ざっつなオーバーロードIF展開 作:sognathus
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ヘッケランがもう少し慎重に行動を選んでいたら……というものです。
司会らしきダークエルフの少年(?)の紹介によって現れたのは骸骨。
一見では武具を装備したスケルトンという印象だが、自分達が闘う相手として出てきたわけだし、何よりあのダークエルフが支配者とか言っていた気がしたので、ヘッケランは出てきたアレをただのスケルトンだと思う事は瞬時にやめた。
「ヘッケラン……」
イミ―ナの警戒と不安が混じる声がヘッケランにかかる。
背後に感じるロバーディク、アルシェから感じる雰囲気もそれに似たものだとヘッケランには解った。
直感的にこの状況は非常に不味い、というだけで済めばまだ良い方だと彼は感じた。
(さて、この状況どうするか……)
ヘッケランは深呼吸して自分を出来る限り落ち着かせると、頭に浮かんだ行動を一つ一つ慎重に選んで取る事にした。
(先ず嘘はダメだ)
実は自らを落ち着かせる前に真っ先に一つ案が浮かんでいたのだが、ヘッケランはそれを既に破棄していた。
落ち着いた頭で改めて考えるといくらなんでも無策に過ぎた。
直感で自分より遥かに強いと感じた相手を虚言で切り抜けようなどあまりにも危険だ。
力で敵わないからそこ弁で逃れると言うのも手と言えば手だが、そうした結果相手に嘘を見抜かれ勘気を被ったりしたらそれこそ一貫の終わりだ。
だからこそ先ずは全身全霊で自分の誠意と謝意を示さなければならない。
ヘッケランはそれを行動に移していった。
「ん?」
アインズは自分の前に進み出てきた男が取った行動を見て首を傾げた。
「イミ―ナ俺の装備を全部預かってくれ」
「え?!」
リーダーの予想だにしない言葉にイミ―ナ以外のメンバーも驚き表情をする。
「ちょっと、あなた何を?!」
「いいから。頼む……」
イミ―ナの剣幕もどこ吹く風、ヘッケランはただ黙って手早く脱いだ装備を半ば強引に彼女に押し付ける形で預けると、アインズをから視線を逸らさずに姿勢を正して言った。
「ア……アインズ・ウール・ゴウン……? 殿。ゴウン殿とお呼びさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
罠に誘い込まれた哀れな実験体が意外にも初手から礼儀正しく下手に出た発言をしてきたので、アインズも彼の態度に合わせて鷹揚に頷いてみせた。
一方、崇拝する主人の活躍が見られると期待していたアウラと、その様子を闘技場の観客席から見ていたナザリックの他の面々も怪訝な顔をしていた。
「あの……先ずは、金銭目的という卑しい目的で貴方の領土を汚した事を、此処にいない他の仲間を含めてその代表として謝罪します。本当に……心から……申し訳なく思います」
「うむ。それで?」
取り付く島もないという感じだが少なくとも気分を害してはいないようだ。
(ここまではまだ大丈夫。大丈夫)
ヘッケランは再び息を深く吸うと口を開いた。
「あ、えっと……これは……俺の、私の予想ですが……。私達は貴方に絶対に勝てないと……直感で感じます。……正直直ぐに殺されますよね?」
「そうだな。お前達が出来る事はただ無駄に足掻く事だけだろう」
「「「!」」」
ヘッケランの問い掛けに当たり前だといった様子で即答したアインズの言葉に後ろの三人がそれぞれの感情で息を飲む気配をヘッケランは感じた。
特に気が強いイミ―ナに関しては驚きと共に強い憤りも感じているであろう事は彼には予想は余裕だったので、後ろでに片手を突きだして制した。
「……ですよね。それが解った上で、恐れながら、身の程を弁えていない事は承知の上で申し上げたいのですが……」
「なんだ?」
「絶対に勝てないなら、せめて……他の仲間の安否は判らないので、せめて私の命一つで後ろの三人だけはどうか……」
「へ……!」
ついに我慢できなくなって歩み寄ろうとしたイミ―ナを、機転を利かせたロバーディクが素早く動いて彼女の口を塞ぎ、次いで腕で抑え込んだ。
不意の拘束にイミ―ナは一瞬驚くも、直ぐに抵抗して逃れようとしたが、ヘッケランの命を懸けた行動の意を汲んだロバーディクとアルシェの自分を諌めようとする目を見て何とかすんでの所思いとどまる。
アインズはそれを興味なさそうに一瞥だけくれると、再びヘッケランに視線を戻して短く言葉を返した。
「つまりあいつらの助命を乞いたいのか?」
「そうです。が、大変な失礼を働いた私達がリーダーの私の命一つで赦して貰えるとは……難しいと実は思っています。ですので、そこに、正常な状態を保ったままという条件の下、後ろの三人を貴方の役に立たせるという案はどうでしょう……?」
「……ふむ」
アインズはヘッケランの提案に思案するように口元に手を当てた。
正直最初から全員殺すつもりだったが、それでも殊勝な態度を見せれば苦痛は与えずに……一人は記憶を弄る実験をしてみたかったが、まぁそういう慈悲を見せても良いかなくらいには思っていた。
が、最初にナザリックに踏み込む目的が金銭だと答えておきながら、ここに来てそれが卑しい事だと認めた上で仲間の為に自分を犠牲にするのも一切厭わんとするする姿勢を見せたこの男の態度には僅かながらに感心もした。
(さてどうするか……)
アインズは考えた。
勿論ここまで踏み込ませた時点で生還させるなど論外だ。
だが彼が言うように外の世界のパイプとして役立たせるとするなら……冒険者組合に所属していないワーカーという立場はそれなりに有益に思えた。
何より現時点で生き残っているワーカーはこの4人だけのようだし、管理する側としても人数が少ないのは助かる。
(記憶を弄る実験は、他に捕まえた生き残りでもいいか)
「ふむ」
正直少々拍子抜けで幾分残念な気持ちもあったが、アインズは決定した。
「一つ訊く」
「は、はい。なんなりと」
「お前がこのパーティーのリーダーなんだな?」
「そうです」
「と言う事は、お前が居た方がパーティーとして最も効率良く機能するという事だな?」
「……はい」
「謙遜はするな。事実ならそれを認めてはっきり答えろ」
「はい」
「よし」
「……」
予想外にも好転しそうな展開にヘッケランは体に走っていた緊張が自然と解けようとするのを感じた。
だが何とか気を入れ直して握った拳に力を込めて自らを奮い立たせる。
(まだだ。まだ気を抜くのは早い)
「裏切ったらこの世にこれ以上はないという苦痛を与えた後に殺す」
「はい」
「こちらの指示に対して下手を打っても……まぁ苦しむかは内容にもよるが、覚悟することになる」
「はい」
「こちらに付く以上、背信行為は絶対に隠せないと知れ。無駄だ。どんなに用心しても必ず露見する」
「分かりました」
「よし、ではお前達の命を助ける事をアインズ・ウール・ゴウンの名に誓って約束しよう……が」
(ほい来た)
最後まで気を抜かなくて正解だった。
こういった暗部の組織に属する以上必ず何か通過儀礼的なものを求められるのは常だった。
問題はそれがどのような内容なのかだが……。
「流石に理解しているような目をしているな。そうだ、洗礼だ。お前達には私の配下となる前に先ず洗礼を受けて貰う。勿論断るという選択などあり得ない。良いな?」
「勿論です」
それから程なくしてヘッケランはそうやって即答した事を文字通り死ぬほど後悔する事になった。
その道連れとなった他の三人も最初はあまりの内容にアインズに降る選択をした彼を激しく恨んだのだが、やがてそんな余裕も瞬時に失せ、いつ終わるとも知れない凄まじい苦痛にただ泣き叫ぶのだった。
はい、晴れてナザリックに忠実なフォーサイトができました。
きっと4人とも生き残れた幸運に感謝しつつも固形物を摂れない身体になっている事でしょう。