至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔)   作:生コーヒー狸
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プロットを作っておくとスムーズに描ける事に今さら気が付いた。
この調子なら週2回もいけそうかと思ってしまう。


野営(ナザリック基準)

 今日はカルネ村へ向けて出発だ。同行者は漆黒の剣4人とンフィーレア君。都市長の屋敷で朝ごはんを食べていたら、彼らが到着したと報告が来た。

 

「おはようございます。私達の準備は完了していますので、何時でも出発できます。」

 

「僕の方も大丈夫です。無理を言って同行させていただくうえ、馬車にまで同乗させていただけて感謝します。」

 

 ンフィーレアはじっくりと調べたいので、私達の馬車に乗って貰う事にした。漆黒の剣達は大変だけど頑張って歩いて貰おう。そう思っていたんだけど…

 

「何か荷物が多くない?大丈夫?」

 

 漆黒の剣達は、それぞれが荷物をたくさん背負っている。あのままでは戦いの時にすぐ動けないんじゃないかな?

 

「さっちん様、彼らの荷物はこちらの馬車でお預りしますから問題ありません。」

 

「お世話になります。普段は銅級冒険者をポーター(荷物持ち)として雇ったりするんですが、ユリさんから野営道具などはそちらで運搬していただけると申し出ていただきまして、御好意に甘えさせていただきます。」

 

 ふーん、ポーターなんて仕事もあるんだ。これはパーティーメンバーが決まっていない新人がよくやる仕事で、冒険者として最低限の体力さえあれば、特に有用なスキルな魔法が使えなくても問題無いので、コネや才能の無い新人はポーターとして他のチームに雇われる事で、冒険者としての知識を学んだり、顔を売ったりするそうだ。

 ちなみに希少なマジックキャスターや有用なスキル・タレント持ちなら、逆にスカウトの対象になるので、ニニャは当時は3人で活動していた漆黒の剣(当時はチーム名は無かった)に、なかなかの高待遇で迎えられたらしい。

 

「もう少し貯金が出来たら、私たちもマジックバッグを購入する予定です。ンフィーレアさんはマジックバッグをお持ちのようですね?」

 

 ンフィーレアの荷物はショルダーバッグひとつ。これに色々と荷物が入っていて、さらには採取した薬草類も入れられる位の容量があるそうだ。

 

「マジックバッグは高価ですからね。容量が小さめでも金貨100枚以上はしますから。これは祖母から貰った品なんです。」

 

 駆けだし冒険者は大変だね。ユグドラシルなら最初からアイテムボックスがあったから、そんな苦労はなかったよ。

 

「そうだ!イイものがあるんだけど使ってみない?」

 

 私はアイテムボックスから丸いカプセルを取りだした。真ん中で色が分かれていて、カパッと開くアレだ。

 

「何でしょうか?丸いボールのようですが…」

 

 これはお兄ちゃんがギフトの力で毎朝回している課金ガチャのカプセルだ。大きさは手のひらに乗るサイズだけど、中にはどんな大きなアイテムでも入れられる。ユグドラシルではこの中から巨大なドラゴンや家が一軒出てくる事もある。

 つまり1種類1個に限り容量無制限でアイテムを入れる事が出来るのだ。ゲームではカプセルを開けたら消滅していたけど、この世界ではそのまま残っている。毎朝ハズレアイテムを入手しているお兄ちゃんが、捨てずに取っておいたのを貰った物だ。

 

「こうやってカパっと開いて中にアイテムを入れると――」

 

 実際に見せてあげたらとても驚いていた。10個もあるからプレゼントしてあげよう。どうせ毎日増えるし。

 

「こんな便利なアイテムを頂いてありがとうございます。ありがたく使わせて頂きます。」

 

「こりゃ便利だな!嵩張る荷物も簡単に持ち歩けるぜ!」

 

「かなり身軽になったのである。荷物が大幅に減らせるのである。」

 

「半分透明になっているので、中身が確認出来るのも素晴しいですね。」

 

「1種類1個しか入れられないけどね~。ンフィーレア君もどう?」

 

「容量無制限だなんて、アーティファクト級のアイテムじゃないですか!?本当に頂いてもいいんですか?」

 

「アーティファクト級!?これが?いやいや只の「はずれカプセル」だからね。」

 

 彼らは喜びながらテント等をカプセルに仕舞って、準備をやり直した。特に貴重でも無いうえに原価ゼロのアイテムにここまで感謝されると申し訳ないくらいだ。

 

 

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 カルネ村への旅は順調だ。今も途中で現れたザコモンスターと戦っている漆黒の剣を応援している。

 

「ペテルさんがんばれー♪残りはゴブリン3匹だよ~。」

 

「あの程度のモンスターに梃子摺るとは…フッ、さすが下等生物(ザコ)。」

 

「私達を基準に考えていけません、ナーベラル。うまく連携を取って奮闘しているのですから。それに彼らへの態度は改めるよう言ったはずですが?」

 

「ヒッ…申し訳ありませんセバス様(ガクガクブルブル)」

 

 朝からナーベラルの様子がおかしい。トラウマっていうの?何かに脅えているようだ?

 

「ナーちゃん昨日からヘンっすよ。どうしたんスか?」

 

「ウフフ…ナーベラルはねぇ、昨日の夜…ゴニョゴニョ」

 

「うわー、それはひどい。」

 

「エントマぁぁ~、黙っていてと言ったのにぃぃ!」

 

 ん?昨日の夜に何かあったのかな?失敗でもしちゃった?おや、そうこう言っている間にモンスターを倒したようだ。

 

「オーガ2体、ゴブリン10体の討伐を完了しました。これより討伐部位を回収するので、もうしばらくお待ちください。」

 

「ふーん、モンスターの一部を組合に提出するとお金が貰えるんだ。」

 

「これが冒険者の主な収入源なんです。数年前にこの国の第三王女様の発案で始まった制度なんですが、治安が良くなり、移動も安全で活発になり経済面でもプラス。冒険者も仕事に困らないと、大変に優れた制度なんです。いまでは周辺の国でも行なわれています。」

 

 ほほう、うまい事を考え付く人がいるんだね。この国はブラック・オブ・ブラックだとお兄ちゃんが言っていたけど、そんな人もいるのか。「黄金」とよばれるお姫様で、画期的な施策を次々と発表してはボツにされているらしいので、めげずに頑張ってほしいものだ。

 

 その後も何回かモンスターに遭遇した。ここ数日は冒険者が間引きをしてない所為で、いつもより数が多いそうだ。漆黒の剣だけに戦わせるのもどうかと思ったので、プレアデスチームと交代で戦闘している。

 プレアデスには「やっておしまい!」の一言で充分だ。彼女達の素晴しいチームワークと圧倒的戦力に漆黒の剣とンフィーレアはとても驚いていた。彼らは私の方が彼女たち全員より強いと知ったらどう思うのかな?

 

 

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 そろそろお昼にしようかな~と思ったので、馬車を停めて準備をして貰おうとしたら驚かれた。この世界の野外移動では朝食を多めに取って、日中は水分補給と軽く食べられる保存食くらいしか摂らないそうだ。モンスターや盗賊などの危険が多いので、比較的安全な日中は移動に専念するのだ。

 

 でも私達には関係ない。この世界に来て食事の楽しさにハマった私にとっては、昼食を抜くなんてとんでもない!依頼主権限で強制昼食の時間だ。せっかくだから君達も御同伴するがよい!

 さっそくプレアデス達が準備に取り掛かる。彼女達は新たに付与されたメイドの職業レベルのおかげで料理スキルもバッチリだ。今日のメニューはバーべキュー、野外で食べるのにピッタリだ。

 

 さっそく焼きあがった串をソリュシャンが渡してくれた。お肉と野菜が交互に刺されていてとっても美味しそう!アムアム――美味い♪エ・ランテルの食事も、都市長さんが最高の食材と料理人を手配してくれただけあって、とても美味しかったんだけど、やっぱりナザリックの料理とは比べものにならない。ナザリックは食材も調理人もゴッズ級だからね。

 

「食べないの?美味しいよ。あっ!やり方わかんない?」

 

 私達はそれぞれ手にした串焼きを味わっていたが、漆黒の剣とンフィーレアは口を開けたままポカーンとしていた。

 

「この料理はお好みの食材を串に刺して、このコンロで焼くだけですので、皆さんもご自由にどうぞ。こちらに調味料も用意してありますよ。」

 

 ユリの説明で彼らもバーベキューに参加し出した。

 

「シズちゃん、次は海鮮でお願ーい。野菜はパスで。」

 

「わかった。でも野菜もちゃんと食べないとダメ。とうもろこしをつける。」

 

 私は調理スキルがないので、こうして食べたい物を彼女達にリクエストしている。ちなみにセバス、ぷーにゃん、サンちゃんも食べる専門。ぷーにゃんはバーベキューというより焼肉かな?

 スキルが無いと「肉を焼く」ことすら出来ないのには困っている。以前、第六階層でバーベキューをした時もそうだった。食材を串に刺すとかの下ごしらえまでは出来たのに、実際に調理(焼く)しようとすると身体が金縛りにあったように固まって、気が付けば真っ黒焦げの串焼きになっていた。

 

 これはアイテムにも同じ事が言えて、例えば装備出来ない鎧を「身に着ける」のはOKだけど、着たままでは行動が不能になる。武器も「持つ」のは問題ないのに、それで何かを攻撃しようとすると、やっぱり身体が金縛りにあったように固まって、武器を落としてしまう。知識があって、やり方も分かる事が出来ないのは何かモニョモニョする。う~ん、クソ仕様?パッチ対応を要求したいものだ。

 

 もし私達兄妹がナザリック地下大墳墓無しで転移していたら大変だったかも?アンデッドで飲食不要だったお兄ちゃんはともかく、私は調理スキルがないから食事が必要でも自分で料理が出来なければ、買ってくるか誰かに作って貰うしかない訳で、生活の為には現地人から略奪する悪の兄妹ルート一直線(現状も大して変わらない模様)だったかもしれない。

 

 そして漆黒の剣とンフィーレアは普通にバーベキューをしているので、全員が調理スキル持ちという事になるのだが――彼らのスキルを確認した時に調理スキルを所持していないのを確認している。ンフィーレアとダインが調合スキルを持っていたが調理とは関係ない。というか調合スキルなら私も持っている。やはり現地人との差異が色々とあるみたいだ。

 

「いやあ、本当に美味しいですよね!こんなに美味しいものを食べたのは初めてですよ!」

 

「いったい何の肉なのでしょうか?かなり高級な食材だと思うのですが…」

 

 ンフィーレアとペテルが食材の味と値段について話している。

 

「こちらはフロストドラゴンの胸肉、こちらがレインボーロブスター、こちら――」

 

「フロストドラゴン!?アゼルリシア山脈に生息しているという、あのフロストドラゴン!?」

 

「おいおいマジかよ…フロストドラゴンって難度幾つだよ!?あと金貨何枚するんだ?」

 

 ユリの説明にみんなめちゃくちゃ驚いている。やはりこの世界でもドラゴンという種族は別格らしい。そしてアゼルリシア山脈という場所にフロストドラゴンが住んでいるという情報は初めて聞いた。

 

「難度というのは冒険者組合が使用している、モンスターの強さを測る数字ですね。今日の食材は全て難度150以上の食材が使われていますね。値段に関しては、全て主人より与えられた品物ですので返答いたしかねます。」

 

「ア…ハ…ハ…ハ…」

 

 ナザリックの料理に満足してくれたようで何よりだ。そして食事をいっしょにした事で思わぬ情報も手に入った。やはりこういったコミュニケーションは大事だね。

 

 

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 昼食後しばらくは休憩時間だ。ちょうどいい機会なのでンフィーレアとポーションについての話をした。彼のお婆ちゃんはエ・ランテル最高の――周辺国家でも有数のポーション職人だ。ユグドラシルとは見た目も効果も異なる、この世界のポーションについて聞いてみよう。そう思ってまずは自分で作成した下級ポーションを試しに見せてみた。

 

「げええぇぇっ!このポーションの色はっ!?まさか伝説にある「神の血」なのか?い、いったい何処で手に入れたんですか?」  

 

「へ?私が調合した下級ポーションだけど…」

 

 何でそんなに驚いているんだろう?見た目は違うけど効果は大したことない――HPを50だけ回復させるというものだ。この世界でもこれくらいの効果のポーションは作れるはずだ。

 

「貴女が調合したですって!こ、このポーションを?それはどんな材料や調合方法なんですかっっ!?」

 

「ちょ、落ち着いて!落ち着いてったら!」

 

 ヒュッ――ドスッ――バタンキュ~……ンフィーレアの剣幕に、ソリュシャンから制止がかかった。簀巻きにされた後で目を覚ましたンフィーレアと話を再開する。

 

「た、大変失礼しました。申し訳ありませんでした。」

 

「落ち着いてくれたのならいいけどね。それでポーションの作り方だっけ?」

 

「そうです。まったく未知のポーションを見て興奮して取り乱してしまいました。それで…あのポーションの材料や調合方法が気になってしまいました…」

 

 それならちょうどいい。情報交換という事でお互いの知っている作成方法を話し合おう。

 

「このポーションはゾリエ溶液がグワッに、リュンクスストーンをズバッとして、ヴィーヴルの竜石をギュインギュインで、黄金の秘薬をポポポポーンで、《ライト・ヒーリング/軽傷治癒》でテーレッテレー♪なだけだよ。」

 

「????……聞いた事の無い材料と調合手順ですね。ぼ、私の祖母であれば何か分かるかもしれませんが…」

 

 これはさっちんがテキトーな説明をした訳ではない。彼女自身はポーション作成に必要な材料だけをゲームでの知識で知っているだけ。実際の調合はスキルで無意識に行っているにすぎない。それこそ「息をする」「歩く」というレベルでだ。それを言葉で説明すると、この世界の言語では先程の様に翻訳されて聞こえるのだ。

 

 この世界にある謎の翻訳機能は、かなり微妙な性能のようで「プレイヤー」が「ぷれいやー」は、まだいいとして「ルービックキューブ」が「ルビクキュー」とか「傾城傾国」が「ケイ・セケ・コゥク」になっていたりする。

 

 そういった理由でさっちん流ポーション作成術は、ンフィーレアにとって「未知の材料を使用した非常に高度な調合を求められる超希少ポーション」という認識となるのだった。

 

「それじゃあンフィーレアが作るポーションについて教えてよ!」

 

「わかりました。まずは僕達が作成するポーションには3種類ありまして――」

 

 さっちんにとってンフィーレアの説明はとても詳細で分かり易かった。それはリイジー・バレアレから秘伝として伝授されている事柄にまで及んでいたが、彼としては「さっちん流ポーション作成術」に対する対価として当然どころか、不足だと考えている。

 リイジー・バレアレ秘伝の調合レシピの暴露など、本人が知れば如何に孫に甘い彼女でも激怒するに違いないが、「神の血」の衝撃で冷静さを失っているンフィーレアはそこまで考え付かなかった。

 自分より遥かに優れているだろう職人(さっちんをそう思っている)に、少しでも認めて欲しくて、自分が知っている限りの事をひたすら語り続ける。

 

 こうしてンフィーレアに説明されたこの世界のポーション、主に薬草を材料にしたポーション作成は彼女にとっても興味深く、エ・ランテル帰還後に改めて彼の祖母も交えて話し合う事が決定された。

 

 

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「なあ…あれって野営用なんだよな?」

 

「そう言っていましたね。用があれば呼び鈴を鳴らして欲しいと…」

 

 街道から少し外れた場所に20メートル四方の地面がむき出しになっている一角がある。多くの冒険者や行商人が野営地として使用するスペースで、漆黒の剣とンフィーレアもこの場所を今夜の野営地にしていた。そして彼らの野営用テントのすぐそばに2階建てのコテージが建っている。さっちん一行が寝泊まりするための建物である。

 

 彼らがこの場所に着いたのは、日没にはまだ早い時間だったが、野営に適した場所がここにしかない為、早めの準備に取り掛かった。出発前に依頼主から渡された「はずれカプセル」なるマジックアイテムに収納していた野営具を取り出して、慣れた手付きで野営の準備を進めていると、突然目の前に立派な建物が出現した。

 

 依頼主のお嬢様曰く「第八位階魔法の《クリエイト・コテージ/宿泊施設創造》」で創ったという事だが、続けて「お兄ちゃんの《クリエイト・フォートレス/要塞創造》ならお城が出せるけどね」という言葉が聞こえた時点で考えるのを放棄した。

 

「昼に食べた串焼きも美味かったが、ご馳走になった晩飯、めちゃくちゃ美味かったな。エ・ランテルで最高級の宿だっていう「黄金の輝き亭」の飯って、ああいうのが出るんだろうな。」

 

「アハハハ、いつか私たちもあの宿に泊まれる様な冒険者チームになりたいですね。」

 

「黄金の輝き亭では何度か食事をした事がありますけど、あそこと比べても今晩の夕食のほうがずっと美味しかったですね。ドラゴンステーキなんて初めて食べましたよ!」

 

 一瞬で現れたコテージをしり目に、彼ら(ンフィーレアはコテージに部屋を用意されたが固辞した)が寝る為のテントやモンスターの警戒用トラップの準備を済ませて、夕食の準備に取り掛かろうという時に、依頼主のメイドであるユリ・アルファよりお誘いがあった。

 

「お嬢様が夕食をご一緒にどうか?とのことです。そちらの準備は未だのようですので、ぜひおいで下さい。」

 

 建物に入ってみれば、屋内は貴族の屋敷もかくやという造りだった。噂の最高級宿、黄金の輝き亭はこんな感じなのか?とペテル達が驚いていると、ンフィーレアが「いや、こっちの方がずっと豪華ですよ」と教えてくれた。これだからブルジョワは…と少しだけペテルが思っていると、部屋の奥からナーベラル・ガンマがやってきた。

 

「ようこそいらっしゃいました。入浴の準備が整っておりますので、まずは食事の前に汗を流されてはいかがでしょうか?」

 

 誰だコイツは?というのが全員の感想だった。昼間の毒舌は完全に為りを潜め、王城のメイドにも引けを取らないだろうと思える完璧な所作のメイドがそこに居た。

 

 そして案内された浴室(男女別)も素晴しかった。今まで使った事の無い高級な石鹸やシャンプーとその効能に驚く。身体の汚れがみるみる洗い流されていき、肌や髪の艶は見違えるようになった。設備もゆったりとした浴槽に豪華な内装で、王族専用と言われても信じられるものだった。

 

 リ・エスティーゼ王国に限らず、大陸にある人間種の国では入浴の習慣は一般的ではない。貴族でも無ければ家に浴室など無く、平民は週に1回ほど公衆浴場に行くだけだ。普段は寝る前に身体や髪を拭く位だし、農村では入浴の設備自体が無い。川で水浴びする程度だ。

 冒険者が野外行動をする間などは、水の節約もあるので身体を拭くことすらしない事が多い。漆黒の剣も当然そうだった。ニニャなどは《ウォッシュ/洗浄》の魔法のスクロールを購入する為に、こっそり貯金していたりする。

 さらに入浴を終えてみれば、魔法を使ったのか入浴している間に、下着や衣服だけではなく、鎧等の装備品まで完全に洗浄された状態で整えられていた。

 

 そうしてピカピカになった漆黒の剣とンフィーレアが食堂へ着くと、昼間の活動的(それでも高価と分かる服装)な服装とはうって変わった、まさに「ザ・お嬢様」というドレスに身を包んださっちんが待っていた。

 さらに彼らを驚かせたのが、用意された席は6人分。つまりさっちんと漆黒の剣4人、ンフィーレアだけの席という事だ。執事のセバス、護衛のエヌスリー、そしてプレアデス6人は彼女の後ろで控えている。

 

依頼主からの「今の君達はお客様扱いだからね。ようこそ私の晩餐の席へ」という言葉で始まった食事は彼らが体験した事のない豪華で美味なものだった。各自にメイドが付いて食事の世話をされるなど、ンフィーレアはともかく漆黒の剣にとっては生れて初めての体験だった。

 

 夢のような夕食を終えた後で、現実と言う名のボロテントに戻った一行は、あまりにも濃厚な一日を振り返りつつも、明日に備えて休むことにした。もちろん野営なので交代で見張りに着くのだが、最初の当番であるペテルとダインが周辺に待機する巨大なゴーレムに気付き、コテージに問い合わせると――

 

「警備用のスターシルバーゴーレムで御座います。彼らの強さはレベル7…オホン、難度200以上ですので安心してお休み下さい。」

 

 と言われて「アーソウデスカ、ソレハドーモ」とテントへ戻る事になった。

 




兄と違って自重しないスタイルの妹ちゃん。







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