至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔) 作:生コーヒー狸
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魅力的なキャラが多くて書ききれないという不甲斐無さに、自分の実力不足を感じます。
「――平伏したまえ。」
デミウルゴスのスキル《支配の呪言》によって、見苦しくうろたえていた侵入者達が一斉に平伏するのを、シャルティア・ブラッドフォールンは醒めた目で眺めながら思う。一瞬だけ主人が動揺したように感じられたが気のせいだろう……
(今回の侵入者もハズレでありんした。さっちん様が直々にナザリックへお連れしたというのに、あの体たらく…たしかにわらわが手ずから相手をするまでも無かったという事でありんすね。さすがはさっちん様♥)
ナザリック地下大墳墓の第一~第三階層という、最も浅い階層の守護者として創造されたシャルティアは、これまで数多くの侵入者と相対してきた。そんな彼女の持つ強さを図る物差しでも、今回の侵入者たちは「さすがにミリ単位まで測るのはちょっと…」という有様だった。
創造者であるぺロロンチーノが「馬鹿な子ほど可愛い」をコンセプトにしただけあって、普段の言動は残念なものが多い彼女だが、その本質は「残酷で冷酷で非道で――可憐な化物」の吸血鬼の真祖。ナザリックNPCでも随一の戦闘経験を誇る最強の階層守護者なのである。
本来、この程度の侵入者であれば至高の御方である主人が相対するまでもなく、シャルティアの裁量で一方的に蹂躙して終わらせて良い案件だが、ナザリックが原因不明の事態に巻き込まれ(愛しのさっちん様が傷つけられる事をみすみす許してしまったのは痛恨だった)て、ユグドラシルと異なる世界に転移して以来、初めての侵入者という事情で特別な歓迎を催しているのだ。
(これが終われば今回のご褒美として、ついに、ついにさっちん様と一緒のお風呂タイムが!!アインズ様にも内緒で2人っきりの……ジュルルッ♥…)
――キーーンッ――陶器同士がかち合った様な硬質的な音が響き、第六階層上空の空間が少しだけ震える。妄想に耽っていたシャルティアは即座に覚醒する。この様な現象をシャルティアは知っていた。
これは情報系魔法を完全に防いだ際の現象で、さらにこちらの攻勢防壁が発動した事を示している。情報系魔法が完全に成功すれば、魔法を受けた側は感知すら出来ないし、一瞬でも探査に成功した場合は空間が罅割れる様な現象が起こる。
「むっ!?何者かが情報系魔法を使ったようだな。対象は…そこの男達か?気の毒な事だ。このナザリックに対してゲスな覗き見を目論むとは…この反応ではこちらからの攻撃は完全に届いているな。それにしても迂闊な奴らだ。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」だったか?タブラさんに聞いた言葉だが。」
「おおっ!!さすがは至高の方々が造り上げたナザリックでありんす!!いったいどの様な事が起るのでありんすかえ?」
「ナザリックに施された自動攻勢防壁システム《遺憾の意》は、相手が仕掛けて来た内容に応じて報復するシステム。今回はレベル8の「真に遺憾である」だな。不届き者には正当な報復が為された事だろう。」
こうして最高神官の命令で、スレイン法国の秘宝と姫巫女による大儀式による《プレイナーズ・アイ/次元の目》を使い、定期的に陽光聖典を監視していた土の神殿は壊滅的な被害を被る事になった。
※ナザリック自動攻勢防壁システム《遺憾の意》の尺度
------ (ナザリックへの児戯はやめよ) ------
Lv1 推移を見守りたい
Lv2 対応を見守りたい
Lv3 反応を見守りたい
------ (…少しだけ…不快だな) ------
Lv4 懸念を表明する
Lv5 強い懸念を表明する
------ (これほど不快な事があるものか)------
Lv6 遺憾の意を示す
Lv7 強い遺憾の意を示す
------(私を不快にさせるのもそれぐらいにしたらどうだ?)------
Lv8 真に遺憾である ← 今回はこのレベル
------(糞! 糞! 糞!)------
Lv9 甚だ遺憾である
------(クゥ、クズがあぁああああああ!!)------
Lv10 悲鳴と呪詛以外、もはや聞きたくないぞ
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「スルシャーナ?…誰と勘違いしているのか知らないが訂正しておこう。私の名はアインズ・ウール・ゴウン…このナザリック地下大墳墓の支配者だ。」
「な、何故?その御姿は経典に描かれていたものと…いや、その恐ろしいまでの力を感じる装備は…」
「ほう!?この世界にも私の同族が居たとは!実に興味深い。」
「世界…同族…ま、まさか貴方様はぷれいやー様ではっ!?」
アインズは思いがけない事を聞いて激しく動揺するが、すぐにオーバーロードの精神作用無効によって抑制される。その後は聞いても居ないのに「六大神」「ぷれいやー」「人類の惨状」についてペラペラと捲くし立てるニグンを黙らせようとしたデミウルゴスを制止し、話を続けさせる。この男が語った事が事実であれば、やはりこの世界に他のユグドラシルプレイヤーが存在し、そして死んでしまったという事だ!
自分達以外のプレイヤーの存在を意識しなかった訳ではないが、どうやら自分達には警戒心が不足していたと認めざるを得ない。この男からはまだたっぷりと話して貰う事がありそうだ――そして生きたまま帰してやらなければならない。
「しかし本当に不愉快だ。死を司るオーバーロードである私の前で、未だ死ぬべきではない命を、私以外の者が無下に奪おうというのだからな。お前の部下だという騎士達の行いは非常に醜かった。」
ニグンは何も言う事が出来なかった。囮部隊がやり過ぎていた事は否定できない。殺された村人ごとき、人類全体から見れば取るに足らない存在と考えていた。そして自分自身が「取るに足らない存在」になって初めて、それが如何に理不尽な事かを思い知らされる。
「諸君には生きて帰って貰おう。そして諸君の上――飼い主に伝えろ。」
ニグンの元にアインズが迫り、絶望に染まった瞳を覗きこむ。
「この辺りで騒ぎを起こすな。そんなに騒ぎたいのなら、いつでもこのナザリック地下大墳墓にやって来るがいい。たっぷりと歓迎してやるぞ、とな。」
ニグンは信じられないといった様子で、必死に頭を上下させて了承の意を示す。
「さて、このままかえってもらうのは忍びない(許さない)。一晩(氷結牢獄で)泊まっていくといい。色々歓迎(拷問)しよう。傷を癒して英気を養って(拷問の痕跡と記憶を消して)から国へ帰ってくれたまえ。シャルティアよ、第五階層への《ゲート/転移門》を開け。」
「畏まりんした、アインズ様。」
「それでは、コキュートス…部下に命じて客人を第五階層に案内してやれ。客人の応対はニューロニストに任せる。但し私がゆくまでに最低限の治療を施し、他は何もするなと伝えておけ。」
「ハッ、畏マリマシタ。アインズ様。」
しばらく経つとコキュートスの部下達が現れ、ゲートの向こうへと侵入者たちを連行していく。それを見送ったさっちんがアインズに問いかける。
「お兄ちゃん、この世界に他のプレイヤーがいるんだね。私そんな事全然考えてなかった…」
「ああ。お兄ちゃんだって、あの男に言われるまで実感がなかったよ。注意しないといけないな。」
「プレイヤーに会ったらどうするの?戦うの?」
「相手次第だな。こちらから喧嘩を売るつもりは無いが、いたずらに慣れ合うつもりも、下手に出る気も無い。利益がぶつかった場合は、多少の譲歩はやむを得ないだろうが…」
「ギルドのみんなが居てくれたらよかったのに…」
アインズは妹の不安を打ち消す言葉を掛けてやりたかったが、妹の言った事は、自分自身も心の底から思っている事だ。何と頼りない兄かと臍を噛む
「わ、私がぶくぶく茶釜様に代わって戦いますっ!」
泣きそうな声でアウラが叫ぶ。
「アウラの言う通りでございます!ウルベルト様の足もとにも及ばぬ身でありますが、この身に代えましても、御二方の事はお守りいたします!」
デミウルゴスの血を吐くような叫びが続く。
「僕も頑張って戦います!ぶくぶく茶釜様に頂いた力で!」
普段の様子からは考えられない強い調子でマーレが断言する。
「このシャルティア・ブラッドフォールン。ぺロロンチーノ様より授かった力で、ナザリックに仇名すものは、尽く滅ぼして御覧にいれます!」
廓言葉を忘れる程に激昂したシャルティアが宣言する。
「如何カゴ安心ヲ!武人建御雷様ノ教エニ従イ、ドンナ強敵デ在ロウト、ナザリックニ属スル全テノ者ハ最後ノ一兵マデ戦イマス!」
コキュートスが力強く宣言する。
「エへへ…みんな…ありがとう!それはとっても嬉しいなって…」
「私からも礼を言わせてくれ。我ら兄妹とお前達で力を合わせれば、どんな強大な敵にも打ち勝てると、今この瞬間、はっきりと確信した。」
アインズはNPC達の言葉に、まるで彼らの創造主がこの場にいるような頼もしさを感じる。先程までの不安は嘘のように掻き消された。心が熱くなる…こんなにも頼もしい気持ちは初めてだ!もう何も怖くない――
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ナザリックの最重要部である第十階層宝物殿。この場を守護するのはアインズが自ら創造した唯一のNPC「パンドラズ・アクター」である。アインズ、さっちんを含むアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー42人の外装と能力の80%を再現可能な上位二重の影であり、アインズの黒歴史(現在も進行中)ともいえる存在である。
「フム、非常に参考になりました。これで我が創造主であるアインズ様へ満足のいく報告が出来ますね。」
パンドラズ・アクターはアインズの命令で、ニグン達の戦闘を徹底的に調査していた。さらに言えば、彼が調査完了の合図をアインズにメッセージで伝えるまで、ニグン達は戦闘させられていたのである。ギルメンの中で最も探査系職業に特化していた「ぬーぼー」の姿で、ワールドアイテムすら併用しての徹底した調査によって、かなり興味深い事実が判明した。
先日、主人が久しぶりに宝物殿を訪れた際に、ナザリック地下大墳墓が見知らぬ世界へと転移したという驚愕の事実を聞かされた。そして理由は明かされなかったが、主人がアインズ・ウール・ゴウンと名を変えた事。
幸いアインズが最も愛するさっちん様も一緒だったが、仮にさっちん様と離ればなれになった場合に、アインズがどれだけ嘆き絶望するかを知るパンドラズ・アクターは密かに胸を撫で下ろした。
「待たせたな。パンドラズ・アクター」
「パンドラおひさ~♪」
「Oh~!!我が創造主であるア~インズ様。そして美しくも可憐なさぁ~っちん様ぁーン!!」
「ウヒャヒャヒャwwwパンドラは相変わらずカッコいいね!」
「
「……(絶対ドイツ語止めさせよう)」
耐えきれなくなったアインズは、挨拶もそこそこにパンドラズ・アクターへ報告を促す。もちろんオーバーリアクションと余計な装飾語、ドイツ語を禁じてだ。それさえ無ければ、彼の報告は簡潔で判り易かった。
「まずは現地の人間種の強さですが、確認できたのが最も高いレベルは王国戦長の30です。職業構成がユグドラシルと酷似していますが、異なる点もある様です。今後はサンプルが不足している亜人種・異形種の調査を進めていく事になります。」
「まあ一部にユグドラシルでは無かった…俺が知らなかっただけかもしれんが、そういう職業もある様だな。亜人種・異形種についてはデミウルゴスとアウラの担当だな。」
もしユグドラシルの職業ツリーの範囲を逸脱した構成が可能なら、思わぬ強敵になる可能性もあるだろう。
「次に魔法ですが、ユグドラシルの位階魔法が使われています。確認出来たのは最高で第八位階の《プレイナーズ・アイ/次元の目》ですが、殆どの現地人は第三位階までが限度です。この世界では第四位階は一部の天才、第五位階は英雄クラスという扱いです。バハルス帝国の主席魔導師は第六位階を行使する「逸脱者」と呼ばれています。」
「魔法に関しては、現地のレベルはかなり低いと見てよいか。」
「但し、氷結牢獄に捕らえている者達に施されていた「特定条件下で3回質問されると死ぬ」という魔法はユグドラシルには無い魔法でしたし、第0位階という扱いの「生活魔法」という現地特有の魔法もございます。さらに「オリジナル魔法」を創り出している者もいるとの事です。」
「非常に興味深いな。可能であれば習得してみたいものだ。」
魔法職として一家言あるアインズとしては、可能であれば、ぜひともチャレンジしてみたいと思っている。
「ハイハイ質問!生活魔法ってどんなのがあるの?」
「ハッ、少量の食材や調味料を創り出したり、攻撃力の皆無な量の火や水を発生させるものが確認出来ております。」
「おお~!ご飯が作れるなら働かなくてもいいかも!?」
魔法でそんな事まで可能というのは、ちょっとしたカルチャーショックだ。
「次が「武技」と呼ばれるものです。主に戦士職が身につけている技です。ユグドラシルのスキルとは異なる物の様ですが、職業に由来した技なので、スキルとの類似性があるかもしれません。習得条件は不明ですが、我々でも習得可能であればナザリックの戦力向上となるでしょう。」
「ふーん、私にも使えるかな?」
「かなり有用そうな技もあるらしいな。武技を使える人間を拉致…いやいや、スカウトして研究してみるか。」
「おお~!さすがは大魔王。」
ナザリックの戦力向上は重要な問題だ。背に腹はかかえられない。
「そして「タレント」と呼ばれる一部の人間固有の能力があります。数百人に一人の割合で所持している者がおり、能力は様々。中には「あらゆるマジックアイテムを使用可能」という破格の性能も存在しております。」
「ふむ、非常に有用で…そして危険な能力だ。詳しく調査し可能であれば奪取したいな。」
「タレントってユグドラシルにあった「ギフト」に似てるよね?」
ユグドラシルで新規にキャラクターを作成すると、キャラクター毎に固有の能力が与えられる「ギフト」というシステムがあった。能力は完全ランダムで決定され、中にはゲームバランスに影響する程のものまで(宝くじ並みの確率でが)あった。微妙なものも多かったが、プレイヤーが不利になる能力はない。リセマラ防止の為に、所有するギフトが判明するのは、アカウント作成から100時間後となっている。
鈴木悟がユグドラシルを始めた時に獲得したギフトは「24時間に1回の無料ガチャ」だった。ユグドラシルにあった課金ガチャは1回500円。それが毎日1回とはいえ無料で可能という破格の能力である。鈴木悟はこの能力によって数々のアイテムを入手して、人より少ないプレイ時間を補う事が出来た。そして遂にスーパーレジェンドレアアイテムである「流れ星の指輪」までも入手したのだった。
この能力はこの世界に転移してからも失われず、アインズは現在も1日1回の課金ガチャを回す事が出来る。心の中でガチャっとすると、何も無い空間からカプセルが落ちてくる光景は非常にシュールで、アインズも「本当にどうなっているんだ?」と悩みつつも、毎日楽しみにしていたりする。
ちなみに転移して以来1週間連続でハズレアイテムの代名詞である「小さな変わった彫刻」が出現しており、今日こそは!明日こそは!と一喜一憂するのが日課になっている。
「そうだとすると…本当にどんな能力があるのか不明だな。これも要注意だ」
「それにしても、お兄ちゃんのチートは反則だよね~。ていうか何でこっちでも使えるんだろうね?」
「そんなのこっちが聞きたいぞ。」
「Oh~!無からあらゆるアイテムを生み出す!ま~さに至高の能力っ!!さすがは我が創造主であるア~インズ様!」
「おいパンドラ…素に戻ってるぞ。それに、そこまで万能じゃないからな。全く…今日もハズレだった。明日こそは…」
「ウヒャヒャヒャヒャwww」
(やっぱりコイツ何とかしないと……このまま外に出したら、他のNPCの視線が…)
アインズはパンドラの扱いを真剣に悩む。アイテムフェチの中二病を部下に紹介するのには勇気がいる。。
「そして最後はアイテムです!この世界のアイテム・武具はユグドラシルと比べて非常に低位です。ごく一部にマジックアイテムが存在しますが、それらも効果は極めて小さいもので、この宝物殿に収められた至宝には遠く及びません!但し!あのニグンという男が所持していた「魔封じの水晶」は、ユグドラシルにあった物と同一の効果があるものでした!込められていた魔法こそ第七位階という低位でしたが、これがユグドラシル産であればプレイヤーの存在が確定的となり、現地産であったなら、このクラスのアイテムを生産可能な者が存在するという事!この事から――」
怒涛の如く現地産アイテムへの見解を述べ続けるパンドラズ・アクターに、アインズは無いはずの胃が痛む錯覚を覚える。
「わかった!わかったから!とにかく落ち着け!」
「ウヒャヒャヒャヒャwww」
「失礼しました。それと回復ポーションに関してですが、現地産のポーションは「青色」をしており、保存性に欠陥があるのか、《プリザベイション/保存》を使用していないものは劣化してしまう為、使用期限があります。効能も低く、さらに制作者によってかなりの差異がでます。そしてこの世界にもMPを回復するポーションの存在は確認出来ておりません。」
ユグドラシルのポーションは赤色だった。もちろん使用期限なんて無かった(あったら大問題だ)し、低位~完全回復までのランク分けはあったが、同ランクのポーション同士に差異は無かった。このあたりは現実に則した?仕様なのかと思ってしまう。
「現地のポーション職人からも話を聞いてみたいものだ。ナザリックでは生産系メンバーが抜けてからというもの、ポーションや武具作成が弱かったからな。優秀なら拉致監禁…ではなく専属契約というのもアリだな。」
「お兄ちゃんってホントにレア物が好きだよね。ヘンなマスク買ったりするし。やっぱりパンドラはお兄ちゃんに似たんだよ。」
「おお!光栄です。さっちん様。」
今日は様々な問題点があきらかになった一日だった。アインズは改めてこの世界に対する警戒を強める。プレイヤーに関しては、NPCだけに任せる訳にはいかない。やはり近いうちに自らがナザリック外で本格的行動する必要性があると感じるのだった。
廃人プレイや廃課金無しのアインズ様を強化する為にチート設定追加。