鈴愛(永野芽郁)が大きな発明を成し遂げるという全体のあらすじを聞いて、「アイデア」というタイトルを考えたのが始まりです。
鈴愛は、左耳の失聴や多くの挫折に直面しながらも、強く明るく生きていくヒロインですよね。そんなふうに、生活の中に現れる“影”に対して、アイデアをもって乗り越えていこう、さらっと織り込んで生きていこう、というコンセプトで歌詞を書いていきました。やはり、朝ドラは生活の一部になるような番組だと思うので、主題歌でも生活を応援したい気持ちがありましたね。
一方で、ヒロインが生まれないまま第1回が終わったように、「半分、青い。」は相当にアバンギャルド(笑)。それならば、主題歌も歴代の作品にならわず自由に作ろうと思いました。尺の都合からすれば、これまでの主題歌で多かった、前奏と後奏を短くまとめたミドルテンポの曲にするのがやりやすいのでしょうが、今回は逆を行きたかった。前奏と後奏をたっぷり聴かせて、テンポをそのぶん速くした、勢いのある楽しい曲を目指しました。
アイデアをもって、生活の中の“影”を乗り越える
「半分、青い。」のあらすじや序盤の脚本なども参考にしながら、主題歌「アイデア」の構想を進めていったそうですね。
1番は「これまでの星野源」、2番は「これからの星野源」
フルバージョンを聴くと、番組で使われている1番と比べて、2番は全く違う雰囲気になっていますね。
僕の楽曲を聴いたことのない方々も見る番組だと思ったので、1番は星野源の名刺代わりになる音楽を目指した部分があって。以前に組んでいたバンド・SAKEROCKのころから演奏しているマリンバを入れたり、歌詞も過去の楽曲から取った単語を散りばめたりして、「これまでの星野源」にしていたんです。
ただ、そこからフルバージョンの制作までに期間が空いて、自分のやりたい音楽が、どんどん変わってしまったんですよね(笑)。 “陽”の1番に対する“陰” の2番、新しいサウンドとして「これからの星野源」を表現したくなり、サンプラー(音源を取り込んで演奏できる電子楽器)やアナログシンセサイザーを押し出したサウンドにしていきました。
歌詞も陽と陰の対比で、1番は「こんばんはー!星野源でーす!」と笑顔で仕事している星野源、2番は一人ぼっちの星野源が表れています(笑)。もちろん、笑顔で仕事をしている自分も本当なんですが、誰しも社会で生きていく中で、心に“闇”をため込むだろうと思っていて。2番の歌詞は、一人ぼっちの自分を見つめながら書いていきました。
1番の歌詞は「半分、青い。」を意識して書き、2番は自分のやりたいことありきだったのですが、結果としてトータルでドラマにシンクロしていると言ってもらえるので、良い結果になったと思います。
陽も陰も全部まとめてポップスにするぞ、という宣言
2番のあとは、弾き語りパートで一度クールダウンして、再び生楽器の編成で盛り上がる構成になっています。そのあたりのねらいをお聞かせください。
まず、2番のあとで何事もなかったように元の曲調に戻ったら、奇抜なだけになると感じたんですよね。でも、間に弾き語りパートを入れたら、楽曲全体で「自分の音楽の変遷」を表現できるなと。1番はこれまでの星野源、2番はこれからの星野源だと言いましたが、弾き語りは星野源の原点なんです。
弾き語りパートの「闇の中から歌が聞こえた あなたの胸から 刻む鼓動は一つの歌だ 胸に手を置けば そこで鳴ってる」という歌詞は、僕にとって音楽をやることは生きることだ、と宣言する意味合いを含んでいます。そうしてできた音楽を、聴いている人にも自分のものにしてもらいたい。誰の胸にも音楽が鳴っているんだよと、伝えたいのかもしれません。
「アイデア」は、いろいろな自分をごちゃまぜにした曲になりましたね。最後のサビで頂点に達したカオスを、銅鑼(どら)の一撃でぶっ壊しているんですが(笑)。全てを壊し、全てを引き連れて行くぞ、という思いです。
ここまで思い切りよく作れたのは、「半分、青い。」の持つアバンギャルドさ、破壊と創造のパワーに勇気をもらえたからでしょうね。おそらく「アイデア」は、これまでの星野源の総決算であり、これからの星野源のデビュー作。楽しい音楽も孤独な音楽も全部やるぞ、陽も陰も全部まとめてポップスにするぞ、と宣言するような曲になりました。