≫

 

≪それは無責任じゃないかな?≫

 

≪そんな事言われましても…お嬢様のほうで何とかなりません?こう…いつもの不思議な力で?≫

 

≪何で私が?それに不思議な力って何?≫

 

≪またまた~、あるんでしょ?スゴイのが≫

 

≪君って本当にイイ性格してるよね≫

 

 しばらくメッセージによる密談が続いた。この男は絶対に詐欺師のタレント持ちに違いない。

 

≪それじゃこういう感じで――≫

 

≪――それなら何とでもなるでしょう。後はお任せ下さい≫

 

「僕は本当に進みたい道が解りました!お嬢様、先生!これからも力を貸して下さい!」

 

 目の前にぶら下がった人参に飛びつくように、ンフィーレアはこちらの思惑通りに動いてくれた。彼はこのままで大丈夫なのだろうか?このままだと何か大変な目に遭いそうなんだけど…

 

 決定した事は私のほうがゴブリン用のアイテムや装備の提供、保険として小鬼将軍の角笛をもう1本。ンフィーレアは私専属のポーション職人として色々なポーションの開発に従事する。もちろん祖母のリイジー・バレアレ氏にも協力を要請する。詳しくはエ・ランテルに帰ってからリイジー・バレアレ氏を交えて相談だ。

 

≪お嬢様、例の件はくれぐれも頼みましたよ≫

 

≪ルクルット、君もワルだね~…ウケケケケケ≫

 

≪いやいや…お嬢様ほどでは≫

 

 部下との交流に余念がない、理想的上司の兄の裏で、狡賢い妹は詐欺師と悪だくみをしているのだった。

 




フラグが満載のお話でした。
そしてさっちんのペットがDQNと判明。







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