かごの大錬金術師 作:Menschsein
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先に動いたのは、アルベドであった。
「ウォールズ・オブ・ジェリコ」
アルベドは、冷酷に、迅速に自らのスキルを発動させる。アルベドは知っている。自らの強みを。それは彼女の守りの能力の高さである。自分を捨てたタブラ・スマラグディナによって与えられた能力。だが、それをアルベドは感謝する。
全ては、モモンガを手に入れるために。自分だけを愛する者とするために。
そして、時間もアルベドに味方してくれている。タブラ・スマラグディナは、新月が終わればカシュバという脆弱な生き物へと戻る。至高の御方々2人を相手にする。自分の知らない、予想もしないような戦法をとってくる可能性がある。モモンガ様がシャルティアに勝利したのが良い教訓となった。自分には下賜されていない、「課金アイテム」なる自分の知らないアイテムの存在も把握している。
最大限の警戒が必要である。自分はずっと、そのチャンスをうかがってきた。やっとそのチャンスが廻ってきたのだ。自分は、獣とは違う。冷酷にして残忍、狡猾にして非道なのだ。愛するモモンガ様を手に入れるためであれば、どんなことでもしてみせる。モモンガ様の愛があればすべては満たされる。
時間が味方してくれる。まずは、タブラ・スマラグディナがカシュバに戻ること。
そしてもう一つが、長期戦という戦い方。モモンガ様と、MPが尽きるまで戦う。物理防御能力は自分の方が上。物理攻撃力も自分の方が上。たとえモモンガ様の超位魔法でも、自分を倒しきることは不可能。それは、シャルティアとの戦いにおいてモモンガが近接戦闘で決着を付けようとしたことが証明している。
未知なる課金アイテム。それは脅威だ。だが、その対策は打った。なぜなら、自分の愛している男のことは自分が一番よく知っているからだ。モモンガ様の知謀は恐ろしい。自分には想像もできないような綿密でもっとも効果的な戦略、作戦を立案され実行される。
モモンガ様は帝国を、ドワーフを、自分やデミウルゴスが驚くほどのスピードで従属させた。しかしそれは、モモンガ様の長期的視野に立つ視点と、まるで未来を見通しているかの如き知恵に由来する。従属させた時間を驚くのは愚かなことだ。モモンガ様の策略はずっと昔から始まっていたのだ。
モモンガ様の恐るべき点はその知謀。綿密な下準備である。
だが、それは時には欠点となる。事前準備を整えすぎるというのがモモンガ様の欠点だ。もちろん、愛する男の欠点。その欠点ですら愛おしい。
モモンガ様は、慎重に、綿密な計画の上で行動される。シャルティアが洗脳されたと知り、激昂されたにもかかわらず一旦撤退をされた。そして、シャルティアとの戦いに備えて、周到に準備をされていた。
モモンガ様の欠点。それは、準備を念入りにされることだ。周到な準備をされたモモンガ様に勝てる者などいないであろう。だが、その準備の時間を与えなかったら?
モモンガ様でさえ予想の出来ない事態。イレギュラーの発生。
彼の地に行かれたはずの至高の御方々の帰還。モモンガ様でも予期できぬ事態。こんな好機を逃がす手はない。
それに、自分を創造したタブラ・スマラグディナが現れたというのは運命だ。タブラ・スマラグディナは自分の創造者である。つまり、父親である。
父親が娘にする最後の仕事は? それは、娘を嫁に行かせることだ。嫁は、嫁ぐときに夫への持参金を用意する。その持参金を用意するのは父親の仕事だ。
タブラ・スマラグディナは、自分を捨てた。だが、それも許そう。タブラ・スマラグディナは父親としての最後の仕事をしに、自分の前に現れたのだ。タブラ・スマラグディナ自身の命を持参金とし、自分の娘をモモンガ様に嫁がせる。私は良き父親を持った。
さぁ、モモンガ様。私たちの結婚式を始めましょう。花嫁が、あなたの所へ嫁ぎに来ました。