神戸製鋼は子会社「神鋼不動産」の株式計75%を約740億円で、リース大手東京センチュリーと日本土地建物に売却すると発表しました。持ち株比率は東京センチュリーが発行済み株式の70%、日本土地建物5%、残り25%を引き続き神戸製鋼が所有し、神鋼不動産を持ち分法適用会社にします。売却予定日は7月1日。
神戸製鋼は今回の売却で約300億円の特別利益を計上し、データ改ざん問題対応などのため財務基盤の強化をはかります。1次入札には外資系投資ファンドなどの参加がありましたが、東京センチュリーと日本土地建物が最も良い相手方だとの判断だったのでしょう。
主に阪神間から神戸で事業展開する神鋼不動産の決算は、売上高は大きくないものの売上高営業利益率が高いです。オフィスビル開発や賃貸運営がメインの不動産業の場合、イニシャルコストは大でもランニングコストが小さいので、売上高営業利益率は他の業種よりかなり高くなります。
東京の分譲マンション計画で20億5100万円の特別損失を計上した2016年3月期を除いて、当期純利益はほぼ毎期25億円ほどと地味ながら安定した業績で、親会社神戸製鋼の収益下支えに貢献していました。
今回の神鋼不動産の売却価格は、発行済み株式の75%で約740億円なので、全体の企業価値はざっくり1,000億円という評価のようです。
一昨年、MRJ遅延問題を抱える三菱重工も財務基盤強化のため、不動産子会社「菱重プロパティーズ」の発行済み株式の70%をJR西日本に970億円で売却しました。製造業大手の不動産事業子会社は施設管理やオフィス開発・賃貸などを主たる業務とし、収益は安定していて大幅なダウンサイドリスクも少なく売り手市場です。
神鋼不動産の平成29年3月期の貸借対照表では、純資産が約500億円、保有する賃貸等不動産(オフィス、商業施設及び寮・社宅含む住居)の簿価は約861億円です。注記によると、賃貸等不動産の時価評価額は約974億円と113億円の含み益があることになっています。
◆悩ましい「ル・サンク小石川後楽園」建築確認取消問題
神鋼不動産は、道路舗装最大手「NIPPO」との共同分譲マンション事業について、今後どう収拾を図るのか難しい判断を求められる問題を抱えています。東京都文京区小石川2丁目所在の「ル・サンク小石川後楽園」(地上8階・地下2階・総戸数107戸)という大型マンションの問題です。
平成15年に45億円でNIPPOとマンション用地として取得後、10年以上も近隣住民との紛争が続いているなか、平成26年3月に建築確認(変更後)をとり直し、住民からの審査請求手続中である同年7月販売開始しました。翌27年4月全戸完売に至ったものの、竣工直前(12月末予定)の平成27年11月に都建築審査会から建築確認を取消す裁決を受けてしまいました。マンション完成目前というタイミングでの建築確認取消は、正に異例のことで事業主2社は大ダメージを受け、マンションは外構工事を残すだけの状態で2年半経過している状況です。
建築確認取消理由は「避難設備の不備」というもので、建築確認を受け直すには、今度は平成26年3月施行の文京区の建物高さ22m以下という規制に引っかかります。現在の建物は高さ27mあり、2階分相当の減築というのは現実的ではないように思えます。NIPPOと神鋼不動産が、リスクをとって審査請求手続中に販売開始したのは、この絶対高さを制限する規制発効前に販売したかったのかもしれません(建替え特例があるようです)。
都建築審査会の建築確認取消裁決を受けて、NIPPOと神鋼不動産は売買代金の2割相当となる総額22億円の解決金を買主に支払い、売買契約は解除されました。用地取得費や建物建築費などで、80~90億円あるいはそれ以上という巨大プロジェクトとしてほぼ完成したマンションは、「既存不適格物件」となってしまっています。
NIPPOと神鋼不動産は当該裁決の取消を求め、平成28年5月東京地裁に裁決取消訴訟を提起し、現在審理中です。
事業主2社は、裁決を取り消す判決を得て工事を再開したい考え、との記事もありましたがどうでしょうか。建物取り壊しなどはあまりにも社会的損失が大きいですが、居住者の安全も大事です。膨大な投下資金回収にメドがたつようになるのかどうか、まもなく出る判決が注目されます。
共同事業とはいえこの分譲計画は、「ル・サンク」というマンションブランド名がついているとおり、NIPPOが過半の出資をし、その主導のもとで進められていた事業のはずです。東京支社経由での情報しかない神鋼不動産にとっては非常に悔やまれる事案ではないかと思います。
関西ローカルの企業にとって、土地勘のない東京での不動産開発事業に安易に関わるのは禁物です。東京では都庁をはじめとする行政を最大限意識しながら、業務を進めなければならないという点で関西とは決定的に違うのですから。