ざっつなオーバーロードIF展開   作:sognathus
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ニグンさんの命乞いをアインズ様が気まぐれで受け入れる話です。


命乞いの成功

「……」

 

必死の形相で己の部下を見捨てて自分だけは助けて欲しいという男を見てアインズはふと考えた。

 

(今までの経緯からこいつは所属する国の中ではそれなりの立場にいそうだな……)

 

転移した世界の情報を知る為になるべく多くを生かしたままナザリックへと運び、あらゆる手で情報を引き出すつもりだったアインズはニグンという男のこの世界においての価値について考える。

 

(今重要なのは『何を』するにしても全て慎重に慎重を重ねた行動をする事だ)

 

この場にいる人間を尋問の後に殺したとしてもアンデッド化やその他の用途に実験として使える有用性は確かにあった。

だがそれでも果たして本当にこいつらだけで足りるだろうか?

安易に使い潰して後悔はしないだろうか?

 

アインズはついさっき守る事になった村の人間や礼儀正しい戦士長なる男の事を思い出した。

 

(あいつらはダメだな。せっかく友好な関係を築けそうなのにそれを数がいるからという理由だけで使い潰すのは勿体ない。それにせっかくたっちさんへの恩に報いる為にした行動を無駄にするなんて絶対に嫌だ)

 

極力慎重に、そして極力初手で最大限の成果を。

ここに来て打算的な本来の性格に加えて用心の鬼になりつつあったアインズはアルベドに言った。

 

「アルベド、情報を得る為にこいつらを無力化して全員ナザリックへ持って帰る」

 

「畏まりましたアインズ様」

 

「おい貴様、忘れてしまった。名前は何だった?」

 

「へっ? は、はい! ニグンです! ニグン・グリッド・ルーインと申します!」

 

時間にして1分も経っていなかったが、それでも目の前の絶対者から言葉を掛けられなかった事が恐ろしくて溜まらなかったニグンは即答した。

 

 

「そうか、ルーイン」

 

「はい!」

 

「感謝しろ。貴様の望みは貴様自身の私への貢献の度合いによっては叶えられるぞ」

 

「は……はい! 寛大なるお慈悲に、心より……心より感謝申し上げますぅ……!」

 

例え僅かでもいい、自分が生き残れる可能性を得た事をニグンは素直に涙を流して喜んだ。

 

 

 

 

「ふむ、これで13人目か」

 

「はい。やはりどんな質問でも3つ答えると死にました」

 

「ふむ……」

 

カルデ村での騒動から程なく時が経った頃、アインズは連れ去ったスレイン法国の人間から情報を引き出す行動を早速試みた。

先ずは一般隊員と思しき男に対して、一人目はアインズ自ら行った。

因みにニグンの番は、彼の情報源としての有用性を考慮して当然最後とする事に決めていた。

結果、名前と出身国と年齢を訊いただけで突如その場に崩れ落ちて絶命するというもので終わった。

二人目は支配の呪言を使えるナザリック最高の頭脳の一人、守護者デミウルゴスが行ったが、これもやはり3つの簡単な質問をした直後に絶命し、判ったのは支配の呪言はしっかり効果を発揮していたという事くらいだった。

三人目からはもう拷問を含めたあらゆる手段を講じて試みる事を許可したが、やはり結果は同じだった。

苦しみから解放されたいが為に苦悶の声で答えた虚言と思しき言葉でもやはり3つ目の質問に答えた後に死んだ。

 

スレイン法国なる国家の力ある者によって何らかの仕掛けが施されているのは間違いなかった。

そこでアインズはもしかしたら死んだ後に蘇生させたらその効果は消えているかもと思い至り……。

 

「アインズ様成功です! 蘇生させた者に対してはあの効果は解除されているようです!」

 

「そうか」

 

主人の発想とその成功を心から喜び、背中の羽を動かしてそこでも感情表現をしているアルベドにアインズは満足げ気に頷いた。

 

「準備はできたな。ルーインを一度殺すぞ」

 

探求を重ねた結果に得た確信とはいえ、それを素直に喜ぶ発言にしてはあまりにも物騒であり、同時にニグンに対しては余りにも非情だった。

 

 

「ルーイン、話は聞いているな? お前に掛けられていた制約は解除した。さぁ、全てだ。先ずお前から知っている知識を全て話せ。その後に私の質問に全て答えろ」

 

「は、はい!」

 

昏睡状態にされていたニグンは無情にもその状態で一度魔法で即死させられた。

そしてその直後に蘇生させられたのだが、ゲームでいうところのレベルダウンにあたる効果として身体能力が著しく落ちており、先ずそれをまともな状態になるまでにしっかり回復させられた。

だがそこからが地獄だった。

身体能力が回復し、ようやくまともな状態に戻れたと思いきや、今度はナザリックを決して裏切らないようにとデミウルゴスが考案したある『洗礼』を受けたのだ。

結果、ニグンは今度は精神がやられてしまい、まともな精神状態に戻るのに更に5日かかった。

因みにこの時点で、この世界で死ぬとこうやって弱くなるという現象を情報としてアインズは得る事が出来た為、彼はニグンという情報源の(本人の意思とは無関係の)献身に気分を良くするのだった。

 

そしてそれらの経過を経てやっと全快したニグンは今、アインズの(始終従順なら何もされない)尋問に答える為に、座ってるだけで疲れが癒される豪奢な椅子、傍らの小さなテーブルには今まで飲んだ事がないくらい美味しく冷たい飲み物が配されるという捕虜としては本来あり得ない破格の待遇を受けた。

しかし此処に来てニグンもある程度は冷静さ取り戻していた。

目の前は疲れを知らない不死の王(オーバーロード)、そしてこの待遇。

ニグンはこれから途方も無い時間アインズに付き合わせれるであろうことを予想した。

きっと長時間の拘束によって眠気に襲われても魔法か何かで即座に回復させられるであろう。

ニグンはこれから訪れるある意味苦行とも言える時間に、決して目の前の男の機嫌を損なわせず、かつ誠心誠意答えようと心に決めた。

そして……。

 

 

「アインズ様、如何でしたか?」

 

述べ一週間という長きに渡りニグンを拘束し、玉座の間で彼と語りに語り尽くしたアインズは満足げに言った。

 

「素晴らしい。本当に素晴らしい。アレは本当に素晴らしい情報、いや、知識と言うべきか? それを私にもたらしてれた」

 

「それは何よりです。アインズ様の会話を聞いているだけの私でもそれは実感するところでした」

 

「そうだろう? しかしこの世界、存外ユグドラシルと縁が深い世界のようだな」

 

「は!、誠に然り。そしてあのルーインという男が所属していたスレイン法国という国家、ワールドアイテムを所有している可能性が有る事が判った事も大変な収穫でしたね」

 

アルベドよりやや離れた位置に佇んでいたデミウルゴスも得た情報の中で何よりもアインズが成果だと思っていそうなものを選定して言った。

 

「そうだな。聞いたところ精神を支配する類のようだ。これは知らないのは危なかった。もし使用される様な事があれば、それを解除する手段は一度殺した後に復活させるくらいだろう」

 

アインズは自らその手段を実行したかもしれない可能性を想像して身震いした。

 

(大事な仲間が残した俺の大切な子供のようなこいつらにそんな事絶対にしたくない)

 

「アインズ様には敵わないのは当然だと思いますが、絶死絶命とかいう女は先ず最警戒すべき人間の一人でしょうね」

 

「そうだな。身体的強さはプレイヤーレベルMAX相応だとして、それより持っている能力が気になるところだ」

 

「それで、あのルーインという男どう致します?」

 

「ん?」

 

アルベドの話に相槌を打っていたところにデミウルゴスが処理すべき案件といった様子で訊いた。

アインズはルーインの処分について訊かれたのだと気付いた。

正直情報源としての役割は果たしたので、用みと言えば用済みだ。

殺してもいいし、デミウルゴスが欲すれば何の用途に使うかは知らないが与えても良いと思えた。

が、しかしである。

 

「あの男はそれなりにナザリックに貢献してくれた。尋問の為とはいえ洗礼も受けたのなら裏切る事もあるまい。無碍に扱うのは可哀そうというものだ」

 

「お優しいのですね。くふふ、流石私の旦那様です♪」

 

(誰が旦那だ誰が)

 

妄言と思いたいが恐らく本心なのだろう。

さり気に正妻アピールをするアルベドに一瞥だけくれて軽く咳払いをして場を取り繕うとアインズは言った。

 

「ニグンはあれでも外の世界ではそれなりの強さのようだ。ならそれをナザリックの力で更に強化させてみたい。どこまでこの世界の人間が強くなるかの実験だ」

 

「は! そうなればあのルーインなる男もよりアインズ様に深く感謝をし、ナザリックに絶対の忠誠を改めて誓う事でしょう!」

 

「うむ、頭自体はそれなりに回るよだから外の世界で動かす手駒としても使えるだろう。顔は変える必要があるかもしれんが……異論は無いな? アルベド」

 

「元よりアインズ様の意見に意を唱える気などありません」

 

「そうか」

 

アルベドの天使の笑みと共に受けた言葉に更に機嫌を良くしたアインズは意気揚々と二人を伴って今後の方針について更に詰める為に執務室へと向かって行った。

 

「ああ、そういえば。申し訳ございませんアインズ様、もう一つ確認させて頂きたい事が」

 

「なんだ?」

 

「まだ残っているルーインが連れていた部下の人間共は如何致しますか?」

 

「ああ」

 

アインズはすっかりそれらの存在を忘れていた。

だが、意外に結論はすんなり出た。

 

「それは要らん、好きにしろ。ルーインより価値がある情報を持ってなさそうという時点で無価値だ。だがまぁ、処分する過程である程度は念の為調べておけ」

 

「畏まりました」

 

あっさりとそう言い捨てるアインズの非情な言葉にデミウルゴスは悪魔らしい凄惨な笑みを浮かべた。




傾城傾国の効果がシャルティアを復活させた事で解除されていたので、例の3つ質問したら死ぬと言う仕掛けもこれなら解除できるだろうと言う独自の考察を適用しました。
そしてニグンさん生存おめでとう!

追記、原作でニグンを蘇生した場合ホームポイントに戻る可能性について示唆されていましたが、現状それが正解である描写は確認されない為その場で成功した事にしました。
青の薔薇のメンバーの蘇生の場合、遺体を保管していたのでその場での復活するのが正解のようにも思えますが、法国の人物に関しては、蘇生されたらホームポイントに戻る別に術を掛けられている可能性もあると思います。
が、原作でクレマンティーヌの遺体が消えている事を考えると……筆者としてはやはりその場での復活が有力かなと思います。







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