次世代中国 一歩先の大市場を読む
中国のシェア自転車はなぜ失速したのか
~投資偏重「中国的経営」の限界
2018年08月30日
5000億円もの投資資金が流入
後押ししたのが旺盛なベンチャー投資だ。草分けのofoは16年だけで5回、17年には3回、モバイクは16年、17年にそれぞれ各4回、数十~数百億円単位の投資資金を受け入れ、調達額は両社とも1000億円を超えるとみられている。その他、後から参入してきた他社に対する投資を含めると、全国で5000億円以上の資金がシェア自転車に投じられたとされる。
シェア自転車は、利用できる自転車の数が多ければ多いほど利便性が高まり、利用者を囲い込みやすくなる。そのため各社は、冒頭の王暁峰のインタビューにあるように、まずは「質より量」で、とにかく自転車の数を増やすことに熱中した。潤沢な手元資金を背景に100万台単位の自転車をメーカーに次々と発注、北京や上海、広州、深圳などの大都市を中心にどんどん配置していった。
乗り捨てのルールは守られず
しかし、こうした闇雲な拡大の結果、17年後半あたりから問題が噴出してきた。まず批判が集中したのが不法な放置自転車の大量発生だ。中国のシェア自転車はしばしば「乗り捨て自由」と形容されるが、それは正確ではない。規則では歩道上に白線などで仕切られた駐輪スペースに停めなくてはならない。そのルールが守られず、地下鉄駅近辺や繁華街などでは放置自転車が氾濫、社会問題となった。
各社は自前の自転車整理部隊を配置し、放置自転車はトラックで撤去するなどの対策を取ったが、追いつかない。コストも膨大で、重い負担としてのしかかった。それでも市民の批判は消えず、上海市政府は17年8月18日付で新たなシェア自転車の設置を禁止する措置を発令。各地の政府も強制的に車両を排除したり、シェア自転車の台数制限を設けたりするなどの対策を次々と導入、利便性が大きく低下する結果となった。
街なかに散乱するシェア自転車。乗り捨て自在で一時は一世を風靡したが、いまや「都市に発生したバッタの大群」である
間に合わないメンテナンス
同時に出てきたのが車両のメンテナンスの問題だ。日常使用による単純な故障もあれば、悪意の利用者による損壊、不法な投棄、私物化や盗難などもある。シェア自転車は24時間、365日、街頭で雨ざらしに置かれるので、汚れもたまる。ハンドル部分に取り付けられた荷物カゴがゴミ箱状態になってしまっている車両も少なくない。
こうした車両を点検、修理、清掃するメンテナンスのコストは巨額である。報道によればモバイクは車両1万台あたり50人のメンテナンス部隊を確保しているというが、現状、とても追いついていない。私自身、上海ではシェア自転車をかなりの頻度で使うが、最近の実感値では整備が行き届かず、乗ることが不可能、もしくはとても乗る気にならない状態の車両が半分ぐらいはある感じだ。そのため利用時にはいちいち乗れる自転車を探し回って状態をチェックせねばならず、便利さを大きく損なっている。
カゴは錆び、タイヤもパンクして壊れている。修理が追いついていないことがうかがえる
あいまいな収益モデル。利益のメド立たず
こうした状況を背景に、シェア自転車に対する新規の投資資金の流入は徐々に減り始めた。根底には、王暁峰が冒頭のインタビューでいみじくも語ったように、そもそもシェア自転車事業の収益モデルが明らかでないという本質的な問題がある。
例えばモバイクのGPS付き自転車の調達コストは1台あたり1000元(1元は約17円)程度とみられている。一方、利用者から徴収する料金は1回の利用で1~2元程度。車両本体のコストを回収するだけで相当の時間がかかる。まして先に述べたメンテナンス費用も考慮すれば、簡単に儲かるビジネスでないことは明らかだ。
もちろんサービス開始時からわかっていたことではあった。シェア自転車のビジネスの収益化については、利用者からの料金収入以外に大きく3つの考え方があった。一つは利用者から登録時に預かるデポジット(保証金)の運用益、第2には利用者の属性や移動パターンなどのビッグデータを活用するビジネス、そして3番目が車両本体への広告掲載──の3つである。
「デポジットなし」が主流に。収益モデル崩れる
しかしこの3点のどれもが思うように機能していない。一つめのデポジットについては、確かにその額は大きい。「2018年中国シェア自転車市場報告」によると、モバイクの登録者数は全国で2805万人、モバイクのデポジットは299元だった(現在はデポジット廃止、後述)ので、計80億元超、日本円で1300億円を超える巨額である。運用益も大きなものになる。デポジットは退会時に全額返金をうたっているので、しかるべき方法で保全しておくべきものだが、その点を管理する法律も不備で、使途は明確になっていない。
ところが17年後半あたりから全国各地で中小規模のシェア自転車企業が次々と経営破綻し、多くでデポジットが返還されない事態が発生した。未返済金額は10億元を超えるという。利用者の不信感の高まりもあって、モバイクは18年7月、デポジットを不要にすると発表、返金を始めた。ofoも同月、全国主要都市でデポジット不要の措置に踏み切った。透明度が高まったのはよいことだが、これによってシェア自転車のビジネスの大きな収益元の一つとされてきた資金運用ができなくなった。