かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第二十六話 長い物には巻かれろ

「どうやら、お互いMPが尽きたようですね。アインズ様、いえ、私の愛するモモンガ様」とアルベドは静かに笑う。バルディッシュ)を構える。アルベドの姿は、魂を収穫する大鎌を持つ死神のようであり、また、大地に豊穣をもたらす女神のようであった。

 

「ここから先は、肉弾戦ということですか」とタブラ・スマラグディナは荒い呼吸で、自分を守るかのように立っているアインズに言った。アルベドの攻撃から逃げ惑うことだけで精一杯だ。そして、タブラ・スマラグディナの体は人間である。動けば心臓の鼓動は早まるし、肉体的な疲労も蓄積していく。さらに、血液を代償とする魔法も幾度か使った。体中を巡っている血液が減少し、体が寒くだるい。それに、命の晒され脳内ではアドレナリンが大量に分泌されているはずであるのに、どうにも眠気もある。これ以上、全力で体を動かしている状態で血液を失うのは命にかかわる。貧血で動けなくなってしまう。

 

 肩で息をしているタブラ・スマラグディナに対し、モモンガには外観上の変化はない。呼吸をしない生命活動が停止したアンデッドであるからだ。アンデッドに疲労という概念はない。だが、MPの枯渇は存在する。

 MPはもう残っていない。MPの自然回復を待つしかない。

 

「シャルティアを倒した、武器を今はモモンガ様は持っていません」とアルベドは勝ち誇ったように言う。それをモモンガは黙殺する。

 

 アルベドの言葉通りであった。シャルティアを倒し、使った武器は、また大切にナザリックの奥底に眠っている。

 

「私は、ポーションをたっぷりと持っています」とアルベドは無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)からポーションを取り出し、それを飲む。

 

 モモンガはアンデッドであるがゆえに、ポーションによる回復ができない。近接戦闘では、アルベドが有利である。さらに、アルベドはポーションでの回復という手段を持っている。

 

「私もポーションを飲めば、失った血液を補充できるのですかね。検証をしたいところです」

 

「すみません、タブラさん。今、ポーションの手持ちがないんです」

 

「血液を補充できれば、実質MPを使いたい放題かと思ったんですがね。まぁ、仕方がありませんね」

 

 もともと、ポーションをモモンガは使用できない。多少はポーションを持っていたが、以前、冒険者モモンとして安易にポーションを渡してしまったという失敗をしてしまった。その失敗を踏まえ、自分が持っていたポーションはすべて、ンフィーレア・バレアレに研究として提供してしまっていた。

 

「勝ち目がないとご理解されていながら、だま戦いますか? モモンガ様、どうか世界級アイテムの装備をはずしてください。そして、私だけのものになってください」

 

「断る!!」

 

「私の愛するモモンガ様なら、そうおっしゃると思っておりました。ですが、モモンガ様、結果は見えています。モモンガ様がお望みとあらば、タブラ・スマラグディナ様も生かしておくことをお約束いたします」

 

 アルベドは慈悲の女神のように優しく微笑む。

 

「笑わせるなよアルベド? お前は、私が死んで復活できない可能性を想定しているだろ? それに、私のHPは減ってきているぞ? 次、お前の攻撃を受けたら死ぬかもしれないぞ? それでも攻撃ができるか? 真なる無(ギンヌンガガプ)を使わないのは、ダメージ量が多すぎて誤って殺してしまうかもしれないからだ。違うか?」

 

「さぁ、どうでしょう。私は愛する男との、命が燃え上がるほどの舞踏を楽しんでいるだけですの。愛する人と踊る時間は、一秒でも長いほうがいいでしょう? あぁ! そうですわ。私もリング・オブ・サステナンスを装備して、モモンガ様と永遠に踊ってみたいです。覚めることも、終わることもない永遠の舞踏。ハネムーンで世界中を回りましょう。世界中から祝福を受け、そしてナザリックに帰ったら私たちの愛の結晶を作りましょうモモンガ様!」

 

「それもお断りだ」

 

「大丈夫です。私がモモンガ様の世界級アイテムを奪った後は、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)に抵抗する手段はない。きっとモモンガ様も嬉々として私と踊り愛し合ってくださいますわ。この愛が成就すると、私は確信しておりますの。モモンガ様、愛する男を傷つけて喜ぶ女がどこにおりましょう。早く、無駄な抵抗をやめて、私だけのものになってください」

 

「くくくっ。無駄な抵抗?」とモモンガが笑う。

 

「私たちがこれだけ粘っていることが無駄な抵抗? アルベド、あなたもまだまだですね。教えてあげますよ。かつてプレイヤー総勢1500人がナザリック地下大墳墓の第8階層まで攻め込んだことがありました」

 

「もちろん、存じております」とタブラ・スマラグディナの言葉にアルベドが答える。

 

「あなたは分かっていませんよ。あれは私たちが『攻め込まれた』のではなく私たちが『誘い込んだ』のですよ。アインズ・ウール・ゴウンに敗北はありませんからね」

 

「あら? タブラ・スマラグディナ様。今度はHPとMPの自然回復を狙っての時間稼ぎでしょうか? 私を見捨てるだけあって、姑息な手段を使おうとされるのですね」

 

「相変わらず私の扱いが酷いですね。ですが、アルベド、あなたは分かっていませんよ。ねぇ、モモンガさん」

 

「アルベドは、分かってないというより、知らないのです。経験というものが少ないですからね。それに、アルベドは警戒に値する存在と遭遇したこともないんですよ」

 

「そうでしたか。それにしても、 山河社稷図を奪った時のことを思い出しますねぇ」

 

「まったくです、タブラさん」

 

「な? 何を言っているのですか? 今度はお二人でブラフですか? それとも、時間稼ぎですか?」

 

「時間稼ぎ? そうだな。時間稼ぎだ。アルベド、プレイヤー同士の戦闘において、時間稼ぎを相手がする時とは、どんな時か分かるか? お前は、MPを先に消費させるなんて作戦を実行するべきではなかった。お前が選べる手段は、短期決戦だけだったと知れ」







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