【保存版・食品EC戦国時代】60兆円の食品市場にeコマースが次々参戦、鍵は“食品物流テック”

食品(生鮮)EC戦国時代

Business Insider Japan調べ。情報は2018年8月時点のもの(クリックすると拡大します)。

チャートデザイン:枝常暢子

日本の食品市場は60兆円、しかしオンライン化率は、わずか2%—— 広大な「食品EC」の市場をめぐり、各社が続々と参入を果たしている。超えなければならない大きなハードルは、物流だ。参入相次ぐ、食品EC業界の今を見てみよう。

食品のEC化率2%、成功の鍵は物流にあり

コープ

元祖宅配系の生協は、食品通販で大規模な市場を築いている。

写真:西山里緒

食品ECの主なプレイヤーはこれまでスーパーやコンビニ、インターネット普及以前から生鮮宅配を行なっていた事業者が主だった。しかしここ1〜2年の間、大手ITプラットフォームと小売りが連携してサービスを展開する動きが顕著だ。

2018年7月、レシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」を運営するdelyがヤフーの子会社になることを発表した。dely社長の堀江裕介氏は、親会社のヤフーの基盤を活用して、食品ECに参入する意向をBusiness Insider Japanに明らかにした。

関連記事:孫正義に想い伝えた26歳、dely創業者の誓い —— ヤフー子会社化は「武器だ」

この他、クックパッドも7月に食品ECに参入する方針を発表するなど、食品EC市場には、従来のスーパーやコンビニに加え、料理レシピサイトや大手プラットフォームの参入が相次ぐ。

一方で、日本の食品系のEC化率は約2%と低い(※)。これまで大手IT企業が生鮮食品のEC化に踏み切れなかった理由として、物流の困難さが挙げられる。

あるアナリストは生鮮ECを配送する際の問題点として、まず単価が低い商品が多いこと、商品がかさばり不揃いなものが多く、保管・配送がしづらいことを指摘する。

いちよし経済研究所の主席研究員の納博司氏によると、そもそも日用品のECは近隣店舗との競争が激しい上に、商品での差別化が難しいため価格競争が厳しくなりがちだ。さらに生鮮食品は、商品の温度管理や配送の迅速さも要求され、配送のコストがかさむ。

※ 2017年度の経済産業省の電子商取引に関する市場調査によると、「食品、飲料、酒類」のEC化率は2.41%で、「物販系分野のBtoC-EC市場」の中で、EC化率がもっとも低い(「その他」の分類は除く)。「食品、飲料、酒類」全体の市場規模は、2017年で60兆円以上と見込まれている。

【楽天・アマゾン】「物流拠点」の充実化に注力

アマゾン

Amazonフレッシュは、東京、神奈川、千葉の一部エリアが配送対象。

REUTERS/Pascal Rossignol

そんな状況の中で、自社の物流拠点を持つ強みを活かして生鮮ECを実現するのは、アマゾンだ。

「Amazonフレッシュ」を2017年に開始し、個人規模の契約農家から大手企業まで、多様な仕入れ先から商品を調達することによって実現した、17万点以上(日用品含む)という豊富な商品数で他社を圧倒する。

アマゾンは、国内の物流拠点「アマゾン川崎FC(フルフィルメントセンター)」から、Amazonフレッシュ商品の配送を行っている。この配送システムが「注文から最短で4時間、配送枠は2時間単位」という細かい時間設定を可能にする。

ネットスーパー

楽天は、西友と提携。2018年8月に「楽天西友ネットスーパー」として、サービスを開始した。

写真:木許はるみ

楽天もそのあとを追う。ウォルマート傘下の西友と提携し、2018年8月に楽天西友ネットスーパーを開始。同年秋からは柏に置かれたネットスーパー専用の物流センターを本格的に稼働させてサービスをグランドオープンする予定で、さらに力を入れていく構えだ。

実は、楽天は自社物流に関しては苦い過去がある。前出の納氏によると、楽天は2007年から元トヨタ自動車の武田和徳氏を取締役に迎え、物流に力を注いできた。2010年3月には「楽天物流株式会社」を立ち上げたが、2014年に同社は債務超過のため楽天本体に吸収・合併されている。

今回新たに立ち上げた楽天西友ネットスーパーでは、西友の店舗からの配送と自社センターとの併用で、再び物流問題に取り組む。

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【セブン&アイ】「自宅まで」の個別配送に工夫

ロハコ

ヤフー傘下のアスクルとセブン&アイ・ホールディングスが運営する、IY FRESH。都内の一部エリアで展開する。

写真:木許はるみ

店舗や在庫の拠点から、自宅までの個別配送で特色があるのが、セブン&アイ・ホールディングス(セブン)や大手スーパーだ。

セブンは、ヤフーの連結子会社でネット通販大手アスクルと、2017年から生鮮ECの「IY FRESH」を運営している。アスクルが運営する通販のLOHACO(ロハコ)の中でIY FRESHを提供し、ヤフーIDとも連携している。

アスクルの物流ノウハウを活用することにより、ユーザーは配送時間を1時間単位で指定できる。配送時間を小刻みに指定することで、鮮度の良い状態で商品を届けられる。さらに「一般的に約15%といわれる不在率が2%にとどまる」(アスクル広報)配送の効率化を実現している。

大手スーパーの中には店頭在庫をネットで販売し、近隣エリアに配送するモデルに加え、シェアリングエコノミーの力を借りる動きも出てきている。東急ストアやライフなどは、買い物代行サービスのhonestbee(オネストビー)と連携し、CtoCで配送の問題を解決する試みを一部で行っている。

【ローソン・クックパッド】店舗受取型でコストを抑える

ローソン

当日の午前8時までの予約で、午後6時以降、店舗で受け取ることができる。送料は無料。東京都と神奈川県の一部エリアの店舗が対象。

写真:木許はるみ

店舗受取型で配送コストを抑えるのが、ローソンやクックパッドだ。いずれも送料がかからないため、ユーザー側もまとめ買いをする必要がないというメリットがある。

2018年3月に始まった「ローソンフレッシュピック」は、アプリで午前8時までに商品を予約すると、当日の午後6時以降、指定のローソンで購入ができる。扱う商品は、傘下の成城石井などのものだ。

ローソンは2014年、ネット宅配サービス「ローソンフレッシュ」を始めたが、2018年8月31日にサービスを終了する予定。各社の報道によると、物流費の高騰や利用者の伸び悩みが背景にあり、経営資源をローソンフレッシュピックに集中させる判断をした。

ローソンフレッシュピックは、店頭受取型にすることで「既存のコンビニの店舗網と物流網を活用」(同社プレスリリース)することができ、新たな物流網を構築するなどのコストを回避している。

MartStation

クックパッドマートの受取場所の専用ラック(右)と設置のイメージ(左)。2018年9月に都内の一部エリアからサービスを始める。

出典:クックパッド

一方、「クックパッドマート」(2018年9月にサービス開始予定)は、 各地の協力店舗に専用ラックを備え付け、商品を配達する。商品は各地の販売店や生産者から順次集荷して仕入れる。

ユーザーは、アプリで注文した商品を自宅の近隣の協力店舗で受け取る。クックパッドは自社で在庫の倉庫を持たず、物流の最終拠点から自宅までのラストワンマイルを顧客が担うことで、配送コストを下げる。

【オイシックスなど】スタートアップは独自性が売り

oisix

オイシックス・ラ・大地は、定期宅配サービスのOisixを中心にECサービスを展開する。他のサービスはカタログによる販売が主だが、ECにも対応している。

出典:Oisix

商品数の多い大手小売りに対し、スタートアップは、こだわりの食材に絞るなど独自の市場で存在感を示す。

従来から宅配事業に注力してきた「オイシックス・ラ・大地」は、生産者とのネットワークを持ち、独自の安全基準を満たした商品を仕入れる点が特徴だ。定期購入型(サブスクリプション)の宅配サービスや、有機農作物の宅配(カタログ中心)などを扱う。実店舗も構え、消費者と食材の接点を増やす取り組みも行っている。

このほか、九州の野菜を最短1時間で届けるのは、VEGERY(ベジリー)。農家や漁師から食材を買える産直アプリのポケットマルシェは、メルカリから出資を受けている。

豊富な顧客データこそが食品EC参入の目的

EC

次々とプレイヤーが誕生する食品EC業界。各社の真の狙いは。

写真:木許はるみ

海外では、アマゾンが2017年にホールフーズ・マーケットを買収。ロイター通信によると、買収額は総額137億ドル(約1兆5200億円)にものぼった。

そのホールフーズが出資している食品配達アプリInstacart(インスタカート)は、2012年の設立から6年で企業価値が約44億ドル(約4900億円)になったと報じられた。中国では、アリババが食品スーパーの盒馬鮮生を傘下に持ち、飛躍ぶりが話題になっている。

日本でも食品ECには低い利益率や物流の困難さが伴うものの、各社の参入が相次いでいる。その理由は、消費者の食生活を押さえることによって得られる豊富な顧客データだ。

納氏はアマゾンの収益構造がECだけではなく、クラウド事業(AWS)、サブスクリプションサービス(Amazon Prime)、広告など多岐に渡っていることを挙げ、「アマゾンであれば、日本におけるECや小売のセグメント利益を戦略的に赤字にして、他で補うという選択肢は普通にとれてしまう。ECで勝負しようとか、小売りで勝負しようとかいう戦いではなくなってきている」と語る。

推定60兆円以上と言われる巨大な食品市場だが、その規模以上の価値を秘めたビックデータを狙って、各社がしのぎを削っている。

(文・西山里緒、木許はるみ、チャート・枝常暢子)

編集部より:初出時に掲載しておりましたセンター内を自律移動して商品を運搬するロボット「Amazon Robotics」についてですが、Amazonフレッシュ専用FC内ではAmazon Roboticsは稼働しておりませんでした。誤解を招く表記でしたので訂正致します。 2018年8月30日 10:30

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