至高の兄(骸骨)と究極の妹(小悪魔) 作:生コーヒー狸
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さっちんを送り出したモモンガは、先程までNPC達と話し合っていた、ナザリック外の情報収集と防衛体制の見直しについての相談を再開する事にした。ちなみにアルベドを一緒に行かせたのは、転移後からずっと感じている、アルベドからの強烈な肉食獣的プレッシャーのせいだ。リアルでも大魔法使いに成りかけていた自分に耐えられるものではなかった。
「あー、セバスは下がってくれて構わないぞ。メイド達を含む使用人の勤務体制については、適度な休息と食事を考慮したものをペストーニャと相談してくれ。守護者やシモベ達についてはこちらで考えておく。ソリュシャンはそのまま控えていてくれ。」
「「かしこまりました。モモンガ様。」」
「それではデミウルゴス。先程の続きを聞かせてくれ。」
デミウルゴスから提案された内容は驚くべきものだった。モモンガが重要視した情報収集については
1、 遠隔視の鏡による定期的な広範囲偵察
2、 発見された人間種の都市、集落への恐怖公眷属、シャドウデーモンによる偵察
3、 上記の偵察完了後は、セバスを始めとした人間種の外見をもったNPCによる情報収集
4、 不可視化に優れたシモベによる住民の拉致。拉致した人間からの直接的、強制的な情報収集
5、 都市の有力者、富裕層の洗脳による、より重要度の高い情報収集と財産の接収
6、 ナザリック北方にある森林は、アウラをリーダーとした調査隊を派遣
ナザリックの防衛体制についても
1、 現在の状態(デフコン3)を維持する
2、 飛行・隠蔽・伝達能力を持つシモベによる、ナザリック周辺の半径500mを範囲とした早期警戒網
3、 適度なレベルの者を拉致し、疑似的な侵入者とする事で防衛体制の再確認を図る
4、 守護者間にある戦闘経験の格差均一の為に、ナザリック地表部を第零階層(仮称)として、配置する者を定期的に交代させる事で、より多くの者に実戦経験を積ませる
どれも実行すれば多大な成果が得られるだろう。一部に非人道的な事があるが、アンデッドになった自分にとって忌避感はない。妹にはとても言えないが……
もちろんリスクを伴う事も多く、真偽が不明なものもあるので慎重に検討するべきだが、モモンガは「もうコイツに全部任せたらOKじゃね?」と思うのも事実だった。
「以上となります。モモンガ様は情報収集を優先させるとの事で、防衛体制に関しましては提案できる事が少なくて申し訳ございません。勿論モモンガ様であれば、私達の考える事など既知の物ばかりであったでしょうが、最後まで私の愚案を聞いて戴きありがとうございます。」
「……そ、そんな事はないぞデミウルゴス。一部に改善点や問題点があるものの、おおむね満足のいくものだった。」
(すみません!嘘です。どっちも最初の1つめくらいしか思いつきませんでしたぁぁ)
「おおぉ、ありがとうございますモモンガ様。それでは矮小なるこの身に、どうかモモンガ様がお気づきになった事をお教え願えないでしょうか!」
(ヤバいっ!!何かないか……えーと、えーと……よしっ、これだ!)
「うむ。そうだな……まずは人間が住む都市についてだが、まずは適当な集落へ私とさっちんが行ってみようと思う。お前達の能力に不安はないが、ナザリックの外での活動は私達に一日の長がある。何事も経験というだろう?」
「それはっ!!確かに仰るとおりですが、みすみす危険な可能性のある事に至高の御方を……」
「実はさっちんがNPC達と出かけたがっていてな。我儘になってしまうが分かってくれ。」
「おお!さっちん様がその様な事を!その際には是非ともこの私を供にして頂きたいものです!」
(これで納得したか?しかし昨日も思ったけど、こいつ等って俺よりさっちんを優先してるよな…まあ当然だけど)
これは1名のNPCを除いて事実である。NPCには作成時の設定が及ばない部分については、創造主たちの影響が色濃く見られる。さっちんを除いた全てのギルメンにとって、さっちん>(越えられない壁)>モモンガであったのだから、当然NPC達もさっちん>(越えられない壁)>モモンガ≧自分達の創造主となっている。
「防衛体制については…そうだな!侵入者を妨害するギミックやトラップを増設しよう。幸い費用には充分な余裕があるからな。配置するシモベの増員も可能だし、残っているNPC製作可能レベルと、拠点EXPを使えばNPC達のレベルアップも可能だ」
モモンガとさっちんは、ギルメン達がどれだけナザリックとNPCに情熱をかけていたかを理解していた為、彼らが去った後に、勝手にそれらに手を加える事はしなかった。拠点EXP等についても、ギルド共有の財産という認識から浪費はさけていた。しかしこんな状況なのだから「背に腹はかかえられない」「それはそれ、これはこれ」というやつだ。
モモンガは心にいくつかの棚を持っていたし、可愛い妹の為ならその棚を取っ払って、全く新しい棚に交換する事に何の躊躇もない。
実のところナザリックの拠点NPCの数は、その規模に対してあきらかに少ない。これはユグドラシルの運営が、ナザリック地下墳墓を数百人規模の超大型ギルド用の拠点として想定していたからだ。
そのナザリックを運営の想定する半数以下の人数で攻略したうえで、たった42人という大手ギルドとしては考えられない少人数でありながら、最後の最後まで守り通してきたアインズ・ウール・ゴウンがおかしいのだ。
※ギルメン達にとって、ユグドラシルというゲームは、あくまでも仲間同士で様々な冒険をする事がメインの目的で、ギルド拠点に関する事ばかりに労力を割くわけにはいかなかったのだ。それが原因でNPC製作可能レベルと、拠点EXPを使い切る事はなかったし、ナザリックの設備の一部が未完成だったり、NPCのビルドが中途半端だったりする。
「まあ、そういう事で私の話も踏まえたうえで、これからも気付いた事があれば言ってくれ。」
デミウルゴスは歓喜の念に打ち震えていた!なんという偉大なるお方だろう!至高の方々が造り上げた神聖にして完璧なナザリックに不満など無いし、そこに手を加えるなどという畏れ多い事は考えられなかったが、至高の御方自らが行うのであれば何の問題も無い!このナザリックが更なる進化を遂げるとは何と素晴しい事か!
NPCのレベルアップについては驚愕どころではない。ナザリックのNPC達は全員が至高の方々によって創造されたかけがえの無い仲間と思っているし、仲間達自身にも能力にも不満は無い(1名を除く)が、その仲間達が更なる力を得る事が可能とは、想像すら出来なかった事だ。
100レベルの階層守護者としてウルベルト・アレイン・オードルの手によって創造されたデミウルゴスは、己の全てに対して一片の不満も持っていない、持ってはいないが…もし新たな力を与えて戴ければ、よりいっそう御二方に忠義を捧げられるという甘美な思いがふつふつと湧きあがってくる。
「ギミック等については、責任者である各階層守護者達の意見を募ってくれ。レベルアップについては、お前達の生みの親であるギルメン達の事もあるから早計には決められない。そういった事も可能だとだけ認識して欲しい。」
これでうまく纏まったか?とりあえずこの話はこのあたり(ボロが出る前)にしておきたいものだと、モモンガが考えていると、愛しい気配が近づいてくるのが感じられた。
モモンガやさっちんには感知出来ないが、ナザリックに所属するギルドメンバー・NPC・シモベ達には特有の気配、ナザリックオーラともいえるものがあり、NPCとシモベはその気配を読み違えることは決してない。だから例えばモモンガが漆黒の全身鎧に身を包んで変装した気でいても、彼らにはバレバレである。
繰り返すがモモンガにナザリックオーラを感知する事は出来ない。しかし愛する妹の気配を読み違えることは、リアルに於いても無かった。これはモモンガ、いや鈴木悟の魂に刻まれた能力である。
モモンガは愛しい妹を出迎えようとデミウルゴスへ目配せする。当然デミウルゴスも気配を察知している。何故かさっちん様以外にも多数の気配を感じるが……それに随分とお急ぎのご様子。よほどモモンガ様と一緒に居たいのだろうとほっこりする。
激しくドアが開けはなたれると、さっちんが右手を突き上げながら叫んだ。
「指輪よ!わたしは願うっ!!お兄ちゃんがご飯を食べられる様にっ……そしてこ、こ…子作り出来る様にして下さいっ!!」
さっちんを中心に、強大な光の奔流が吹き荒れ、幾層もの複雑な魔法陣が展開していく。そしてモモンガの身体が凄まじい波動に呑みこまれていった。
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指輪に願った瞬間に《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》がどういった物なのかが分かった。正しく不可能を可能にする魔法。対価を捧げて願えば望みが叶う事が理解出来た……出来たんだけど!?
「あばばばばばばばばば……(ビクンビクン)」
これって大丈夫なの?魔法が発動した瞬間に、願った事が叶えられたと感じる事ができたけど、お兄ちゃんが苦しそうに…苦しそうなのかな?
「フオオオオオオオオォッーー(ボッキンボッキン)」
うん。なんか「みwなwぎwっwてwきwたwww」って感じだ…おや!?お兄ちゃんの様子が!…おめでとう!お兄ちゃんのむすこがふっかつした!
「ハァーハァーハァー…こ、これは一体…さっちん、俺に何をしたんだ…って何じゃこれはぁぁぁぁ!!」
「モッ、モモンガ様~~ん♥♥♥」
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一部の登場人物のイメージを保つ為に、このシーンの描写は省略させていただきます。
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「そうか…私の為を思って、貴重な流れ星の指輪を使ってくれたのか。うれしいぞ!さっちん。」
「え、えーっと、その…怒って無いの?お兄ちゃんに言わないで勝手な事しちゃって。」
「少ーしだけ驚いちゃったけどな。次からはちゃんとお兄ちゃんに言ってからにするんだぞ。はっはっは!」
よかった~♪お兄ちゃんが喜んでくれて!NPC達も嬉しそうだ!いつの間にか集合してきたNPC達が笑顔と拍手で祝福してくれる。
シャルティア「まっことめでたいでありんす。」
コキュートス「オメデトウゴザイマス!」
アウラ「おめでとうございまーす!」
マーレ「お、おめでとうございます。」
デミウルゴス「おめでとうございます!」
セバス「おめでとうございます。」
プレアデス「おめでとうございます。」
メイド一同「おめでとうございます!」
他NPC一同「おめでとうございます!」
シモベ一同「
パンドラズ・アクター「
ギルメン一同(特別出演)「おめでとうモモンガさん!」
さっちん「おめでとうお兄ちゃん!」
モモンガ「ありがとう。」
妹に、ありがとう
アルベドに、謹慎三日間
そして全ての子供達(NPC)に、
おめでとう
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飲食可能になったお兄ちゃんは、料理長渾身の一品を食べて「うー・まー・い・ぞーっ!!」と咆哮した。うんうん、ナザリックの料理は最高だからね♪これからはお兄ちゃんと一緒に色んなご馳走が食べられる!
その後は予定通りにナザリックの各階層を順番に回っていった。もちろん広大なナザリックだから、途中でおやつ休憩や昼食(NPC達も参加した第六階層でのバーベキューは最高だった!)を挟んでだ。
それぞれの領域や階層守護者達が超VIP待遇で案内してくれた。何箇所かで、お兄ちゃん曰く「見せられないよ!」な場所があったけど何があるんだろう?そういえばナザリックには「5大最悪」と呼ばれる……おや、誰か来たみたいだ。
しかし魔獣系はともかく、悪魔系や虫系のモンスターを見てもまったく嫌悪感を感じない事に驚いた。むしろ悪魔にはすごい一体感を感じてしまう!やはり身体だけでなく精神までも人間でなくなっているのか!?
え?死霊系はどう感じているかって?「そうは言っても女の子はゾンビとか苦手なんでしょ?」とか思ってたりする?私のお兄ちゃんは何でしたっけ?ウケケww
最後に立ち寄った第二階層にあるシャルティアの居住区「屍蝋玄室」は立ち入り禁止になってしまった。ぺロロンチーノさんに何度か招待された事があった事をお兄ちゃんに伝えたら「あんの変態チキン野郎~、ウチの妹に何てモノをみせやがるぅ……殺す!首を撥ねて、羽毛を毟りとって串刺しにして焼き鳥にっ……」と唸っていた。
シクススから聞いたのか「ぺロロンチーノ様の夢と希望と感動が込められた浴室へご招待したい」とシャルティアにとても必死に懇願された。入浴には拘りがあるらしいので気になる。今度お兄ちゃんに内緒で行ってみよう。
夜は玉座の間にNPC達を集めて、お兄ちゃんが飲食(&子作り)可能になった事を記念した「モモンガ様を讃える会」を開催した。メイドさんや使用人達、料理長達が総出で準備してくれた晩餐会は超豪華なものになった。
私達が一緒に座っている玉座の前には、お酌をする為にNPC達が行列を作っている。私は飲酒を禁止されているからジュースをチビチビと頂いてる(そんなに飲めないって!)けど、お兄ちゃんはNPC達から注がれる色々なお酒をグイグイ飲み干しているけど、お兄ちゃんが飲んだり食べたりしたものは何処へ消えたんだろう?
お兄ちゃんは「飲食(&子作り)可能になっただけで、それ以外の種族特性に変化は見られない」と言ってたけど、満腹無効化とかあるのかな?アンデッドには酩酊無効の特性があるはずなのに、とってもご機嫌だ。
「皆の者よ!聞くがよい!」
お兄ちゃんがいきなり私を抱っこしたまま立ちあがって声をあげた!
「私はこの素晴しき時を記念して名を変える事にした!これより私の名を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン――アインズと呼ぶが良い!」
突然の宣言に私もNPC達もびっくりだ!でもいきなりどうしちゃったんだろう?
「愛する妹よ!お前の可愛らしい唇から、我が新しき名を呼んではくれまいか?」
「ア…アインズお兄ちゃん?(酔ってる!(自分に)酔ってるよ!)」
「ご尊名伺いました。アインズ・ウール・ゴウン様万歳!アインズ・ウール・ゴウン様に絶対の忠誠を!」
おおっ!アルベドが真っ先に声をあげた!さすがお兄ちゃんの嫁(仮釈放中)!
「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
「さっちん・ウール・ゴウン様万歳!」「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
それからはNPC全員の大合唱だ。うん?何か聞こえたけど気がするけど空耳かな?何故お兄ちゃんがこんな事をしたのか理由は分からないけど、たま~にあるんだよね。中二病ってゆうんだっけ?今までのパターンだと、だいたいしばらく経つとしょうきにもどって悶絶する事になるんだけど……
翌朝、アインズの自室から「友よ!」「誇りある名」「ならばここまで」「その時は」等の単語が断片的に漏れ聞こえて来た。その事をメイドから不安そうに伝えられたさっちんは「ふーん。今回はけっこう早かったね」と答えたのだった。
モモンガ様ギルド長にもかかわらず
ギルメン序列が2位だったことが判明!
そしてカルネ村が遠い。