至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔) 作:生コーヒー狸
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日の出とともにニニャがコテージに挨拶に来た。これから朝食の準備を始めるからだ。昨晩の御礼?ということで、朝食は彼らからご馳走して貰う事になっていたのだ。「お嬢様のお口に合うようなものでは…」と言われたが、リアル世界では粗食には慣れていたし、冒険者の食事や、スキルがないはずの彼らの調理過程を見てみたかったからだ。
漆黒の剣の4人は慣れた様子で朝食の準備を進めている。昨日の夕食にする予定だった食材を使っているので、朝食としては豪華な内容になるそうだ。調理スキルを持つプレアデスの目から見ても、料理の手順として問題はないと言っていた。
私が興味深そうに見ているのを察したのか、ニニャが「冒険者ならこれ位は必須技能ですから」と笑っていた。うーん…スキルに無い事が出来るって不思議――いや現実世界なら知識さえあれば当たり前の事なのかな?もし私がリアルで料理経験があった場合はどうだったんだろうか?
もちろんリアルの世界でも私は料理なんてした事はなかった。なにせリアルの世界では「料理人」はかなりのエリート職種だった。食材自体が高級品だったからだ。ほとんどの人間は合成食材が原料のチューブ入り流動食や、サプリメントで食事を済ませるしかなかったのだから、専用アーコロジーで養殖された食材は超高級品だった。
「なかなか美味しいよコレ!ごろっとしたイモが入っていてイイね!パンも固いけど、スープに浸せば美味しくなるし。」
「アハハ、安心しました。お嬢様が普段食べているような料理とは比べものにならないので、お口に合わないのでは、と不安だったんですよ。」
スキルが無くても、これだけの料理が作れるとは……私もなんとか料理が出来ないものかと考える。そうすれば私の手料理をお兄ちゃんにご馳走出来る。喜んでくれるに違いない。私の手料理に感激するお兄ちゃん――感激したお兄ちゃんは私のおねだりを何でも聞いてくれる……あんな事やこんな事も!ウケケケケケ……これは検討の必要がありそうだ。
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ようやくカルネ村が見えてきた。もうしばらくすれば日没、思ったより時間がかかってしまったが、何とか日没前に到着できそうだ。本当はもう少し早く到着出来るはずだったのだが、私がシエスタ(昼寝)したせいでこんな時間になってしまった。昨日と含めて早起きが続いたから仕方ない。
村の周囲に広がる麦畑。村人達が水を撒いたり、草を抜いたりと畑の手入れをしているのだが――村人に混じって数体のゴブリンが作業している!?
「な、なあ?あれってゴブリンだよな……」
「ンフィーレアさん、このカルネ村はゴブリンと共生しているのですか?」
「いえそんな!この村には何度も訪れていますが、こんなのは僕も初めて見ました!」
「普通に村人に溶け込んでいるのである。」
「ホブゴブリンなどの上位種は知能も高く、一部は人間と関わりをもつ場合もあるとは聞いた事がありますが…」
うーん…このゴブリン達は、間違い無くエンリに渡した「小鬼将軍の角笛」で召喚されたんだと思うけど。こいつら何で農作業なんてしてるの?
「おやンフィーレア君ではないか。またトブの大森林への薬草採取で立ち寄ったのかい?」
「村長さん!お久しぶりです。このゴブリン達はいったい――それよりエンリ、いやカルネ村は大丈夫だったんですね!?」
「帝国騎士が集落を襲っていた件だね。幸いカルネ村は、偶然にもこの村に居合わせたアインズ・ウール・ゴウン様のおかげで死者はおろか、1人の怪我人もなかったよ!もちろんエンリも無事だったさ。」
「村長さん久しぶり~♪」
村長さんなら詳しい事情をしっているはずだ。
「おおっ!さっちんお嬢様ではございませんか。あの時は危険に備えて先に避難したと聞いておりましたが、お元気そうで何より。今日はゴウン様はご一緒ではないのですか?」
「お兄ちゃんはお家で待っています。もうすぐ子供が生まれるんです。」
「なんと!それはおめでたい事で!お子様がお生まれになった際は、些少ではありますがカルネ村からもお祝いをさせて頂きますぞ。」
「ありがとうございます。ところでエンリちゃんとネムちゃんは元気ですか?それとこのゴブリンは?」
村長さんの話によると、ゴブリン達はやはりエンリが小鬼将軍の角笛で召喚したものだった。最初はゴブリンに驚いた村人も、私から渡されたアイテムという事で安心してくれたそうだ。
ゴブリン達には村の警備に就いてもらうつもりだったが、幸いカルネ村は平和だった。なので半分は森に入って狩りをする、残りは村人と農作業をしながら万が一に備える事にしたらしい。私としては普通にエンリ達を守ってくれればいいと思って渡したのに、すごい便利な運用をするものだ。
お兄ちゃんのデスナイトもそうだったけど、召喚モンスターについてもユグドラシルとの違いがあるみたいだ。かなりの自由度がある。「将軍の角笛シリーズ」で召喚されたモンスターは制限時間が無くて、倒されるまで消えないけどレベルアップも装備変更も出来ないし、死んでも復活出来ない。その代り召喚者の能力に因んだ職業レベルがランダムで1だけ付与される。今回は農民のクラスが付与されたのだろう。それにしてもゴブリンに農作業……その発想は無かった!
ちなみに「将軍の角笛シリーズ」には多彩なラインナップがある。ゴブリンの他にも「大鬼将軍の角笛」や「不死者将軍の角笛」、侍と忍者を召喚する「征夷大将軍の角笛」なんて物もあった。超レアアイテムの「竜将軍の角笛」はカイザードラゴンと配下の八竜を同時に召喚する、しかもカイザードラゴンは97レベルという壊れ性能だ。
私もウルベルトさんから貰った「悪魔将軍の角笛」を持っている。ウルベルトさんの説明では「七人の悪魔戦士」と「悪魔六騎士」が召喚出来るという凄いアイテムだ。
「というわけでして、エンリの呼んだゴブリンには大助かりです。狩りで肉を獲ってくれたり、こうして農作業まで手伝ってくれるんです。そうですよねジュゲムさん。」
「いえ、俺はゴコウです。村長の旦那。」
「あれ?そうだったかね…それじゃエンリとネムを呼んで来てくれるかいカイジャリさん。」
「あっしはウンライですぜ。それじゃちょっくら行ってきます。」
「いや~、どうもゴブリンの顔と云うのは見分けが付き難くて…エンリやネムにはしっかり見分けが付くらしいのですが。」
ともかく元気で平和にやっているようで何よりだ。それにしてもゴブリンとすんなり打ち解けているとは、辺境の村人はなかなかに逞しいらしい。
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そして私はエモット姉妹との再会を喜び合い、メインイベントであるンフィーレアの告白イベントに期待していたのだが…
「ンフィーレア久しぶり。また薬草の採取にやって来たの?」
「や、やあエンリ。その…今回は大変だったね。エ・ランテルで噂を聞いて心配してたんだよ。」
「ありがとう。でも見ての通りカルネ村は大丈夫よ。これもゴウン様とさっちん様のおかげなの!」
うん、最初の掴みは可もなく不可も無くといったところか。
「どういたしまして。ゴブリン達と仲良くやっているみたいだね。」
「そうなんです!ジュゲムさん達にはとても助けられているんです。両親や村の皆もとても喜んでいます。」
「ジュゲム達は大活躍なんだよ~。今日もお肉をいっぱい獲ってきてくれたんだよ!」
「ありがとうございますネムさん。エンリの姐さんの為でしたら、この位はどうって事ありません。」
「本当にジュゲムさん達にはお世話になっています。これからも宜しくお願いしますね。」
「そうなんだ…すごいね、アハハハ…」
すいぶんとゴブリンへの好感度が上がっているぞ。がんばれンフィーレア!
「でもさっちん様とンフィーレアが一緒だなんて驚いちゃいました。」
「ああー…それはね(今だンフィーレア!君の事が心配だったと伝えるんだ)」
「そっ、それはその――そう!村を襲った帝国の騎士が残っているかもしれないからっ、だからエ・ランテルでは都市の外へ出るのが禁止になってて!それで…どうしても急いで入手したい薬草があって…それでさっちん様にお願いして同行させて貰っただけで特に深い意味は――」
コイツは何を言っているんだ?事情を察している漆黒の剣も呆れている。
「ふーん。ンフィーレアにも事情はあるんだろうけど、そういうルール違反をしても大丈夫なの?まして貴族であるさっちん様にご迷惑をお掛けするなんて!さっちん様、私の
「あれ?いや…その…ゴメンナサイ(知り合い…ただの知り合い…ハハハハ)」
「私に謝ってどうするのよ?」
駄目だこのヘタレ。ルクルットは額に手をあてて、アチャーとなっているし、ダインも深々と溜息を吐いている。ペテルとニニャも苦笑いだ。ネムちゃんも「まただよ~」という表情だ。ゴブリン達さえ薄々と状況を察した様だ。
≪もしもーし、ルクルットさーん≫
≪あれ!?もしかしてお嬢様ですか?≫
≪そうだよ、メッセージの魔法を使ったの。考えた事がそのまま伝わるから≫
≪なるほど!便利な魔法ですね。それで何でしょうか?≫
≪ンフィーレアだよ!何とかならない?≫
≪ンフィーレア君ですか?気の毒というか若いというか…俺にどうしろと?≫
≪もう見てて気の毒で…ちょっと助けてあげようよ≫
≪こういう事は自分の器量で何とかするが男ってもんなんですけどね≫
≪私、女の子だからわからないよ≫
≪俺だって何度もフられて、それでも気合いと根性で頑張っているんですよ。ンフィーレア君にはガッツが足りませんね!≫
≪そのガッツを分けてあげようとは思わないの?≫
≪思いませんね。他人の不幸は蜜の味――おっと、これもンフィーレア君にはいい経験になるでしょう。まあ次回に期待という事で…≫
≪ナーベラルとデート券≫
≪!?!?≫
≪エ・ランテルに帰ってからナーベラルちゃんに頼んで、一日デート出来るようにしてあげる≫
≪お任せ下さいお嬢様!このルクルットがンフィーレア君の恋を、見事成就させて見せましょう!≫
こうしてンフィーレア君に強力な?援軍を送ったけど……何とか挽回出来るのかな?
「まあまあ聞いて下さいエンリさん。」
「はい、何でしょうか?」
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私は銀級冒険者チーム漆黒の剣のルクルット・ボルブです。今回はさっちんお嬢様の案内として雇われている者です。」
「はい。私はエンリ・エモットです。何か私に御用ですか?」
「実はですね、エンリさんが大変な誤解をしていらっしゃる様なので、老婆心ながらその誤解を解かなければと思いまして、こうしてお話をさせて頂いています。」
よくもまあ、こうもペラペラと口がまわるものだ。ンフィーレアにも見習って欲しい。
「誤解…ですか?」
「ええ、とても悲しい誤解です。あれは昨日のお昼頃の事です。我々漆黒の剣は、この国に不案内なさっちんお嬢様より護衛と案内の指名依頼を受けまして、その打合せを冒険者組合で行っていたのです。」
「そうなんですか、私はカルネ村からもほとんど出た事が無いので良く判りませんが。」
「それで打合せを終えた我々が組合から帰ろうとしたところですね…」
「帰ろうとしたところ?」
ん?昨日のお昼ってどういう事?
「受付でンフィーレア君に会ったのです!彼はそれはもう必死でした!「カルネ村には僕の愛する女性がいるんです。彼女の無事を確かめる為にも、僕はカルネ村に行かなければならないんです!」と、受付に訴えていました。それはもう凄い気迫でした。」
「ええーっ!ンフィーレアってこの村にそんな人が居たの?」
ここまで言ってもまだエンリは気付かないとか…これ無理っぽくない?
「彼はこうも言っていましたよ。「依頼を受けてくれるのなら、僕の全財産を払います!」と、彼が提示した金額は大変な額で金貨――おっと、お金の話は無粋でしたね。とにかく!彼の熱い思いにうたれたお嬢様が、エ・ランテルの都市長に掛け合って下さった事で、こうしてカルネ村へとやって来たのです。」
「そ、そうだったんですか。でも昨日のお昼にエ・ランテルでって、そんなに早く来れるんですか?ンフィーレアはもっと時間がかかると言っていましたけど。」
「そうなんです!ンフィーレア君のたっての願いで、すぐにエ・ランテルを出発して睡眠や食事もほとんど摂らずに全速力で駆けつけたのです。」
昨日はお昼にバーベキュー、夜はフルコースディナーだったろ!お風呂まで入ったじゃん。今日の昼もカレーおかわりしただろ!私もシエスタしたし。ルクルットって「詐欺師」のクラスでも取ってるんじゃないだろうか?
「そうだったんだ…ごめんなさいンフィーレア。私そんな事とは知らなくて……でもそれなら何で薬草の採取だなんて?」
「え?いや?ルクルットさん?」
「それはですね、今回の不幸な事件で被害に遭った方達や王国戦士団に、バレアレ薬品店が治療の為のポーションを無償で提供してくれたのですが、それで在庫が不足してしまったので、こうしてンフィーレア君が来る事になったんです。そしてポーション代金の半分はさっちんお嬢様が寄付して下さったんです。ですから都市長や冒険者組合長も許可を出してくれたんですよ。ルール違反だなんてとんでもない!」
「まあ!素晴しいことですね、さっちん様にンフィーレアも!」
「うん。ま、まあね。アハハハ。」
「い、いや、それほどでも…」
とにかく話の流れに乗るしかない。ちなみにペテル達やネム、ゴブリンは完全に置いてけぼり。私の護衛に就いてるセバス、さんちゃん、プレアデスは我関せずだが、ぷーにゃんを抱っこしているルプスレギナが必死に笑いを堪えていて、ナーベラルはゴミを見る様な眼でルクルットを見ている。
「でもよかったねンフィーレア。その人が無事で。」
「ああっ…まだ分からないのですかエンリさん!ンフィーレア君が愛している女性というのは貴女のことですよ!」
「え?え?えええぇーーっ!?」
「ちょっ…ルクルットさーんっ!?」
おおっ!遂に言ったぞ!そしてンフィーレアはいい加減に覚悟を決めろ!
「ンフィーレア君!俺と約束したじゃないか?(していない)カルネ村に着いたら彼女にプロポーズするって!「エンリの為なら死ねる」って言っていたじゃないか?(言っていない)」
この後もルクルットは立て板に水を流すように、ペラペラと話し続けた。思いがけない事実に驚いていたエンリも、ネムちゃんの「知ってたよ。村のみんなが。ンフィーレアがお姉ちゃんを好きだってことぐらい」という一言でようやく理解した様だ。ンフィーレアはルクルットの腹話術人形と化していた。
そしてエンリは鈍感だけど、一度そういった感情に気が付けば「チョロイ」女の子だった。うん、何というかお幸せに。あの状況から奇跡の逆転ホームランを決めたルクルットに1ポイント、大炎上のンフィーレアはマイナス1ポイントだ。そしてその夜……
「そういった訳で、ナーベラルちゃんはエ・ランテルに帰ったら、ルクルットとデートしてあげて♪」
「なっ!?なななな……何とおっしゃいましたかさっちん様?」
「まあ一緒にご飯でも食べて、適当にブラブラする位でいいから。ちゃんとボーナスもだすから。」
「あ、あの
「弐式炎雷さんが作ってくれた「くのいちコスプレ一式」があるから、それをあげちゃうよ!」
「お任せ下さいさっちん様!このナーベラル・ガンマ、身命をとして、その大役を果たして見せます!」
ここにもチョロイ女がいた。
今回はルクルット無双!