それでも英語教育が変わらない理由

唯一にして最大の問題

2018年9月1日(土)

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(写真=PIXTA)

 今、英語教育へのスピーキングの導入、そして早期英語教育の試みが加速しています。言葉の根本的な性質が「音声による意思伝達」であることを考えると、スピーキングの導入そのものはごく自然なことですし、また、他の教科が、まさしく早期からの積み上げであることを考えると、早期英語教育には十分な根拠があるように思われます。

 これらの動きを見ていると、母語(日本語)が失われていくのではないかと懸念される点もあるのですが、幸か不幸か、英語以外の学科がすべて英語で教えられるということも、日々の生活が英語一色になる(あるいはバイリンガルになる)ということもまず考えられませんので、大丈夫だと思われます。

 ただ、その分、限られたリソース・時間の振り分けをいかに有効に使うかが焦点となりますので、難しい舵取りになることは間違いありません。1クラス30人からいる生徒に「英語を話す活動」を許すと、全員が行儀よくパートナーと英語を話すということはなかなか想像しにくく、途中でつまって黙る生徒、逆に活発に「日本語」で話す生徒が現れて、収拾が付かなくなる事例もたくさん起きると思われます。

 よくDVDやYouTubeで「英語で英語の授業」の模範例が紹介されていますが、これは、当然ながら、事前あるいは経年の入念な準備があった、そして何より担当教員の指導センスが素晴らしいと考えるのが妥当でしょう。英語を話すことがそんなに簡単なら、英会話学校にせよ、オンライン英会話にせよ、自学にせよ、私たちが苦労することはないはずですし、だれもわざわざ海外に留学などしないと思われます。

 さて、スピーキングという前に、今の(過渡期にある)中学・高校生で、英語を、「自信をもって読み上げる」ことのできる生徒はどのぐらいいるでしょうか。綺麗な発音というわけでなく、とにかく「自信」を持って読めるということです。おそらくかなり上位の学校の中高生でも、それほど多くはないと思われます。

 しかし彼らも否応なく、スピーキングテストを受けることになります。ですので、おそらく今後少なくとも数年間は、今まで以上に学力の差が広がるというリスクがあります。もう身に染みて体験されている方がたくさんおられると思いますが、日本語の環境下で英語を話す能力を身に付けるというのはそう簡単な事ではありません。

 スピーキングは、間違いなく、他の3つの技能(読む、聞く、書く)とは異質な能力です。だからこそ、テストへの導入が最後になったとも言えます。

「単なる丸暗記の蓄積」は有効

 ところで、私たちはスピーキングを漠然と「ペラペラと話すこと」と考えていますが、スピーキングにも大きく3種類あって、一つはスピーチ、もう一つはそれに対しての質疑応答、そして最後は、いわゆるフリーカンバセーション、つまり何が出てくるかまったく分からない状況で自在に会話を行う能力です。この中で、最後に挙げた能力がもっとも高難度であることは言うまでもありません。英語でプレゼンをし、質疑応答までなんとかこなせても、その後の懇親会で四苦八苦するというのは、今でもよく耳にします。

 スピーキングでは、瞬時に、文法的にも用法的にも、さらには単語レベルにおいても正確な英語を口に出すことが要求されますので、その難度は、同じ発信力といっても英作文などとは比較になりません。ですので、「目的」や「レベル」を明確にすることが必須で、ここで一歩誤ると、泥沼に入り込み、混沌とした状況が生まれて4技能すべてが低下するということも有り得ます。

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「それでも英語教育が変わらない理由」の著者

池田 和弘

池田 和弘(いけだ・かずひろ)

大阪観光大学国際交流学部教授

「学習者に優しい」をコンセプトに、認知言語学、レキシカル・グラマー、エマージェント・グラマー、並列分散処理など最新の知見を駆使して、受験英語と実用英語を融合。日本有数の英語学習法のスペシャリスト。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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