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フィッシュマンズ『男達の別れ』が世界98位だと知る8月の現状

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フィッシュマンズの評価が海外で急上昇中らしい。『RYM(RATE YOUR MUSIC)』という音楽・映画のデータベースサイトではライブアルバム『’98.12.28男達の別れ』が、全世界の350万枚以上のタイトルを含むチャートでなんと98位(2018年8月時点)。アメリカでインディ・レーベルを運営しているBenくん(@cudighirecords)から教えてもらいました。

 

RYM(RATE YOUR MUSIC)とは

『 RYM』は、アメリカの音楽と映画のコミュニティ兼データベースサイト。アーティスト、レーベル、ジャンル別などににクロスリファレンスされた音楽と映画を調査でき、アカウントを作成すれば、音楽や映画を評価、レビュー、カタログ化、タグ付けできるようになります。
 
プロフィールをつくったり、写真をアップロードしたり、友人リストを作成したり、プライベートメッセージを送れるのでSNS的な要素もあります。自分のレビューに基づいたアルゴリズムによって、オススメの音楽や映画の情報を受け取れるそうです。
 

チャートについて

実際のチャートはこちら

2018年8月30日時点のチャートのトップ10は以下のとおりでした。

Top Albums of All-time #1 - #10

1.Radiohead - OK Computer (1997)

2.Pink Floyd - The Dark Side of the Moon (1973)

3.Radiohead - Kid A (2000)

4.The Velvet Underground & Nico - The Velvet Underground & Nico (1967)

5.Pink Floyd-Wish You Were Here (1975)

6.King Crimson-In the Court of the Crimson King (1969)

7.My Bloody Valentine - Loveless (1991)

8.The Beach Boys - Pet Sounds (1966)

9.The Beatles -Abbey Road (1969)

10.The Beatles-Revolver (1966)

 

『RYM』は、同種のデータベースサイト『discogs』と比べると「ロック・オリエンテッドなデータベース」と評されるだけあって、かなり安定感のあるロック名盤チャートという印象。ややプログレ・サイケ気味かもですね。ここにフィッシュマンズがランクインしているのか・・・ゴクリ・・・

 

で、実際の『男達の別れ』のチャートとその前後を抜き出してみると・・・

Top Albums of All-time #94 - #103

94.The Beatles - Magical Mystery Tour (1967)

95.Kate Bush - Hounds of Love (1985)

96.Pixies - Surfer Rosa (1988)

97.Nirvana - MTV Unplugged in New York (1994)

98.Fishmans - 98.12.28 男達の別れ  (1999)

99.Elliott Smith - Either / Or (1997)

100.Nick Drake - Five Leaves Left (1969)

101.Eno - Another Green World (1975)

102.Neil Young - On the Beach (1974)

103.Slayer - Reign in Blood (1986)

 

ガチなロック名盤ランキングっぽいメンツにはさまれてました!すごい!

 

チャートの仕組みについて

『RYM』のチャートは、ユーザーの評価、評価数、レビュー数に基づいています。しかしそれらの生データを単純計算しているのではなく、独自のアルゴリズム(加重平均値+複数の要素を考慮しているとのこと)によってスコアリングされたチャートだそうです。

意図的に特定の作品のスコアを組織票で上げたりするなどの操作が出来ないようになっており、アルゴリズムの詳細も非公開。

チャートは2週間ごとに更新されているようです。以前観たときは『男達の別れ』は100位だったので、地味に変動があることは確認できました。

 

チャートの信憑性について

2018年7月時点での『RYM』の各種数値は以下のとおり。

■RYMサイト情報(2018年7月時点)
RYM アカウント数:579,966 
登録アーティスト数:1,228,075 
登録タイトル数:3,707,597 
評価数:56,356,263 
レビュー数:2,211,072

Statistics 2018 in the official "Statistics of RYM" thread 

 

比較対象がないのでどう判断すべきかわかりませんが、チャートを構成する要素である評価数は5,600万以上!信頼できる母数ではないでしょうか。

昨年からの1年間で評価数は1,000万増、登録タイトル数は30万増という推移。アカウント数も近年約5万ずつ増えてきているようです。

 

一応、同業の『Discogs』の各種数値も確認してみましたが、肝心の評価数やレビュー数はわかりませんでした。アーティスト数とタイトル数が『RYM』よりも多いのは、ダンスミュージックの12インチなども多く取り扱っているからでしょうかね。

■Discogsサイト情報(2018年6月時点)
アカウント数(※):418,140 
登録アーティスト数:5,284,282
登録タイトル数:10,000,000

※厳密にはContributors(協力者)という表現です。アカウントとイコールと考えて大丈夫だと思いますが。

10 Million Releases on Discogs!


具体的にどんな評価なのか

実際の『男達の別れ』の評価は以下のとおりです。
評価:4.33 / 5.0 (評価総数:2,790)
ランキング:1999年リリース作品で2位, 全体で98位
ジャンル:Dream Pop,Dub, Neo-Psychedelia, Ambient Pop, Progressive Pop
タグ:bittersweet, ethereal, mellow, melancholic, passionate, melodic, atmospheric, warm, lush, male vocals, psychedelic, uplifting, playful, epic, progressive, aquatic, rhythmic, romantic, androgynous vocals, happy, sentimental, surreal, soothing
全体チャートの上位に掲載されるためには、ある程度の評価数と高評価が必要な印象を受けます。例えば、97位のNirvanaの『MTV Unplugged in New York』は、評価:4.09、評価数:13,476、レビュー数:390。そして99位のElliott Smithの『Either / Or』は、評価:4.07、評価数:13,071、レビュー数:241。
 
しかし『男達の別れ』は評価数:2,790、レビュー数:59と同位置にいる他の作品よりも桁がひとつ少ないです。それでも98位にいる背景には評価:4.33という値が関係していそうです。
 

評価の値だけを見るとチャート2位

『男達の別れ』より評価の値が高いアルバムはあるんでしょうか。全てを調べることは難しいので、本作品より上位のアルバムの評価の値を調べたところ1枚しか見当たりませんでした。チャート36位にいるMingusの63年作『The Black Saint and the Sinner Lady』 。評価の値は4.36です。
 
よって『男達の別れ』は評価の値のみでは2位です。つまり高評価をしているユーザーがとても多いということではないでしょうか。母数は少ないものの、彼らの評価が結果的に98位まで後押ししているのかもしれません。
 
それにしても1999年リリース作品で2位というのも凄い。1999年リリース作品のチャートはこちらボアダムスもいますね。

Top Albums of 1999 #1 - #10

1.Sigur Ros - Agatis byrjun

2.Fishmans - 98.12.28 男達の別れ

3.The Flaming Lips - The Soft Bulletin

4.Opeth - Still Life

5.Mos Def -Black on Both Sides

6.The Magnetic Fields - 69 Love Songs

7.Built to Spill - Keep It Like a Secret

8.Mr. Bungle - California

9.American Football - American Football

10.Boredoms - Vision Creation Newsun

 
レビューにはどんなことが書かれているのかを調べるため、ランダムに2つピックアップしてみました。稚拙な和訳ご容赦ください。
 
『Oh Smile!』のはじまりの瞬間よりも優れたフィーリングや安心感は存在しない!この曲は、イノセント且つ美しいやり方によって、反復的なバンド名とメンバー紹介のチャント、そして「ARE YOU FEEL GOOD?」といった点でさえも、ポジティブなオーラに包まれている。
 
そして、同曲の終盤数分間の制御不能なまでの渦巻きようといったら!バイオリン、キーボード、全メンバーの夢のような声を聴いている間、この音楽にも人生にもネガティブなことは考えられない。
 
このアルバムの個人的なお気に入りの曲である『ゆらめきIN THE AIR』よりも大きなカタルシスはこの世に存在しない。そして、最後にこの曲が何を表現しているかが分かったとき、とてつもない残酷さを感じるだろう。涙なしには聴けないほどに美しい。

 

このアルバムは、文字通り何の不満も見つけられない数少ないアルバムの一つ、つまり完璧なレコードだ。長い収録時間にもかかわらず、全ての演奏を楽しみ続けられる。そして『ロングシーズン』のパフォーマンスは最高に素晴らしい。シンジと各メンバーの演奏の背後には、とても大きなエモーションが存在する。
 
このアルバムの感傷的な側面・バックストーリーを掘り下げようとするつもりはないし、他のレビュワーが既に言及していること以上のことは言えないが、自分にとって非常に密度が高く、個人的なものに感じられた。
 
他のレビュワーが言いたいことを書いてくれてるし、こうまとめさせてもらう - このアルバムは、実際に生きていることを喜ばせてくれる記録(recording)だ。楽観的な気分に浸らせてくれて、未来に直面する決意をもたらしてくれる。可能なら10点満点中11点つけたい。
 
いつかもっと長いレビューを書くかもしれないけど、今のところ、この作品について自分の気持ちをかなりうまくまとめられた気がする。
 
Rest in peace 佐藤伸治HONZI...この名作に感謝します。

 

98.12.28 男達の別れ (98.12.28 Otokotachi no Wakare)

  

・・・といったレビューが約60個ほど載っています。引用したレビューの『Oh! Smile』の他に「『ひこうき』→『in the Flight』→『Walking in the Rhythm』のダビーなイントロの流れは神がかっている」といったレビューもあり、日本人と近しい感じで聴いているのかも、となんとなく感じました。

 

そして「感傷的にはなるまい」と音楽的なことを書きつつ、最後にはRIP感に包まれてしまうのも、良くも悪くも日本のレビューやSNSに近いなと思ってしまった。

 

なお、『RYM』にはフィッシュマンズの他の作品も登録されており、『LONG SEASON』もかなり高い評価を得ていて、全チャートでなんと現在186位。これも実は相当上位で、日本産の作品では『男達の別れ』の次が『LONG SEASON』です。

 

このことを教えてくれたベン君曰く「なぜかよくわからないけど、ここ1~2年で評価が高まっている」とのこと。ここからまた面白い展開が待っているかもしれないですね。
 
ちょうどこの↓記事を読んだばかりでもあり、そんな気分になってしまった。
 
"実は『FANTASMA』がMATADORから出る前に、『空中キャンプ』にも打診が来てたんです。なんでダメになったのか忘れたけど。"

www.cinra.net

 
 
良い声聞こえそうさ~
 
 

余談

この話をBen君から聞いた日に、彼とともに下北沢の風知空知にエマーソン北村さんとmmmさんのライブを観にいきました。当日も披露されていた、この『Rock Your Baby』のカバーの素晴らしさよ。

 

『Long Season』のレコーディングにも参加されているエマーソンさんによる、ダブのエグみとドリーム・ポップ的多幸感がうまくミックスされたこのアレンジに、フィッシュマンズの面影を感じずにはいられませんでした。

 

蛇足

数年前に『ナイトクルージング』をスチールギターとリズムボックスでカバーした音源です。よろしければ。手前味噌過ぎてかなり悩みましたがせっかくなので・・・


Author:beipana

ダウン・テンポ、バレアリック・トラックを制作するプロデューサー、DJ、スティール・ギタープレイヤー。オリジナル音源制作、ラップ・スチール・ギターとエレクトロニクスを組み合わせたライブ活動、国内外のミュージシャンのリミックスも手掛ける。2015年8月にデビュー7インチ『7th voyage』をJETSETよりリリース。同年11月にMy Little AirportのNicoleなどが参加したデビューアルバム『Lost in Pacific』を全国販売。