テレビ局がアニメの裏にアニメを当てる理由~『ポケモン』vs『ちびまる子ちゃん』の構図を考える~

(写真:つのだよしお/アフロ)

テレビ東京は10月の改編で、日曜夕方(午後5時30分~6時30分)にアニメ枠を新設すると発表した。

現在、木曜午後7時台で放送中の『ポケットモンスター サン&ムーン』と『BORUTO―ボルト― NARUTO NEXT GENERATIONS』が、枠移動しての放送となる。

この結果、フジテレビの『ちびまる子ちゃん』と激突することになる。SNS上では、「“テレビの自殺”の顕著な例」として、子供番組の裏に子供番組をぶつける編成方針への疑問も出ていた。

しかし果たして本当に、“アニメの裏にアニメ”を当てる編成は、自殺行為なのだろうか。過去の例とテレビ編成の現実、さらにテレ東の戦略と併せて考えてみたい。

テレ東の新編成

スポーツ紙の記事『テレ東 日曜夕に1時間アニメ枠新設 「BORUTO」「ポケモン」移行 家族の時間に、縦の流れ強化』によれば、テレ東は10月から日曜夕方にアニメの放送を増やす。

現在、木曜午後7時25分からの『BORUTO―ボルト―』が日曜午後5時30分に枠移動する。また木曜午後6時55分からの『ポケットモンスター』が日曜午後6時の放送となる。

「休日ゆっくり、家族一緒で」をコンセプトに、日曜夜への縦の流れを強化するという。この結果、『BORUTO』は日テレの『笑点』と激突する。また『ポケモン』はフジの『ちびまる子ちゃん』とバッティングする。

特に『ポケモン』vs『ちびまる子ちゃん』の構図は、“アニメの裏にアニメ”となり、疑問視する声がある。

例えば今回のテレ東の発表の直前に、SNSにはこんなツイートが多くの反響を呼んでいた。

同種の番組をぶつけると、「その時間に地上波テレビを見る人は激減」し、「テレビの自殺」に等しい。この見方についてどう思うかと問う人がいたが、筆者はかならずしもそうは考えていない。

過去の実例や、現在の編成の実態を見ても、そうは言いきれない点が多々あるからだ。

激突の成功例

激突させるような編成は「全体のパイを減らすだけでは?」という危惧はわからないではない。限られたパイの中で互いにつぶし合うだけでは、全体にとってマイナスという事態は起こりかねないからだ。

先に紹介したツイートも、「“A局対B局”の視聴率競争ばかり考えて」いては、弊害が出ると警告している。

しかしテレビ局は、「いまや“地上波テレビ対それ以外の物”が戦っている」ことは十分わかった上で、編成の判断をしており、つぶし合いを前提に編成を決めてはいない。

その典型的な例が、平昌オリンピック開催中の今年2月18日(日)の夜だった。

当日はスピードスケート女子500mで、小平奈緒選手が五輪新記録をマークして、金メダルを獲得した。これを中継していたTBSは、2時間半の特番で平均21.4%と高い視聴率を記録した。

この五輪特番が高視聴率となることは、誰もが事前に予測した。

それでも日テレは、同時間帯に『イッテQ!』をぶつけてきた。イモトアヤコが南極大陸最高峰に挑戦した3時間SPだった。結果はこちらも19.2%と極めて高い数字を獲った。

そして同時間帯のHUT(総世帯視聴率)は70.9%となり、通常より10%ほど高くなった。つまり強力な2番組の激突は、“互いの番組のつぶし合い”になっていなかった。テレビはこの日、20年ほど前の賑わいを取り戻していたのである。

日テレの編成幹部は、こうなることを予測して、敢えて五輪に『イッテQ!』をぶつけたという。「いまや“地上波テレビ対それ以外の物”が戦っている」ことを承知しているので、テレビに賑わいを取り戻す必要性を感じての判断だったという。

現在の編成

現在の各局の編成を見比べると、“アニメの裏にアニメ”的な同種の番組の激突例は枚挙に暇がない。

平日朝6~7時台は、NHKと民放5局すべてがニュース・情報番組を並べている。8時台にはワイドショー5番組がひしめいている。夕方5~6時台も、ニュース番組が5つも並ぶ。

夜も例外ではない。

今やGP帯(夜7~11時)はバラエティ番組が過半を占めている。その結果、3~4局でバラエティ対決が起こることは珍しくない。月~水の夜7時半から8時台に至っては、NHKも含め6局すべてがバラエティ番組だ。

そして夜11時台も、NHKと民放で4つのニュースがかぶっている。つまりほとんどの時間で、同種の番組がぶつかっているのであり、“アニメの裏にアニメ”だけを問題視するのも、今さら感が拭えない。

テレビアニメの賑わい

しかも今回の改編には、テレ東なりの判断がある。

例えば『ポケモン』は、1997年に最高視聴率18.6%を獲った人気アニメだ。98年からは毎年映画版も製作され、40億円以上の興行収入をあげた作品が11もある。

去年も35.5億円を売り上げ、今年の最新作『ポケットモンスター みんなの物語』も、30億越えの勢いとなっている。

ところがテレビアニメの視聴率は低迷している。

1997年10月クールの平均は17%ほどだった。ところが今世紀に入り、二桁を維持できなくなり、今年4月クールは3.4%まで下がっていた。

子供たちの生活スタイルの変化が最大の要因だろう。小学校高学年になると、塾だ習い事だととにかく忙しい。平日7時台では、まだ家に帰っていない子供が増えている。

そこで大勢のファンに配慮して、在宅率の高い日曜夕方へと枠移動させた。

『ちびまる子ちゃん』との激突はあるものの、五輪と『イッテQ!』とまでは行かないものの、トータルでは視聴者の数が増える事態もあり得ると踏んでいるようだ。

同局幹部は、「うちは裏に競合番組をぶつけて、他局の番組を潰しに行くような発想も体力もありません(笑)」と証言している。

やはり価値最大化を最優先しての判断のようだ。

実は同局では、売上に占めるライツビジネスの割合が24%まで高まっている。他局に比べて断トツに高い。

しかもアニメ事業は17%と、同局経営を支える一つの柱になっている。この部門をさらに大きく伸ばすためにも、前提となる放送で、一人でも多くの視聴者に見てもらうことが重要だ。

アニメとその後のバラエティ番組で、休日の家族団らんをテレ東で過ごしてもらおうという編成意図は、間違いなくライツビジネスというテレビ局の今後の経営戦略にもつながっている。

つまり“アニメの裏にアニメ”は、広告収入最大化と同時に、ライツビジネスという新たな戦略も視野に入れた判断なのである。

テレビ局の新たな一歩がどう実を結ぶのか、注目したい。